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傍若無人王ロドルフ 【ブランシュ王国記2】  作者: 一狼
第1章 小麦事件と新開発
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◇◇◇1-①黄金の実り◇◇◇

「陛下ぁ~、ロドルフ陛下ぁ~」


宮廷の通路をヨタヨタと走りながらガストンは国王を探していた。


宮廷を取り仕切るこのガストンは、齢80になろうかという老人である。


第5代国王バンジャマンの御代から60年もの年月を王家に仕えてきた筋金入りの宮廷官吏であった。


「これはガストン殿、如何されました?」


「おお、セレスティーヌ殿、陛下をお見掛けせなんだか?」


セレスティーヌは宮廷守備隊を預かる女性武官である。

幼い頃からロドルフに仕え、先代守備隊長のシルベーヌに文武に渡り師事してきた。

また、その美しさから『宮廷の薔薇』と例えられたが、その刺に刺され散った男は数えきれない。


「陛下なら今朝ほど馬を駆って出掛けられましたが?」


「またでございますかっ!あれほど強くお諌め申し上げたのに!そもそも陛下は・・・」


「ガストン殿・・・でわまた・・・」


セレスティーヌは話の長くなるガストンからそそくさと逃げた。


「やれやれガストン殿もご苦労の事だな。」


苦笑を浮かべながらセレスティーヌは立ち去った。


「近衛兵ぇ!近衛兵ぇ!馬車を出せぇ!陛下をお迎えにまいるぅ!近衛兵ぇ!」

セレスティーヌの後ろからガストンの叫ぶ声が聞こえた。


◇◇◇◇◇


「バルトロ!」

「はっ!陛下!」

「見よ!今年も豊作だ!」


ロドルフは王都東部に広がる穀倉地帯にいた。

目の前には何処までも続く黄金色の小麦畑が広がり、風に穂を揺らしていた。


「これは国王様ぁ、また朝駆けですかいなぁ。」


「おう!皆も朝早くからご苦労!」


畑の中から年老いた農民が声をかけてきた。

ロドルフはこの景色が好きだった。豊かな実りは国を、国民を潤す。


その実りをもたらしてくれる農民が好きだった。


春先には、農民と一緒になって種まきもする。

もちろん公式行事ではない。

ふらっとやって来て、農民と共に汗をかき、泥だらけになる。

城に帰ればガストンがうるさいが、やめる気はない。

国王になって5年、欠かさずガストンの目を盗んでこの穀倉地帯にやって来た。


最初は道にひれ伏して恐れおののいていた農民達も、いつしかロドルフと気軽に言葉を交わすようになっていた。


収穫の時期には祭りにも参加し、よっぴて飲み明かしたこともあった。


「王様ぁ、粗末なもんしかねぇが、一緒に朝飯でもいかがかね。」


「おっ、喜んで頂こう!」


いつの間にかロドルフの周りには、30人程の農民が集まっていた。

パンとチーズ、固い干し肉、自家製ヴァンの粗末なものであったが、何れもブランシュの味だった。


遅い朝食を取りながら、市井の声を聞いた。

直接市井の声を聞くことで、きめ細かい政を行い、何か異変があれば、素早く対応した。


「今年も実りが良いようだな。」


ロドルフは、干し肉を噛み千切りながら年老いた農民に声をかけた。


「へぇ、お陰さまで良い出来でございます。」


「だども王様ぁ、変な噂を聞いちょります、去年南の方では豊作だったにも関わらず、小麦が買い占められてわしら下々の者には手の届かない額で商いがされていたとか?この辺りの名主様にはもう今年の小麦を売ってくれっち商人が来てるそうですじゃ。」


農民は口々に噂を言いあった。


「おかしな話だ。豊作ならば必然的に相場は下がるものだ。実際、城の穀物庫には、十分過ぎる小麦がある。今年は少し税を下げようかと話していたところだ。」


ロドルフはバルトロと顔を見合わせた。


ブランシュの税制は通貨納税と現物納税の二通りで、小麦を生産する農民には通貨納税と現物納税を選択する権利が与えられていた。


その他の職業の国民には基本通貨納税が義務付けられていた。


第7代ヴァレリー国王時代に定められた制度である。

ヴァレリー国王が食料の自給のために農民の保護を目的として制定した税制であった。


「王様ぁ、税が少なくなるのは有り難いけんど、豊作の時に多く納めても不作の時に安くしてもろうたほうが有り難いなぁ。」


「なるほど・・・払えるときに払っておけば後々楽か・・・しかし不作でも安くならんかも知れぬぞ?王族貴族なぞ信用するものではなかろう?」


「そうさなぁ、だどもバンジャマン様もヴァレリー様もご健在、何よりロドルフ様が目ぇ光らせとったら大丈夫でございましょう?」

「それでは私は永遠に生き続けねばならぬな?」


「ちげぇねぇ!」


そう言って皆が笑う。


「しかしやりようによってはなんとかなるかも知れぬなぁ。考えてみよう。馳走になったな。次来るときは旨い菓子でも持ってこよう。」


黄金の実りが一面に広がる。

いつ見ても心安らぐ景色だ。


「バルトロ、もう少し南まで足を伸ばすぞ!」


そう言ってロドルフは馬を走らせた。


「いつもの事ながら・・・」


そう呟いてバルトロも馬を走らせた。

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