序章③『帰還』
短いです(笑)
2年後
ロドルフはブランシュ王都バルドーにある王宮の大門前に立った。
「ロドルフだ。父上は、ヴァレリー国王陛下はいらっしゃるか?」
ロドルフが大門を護る衛兵に声をかけた。
衛兵は困惑した。
2年前にロドルフが城内から連れ去られた事はもちろん知っていたが、その後連れ去った犯人からの接触はなく、一切の情報が無かった。
捜索は引き続き行われているが、死亡しているのではないかとする見解が大勢を占めていた。
「疑うのも無理はない。ならばこれを見れば信じようか?」
そう言ってロドルフは守り刀の短剣を差し出した。
そこには、王家「ダンドリュー家」の紋章が刻まれていた。
衛兵は慌てて取り次いだ。
一旦大門が開くと、ロドルフは久しぶりの我が家を懐かしむこともなく、一直線に家族の住まう「東の塔」と呼ばれる居住区へ向かった。
その東の塔のリビングの扉を勢い好く押し開き、ロドルフは叫んだ。
「父上!母上!只今戻りました!」
そこには父ヴァレリー、母マルスリーヌ、弟アベル他、数人の重臣がいた。
ちょうどロドルフを名告る者が現れたと報告を受けたばかりで、真偽を口にしていたところだった。
「ロドルフ・・・本当にロドルフなの・・・」
マルスリーヌがよろよろとロドルフに近付き、両肩を掴む。
震える手で真っ黒に日焼けした顔を撫でた。
「おおっ・・・ロドルフ・・・ロドルフなのですね・・・」
「はい、母上、ご心配をおかけしました。只今戻りました。」
「兄上っ!ロドルフ兄上っ!」
アベルが駆け寄ってきた。
「アベルか!大きくなったな!」
「ロドルフッ!」
ヴァレリーがロドルフを抱えて離さないマルスリーヌごと抱き締めた。
「父上、只今戻りました。ご心配をおかけしました。」
「おおっ!よく戻った、よく・・・」
言葉にならなかった。
「ロドルフ殿下・・・ロドルフ殿下・・・」
そう言ってガストンは卒倒してしまった。
無理もない。
ロドルフが誘拐されたときに側にいたのだから。
ガストンは、一度自殺騒ぎまで起こしている。
ロドルフ誘拐の責任を取ろうとしたのだった。
しかしヴァレリーは、「誰も城内から王子を誘拐するなどと考えるものは居ないだろうと思っている。」
として、不問に付した。
それでもガストンは傷心から体を壊し、職務を休まざるを得なくなっていた。
諦めていたロドルフが帰ってきたのだから、その喜びと罪の意識から解き放たれた事により、卒倒してしまったのだった。
「ガストン、こんなに痩せて・・・」
ロドルフはガストンの手を握り、「苦労をかけた。」そう言った。
なんにせよ、城内は蜂の巣を突っついたような大騒ぎとなった。
ロドルフ10歳の夏であった。