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04 サークル

 俺はログアウトし、モーターの熱で暖かくなってるギアを外した。そして、初めての感覚の疲れからか少し無造作に定位置へ戻す。


「明日は休日なのに朝稽古か。日課で慣れているとはいえ、たまには休みたいな」


  学生にとって休日ほど大切なものはない。砂糖を求めるアリのように、枯渇した喉を(うるお)すための水のように必要なものだ。


「泣き言言ってもしょうがないか。明日みんなに俺も始めたって言ってみようかな」


 そう自分に言い聞かせた。そうしてすぐさまベッドに入り、その日は泥のように眠った。










「これにて本日の朝稽古を終わりとする!」


「ありがとうございました!」


 厳しい部長のきりりとした声によって、厳粛とした空間にいつもの活気が戻る。


「後輩、今日もいい剣筋だったぞ。お疲れ様」


 俺が友達と床で座りながら談笑していると、3年の寧々先輩が俺達に近ずきつつ話しかけてくれた。


「先輩お疲れ様です。今日も相手をして下さりありがとうございます!」


 軍隊並みのスピードですぐに起き上がる。そして、疲れか先輩と話すことへの緊張のどちらかは分からないが、たくさん出てくる汗を首にかけてあるタオルで拭き、声が震えないように努めて元気に話す。


「先輩、聞いてくださいよ。ようやく悠太がリベオン始めたらしいっす!」


  田辺が言いやがった。まだ始めたばかりで弱いから、先輩には強くなってから話そうと思っていたのに!


「おー、悠太もリベオン始めたのか!私もしているぞ」


「先輩はかなり前からやってるんですか?」


「ああ、もちろんだ!ちなみに私はsupreme(シュプレム)だぞ」


シュ、シュプレム?聞いたことがない単語が出てきたぞ。


「シュプレムってなんですか?」


 そう質問すると、先輩は自慢げに口を開く。


「リベオンでは神から加護が得られるんだよ。1人の神につき1人しか加護が受けられないから、得られる人はとってもレアだぞ」


「いいなー、先輩。俺もシュプレムになりたいっす!」


 田辺が目を輝かせる。そ、そんなにすごいのか。まあ先輩に無知だってバレたくないから、後でちゃんと説明書読まないとな。


「せ、先輩すごいですね。尊敬します!」


 田辺に負けじと先輩を褒める。あいつに負けてられるかよ。


「ありがとうな、悠太!暇だし良かったら一緒に昼飯食べないか?」


「めっちゃ行きたいです!ぜひお願いします!」











 無事、俺は先輩と近くにある定食屋に行き家に戻ることが出来た。ああ、シュプレムについて調べないとな。先輩といて緊張からかすっかり忘れていた。


supreme(シュプレム)とは、神が気に入った()()1人のみに眷属として与えられる加護です。至宝同様に、加護を与えた神の特性を具現化したとてつもない力をもたらします。』


 説明書をじっくり読み直すと、用語解説のページにそう記載されていた。最初の方だけじゃなくて最後の方もちゃんと読んでおけばよかったな。


「いつか先輩と一緒に冒険出来たらいいな……」


 ギアに書いてあるクロノス社のロゴを指で(こす)りながら、ベッドの上で1人(つぶや)く。


「そろそろルーカスとの約束の時間だし、リベオンするか!」


 昨日の新しい感覚を思い出し期待を膨らませ、もうひとつの世界へ俺は旅立つ。











「ルーカス、お待たせ!」


 ルーカスを含めた4人組がギルドのラウンジで談笑しながら(くつろ)いでいた。


「おう、久しぶりだなユータ!今日は約束通りパーティーの仲間を連れてきたぞ」


 そう元気に彼が返答すると、ルーカス含めたパーティー全員がソファーから立ち上がって俺の方を向く。


「じゃあ紹介していくぞ。左からタンクのエイデン、ヒーラーのヘレナ、サポーターのアメリア、そしてこの俺前衛のルーカスだ!」


「……よろしく頼む。」


「よ、よろしくお願いしますぅ……」


「よろしくね!」


「ああ、こちらこそよろしくな!」


 エイデンは盾使いで顔に傷がある青年、ヘレナは神官の服を着た可愛い少女、アメリアはそばかすがある赤毛の、俺と同年代ぐらいの女性だった。


「俺1人だと火力が足りないから前衛がもう1人欲しかったんだよ。みんな仲良くしてくれよな!」


 一応お試しなんだが……


「……聞いたところ現在レベル3らしいが、使い物になるのか?」


「ちょ、ちょっとエイデンさん!ユータさんに向かって失礼ですよ」


「まー、性格は良い奴で常識はあるし剣術をずっと習ってたらしいから多分すぐ戦力にはなるぞ。」


「おー、あんたすごいんだね!」


 エイデンは俺の能力に疑問視しているがその気持ちはわかる。会ったばかりだし、そりゃ疑うよな。


「俺達が援護するから、ゴブリン狩りでもしに行こうぜ。お手並み拝見だな!それじゃ、早速受けに行こうぜ!」


 そうルーカスが言うと、受付の方に向かっていった。若い女の人の前にルーカスが行き少し話し合うと、またこちらヘ戻ってきた。


「それじゃ、行くか!」










「エイデン、そいつの注意を引き付けてくれ!」


「……承知!」

 

「みんな、支援魔法かけるよ!」


「わ、私は治癒魔法かけます!」


 王都の外れにあり針葉樹のような木がたくさん自生しているセッカ山に移動した俺たちは、依頼であるゴブリン退治をしていた。


「残るは1匹か、ユータ頼んだ」


「はっ!」


 ゴブリンの左肩から下へ向かって袈裟斬りをする。断絶魔を上げた後、ドロップアイテムである所々錆びた短剣を残しポリゴンのような粒子体となって消えた。


「お疲れ様!俺の見込んだ通り中々の腕前じゃないか」


「ありがとう、でも生物を切るのは初めてだから緊張したよ」


 ゴブリンを切った時のぬめっとした生々しい感覚が手に(まと)わりつき、強く不快感を覚えた。しかし、同時に仲間と協力して成功したという達成感も湧き上がった。


「みんな、ユータを正式にパーティーに入れていいか?」


「……異論はない」


「は、はい!いいと思います!」


「私も賛成だね!」


 ルーカスは他のメンバーの肯定に満足したのか、上機嫌で俺に手を差し出してくる。


「ってことで、よろしくなユータ。アミキティアへようこそ!」


 差し出された手を力強く、そして笑顔で握り返す。


「こちらこそよろしく!」











 こうして無事アミキティアの正式なパーティーメンバーとして迎えられた俺は、リベオンにログインしてはパーティーの一員としてみんなと一緒に楽しく活動した。


 全員一人ひとり個性があり、彼らといる時間はまるで光り輝いた宝石のようにかけがえのない大切な時間となった。クエストをこなした後酒場で料理を食べ雑談をしたり、みんなでルーカスをいじったりして楽しく活動していた。そう、俺にとって絶対に忘れられないあの日が来るまでは……

読んでいただきありがとうございます。

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