02 教会
一瞬意識が遠のくような感覚を覚え、俺は恐る恐る目を開く。ステンドガラスが綺麗な教会のような場所の椅子に座っていた。
「おや、新たな迷い人ですか?こんにちは。私は神官のエレンと申します」
ステンドガラスによって神秘的に色付けされた陽の光が美しい彼女に当たることで、より神々しい存在に感じられる。
「こ、こんにちは。いきなり質問をしてしまい申し訳ありまませんが、いったいここはどこでしょうか?」
「ここはアウローラの首都にある迷い人の召喚場兼、一般の市民にも開放されているファルサ教の教会です」
先程のステンドガラスをよく見てみると、タコの頭を持ち、コウモリの翼を生やした怪物が剣を持った男に倒されている場面が描かれている。
やはり、地球にある宗教ではないな。これはきっとファルサ教に伝わる話か何かだろう。
「迷い人様、名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「俺はユータと言います」
「ユータ様ですね。これからどうなさるか決めていますか?最初ここにいらっしゃった迷い人の皆様は何をするか決めていない、いや決まっていない方が多いので……」
それは俺も思った。いきなり教会に飛ばされたから訳が分からないし、どうすればいいのかよく分からない。ウェブで初心者の立ち回りとか見とけば良かったな。
「特に決めていません。ちゃんとウェブで確認しとけばよかったな」
「ウェブ?あ、あの、ギルドに行って仕事を貰うかダンジョンへ行く人が多いですよ。ギルドは仕事斡旋所みたいな所で、ダンジョンはモンスターが出てきて倒すとアイテムが落ちる場所です」
うーん。悩むけどこの国の物価や常識を確認したいし、街を探索しながらまずはギルドに行ってみようかな。ギルドだと初めてこの世界に来る迷い人の扱いに慣れているだろうし、色々教えてくれそう。
「ギルドに行ってみます。色々教えて頂きありがとうございます」
「いえいえ。何か困ったことが合ったら頼ってくださいね。人々の悩みを聞くのが神官の役目ですから」
「ありがとうございます!」
俺は周りにある綺麗なステンドガラスを見ながらその場を後にした。
色々街を歩き、だいたいの基本知識がわかってきた。物価は今の日本の物価の8割ぐらいで、それでも値引き交渉を前提とした価格になっているらしい。
「おいおい聞いたか?ある村では黒いドレスを着た女が森の方から出るんだってよ。絶対なんかの幽霊だよな。俺怖いわ……」
「エーデルシュタインの✝︎堕天天使✝︎ちゃんがまたやらかしたらしいぞ!」
といった情報も手に入った。市場は活気にあふれていて、また王の悪口を言う人が全然いない。王の統治が上手く行き届いているのを感じる。
露店の店で1つ果物を買った際その店主からギルドへの道のりを教えてもらい、その通りに歩いていると剣と盾を掲げた二階建ての大きな建物が見える。
少し警戒しつつ中に入ると、熟成された濃厚な木香と人々の朗らかな熱気が俺を包み込む。初めての空気に心が咽びそうになる。
「新規会員登録の方ですか?見慣れない人が周りをきょろきょろと見ていたので、新しい迷い人の方かなと思いまして……」
前方から、胸にあるネームプレートに受付と書いてある中年の男が話しかけてくる。
「そうです。登録してもいいでしょうか?」
「かしこまりました。簡単に当ギルドの説明をさせていただいてもよろしいですか?」
言い方や穏やかな口調からとても親しみを感じられる。
「よろしくお願いします!」
「かしこまりました。当ギルドでは私達が個人やパーティに実力にあった仕事を斡旋することを基本としています。ただし依頼者からの成功報酬の3割を取り分とさせていただきます。ただ紹介するだけでは食っていけませんから」
ははっ、と子気味よく笑いながら説明してくれる。人当たりも良さそうだな。
「あの、実力とかどうやって判別するんですか?」
「私達の長年の経験からそれぞれの難易度にあったものを選んで紹介させていただきます。お客様にあったものを提供する。これが受付の醍醐味です」
長年の経験や思い出を思い出しながら語っているのか、感傷深く語る。
「受付っていうのは奥が深いんですね。あの、何か義務とか発生するんですか?」
「入会費5000ペルナ、年会費10000ペルナが発生します。しかし現在キャンペーンで入会費はタダとなっております。ダンジョン運営委員会に迷い人を取られるわけにはいきません」
ダンジョン運営委員会ってのもあるんだな。そちらも奥深そうだ、と考えていると男から紙から紙を渡される。
「もし入会希望であれば、こちらに基本事項を記入してください。私はそこに窓口に座っております」
早速、基本事項を記入して座っている男に提出する。
「受領しました。会員の証となるカードを進呈します。失くした場合、有料で再発行しなければならないので無くさないようにしてください」
「ありがとうございます」
男から手渡されたのは黒く光沢のあり高級感があるカードだった。名前もちゃんと彫られている。
「早速、依頼を受けてみますか?」
少し口角をあげながら男が言う。どんなものか試してみたいな。
「はい、やってみます!」
「かしこまりました。ではこれはどうでしょうか?」
依頼内容はミーちゃんを探せ、つまり迷い猫の捜索だった。依頼主は6歳の少女らしい。
「報酬は少ないですが、腕慣らしにはちょうどいいと思います。王都のこともさらに詳しく知れるので一石二鳥だと思います」
「分かりました。この依頼を受けたいと思います」
「承知しました。ではまず依頼主の家へ向かってください。」
少女の住所が書かれた少し黄ばんだ紙をもらう。
「彼女の親が個人情報を渡すことに同意してくださっていますが、あくまで個人情報ですので後で破棄してくださるようお願いします」
「分かりました」
「では、よろしくお願いします」
読んでくださりありがとうございます。