茶番、遊戯、人の業
書いていたらテンションが上がって……気づいたら書き終わってました。
この先の展開を考えている中、言いたいことがひとつ。
ジャーティス、君は私の傑作ダッ!
主人公との絡み、大いに期待あれ!
「ま、待ってくれ! 俺はお前と戦いに来たんじゃないって!」
慌てて説得を試みるジャーティスにグレイは不思議そうに首を傾げる。
「……戦争が起こりそうだから、俺を始末しに来たんじゃあないのか?」
「なんでだよ!? というか、俺はお前がなんで育成機関からいなくなったのかすら知らないんだぞ!?」
「じゃあなんで追ってきたんだよ」
「お前を呼び戻すためだ」
「……それは誰かの指示か? 例えば、レイナ兵士長とか」
少し思案してから口にされた問いに、ジャーティスは驚く。
「さすがだなグレイ。そこまでわかるとは……」
「俺を追い出したのはあの人だしな」
「え、そうなのか?」
予想外の事実に戸惑うジャーティスを見て「この流れ自体があの兵士長の思惑か」と呟く。
「となると、俺を傭兵枠として戦争に参加させるつもりか。どうしてかは知らないが、俺のどこかに有用性を見出したらしいな」
メディナか、それとも【冒険者ギルド】か──と、どこかに繋がりを探しているグレイに問いかける。
「で、一緒に来てくれるのか?」
「条件次第だが……取り合えず俺は何処に連れていかれるんだ?」
「兵士長のところに、他の誰にもばれないように連れてこいと言われてるが……」
「なるほどな。わかったついていこう。その代わりに顔を隠せるフード付きのローブを買ってくれないか? できれば【隠蔽】が付与されているヤツがいい」
「わかったよ。後で経費で落ちないかな……」
懐を機にしながら歩くジャーティスにグレイは楽し気についてゆく。
「で、お前は何をやったんだ?」
「教えてもいいが、二人そろって縛り首かもしれんぞ」
「すっげえ気になるけど、そう言うことならやめておくか」
「懸命だな。そういうお前は何で使い走りにされてるんだ?」
仮にも主席候補だろう、と目を向けるグレイに苦笑いを返す。
「いや、お前が遠征訓練の時に命令違反をしたのは知ってたんだけど……それでなんでいなくならなきゃいけなかったのかを兵士長に直談判しに行ったんだが……」
「それで今回の件に巻き込まれたのか。感情的になるのは悪い癖だって教えてやったはずだが?」
「いや、そりゃあ尊敬してるやつが突然いなくなったら──あ」
「なんだお前、よく突っかかってくると思ったら……俺のことをそんな風に思ってたのか」
そこまで言って顔を赤らめるジャーティスにからかい始めるグレイ。
「な、なんだよ別にいいじゃねぇか!」
「悪いなんて言ってないだろ? で、どんなとこに尊敬してたんだ? ん?」
「お前ってたまにすんげえドSだよな……」
悪い笑みを向けるグレイに辟易するジャーティス。
「まあ、お前は俺にはできないことができるからな。魔物に関する知識もだが、俺が持っていないものをお前はたくさん持っている。そんなところだな」
「意趣返しのつもりで俺を褒めたんだろうが……顔真っ赤だぞ」
「うるせえ!」
赤くなった顔を隠すためか顔を背けて早足で進む。
「……俺はお前を凄いと思うぞ。持っている力に自惚れることはなく、高みを目指し続けた。誰にでもできることじゃあない。だからこそお前はいい『色』をしている」
「……そうかよ。さっさといくぞ」
「……はいよ」
どこか足取りの軽いジャーティスに楽し気についてゆくグレイなのだった。
▼
「追い出して、呼び戻して。随分と自分勝手なものですね兵士長」
「おい、グレイ!」
「……あなたが訓練生として育成機関にいた事実はありませんよ?」
兵士長の部屋に入るなり、そんなやり取りをする
「やっぱり訓練生としてではなく、傭兵の枠として呼び出したわけですか……」
「ええ、知人から新入りの【冒険者】に優秀な戦闘能力の者がいると聞いて、そのものに傭兵として打診するために呼び出した、ということです」
互いにどこまで知っているのかを答え合わせしながら笑う二人にジャーティスが寒気を感じる。
「茶番はここまでにして、身のある話をしましょう? 兵士長さん?」
「そうですわね傭兵さん。まずは自己紹介と行きましょうか。【兵士長】を務めています、『レイダ・プロテアクス』ですわ」
「これはご丁寧に。【冒険者ギルド】所属のグレイといいます。今回の件で詳細を窺っても?」
「ええ。この度、隣国『エンプレス』にて戦のうごきがあるということでこちらも戦力を集め始めました。その際に白羽の矢が立ったのがグレイさんだったということです」
あくまで傭兵と依頼主という立場を崩さずに互いに意見を交わしてゆく。
「そりゃまた唐突なこって。で? 向こうさんは何を口実に戦を仕掛けてくるんだい?」
「どうにも、向こうは領土侵犯と兵の虐殺を主張しておりますの。おかしいですわよね? こちらには領土を侵した訓練生も居なければ、虐殺した訓練生も存在しないのですから」
「くくく、よほど奇襲に特化したものでも、兵士を虐殺なんて普通はできないでしょう。そりゃあ、向こうさんに着く国も少なそうでさぁ。こっちとしては迎え撃つ気満々ってところで?」
「フフフ、もちろん、そう言うことになりますわね」
悪い笑みを浮かべる二人。
「ん? 存在しない訓練生、兵を虐殺……え、ええ?」
その会話の内容を聞いて今回の粗回しを察したジャーティスは顔色を青くする。
「それって、言いがかりじゃあ……」
「ですよねぇ、優秀な訓練生くん?」
「そうですわね、主席候補のジャーティス訓練生?」
嵌められたのだと察した時にはすでに遅すぎた。
機密情報を意図せずに知らせ、真実を知る側へと引きずり込まれたのだ。
こうなってしまえば何も知らない一訓練生としていられやしない。
それを察したからこそ顔を青くしてがたがた震えているのだ。
「おや、勇ましいですなぁ、優秀な訓練生は。もう武者震いですかな?」
「さすがですねー、まだ見ぬ戦場に思い馳せているのでしょう」
「あ、悪魔だ……非道すぎる……!」
「まあ、そんなことは放っておいて、報酬は交渉できるのかい?」
「ええ、ものにもよりますが……」
「なら、前払いで『迷宮』への入場許可証なんてどうだい? あっしは【テイマー】なもんでね。そうしてくれれば戦力増強にもなるし一石二鳥。いかがかな?」
「ええ、いいでしょう。後ほど届けます。必要になれば収集をかけます。あと、できれば兵との顔合わせも済ませていただきたいのですが……」
「あっしはあまり顔を知られたくなくてね。こんなナリだから恨みも買っていてね。この服装で素性は晒さないが、よろしいかい?」
「もちろん、期待してますよ傭兵さん」
「じゃあ、後日許可証を受け取りがてら顔を出させてもらいましょう。それじゃあ、これで」
「あ、おい!? 失礼します!
そう言って退室していくグレイを慌てて追いかけるジャーティス。
「おい、どういうことだよ? なあ!?」
「……さすがは兵士長といったところだな。できることはやっては見たものの、いいように掌で転がされたって感じだな」
ジャーティスの説明を求める声に思わずそう返すグレイ。
「俺にはどっちも同じように怖かったんだが……」
「お前、気づかなかったのか? あの女、ことあることに脅しをかけてきてただろ。【冒険者ギルド】に内通者がいるとか、お前の泊まってる宿を把握してるとか……ああ、後お前にも関わるところだと、逃げるのなら戦犯として処罰もできるんだぞってところだな」
「え゛、そんなこと言ってたのかよ……」
「お前本当に脳筋だな。言葉の裏くらい読めるようになった方がいいぞ」
「……今度どうすればいいのか教えてくれ」
「そん時に飯をおごってくれるなら考えてやろう」
「……わかったよ」
渋々といった様子で了承するジャーティスは秘密を共有したせいかどこか嬉しそうに見えた。
▼
「──やっぱり彼には期待できそうね」
詰まりそうだった息を大きく吐きながら、ひとり呟く。
「言葉の節々に警告を乗せてみたけれど、すべて気づいてたみたいだしね。それに途中で聞き耳を立てていた存在に気付いて演技まで完璧にこなして見せるとわね。対人話術や交渉術に長けているというよりは、人間そのものを知っているみたい」
そう言って紅茶のカップを手に取り、初めて自分の手が震えていることに気づく。
「──妹をこの場に呼ばなくて正解ね。思わず私も動きそうになったわ」
脅しをかけた時に、ほんの一瞬だけ垣間見えたのは『無関心』でありながらも確実に排除しようとする意志。
『脅威だから殺す』。
それは一見理性なき獣のように見えて、何よりも理性を尊ぶ人間が行なってきた行為。
「獣のようで居ながら、何よりも人間らしさを併せ持つ。そんな彼がチカラを振るう時、その周りはどう思い、どう行動するのでしょうか」
いつか確実に訪れるであろうソレに思い馳せ、笑みを浮かべるレイダなのであった。
ジャーティスは恐らく最後まで出てくるキャラクターでしょう。
なぜなら、
わ た し が す き だ か ら
あと、レイダ兵士長は悪い人じゃないんです! 信じてください!