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傍若無人王ロドルフ 【ブランシュ王国記2】  作者: 一狼
第2章 蒸気機関編
23/27

◇◇◇②-⑥アジト◇◇◇

ダレツで捕らえられた刺客の一団は、オーレリアンがブランシュへ護送した。


七日後サボワールに到着し、刺客達の詮議を行ったが、刺客達は口を割らず、そのまま王都バルドーへ送ることとなった。


ロドルフは、刺客の一団を受け取ると、地下牢に入れて暫くは一切の詮議を行わなかった。


サボワールでオーレリアンが詮議したにも関わらず、何も情報を得られなかったこと、先のブルデアでの暗殺未遂事件の犯人からも情報を得られていないことなどから、状況の再確認と、今回のネトア山脈越えのルートからの証拠集めを優先した。


特にネトア山脈越えに於いては、複数の離脱者が居ると思われ、ガレア教団の本拠地割り出しの手懸かりになりうると思われた。


しかし、ネトア山脈の捜索は難航した。

ただでさえ険しい山道なのだが、更に積雪の影響で思うように捜索は捗らなかった。


それでも数人の脱落者を発見し、大まかなルートを特定するに至った。


脱落者は全て凍死していた。


捜索隊にも複数の怪我人を出したが、幸いにも死者は出なかった。


捜索を始めて一週間後、その報告がロドルフの元に届いた。


「するとプーリーから目と鼻の先に奴等の拠点があると言うのか?」


ジェレミアの報告によれば、山脈越えのルートの起点と思われる場所は、ネトア山脈のプーリー寄りの山中にある古い寺院ではないかと言うことだった。


この寺院は、修道会の修行僧が山中にて修行を行うためにあったものらしいが、現在、修道会では利用していないと言うことだった。


しかし、麓の村に時折食料を求めにやって来る者がおり、村人は、修道会の修行僧と信じて疑わなかったようだ。


「良し、一個部隊を送る、私も出る。アデラールを呼べ!明日早朝に出発する!」


ロドルフは部隊編成を指示し、翌朝騎上の人となった。


◇◇◇


五日後、ロドルフはプーリーに到着していた。通常なら七日から八日は優にかかる距離であったが、武装はプーリーにて調達出きるため軽装で走り抜いた。


プーリーでは、ヴァレリーの元へ先触れを走らせていたため、ロドルフ到着時にはヴァレリーは全て準備を整えていた。


プーリーから山中の寺院までは一昼夜の距離だった。

作戦も何もない。目指す寺院に到着すると、第一師団長のアデラールの指揮のもと、百名ほどの一団が寺院になだれ込んだ。


しかし、寺院には猫の子一匹居なかった。


一通り寺院内を捜索したが人が出入りした痕跡は見当たらなかった。


「陛下!こちらに来てください!見ていただきたいものがあります!」


アデラールがロドルフを呼んだのは、寺院の外、右手に50メートルほどの場所だった。


そこには不自然なほど石が積み上げられていた。


「その石を取り除け!」


ロドルフが兵に命じ、積み上げられた石を取り除くと、小さな鉄の扉が現れた。


鍵が掛かっていたが、無理やり抉じ開けた。

扉が開くと、凍てつくような冷気が吹き出してきた。

人が一人通れる程の幅しかない階段が地下深くまで続いていた。


「陛下、私が見て参ります。安全が確認できるまでお待ちください。」


アデラールが言い終わらぬうちにロドルフは単身地下道へ突入した。


「陛下!危のうございます!陛下!」


ロドルフに続きアデラールも地下道へ突入した。

松明に照らされた地下道は、地下水が染み出しヌラヌラと不気味に光っていた。


途中幾つかの曲がり角を経て、100メートル程進むと突然広い空間に出た。


松明一、二本では全体は見渡せない程の空間だった。

ロドルフを追って突入した兵が到着し、松明の量が増えると、次第に空間の全貌が見えてきた。


礼拝堂の様な構造で、横の壁には燃え尽きた松明が幾本も刺さっていた。


そして、正面には数段高くなった祭壇のような物があり、その壁面には、大きく二匹の蛇が絡み合い円を描くような紋章が刻まれていた。


「これは・・・」


アデラールが壁を見上げて絶句した。

それほどの大きさであった。

直径10メートルはあろうか、ユニオン・ガレア、ガレア教団の紋章に間違いなかった。


「陛下・・・これは・・・」


「間違いなかろう。ユニオン・ガレアのアジトだ。」


「どうやら一足遅かったようです・・・」


アデラールが周囲を見渡しながら呟いた。


「いや、そうでもない。」


ロドルフはそう言うと祭壇に歩み寄り、祭壇近辺を剣の鞘で軽く叩き始めた。


「こういった施設には、なにがしかの抜け道が準備されているものだ。人は居らぬでも何か物証があれば・・・」


祭壇の後方壁際の床を叩いたとき音が変わった。


また壁の一部も、叩くと明らかに音が違う。


ロドルフは慎重に音の違う部分の周辺を探った。


音の変わった壁の側に微かな突起があった。


その突起を押すと『ガタンッ』と音がして壁と床の一部が開いた。


「陛下、危のうございます!」


無造作に中に入ろうとするロドルフをアデラールがひき止めた。


「大丈夫だ。」


先に進もうとするロドルフを制止し、アデラールが体を入れ換えた。


「陛下、私が先に参ります。もう少し御身を大事になさっていただかないと我々家臣の立場が有りませぬ!」


アデラールの剣幕にロドルフも譲らざるを得なかった。


「わかったわかった、そう怒るな。」


「では、先に参ります。全く、カミーユ殿が傍若無人を連呼する気持ちがわかると言うもの・・・」


後半は独り言の呟きであったが、ロドルフは苦笑いしながら頭を掻くしかなかった。


扉の中は、更に地下深くへ続く階段だった。

アデラールを先頭に五人ほどの兵が先行し、ロドルフも続いた。


数十段ほど降りると、今度は上りになった。

そして数十段ほど上ると松明な揺れ方が変わった。


「空気が流れ込んでいるな?外と繋がっているのか?」


しばらくして通路は緩やかな下り坂となった。

どれだけ進むのだろうと思った矢先、唐突に通路が途絶え行き止まりになった。

罠か?と誰もが思ったが、ロドルフはまたしても周囲を探り始めた。


「アデラール、大丈夫だ、このような山中にこれだけの穴を、しかも丁寧にレンガで囲うような通路を掘るだけでも並大抵ではない。

多分近くに隠し扉があるはずだ。」


「ならば陛下、先程の松明の炎が揺れた辺りが怪しゅうございますな。ここまでやって来て何もなかったと引き返させる魂胆やも知れませぬ。」


アデラールの言にロドルフは頷き、炎が揺れた辺りまで引き返して、その周辺を調べ始めた。

先ほどは気が付かなかったが、床に扇形に何かを引きずったような傷があった。


「ここだな。」


ロドルフはその傷のある床周辺の壁を調べた。

すると祭壇にあったような微かな突起がここにもあった。


無造作に押そうとするロドルフを、またしてもアデラールが制止した。


「陛下、私が押します。少しお下がりください。」


アデラールが突起の周辺をもう一度調べ直した。

すると、最初に見つけた突起よりも床近くにもう一つの突起を見つけた。


「どちらかに何か仕掛けが有りそうだな・・・」


ロドルフは二つの突起を見つめしばし考えた。


「陛下、危険です。陛下の身に何かあっては一大事、ここは一旦お戻りいただいて・・・」


アデラールが言い終わらぬうちにロドルフは低い位置の突起を無造作に押した。


「陛下!」


アデラールが叫び、身構えた。


壁の一部がガリガリと床と擦れながら手前に開いた。


「仕掛けが雑だな。奥へ開く扉なら痕跡が残らず見つけられなかったかもしれぬな。」


ロドルフはアデラールの心配を意に介する風も見せず、開いた扉のなかに入った。


「陛下!傍若無人です!」


扉の中は、短い通路を経て小部屋になっていた。

そこは、一時的に避難するための最小限の物資があった。

しかし人影は無かった。

そして小部屋の奥には木製の扉があり、その先には洞窟があり水が流れていた。


「ここから脱出したのだろう。この水量ならば小舟くらいは浮かべられるな。ジェレミア、居るか?」


「はい、お側に。」


「おおっ!いつの間に?ジェレミア殿は突入部隊に居なかったはず!」


アデラールが闇から湧いて出たようなジェレミアの姿に心拍を乱した。


「アデラール、何を言っている?最初からジェレミアは居たぞ。問題があればジェレミアが制止する。だから私はお前たちが『傍若無人』と言おうが先に進めるのだ。」


「なんと・・・そんな・・・」


ジェレミアは影となりロドルフを護衛している。

正式な軍人ではない。王国所属の如何なる組織にも所属していない。


ロドルフ個人に忠誠を尽くす元暗殺者である。


「ジェレミア、この先の様子を探って参れ。私たちは一旦プーリーに退く。」


「畏まりました。」


言うやジェレミアの姿は闇に溶け込むように消えた。


「陛下・・・ジェレミア殿お一人で大丈夫でしょうか?」


「問題無い。さあ、一旦戻ろう。」


そう言ってロドルフは部隊を地上へ出し、少数の兵を見張りに残してプーリーへ向かった。


ガレア教団のアジトを見つけられたのは収穫であった。

しかし、既にそこには誰もおらずユニオン・ガレアは未だ存在する。

ロドルフは、今回の探索で一つの印象を得た。

それはユニオン・ガレアが決して大きな組織ではないと言う印象であった。


広いと感じた礼拝堂であったが、冷静に考えると、せいぜい百人程の収容能力しかないと思われる。

更には、全体的に薄汚れた感が否めないものであった。


如何に地下組織であろうと、宗教組織であれば役職身分が存在するであろう。


であれば、身分の高いものが低いものに掃除や雑用を強要するのは常の事で、地下組織ならば尚更無理無体は日常茶飯事であろうと思われる。


しかし礼拝堂は薄汚れ、掃除が行き届いていなかった。


これは、人手が足りていないと言う証拠ではなかろうか?


もちろん、地下組織に集まる者など掃除云々を言わぬかもしれぬが、不思議なことにどのような組織でも上の者が権力を誇示するとき共通するのが掃除なのだ。

宗教組織の権威の象徴である礼拝堂の掃除が行き届いていない。


明らかに人の出入りがごく最近まであったと思われる礼拝堂である。


その一事だけでも大人数の組織では無いと言う証明になるのではないだろうか?


更に、リノで捕らえられ死亡した少年信者のような者が暗殺の実行部隊に居たことも、そう考える要因の一つである。


おそらく誘拐されて使われていた子供であろう。

自ら舌を噛み死を選ぶほどの罰と恐怖が植え付けられていたのだろう。


そのような集団が、何千人、何万人を統率出来るわけがない。


どこかに綻びが出るものだ。


であれば、ユニオン・ガレアの規模はせいぜい数百人、千人に満たないであろうと思われる。


だとすれば、この北方の地を出ても、そうそうあちこちに大きなアジトを構えているとは思えない。


組織の構成員が少なかろうと思っても、先の焼き打ち事件での傭兵らしき者達。


ブルデアにおいて暗躍した者達。


この者達は少なくとも何らかの武芸に精通した者達だった。


組織の構成員と言うよりも、金で雇われた傭兵や無頼の者と判断するのが正しいと思われる。


そしてその者達を雇う金を捻出するための小麦相場の操作であったのだろう。


頭の切れるものがいると言うことであろう。


そういった事象を総合的に考えれば、この先は要人暗殺や破壊活動のような行動よりも、活動資金を得るための経済的犯罪やそれに伴う小規模な暴力犯罪といった地下活動が主な行動指針になるはずだ。


ロドルフは、王国全土の治安維持組織を強化再編する必要性を痛感するのだった。

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