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失った者と手に入れた者

段々とグレイ君が人間離れしていますが、それが顕著になり始めるのがこの話ですかねぇ。


あ、明日も投稿予定です。

それでは~どうぞ!

「……こんなもんか?」


どこか拍子抜けしたようにジャーティスはつぶやく。


「やあ!」


どこかから飛来する矢が身体に当たり、そのまま逸れてゆく。


「クソぉ!」


槍が突き出されるが、体の表面で滑り、流れてゆく。


「なんで……!当たってるはずなのに……!」

「当たってはいるが、届いてないんだよ!」


力場を纏わせて拳を振るう。

それだけで相手は息絶える。


「人間は、こんなにも簡単に死んじまうのかよ……」


ここまでだとは思いもしていなかった。


槍や矢などの点で攻撃するものは体の表面に展開されている力場によって直接届くことはない。


それどころか、意識すれば剣戟だって身体の上で滑らせることができる。


そして、こちらが拳を振るえば相手の命はろうそくの火を消すかのように揺れては消える。



圧倒的過ぎた。



訓練生をやめてなお、グレイが気に掛けるほどの『色』。


もともと強力な力を持っていたうえで鍛錬を重ねた彼にとって、この程度は造作もなかった。


だからこそ、恐れを感じた。


こんなにも簡単に人間を殺せてしまう自分に──



『お前は何のために戦うんだ?』



ふと先ほどの会話が脳内に響く。



「……ああ、そうだ。考えるまでもないことだった」


そのチカラに疑問を持ちかけて、止めた・・・


「俺は守るためにこのチカラを振るう。それでいいじゃないか」


揺れていた心は定まり、芯を持った固い意志を成す。


「来いよ。俺が全部、相手にしてやる」


彼は成すべきことを成すために、前へと歩みを進める。



この世界における戦争の『遊撃』は特殊な意味を持つ。


本来の、対象を定めない攻撃部隊という面も持つが、それだけではない。


グレイやジャーティスのように個で大きな力を成すものが『遊撃』に配属されることがある。


その役目は『好き勝手暴れて多くを倒すこと』、『より多くの敵兵を自身に釘付けにすること』。



「その槍、貸して」

「は、はい!」



そして──『自分と同じような敵をどうにかすること』である。



「『纏え焔。すべからくを燃やし、貫け』」


道すがら、仲間の槍をもらって轟々と燃え上がる焔で槍を包む。


その向う矛先は、無双を続けるジャーティス。



「──ふっ!」



短く息を吐きながら、その槍を投げる。



「っつ!? おおお!!?」


ギリギリで気が付いたジャーティスは無理矢理身体を逸らして躱す。


通り過ぎた先で轟音。

地面に着弾した槍が炸裂し、はじけ飛んだのだ。


「……アレは力場じゃあ、どうにもならない威力だった」


わずかに掠った頬に線が走り、わずかに血が流れる。


「熱を優先して流したとはいえ、切れるか」

「──躱さないで死んだ方が楽だったと思うわよ」


どこまでも冷たい声が響く。


「戦い方からして、あなたかしら? 私の父を殺したのは」

「……さあな。誰がお前の父親かなんか、わかるわけないだろ」

「国境付近で哨戒の任を受けていたのだけれど……知らないかしら?」


どこか気さくに、まるで散歩をしながら話すかのように少女は問いかける。


──そしてその問いに、ジャーティスは思い当たることがあった。



(グレイが倒した国境付近の……あの中にこの女の父親がいたってことか)


そう察したからか、ジャーティスはあえてこう答える。


「ああ、知っている。奇襲で一撃、それで十分だったからな」


どこか得意げな様子で語るジャーティスに少女は視線を落とす。


「そう、あなたが……やりあう前に一度、名前を教えてくれるかしら」

「ジャーティスだ」

「そう、ジャーティスって言うのね。覚えたわ。私の名前は、『リヴェール』。じゃあ──死んで」


言うや否や、かすむほどの速度でリヴェールがジャーティスに迫る。

慌てて飛び退くが、『力場』を用いたジャーティスに追いすがり、白金に輝く剣を振るう。


「【力場収束】!」


腕当てに力場を集中させ剣をはじくが、剣戟は止まることはない。


「あら、腕に何か纏わせているのね。魔よくとも少し違う。何かしら?」

「く、おおおお!」


繰り出される剣を何とか腕で防ぐジャーティスは、内心かなり焦っていた。


(『力場』を貫通して腕当てがかなり削られてる……このままじゃあマズイ!)


「【圧縮解放】!」


言葉の通り、圧縮していた『力場』を開放することで炸裂させ、距離を取る。


「……こんなものなのかしら?」


そうしてリヴェールが告げた言葉は、奇しくも先ほどジャーティスが零したのと同じもの。


「剣の腕は凄いと思うが、お前の攻撃も俺には届いていないが?」

「……私はお父様の娘なのよ? ならこれだけじゃないってことくらい──ああ、そっか。奇襲だから見ていないのね」


そう言って彼女は──その剣に焔を纏わせる。


「お父様は、【魔法剣士】だったの。私もそれにあこがれて、同じことができるようになった。まあ、結局私は【復讐者】を選んだわけだけどね」


「【魔法剣】って言うの。凄いでしょ?」という彼女の眼に光はなく、代わりに暗い炎が揺らめいている。


「だから──死ね。無残に、無為に、無意味に。生まれてきたことを後悔しながら、死ね」


復讐の炎を燃やして、リヴェールはジャーティスに斬りかかるのであった。







「見たか! これが我らの結束のチカラだ!」


騎乗した兵が声を高らかに叫ぶ。


「「「オオオオオオオオオオオオ!!」」」

「将軍が単騎遊撃を打ち取ったぞ!!」

「将軍! 将軍!」


そこらじゅうで将軍を称える声が上がる。

その視線の先には剣や槍、矢、魔法といった様々なものがめった刺しになっているグレイの姿があった。


「ハハハハハ! 刮目せよ! これが人間のチカラである!」

「……ふ、はは。確かに、群れた人間、は、すごいな」


めった刺しにされたグレイが、絶え絶えに呟く。


「まだ喋れるのか。どこまで行っても一人というものには限界が来るものよ」

「ああ、知っているさ。もちろん、知っているとも」


ざわりと動揺が走る。


うつむいていたグレイが、ぐぐぐ……と身体を起こしたのだ。



「馬鹿な、この量の武器が突き刺さっているのだぞ!? 動けるはずがない!! どどめを刺してしまえ!」

「ま、待て!」


恐怖に突き動かされた兵たちの一部が武器を構えてグレイに突撃する。

何かを感じた将軍が制止するが──すでに遅かった。


「俺らは一人じゃあない。なあ、スライム」


直後、地面から数多の刃が突き上がり兵たちを串刺しにする。


「な、なんだ!? 【魔法】か!?」

「違う、【魔法】の気配は感じなかった!!」

「全く、お前が武器を喰ってみたいとか言うからだぞ? まあ、そのおかげで痛覚の遮断ができるってことにも気づいたわけだが……」


突き上がった刃がゆらりとどこか嬉しそうに揺れる。


「体内に金属を溜めるのはちょっと重いな。ああ、うん。体外に溜めるのは構わないぞ」


拘束されていたのがうそのように、グレイは歩き出す。


身体に刺さっていた部分はすでにスライムに溶かされ、取り込まれていた。

だから、グレイが先ほどまで苦しそうだったのもすべて演技でしかなかったのだ。


「勝利したという歓喜の色も、理解できないという恐怖の色も。ああ、そのすべての『色』に価値がある。それがあれば人間は変れる。そうだろう?」

「うわあああああああああああ!!」

「逃げるなよ。スライム」


鈍色の揺らめいていた刃がその声に応えて伸び、逃げようとした兵を貫く。


「グ、【グランドエッジ】!」


鋭い刃上に隆起した大地がグレイに迫るが、たどり着く前にスライムが顎を象りかみ砕く。


「へえ、お前にとって魔力のこもった土も美味いのか。人間の食事の方が美味い? なら、帰ったらいっぱい食べような」

『……!』


その言葉に、早く終われば早く帰れると判断したスライムがその身体を変形させ、うねる刃をいくつも立ち上がらせる。


「ば、バケモノ……」

「じゃあ、任せたよ」

「ぎゃあああああ!!」

「いやだあああああああ!!」


阿鼻叫喚の地獄絵図。

そんな中でグレイは死体に近寄って確認して行く。


「切れ味は大量生産の剣と同じくらいだが、質量がある上、性質上刃こぼれも無し。だが、元がスライムの身体なだけあって硬度はそこまで高くないし、この状態になるのに大量の金属が必要になる。使えるのは戦場くらい、か」


そう評価していると、周囲が静かになっていることに気が付く。


「お、もう終わったのか」


近くに寄り添う、触手のようなスライムをなでて労う。


「久しぶりに体を動かして楽しかったか。消費した魔力は……ああ、切り殺しながら集めたのかなら、次はどうするかね」


赤く染まった大地の上で、どこか楽し気にグレイは次の獲物を探すのであった。








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