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傍若無人王ロドルフ 【ブランシュ王国記2】  作者: 一狼
第1章 小麦事件と新開発
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◇◇◇1-④ブルデアにて◇◇◇

二日後、ロドルフの姿はブルデアにあった。


「セレスティーヌ、ブルデア候に挨拶に行く。」


「はい、陛下。」


ブルデアは、ブランシュ王国南西部にある農業、特に茶葉の生産を主力とする中堅都市である。


ここを治めるのは、ブルデア候と呼ばれる、ダミアン・アズナヴール男爵である。


アズナヴール家は、ブランシュ建国からの家柄で、中央の政治にも影響力を持っていた。


しかし、ヴァレリー国王の行った国政改革に反対の立場で抵抗したため、一時は貴族の称号を剥奪されかかった。


当時のヴァレリー国王は、建国からの忠臣の家名であるとして当主ニコラ・アズナヴールを隠居させ、息子のダミアンを当主とすることで家名を存続させた。


家名は存続したものの、王家に反旗を翻したアズナヴール家は、ブランシュ王国貴族から遠避けられる事となり、ブルデア地方は、ブランシュの繁栄から取り残される事となった。


「これは国王陛下、突然のお越し、たいへん光栄ではありますがいかがされましたか?」


当主のダミアンが屋敷外まで出迎えていた。


「なに、いつもの気紛れだ。息災であったか?」


「はい、お陰さまを持ちまして無事に過ごしております。」


ダミアンは、突然のロドルフの訪問に驚いた様子ではあったが、特に後ろめたさなどは持っていないようにみえた。


「陛下、突然のことゆえたいしたおもてなしも出来ませぬが、屋敷にてゆるりとしていって下さいませ。」


「かまわぬ、茶を一杯頂こうか。」


そう言ってロドルフはダミアンの肩を抱かんばかりに親しげに笑顔で屋敷に入った。


応接間に入ると出された紅茶を無造作にすすった。


同席したセレスティーヌが一瞬腰を浮かせかけたが、ロドルフは目で制した。


「美味い茶だ。」


「はい、陛下もご存知かと思いますが、ブルデアは良い茶葉が育ちます。お陰様で今年も良い出来で御座います。」


ダミアンは、作物の出来の良さを喜び、ブルデアの将来について夢を語った。


「ところでダミアン、先頃王都近郊では同時多発的に小麦の倉が放火されるという事件があったのだが存じているか?」


「なんと!それは真ですか!」


ダミアンは本当に知らなかったような驚きを見せた。


「真だ。被害は決して少なくないが、食料不足に陥る程ではなかったのが不幸中の幸いであった。」


「それはようございました、しかし、当座の手当ては御入り用でしょう・・・差し出がましいようですが、ブルデアから幾ばくかの小麦を拠出いたしとう御座いますが、お受けいただけましょうか?」


「それは有難い。是非頼む。」


ダミアンは、家令を呼び、書状を認め、ブルデア州庁へ使いを出した。


ロドルフは、その家令に見覚えがあった。


小麦焼き打ち犯の一人であった。


しかし、ダミアンは意に介していない。


「ダミアン、今の家令は長く仕えているのか?」


「トピアスで御座いますか?いえ、まだ一年程で御座いますが、出入りの商人より紹介が有った者で、なかなか気が利くので重宝しております。トピアスがどうかいたしましたでしょうか?」


ダミアンは何か非礼が有ったのではと気が気ではない様子だった。


「いや、見知ったものに似ておったのでな。」


「左様で御座いましたか。」


ダミアンは心底安堵した様子だった。


「ところでダミアン、アズナヴール家に出入りの商人とは付き合いが長いのか?」


ロドルフは今回の一件にはダミアンは無関係で、あろうと思った。

その上で、出入りの商人と家令トピアスの正体を探る事にした。


「はい、ブランシュ王国建国時代からの付き合いだと聞いております。

現在の主はエーリッキ・ヤルヴェラと申しまして、なかなかのやり手で御座います。

昨年も小麦の相場で一山当てたと申して・・・陛下・・・まさかエーリッキがこの度の事件に関わっていると・・・」


ダミアンは意外にも鋭敏な感覚を持っていた。


「いや、そういう訳ではない。

此度の件で王都周辺の商人以外とも取引をせねばと考えておってな。

ダミアンが遣り手の商人だと申すから興味が沸いただけだ。」


「左様で御座いましたか。」


そう言ったダミアンであったが、何か考える様子だった。


「ダミアン、邪魔したな。来月王都にじい様が来る、そなたも会ったことが有ろう。

どうだ、久しぶりに城へ来てみないか?昔のことは終わったことだ、また城へ顔を出さぬか?」


ロドルフはダミアンの為人は善であると判断した。


過去の償いに引きこもらせるには惜しい人物であった。


「あ、ありがとうございます、陛下!是非伺わせて頂きます。」


床に這いつくばらんばかりにダミアンは感激した。

それほど過去の出来事を汚名と考えていたのだった。


「では、正式に招待状を送ろう。」


ダミアンは双眸から涙を流しロドルフが帰るまで感謝の意を繰り返した。


◇◇◇


「セレスティーヌ、家令は?」


「はい、ジェレミア殿が後をつけています。」


ロドルフはダミアンの館を後にすると、王都へは向かわずブルデアの市街に入った。


近衛隊は郊外に野営させ、数名で宿を取った。

日が暮れてから市中へ出、宿屋の主から聞いた酒場へ向かった。


その店は商人達が頻ぱんに密談に使うという店だった。


けっこうな広さがあり、客も多く、それがかえって密談をするにはうってつけであった。

ロドルフ達は壁際の席に座り一通り食事を注文して様子を伺った。


しばらくすると、商人風の男が声をかけてきた。


「あんたら見かけない顔だな、旅の人かい?」


「ああ、そんなところだ。と言いたいところだが、小麦を買いに来ている。」


ロドルフが遮ろうとしたセレスティーヌを制して男と話した。


「見たところ商人では無さそうだ、貴族様かい?」


「ああ、使いのものだ。知っているか?王都周辺の小麦が焼かれた事件は?」


ロドルフは何気なさを装いながら事件について聞いてみた。


「ああ、知っているとも。商人は情報が命だ。」


「それで小麦が高騰して買えなくなってるから足を伸ばしてみたんだが・・・」


「ブルデアでも高くなっているよ、元々ヤルヴェラ商会が買い占めしてて高値で取引されているからなぁ、」


「州庁は何も取り締まらないのか?」


「大きい声じゃ言えないがね、州庁もグルなのさ。」


「アズナヴール家も何も言わないのか?」


「ダミアン様は好い人さ、州庁の州令が良いことしか報告してないのさ。ダミアン様に直訴しようとしたものが何人も捕まって行方知れずさ。」


ロドルフは州令が首謀者と知り少なからずショックを受けた。


「もっとも、州令にしたって王宮の言いなりだっていうから、我々にはどうしようもないことさ。」


「なんだと!」


セレスティーヌが声を荒げて商人に詰め寄ろうとした。


「セレスティーヌ!落ち着け。」


ロドルフはこの事件の意外な根深さに驚きを禁じ得なかった。

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