表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傍若無人王ロドルフ 【ブランシュ王国記2】  作者: 一狼
第1章 小麦事件と新開発
6/27

◇◇◇1-②傍若無人です◇◇◇

ロドルフは、城へ戻るなり小言を言いに来たガストンに対して、口を開く間もなく主だった重臣の召集を命じた。


「税制を見直すぞ!」


開口一番、ロドルフが集まった臣下に言いはなった。


「陛下、いつもながら言葉が足りませぬ。性急に過ぎます。傍若無人でございます。」


ロドルフの側近は皆遠慮がない。


ロドルフの『思いつき会議』は、ロドルフの第一声を、文官の首座『国政大臣』のカミーユが引き取り議事を進行するのが常であった。


「バルトロ殿、事のいきさつを貴殿から説明頂きたい。」


カミーユが口を開きかけたロドルフを制してバルトロに話を振った。


バルトロは、穀倉地帯でのいきさつを話した。


「しかし、陛下が何を思い付かれたのかは存じ上げません。」


「なるほど。さて陛下。この度は如何様な思いつきで御座いますか?」


カミーユは一通りバルトロの話を聞き、ロドルフに説明を求めた。


「カミーユ、もう少し王である私に・・・」


「ご説明を。」


取り付く島もないカミーユであった。


「まあ良い・・・」


気を取り直してロドルフは話し始めた。


「今年は小麦の作柄が良く、国庫にも備蓄が豊富だ、税を軽減しようかと話していたのは皆の知る通りである。しかし、農民は豊作の年にこそ多少税が重くても、不作の年に税を軽減するほうが有り難いという。」


「さもありなんでしょうなぁ。」


オーギュストが相槌を打った。


「しかし陛下。不作の年に税を軽減しては、国庫が空になってしまいます。」


アデラールが不安を口にした。


「その通りだ。しかし小麦の備蓄の方法を見直し、農民の意思によって税を前払い、もしくは預かる手段を構築出来ないものだろうか?」


「陛下。面白き提案にございます。」


カミーユがいつも通り感情を現さない表情で続けた。


「前払い、預かりについてはなんとか成やもしれません。しかし、小麦の備蓄については如何なものでしょう。実際、毎年備蓄小麦の何割かは食用に耐えないほど傷み、廃棄処分となっております。備蓄を増やしても廃棄処分が増えるだけではありませぬか?」


カミーユの話に一同は頷いた。


「父上が住む北のプーリーでは、一年中旨いパンが食べられる。」


「どういう事ですか?王都でもパンは旨いですが?」


アデラールが疑問を口にした。


「その旨い王都のパンはどこの小麦を使っていると思う?」


ロドルフはニヤリと一同を見回した。


「カミーユ、あとは任せる。」


そう言うなりロドルフは紅茶をすすり始めた。


「まったく、傍若無人な・・・、アデラール、小麦は何故傷む?」


「それは温度が高くて湿気があるとカビが生えます。」


「では、今年収穫した小麦を来年の収穫時期まで長らえる為にはいかがしたら良い?」


「そうですねぇ、なるべく冷涼で乾燥した場所に保管するべきでしょうなぁ。」


「あっ!」


ロドルフの弟アベルが声をあげた。


「アベル様、どうぞご説明下さい。」


カミーユはロドルフに接する時とは正反対の丁寧な口調で話を促した。


「正解かわからないけど、父上が住む北のプーリーは一年を通して冷涼な地域です。

しかも山岳地帯で、山々の頂には年中雪が積もってます。

頂まで行かずとも、途中に横穴を掘れば天然の冷温蔵になります。

ここへ小麦を保管すれば、場合によっては2年でも3年でも長持ちするのではありませんか?

だからプーリーのパンは美味しいのでは?

もしかして王都のパンはプーリーの小麦を使っているのではないですか?」


「お見事です。アベル様。」


カミーユはにこやかにアベルを褒めた。


「つまり、陛下は豊作の年に集めた小麦をプーリーにて保管することで食料事情を安定化させられないか、と仰りたいのだと推測致しますが?」


カミーユはロドルフに視線を送りながら話した。


「うん、アベル、見事だ。」


「しかし陛下。一つ問題が有ります。」


「運送手段か?」


カミーユの言葉にロドルフは即答した。


「はい、王都からプーリーまでは北のロジリアに備えるべく道がまっすぐではありません。

運送には時間も費用も莫大なものになります。この点はいかがお考えでしょうか?」


「そう、そこが問題だ。早く大量に物資を運ぶにはどのような方法がある?アベル?」


ロドルフはアベルとの問答を楽しむように話を向けた。


「そうですね・・・やはり船でしょうか?しかし王都から海まで距離がありますし、プーリーにしても決して近くはありません。現実的ではないですね。」


「船は海だけのものではないぞ。プーリーには高い山がいくつもある。その山からは川が流れている。その川の一つがジランヌ川だ。知っての通りこの川は王都の西を掠めて西海へ流れて行く。」


「河を船で遡るのですか?」


アデラールが叫んだ。


「そう急くな。王都を掠めるとは言ってもまだ大分距離がある。そこで・・・」


そう言ってロドルフは地図を広げた。


「王都近郊の農業地帯は東側に広がる、そして東側には、更に東側に伸びる川がある。ラース川だな。このラース川を遡ってプーリーまで行ければ何の問題もないのだが、向かう先はサボワールの北側になる。そこで・・・」


そう言ってロドルフは王都の北側にジランヌ川とラース川を結ぶ線を書き込んだ。


「ここに運河を作る。」


「おおぉっ!」


一同の口から驚嘆の声が漏れた。


「確かに1~2年の話では無いかも知れない。しかし、ブランシュ王国繁栄の為ならやってみる価値はあると思うが?」


なるほど・・・口々に可能性を議論し始めた。


「陛下、よろしゅうございますか?」


兵站大臣のブレソールが発言を求めた。


「ブレソール、良いぞ、何か良い知恵が有るか?」


「はい、実は以前から研究していた技術が役立つかもしれません。」


「どんな研究だ?」


「簡単に申し上げますと、お湯を沸かしたときに出る『湯気』を利用致します。」


一同に落胆の雰囲気が漂った。

一人ロドルフを除いては。


「続けよ。」


「はい、火にかけた鍋の蓋は、湯が沸くとカタカタと動きます。これは何故だか判りますか?」


「湯気が鍋の中に溜まり外へ出ようとするからです。」


アベルが自信なさげに答えた。


「そうですアベル様、水を火に掛けると湯気が出ます。

そしてそのまま放っておくと水は湯に変わり、そして無くなります。

つまり水は全て湯気になったと言うことです。水が湯気になると体積が大きく膨らみます。

だから鍋の蓋をカタカタと震わせて隙間を作り外に逃げるのです。

この湯気の流れをコントロールして管から吹き出させると風車を回すことが出来ます。

この仕組みを大型化し、船に載せ、風や人力に頼らない仕組みを船に用いれば、川の流れに逆らって進む船を作れると考えています。」


いつの間にか皆がブレソールの話に聞き入っていた。


「ブレソール、その仕組みを馬車程度の大きさで実現出来ぬか?荷台を繋いで陸路を走れれば、国中何処へでも物資を運べるではないか!」


ロドルフが興奮した面持ちで問いかけた。


「理論的には可能でしょうが、少なくとも一台あたり、馬一頭以上の力を持たせなければなりません。しかも構造を小さくしなければなりません。」


「それでも良い!カミーユに命ずる!運河作りとブレソールの新開発の二通り、実行案と費用の概算を1ヶ月で形になせ!指針で良い!」


やれやれといった表情を浮かべ、カミーユが頭を垂れた。


「それからもう一つ。」


ロドルフが表情を改めて口を開いた。


「これも農民達が噂していたのだが、王都周辺で小麦の買い占めを画策しているものがあるらしい。まだその意図は不明だが、相場の混乱にも繋がりかねない。クレストフ、詳細を調べ適切に対処せよ。」


「はっ!」


クレストフが敬礼を返した。


「では、今日はこれまで・・・」


「いいえ、未だです。」


席をたとうとしたロドルフにカミーユが制止をかけた。


「クレストフ、そなたは早速任務に就かれよ。」


「他のもの達にはまだ話がある。」


あからさまに気が乗らない顔をしてロドルフは腰を下ろした。


「他でもない、来月の、バンジャマン様のご来城についてである・・・」


結局、散会したのはすっかり日が暮れてからであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ