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03 初仕事


「ミーちゃんはね、真っ白で1ヶ所背中に黒のまるがあるネコちゃんなの!とっても可愛いんだよ!」


 俺は目の前にいる少女ーーミライ・トマから詳しい依頼内容について聞いていた。少し舌足らずな口調で俺に力説してくる。


「でもね、一昨日開けっ放しにしてた窓から出て行っちゃって……ミライ心配で寝れなくて……」


 目を潤ませ、泣きそうな顔で俺に訴えかけてくる。本人には申し訳ないがそのあどけない仕草が可愛い。


「飼い猫が居なくなると心配になるよね。でも安心して、俺が必ず見つけ出すから」


 彼女の不安を取り除くため努めて明るく、そして安心させるよう穏やかに話す。


「うん、茶髪のお兄ちゃんのこと信じるね。絶対見つけてね」


「任せてくれ」


 彼女の目をちゃんと見ながら、自信ありげに答える。


「じゃあ、約束ね!」


 白くて小さい右手を俺に差し出し、小指をそのままぴんとしてグーの形にする。


「もちろんだ、俺に任せてくれ!」


 彼女の頭を撫でて、不安がらせないようはっきりと約束の誓いをする。









 一旦ログアウトした俺は、猫の行動範囲について調べた。ウェブで猫はだいたい自分の本拠地から500m以内にいる、という情報を得た。そしてその情報をもとに今、ミライさんの家周辺を探している。


「にゃーにゃー」


 鳴き声がする方向に向かうと、1匹の(すす)けた白色の猫が路地裏で残飯を漁っていた。うっすら背中に1つ黒い斑点が見える。


「君がミーちゃんか。こん中に入ってくれ。君の好きなお魚の日干しがあるぞ」


 事前に準備していた魚の日干しが中にあるカゴをインベントリから取り出す。そうすると、警戒しつつも家猫であり人間に慣れているのか、大人しくカゴの中に入る。


「確かめてもらおう、ミーちゃんだといいな」










 ミライさんの家に到着し、家のドアを叩いた。すると元気に階段から降りてくる音が聞こえる。


「こんにちは茶髪のお兄さん!ミーちゃんは見つかった?」


「ああ、とても似た特徴をしたネコを見つけたよ。確認してみて」


 カゴから猫を取り出し、彼女に見せる。


「ミーちゃんだ!お兄ちゃんありがと!!」


 とても嬉しそうな表情で律儀に頭をさげてくれた。誰かの役に立つのってやりがいがある。普段忘れそうになる気持ちを改めて思い出す。


「なんか玄関であったのか?」


 俺が彼女に依頼完了書にサインしてもらおうとしている時、後ろの方から若い男の声が彼女に問いかけてくる。


「こんにちは。ミライ、お客さんか?」


「ううん、ミーちゃん探してくれた人なの。優しいよ!」


 そう彼女が彼に言うと、爽やかな笑顔で俺に手を差し出してくる。


「君が依頼を受けてくれたのか。少ない報酬なのに受けてくれてありがとうな。俺の名前はルーカス・トマだ。こいつの兄だ。よろしくな」



「ユータです。こちらこそよろしくお願いします!」


 俺は差し出された手を仲良くなりたいという思いを込めて強く握り返す。


「ユータ、いい力してるな。どっちが上か勝負しようぜ!」


そう言うと彼はもっと強く俺の手を握り返してくる。負けじとさらに強く握り返す。


「お兄ちゃんも茶髪のお兄ちゃんもやめて!そんなことしてもただ手が痛くなるだけで何もいいことないよ?」


 彼女が何やってるんだ、とかなり呆れた感じで俺たちのことを見てくる。


「さっきから気になってるんだが、刀使いか?」


少し期待を込めた感じで質問してくる。


「そうだ。俺は刀使いだ。でもまだレベル1だけど」


 笑い、少しおどけながらそう答える。


「そうかそうか!俺も最近ギルドに入ったんだ。パーティー作ったんだけど前衛が不足してるんだよ。良かったら、俺たちのパーティに入らないか?同じ初心者同士だし」


 いきなり俺の実力も分からないのに誘って大丈夫なのか?俺も彼やパーティーの実力は知らないから不安だぞ。


「でも、いきなり俺といきなりパーティー組んで大丈夫なのか?」


「まーそうだな。そしたら一緒にお試しでゴブリン退治をしてみないか?」


 お試しならいいかな。誰かと一緒にやるのも楽しそうだし。


「いいよ!誰かと一緒にやってみたかったんだ」


「おう、そうこないとな!」


「お兄ちゃんたち、パーティー組むの?良かったねー!」


「ま、まだ決まったわけじゃないけどね」


 わたわたと焦りながら彼女の言葉を訂正する。


「とりあえずミライ、サインしたらいいんじゃないか?」


「そーね!」


 そう言って俺の手にある依頼完了書を取ると、とても拙い字で自分の名前を書く。


「はい、お兄ちゃん。これでいい?」


 なんか小動物みたいで可愛いな。見てると心が暖かくなる。


「うん、これで大丈夫だよ。ありがとう」


丁寧に手紙を受け取る。名前欄にはしっかりミライと書いてある。


「よし、完了書も書いたしユータ、一緒にギルド行こうぜ!パーティー申請しないとな」


「わかった、よろしく頼む」


「ミライはお家でいい子にしてろよ」


「うん、わかってるよお兄ちゃん!」


「じゃ、行くか!」










 ルーカスと世間話をしながらギルドに到着した。彼は顔と体格と裏腹にとても知識が深く、またウィットに富んでいて話しやすかった。


「ユータ様。無事依頼は完了しましたか?」


窓口に行くと、先程会った中年の男が話しかけてくる。


「ああ、これが依頼完了書だ。受け取ってくれ」


「たしかに受け取りました。こちらが報酬になります。」


 そう男が言った瞬間レベルアップの通知が脳内に流れる。初めての感覚に驚いていると、目の前のテーブルの上に(しな)びた革袋が置かれる。中を確認すると1500ペルナ入っていた。


「ありがとうございます。たしかに受け取りました」


「あの、後ろにいる方は……」


「彼のパーティーに入ろうと思います」


「承知しました。ですが、見たところ彼しかいませんがほかのメンバーから同意を得たんでしょうか?」


(いぶか)しげに尋ねられる。すると、後ろにいたルーカスがこちらに近ずいてくる。


「その心配はない。あらかじめ前衛をスカウトするって伝えてるからな」


 堂々と答える。おいおい、俺はまだ完全に加入した訳ではないぞ。


「承知しました。ではおふたりのカードを提出してください」


 まだピカピカで新品同然のカードを一緒に出す。


「えー、パーティー名アミキティアでよろしいですか?」


 鷹揚おうように頷く。


「正式に受理しました。ユータ様、担当がパーティーのものになるので変更されます。短い間でしたが、ありがとうございました」


 この人はとても対応が丁寧な人だったから、関わりが少なくなるのは寂しいな。


「こちらこそありがとうございます。お世話になりました」


「担当ではなくなりますが、何かありましたら遠慮なくお申し付けください」


「はい、そうさせてもらいます」


「じゃ、ユータ行こうぜ!」


 ルーカスが俺の暗い気持ちを感じたのか、明るく話しかけてくれる。


「わかった、ありがとな」


 俺もルーカスの心遣いに応えて笑顔で言う。


「ユータをみんなに紹介したいから、また明日この時間にギルド集合でいいか?」


「あー、4日後でもいい?」


「ユータはもしかしてぷれいやーか?こっちの6日がユータの世界の1日なんだよな?」


 酷く不思議だといった表情で彼は俺を見つめる。


「そうだよ。今日は疲れたから落ちようかな」


 明日サークルできつい練習あるから、そろそろログアウトしようかな。


「仲間には、ちゃんとユータのこと伝えておくぜ。」


「了解!じゃあ4日後な!」


「おう!ビビって来ないとかはやめろよ?」


 笑いながら軽く肩を叩いてくる。


「わかってるよ。絶対来るから。そっちこそちゃんとみんなを集めてよ」


「あったりまえよ!」


 ルーカスと一緒にいると、出会ったばかりなのにまるで気心知れた仲間のように楽しい。明日が楽しみだなと思いつつ、俺はログアウトした。


読んでくださりありがとうございます。

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