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傍若無人王ロドルフ 【ブランシュ王国記2】  作者: 一狼
第2章 蒸気機関編
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◇◇◇②-⑨王の言の葉◇◇◇

2ヶ月後、サボワールにはロドルフ、エルゲンベルトの両国王の他、ヴァレリー、マルスリーヌ、クローディーヌ、アベル、レアンドルそしてカールとダレツの重臣達が集まっていた。


サボワールからブランシュ王都バルドーまでの蒸気機関車初運行の日を迎えていた。


サボワール市街に建てられた発着駅には、客車五両を繋いだ蒸気機関車が緩やかに煙を吐き発車の時刻を待っていた。


前日の夜は、サボワール城内で盛大に蒸気機関車運行の記念パーティーが催されていた。


もちろん式典にはダレツ国王エルゲンベルト他のダレツの人々も出席していた。


当初バンジャマンも参加の予定であったが、体調を崩したためカロリーヌと共に王都バルドーで待つこととなった。


「父上も来たかったでしょうな、何せ新しい物好きだ。」


ヴァレリーがレアンドルに話しかけた。


「ああ、早くリノまで鉄路を敷けとうるさくて敵わなかった。まあ、リノの商人から多額の開発費を集めたからな。当然の主張と言えなくもないがな。」


「おかげでプーリーまでの鉄路はあと半年もかかります。」

「親孝行と思えば良いさ。」


そう言って元国王二人、三賢候の内の二人が笑った。


少し離れたところからアベルとロドルフはその様子を見ていた。


「兄上、我等が父と叔父ながら迫力のある二人ですね。」


「全くだ。あのお二人を見ていると自分が国王を名乗るのが恥ずかしくなる。」


ロドルフの言葉に、アベルはレアンドルから聞いた言葉をロドルフに伝えた。


「兄上、先にダレツで試験運転をしたときの事ですが、叔父上はこんなことを言っておられましたよ。」


「何と申されていた?」


アベルは黒々と佇む機関車を見上げて言った。


「兄上が実用にはまだ速度が足りないと、皆が喜ぶそばでただお一人笑顔が無かった。レアンドル叔父上は『国王を譲りいつの間にか考え方が緩んでいた。ロドルフはもう一人前のそれ以上の資質を持った国王になっていた。』そう申されておりました。」


「私などまだまだだ・・・」


レアンドルの言葉は嬉しかったが、ロドルフは慢心したくなかった。


「さあ、兄上!式典開始の時間です!国民にメッセージを!」


機関車の前方には式台が設けられており、そこにはサボワール近郊の国民が何千人も集まっていた。


ロドルフは式台に上がった。


その後ろにレアンドルとヴァレリー、エルゲンベルトらが並んだ。


集まった人々から歓声が上がった。


その歓声は、ロドルフの心を揺さぶった。


このブレソールが提案した蒸気機関車の実用に当たっての様々な出来事や思いが一気に湧き出してきた。


「私は幸福者です・・・」


そのロドルフの第一声に人々は静まり、次の言葉を待った。


「偉大な父を持ち、偉大な叔父が居り、偉大な祖父が居る。皆も知るブランシュの三賢候の後を継ぐと言うことはこれ程苦しいことだとは思わなかった。」


人々は固唾を飲んだ。晴れがましい式典のはずが、ロドルフの言葉は重く、身を切るような痛みを伴っていた。


「私は私の出来ることをやればよいと、自身に言い聞かせてきた。それでも三賢候の偉大な実績は、幾度も私を押し潰しそうになった。」


「兄上の背中が泣いている・・・」


そう言ったアベル自身、頬には涙が伝った。


「だからこそ、今日この場にあることが嬉しい!私にもブランシュのために成せたことが出来た!それが嬉しい!」


何千人もの人々の幾人にロドルフの声は届いているのだろうか?


人の声が直接届く距離の外に居る人数のほうが圧倒的に多いはずだ。


しかし、ロドルフの声は届いていた。


確かめる術はない。


しかし、間違いなく届いていた。


「もちろん、私個人の力ではない。レアンドル叔父上、弟のアベル他、何人ものブランシュの人々が、そして、この鉄路を実現するに当たって惜しげもなく国の力を結集してくださったダレツのエルゲンベルト国王陛下、本当にありがとうございました。」


ロドルフはエルゲンベルトに向かい、深々と頭を下げた。


一国の国王が他国の国王に頭を下げたのである。これは重大なことであった。


しかし、この場にいた全てのものが、至極当然のことと受け止めているようだった。


集まった人々は、誰からと言うことなく、ロドルフと共にエルゲンベルトに向かって頭を下げた。


エルゲンベルトは慌てて手を降り、頭をあげてくれとロドルフにとりついた。


ロドルフは頭をあげ、エルゲンベルトと固く手を握りあった。

観衆から凄まじい拍手と歓声が沸き上がった。


ロドルフは観衆に向き直った。


「しかし、これは目的地ではない。まだ始まってさえいないのだ。今から、これから第一歩を踏み出します。この鉄路を走る蒸気機関車は、必ずやブランシュを潤してくれるでしょう。ダレツとの間に鉄路を結び、両国は更なる友好と繁栄を手に入れる!争いの無い平和な時代を、皆と共に作り上げる!今日はその第一歩なのだ!」


おおおっ!と観衆から歓喜の声が上がった。


「ヴァレリーよ、ロドルフは良き国王となったな。」


レアンドルが隣に並んでいたヴァレリーに声をかけた。


「まだまだですよ・・・兄上・・・」


そう言ったヴァレリーだが、眼には光るものがあった。


「そうですね。まだまだです。でも誉めてあげましょう。我が子の晴れ舞台です。今日だけは共に喜んであげましょう。」


マルスリーヌはそう言って扇子で口許を覆った。


「悪戯者の次男坊がよくぞ・・・」


オーレリアンも感極まった様子で目頭を押さえた。


式典は続いた。


エルゲンベルト国王が、ダレツ国王として初めてブランシュ国民の前において祝辞を述べた。


「ブランシュ国民の皆さん。今日この目出度い席において、私は先ず、ブランシュ国民の皆さんに謝罪申し上げます。」


そう言って深々と頭を下げた。


ロドルフを初め、皆驚きすぎて固まってしまい、取り成す事が出来なかった。


30を数える程の時間エルゲンベルトは頭を下げ続けた。


「過去ダレツは、南方に港のある領土を欲し、幾度もブランシュを脅かしてきました。国情から、ダレツが豊かになるための方針であったことは事実で、ダレツ国王の私としては、それを否定するわけにはいかない。しかし、今日、ロドルフ国王陛下は、争わなくとも両国が繁栄する策を共有してくだされた。これは画期的なことなのです。独占すれば、ダレツのみならず周辺を攻め落とし、国土を広げることも出来たかも知れぬのです。」


エルゲンベルト国王の言葉に、観衆は改めてこの鉄路が平和維持の要となることを思い知らされた。


「私はブランシュ国民の皆さんにお約束しましょう。ダレツは、今後更なるブランシュとの友好を深め、戦の無い平和な時代を作ることを!」


観衆から盛大な拍手が沸き起こり、歓声が上がった。


ロドルフとエルゲンベルトは再度ガッシリと握手を交わし、式典を締めくくった。


「何れ潰してやるわ・・・」


観衆の中に目深にフードを被った女がいた。


周りの観衆が手を腫らすほどの拍手を続けるなか、その女は立ち去った。


金色の左目に憎悪の炎を宿して。

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