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彼を知って求むるもの

最初の内はかけたら上げていきますよー!

「なんなの、アレは……」


グレイのいなくなった部屋でメディナは力なくうなだれていた。


彼女は『メディナ・クリミサイア』。

『医学』の分野において知らぬものはいない最高の医師にして、最狂の医師。


救えぬものの方が少ない、とさえ言われる存在である。


例え敵が強大であろうとも、【異端】とさえ言われる【水】と【風】の魔法によってその体に干渉し、弾けさせる。


「……やっぱり何かあったのか。本人にすら言えない何かが」

「言えるわけないでしょう、本当に人として生きているのか、なんて」

「……どういうことだ?」

「心臓が動いていないから、死んでいる? いいえ、彼はしっかりと生きている。ならば、【不死者アンデッド】? いいえ、それに特有の瘴気を感じなかった。ならば『スライム』? いいえ、『スライム』は彼の身体で生きているだけで、彼そのものではない」


思いつく選択肢を漁ってゆくが、そこに確固たる答えはない。


「『人間』どころか、何かすらわからないのよ」


だから困っているのだと、メディナは首を振る。


「それと、これはあなたの口が堅いことを信じて話すわ。『エリクサーブラッド』って話、知っているかしら」

「ああ、あれだろ? 人間の欲に限度は無く、もしエリクサーが人の血であれば、その人が干からびるまで搾り取るだろう──っていう皮肉だろう?」


それは皮肉と共に語られる、子供にも聞かせるような物語。


「彼の血液伴っているスライム、彼がポーションの類を与えすぎたせいでその体に効能を濃縮しているの。つまり、あのスライムは『エリクサーブラッド』になりかねないっていう話よ」

「それを何故秘密にする。本人が知っておいた方が……」

「逆よ。本人が知っていれば、誰かに使ってしまうかもしれない。使わなければ彼が異常な再生を見せたって『スキル』と言い張れる。まあ、反対意見も最もだけどね。こればっかりはあなたに任せるわ。必要そうなら話せばいいし」

「……そういう意図があるならやめておこう」

「一応彼のことは見張っておいて。もし、彼が魔物として害をなすようなら──」


そう言って立ち上がったティーチに、最後に念を押す。


「ああ、わかってる。俺が責任をもって対処しよう。今度こそ俺の手で、止めて見せるさ」


そう言ってティーチは大剣の柄を握るのであった。







「~、~~♪」


鼻歌交じりにグレイは森を歩く。


この前の薬草採取で晴れて【冒険者位階】レベル1──詰まるところ、正式に【冒険者】の一員として認められたグレイは『ゴブリン討伐』の依頼を受けて森に来ていた。


「──スライム、右腕だけでいい」


それに応え、右腕に紅い線が走る。


「シャアッ!」

「遅い」


木の上から襲い掛かってきた影を鷲掴みにする。


「……バイパーか。毒を持つ、奇襲性に優れた蛇の魔物だな」


手の中で暴れまわる緑色の蛇を見つめながら、ふと気づく。


「隠密、気配を断つことに優れている……それに、事前に気づいた……? 明らかに感知能力が上がっている。それに、この紅い線の身体強化のチカラも上がっているように思える」


その手でバイパーの頭を握りつぶしながら呟く、


「ん? ああ、これはちょっと待て。せっかくだから軽く調理してから食べよう」


そう言って歩きながら腹を裂き、内臓を取り出す。


「これは調理のしようがないからな。喰っていいぞ」


その声に応じてグレイの手から滲むようにして現れたスライムが身体に取り込んでゆく。


「相変わらず理屈はわからないが……ま、面白いからいいか。さて、ここら辺なら延焼する恐れもないな」


スライムが内臓を溶かしている間にテキパキと枯れ木や枯草を集めて山を作ってゆく。

そこまで準備をして、ようやく気付く。


「──しまった。着火道具がない。今までは兵団から貸し出されていたからすっかり忘れていたな」


そんなことを考えて──ふと思う。


「アイツらは元気にやってるのかな」


思い浮かべるのは、同じく訓練兵として所属していた同期たち。

その中でも、ひと際『色』を放っていた者たち。


「あの時の俺は、強くなかった。むしろ、搦め手でもなければ勝てやしなかった。だが、今の俺なら──」


腰につけていた短剣の鞘を取り、解体に使った短剣に叩きつけて火花を散らす。

その小さな火花は枯葉に燃え移り、大きく育った炎が枝を呑み込んでゆく。


その代償として短剣の刀身は歪んでしまったが、その程度の代償を気にすることはない。


「──アイツらの『色』をもっとしっかり見れるんだろうなぁ」


赤い炎に照らされて、紅い線を走らせて。


まだ見ぬ色を思い浮かべて、笑うグレイであった。







「どうして……どうしてアイツがここを去らなければならないんですか!?」



兵団をまとめる兵士長──レイダ・プロテアクス。


彼女の部屋に数名、押しかけている訓練生が居た。



「彼、というのは……」

「決まっているでしょう! グレイ訓練生のことです!」


とぼけたように首を傾げるレイダに詰め寄る。


「ジャーティス訓練生、少し無礼が過ぎるぞ」

「いいのよ、レーナ」

「しかし──」

「私がいいって言ったの。聞こえなかったっかしら?」


その言葉に背筋を凍らせたのは直接言われたレイナだけではなく、それを聞いていた訓練生もであった。


「あら、失礼。うっかりしていました」


その言葉と共に威圧感が消え去るが、刻み込まれた恐怖は消え去らない。


「私だってこんな処置の仕方は不本意でしたが、それを受け入れたのは彼自身です。もともといなかったことにすればいいと」

「グレイのやつが……?」

「隣国との国境付近に位置するこの街、『プロテアクス領』は常に隣国とにらみ合っている状況です。ここまではわかっていますね」


理解できない様子のジャーティスに説明し始めるレイダ。


「その国に対して、今回のことで攻め込む口実を与えてしまいました。ここまでならグレイくんを絞首刑にでもするところですが……今回の件で国の上層部はこちらからも責める口実になったと喜びました。。周辺国家を味方につけて戦争を起こす大義名分ができたのだと」

「は、はぁ……」

「もちろん、あなたみたいな訓練生には話せないことがあるのも理解していただきたいのですが……今言えることは、隣のクソ──失礼、『エンプレス』が戦の準備をし始めている言うことです」

「そんな、戦争が起こるっていうんですか……?」


ジャーティスが震える声でそう漏らせば頷くレイダ。


「私たちに今できることは今ある戦力の増強と新たな戦力の追加。例えばそう──どこの戦力組織に所属していない、戦える人材なんてどうかしら?」

「それって……!」

「街への勧誘の張り出しは君たち訓練生に頼む予定だ。その語に時間が余るだろうが……その時間は君たちの自由にしてくれて構わない」


言い切った教官のレイナに笑みを浮かべる。


「それじゃあ……!」

「皆までは言わんぞ」

「いえ、十分です! 失礼します!」


そう言ってかけてゆくジャーティス。


「いいですねー、若いって」

「姉さま、ばばくさいですよ。というか、そう言うくらいならさっさと結婚相手を見つけてください」

「無茶言わないでよ。趣味が合う相手なんてなかなかね……だからこそ、彼を呼び戻すのです!」

「姉さま、まさか……」

「ふふふ」


不敵に笑うレイダにため息を吐くレイナなのであった。










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