01 プロローグ
「おい、起きろって悠太。授業終わったぞ!」
そんな声によって起こされた俺は顔を机から離してゆっくり顔を上げる。経済学の佐藤先生の講義は丁寧で分かりやすいが面白みには欠け、とても単調なものに感じられる。
「分かったって一真。起こしてくれてありがとな」
彼の声量に少しイラついたので強めに言ってしまう。耳元で大声で言わなくたっていいじゃないか。
「そういえば、悠太ってまだリベオンやってないんだよな?」
「試験近くて最近ゲーム自体あんま出来なかったし、買ったままのやつあるからそれやってからしようかな」
「このゲームはほんとに他のゲームと全然違うんだって!やらないなんて人生の4分の1損してるぞ」
一瞬4分の1という微妙な例えに対してどう対処しようか迷い、作り笑いをしながらつっこむ。
「まー今はしないとしても絶対やれよ、人生観変わるから」
一真が念を押して勧めてくるのは珍しい。最近、CMでもよく見かけるしテストが終わったら始めて見ようか。
「そこまで言うなら試験終わったらやってみるよ。時間やばいし図書館行って勉強してくるわ、じゃーな」
無事最後のテストが終わり一真達とカラオケで遊んだ後、家の近くの家電販売店に寄り例のゲームを買い家に到着する。
暇つぶしにクイッターでレビューを見てもにわかに信じられない内容ばかりである。NPC達に命を感じる、ここで死んでいい、などと思っていると言った内容が全てのレビューに口を揃えて書いてあった。
たかがゲームなのにそこまで入れ込めるのか?と俺は彼らに疑問と1種の恐怖を抱く。
「まーものは試しだな。やってみるか!」
パッケージに付いている薄くて透明なビニール袋を外し、新品特有のプラスチック臭い匂いが鼻腔をくすぐる。その匂いを嗅ぎ、高まる期待を膨らませつつパッケージを開ける。
中に入っているカセットを取り出し慎重にVR装置にセットする。そしてギアを頭に装着し、ベッドに横になる。
「いったいどんな世界が待っているんだろう」
ギアの右耳部分に付いている完了ボタンを押す。
「ようこそ、LiberatioOnlineヘ。私は管理者の1人、ブリュンヒルデと申します。」
今までのVRゲームでしてきたようにゆっくり目を開ける。そうすると目の前に長い赤髪で青色の美しい目をした女性が立っている。こんなに綺麗な人がいると緊張するな。
「こんばんは」
「こんばんは、悠太様。この度はご購入ありがとうございます。パッケージに付属している説明書を読まれない方がいらっしゃいますので、早速ですが改めて内容について確認してもよろしいでしょうか?」
ま、まて。今俺の名前を呼ばなかったか?少なくとも今まで初ログインで名前を言われたことはないぞ。
「あ、あの、なぜ俺の名前が分かるんですか?」
「はい、悠太様。それはカセットが紛失し新しいカセットで行った場合、同じアバターでログインできるよう個人の体に埋め込まれているマイクロチップと連動しています。ですので、ログインした際に名前などの基本情報は分かるようになっております」
「勝手に個人情報はとっていけないと思うんですが……」
「はい、ですので始める際きちんと個人情報の取り扱いと使用の同意について説明書に書いてあるのですが……ちゃんと読みましたか?」
彼女から、私を非難するけどあなたのせいですよという思いが乗せられた冷たい視線を感じる。
「すいません。ところでこのゲームのシステムについて教えて頂けませんか」
微妙で気まずい空気を変えようと、急な話題の変更をしてしまった。つい彼女の顔をうかがってしまう。
「はい、この世界には至宝と呼ばれるアイテムが世界各地に眠っています。どれも絶大な力を持ちます。多くのプレイヤーの皆様はこの至宝を探していますね」
「絶大ですか?」
「はい、国すら落とせるものも存在します。皆様には5つの国の中から所属する国を選んでいただきます。もちろん所属を変更したり、無所属になることを出来ます」
「どんな国がありますか?」
「春霞、アウローラ、エーデルシュタイン、イシュティラーク、白龍の5つになります」
「それぞれどんな国ですか?」
そう言った瞬間、目の前に5つの国の名前が書かれた地図が現れた。それぞれの名前の上に特徴を説明する映像が流れている。
桜が咲き乱れ、中央に立派な城が鎮座している江戸時代のような国 春霞
王族と貴族が支配し、中世ヨーロッパのような町並みが続く国 アウローラ
皇帝が君主として統治し、その下に軍部が存在する近世ドイツ風の国 エーデルシュタイン
周りを砂漠に囲まれ、貿易によりこの世の全てが集まるとされるアラビアンな国 イシュティラーク
広大な領土を持ちどこまでも山河が続く、龍帝が支配をする古代中国のような国 白龍
どの国もとても魅力的で迷う。そう言えば、一真はアウローラ所属って言ってたな。
「アウローラでお願いします」
「はい、承知致しました。それではキャラネームとキャラメイキングに移らせて頂きます」
「じゃあユータでお願いします」
「シンプルでいい名前ですね。そうするとキャラメイキングは身バレしないようあまり悠太様と似てない方が良いと思います」
「確かにそうですね。でも身長とか体型を変えるとプレイをしている時に違和感を覚えませんか?」
歩くの中々慣れなさそうだし、戦闘をしている時に感覚が狂うのは避けたい。
「はい、承知しました。では髪や目の色を変えるぐらいにしておきますか?」
「そうします。髪は茶色、目は濃い青色でお願いします」
「はい、承知しました。初期武器を1つ選ぶことが出来ます。鉄製で量産された標準的なものです」
小学生の頃から部活で剣道やってるし、1番手に馴染みそうな刀でいいかな。
「刀でお願いします」
「はい、承知しました。それでは刀と平均的な宿屋に10日泊まれる金額である30000ペルナをプレゼントしますね。使いたい時はアイテムを保存することの出来る機能、インベントリから取り出してください」
「わかりました。ちなみに強さとかはどうやって測るんですか?」
「はい、あくまで目安ですがステータスという制度を採用しています。HP、MP、STR、DEX、AGI、INTとなっております。それぞれプレイヤーの強さを数値化したものです。レベルを上げ得たポイントでスキルを獲得することにより、この値は上昇します」
「丁寧にありがとうございます」
そう言うと、彼女がくすっと笑った気がする。
「あなたがた人間を導くのが私達の役目ですから」
そう言う彼女の表情はとても人間味がある。本当にAIなのか?肌に触れたら熱を感じそうなほど、人間にしか見えない。
「何か質問はありますか?」
「本当にAIなんですか?あのー、人間にしか見えません。」
「まー、今は一応そういう扱いになっていますね。」
苦笑いで彼女はそう言う。
「そうなんですね。変なこと聞いてすいません。」
彼女のこれまでとは違う焦った感じの対応に、妙な違和感を覚えるが詮索するなという雰囲気を感じた。
「それでは改めて異世界Liberatioへようこそ!」
そう言われた瞬間、あたりの景色が白くなる。
読んでくださりありがとうございます。
ユータたちの世界では必ず体のどこかにマイクロチップを内蔵しなければなりません。買い物、公共機関や手続きなどのなど様々な場所で用いられています。