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傍若無人王ロドルフ 【ブランシュ王国記2】  作者: 一狼
第2章 蒸気機関編
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◇◇◇②-④お粗末な襲撃◇◇◇

2日の後、オーレリアンは後発の部隊が到着するのを待って部隊を再編しダレツへ向かった。


国境の検問では、案の定足止めを食いそうになったが、マルスリーヌの書状を見た検問指揮官は直ぐ様門を開き、オーレリアン達をダレツに入国させた。

オーレリアンは部隊を2つに分け、一隊は真っ直ぐダレツの首都バンへ、もう一隊は国境となる山脈沿いに走らせた。


バンへの部隊は、腹心のデュドネに委ね、自らは山脈沿いの探索ルートを取った。

オーレリアン達に2日先行する形で馬を走らせたマリユスは、その言葉通りレアンドルがダレツ王国首都バンへあと1日というところで追い付いた。

見事に四人が四人、馬八頭を潰すことなく駆け抜けたのだから見事という他ない。


「何?マリユスが来たと?オーレリアンの配下のマリユスか?リノから来たのか?」


レアンドルは兎に角引見することにした。


「レアンドル閣下、火急のご報告があり馬を走らせて参りました。なにぶん、2日2晩走り続けたもので、見苦しき様はご容赦ください。」


「かまわぬ、しかしいかがいたした?」


「はっ、こちらの書状をご覧ください。バンジャマン老公様よりのものでございます。」


「何?父上から?」


レアンドルは書状を開き一読した。

そこにはリノにおける事件のあらましと、ユニオン・ガレアと蛇神教団に関わる情報、そしてレアンドルとアベルが狙われている可能性が書かれ注意を促していた。


「マリユス、他にはないか?」


「はい、オーレリアン総督からも書状を預かっております。そしてもう一通、バンジャマン老公様よりダレツ国王エルゲンベルト陛下への親書でございます。」


レアンドルはオーレリアンの書状を一読し、素早く対策を組み上げた。


「マリユス、まだ走れるか?」


「はい、いくらでも・・・と申し上げたきところなれど、馬が持ちませぬ。足の早い馬を御貸しいただければ、私はあと2日ほどなら走れまする。」


「そなたの乗馬術ならば半日でバンへ到着するであろう。先行して父上の書状をエルゲンベルト陛下へ届けてくれ。アベル!」


レアンドルはアベルを呼び、マリユスと共に先行するよう命じた。


「アベル、マリユスの乗馬術は神業だ、たかだか半日の騎行だが命がけでついて行け!マリユス、アベルを振り切って構わぬ、護衛は付ける、行け!」


「はっ!」


「はい!」


二人は数人の護衛と共にバンへ向かった。


「さて・・・バスチアン!」


レアンドルは腹心バスチアンを呼びダレツの地図を広げた。


「ガレアの者たちがダレツへ侵入するにはサボワール以外であればロジリア経由か南大廻りだが、狂信者共の事、リノの失敗で多少焦っておるであろう。恐らく山脈越えを選ぶはずだ。とすると、比較的越えやすいルートが二本ある、こことここだ。」


レアンドルが指し示したルートはやや南寄りの道とバンへ最短距離になる北側の道だった。


「北側でしょうな。」


バスチアンが呟いた。


「私もそう思う。この先に野営出来そうな土地がある。そこで罠を仕掛ける。」


レアンドルは地図の一点を指し示した。


◇◇◇


「レアンドルが野営を張ると言うのか?何故だ?」


刺客を率いることとなったモイーズが探索に出ていた配下の報告に聞き返した。


当初一団を率いていたべべリスクは、山脈越えの際に行方不明となり、次席のモイーズが後を継いでいた。


「レアンドルが腹痛を起こし、身動きが取れぬようになったということです。町に薬を求めに来たレアンドルの配下が慌てていたということですが、少々胡散臭いと思いますが・・・」


刺客の頭が罠の可能性を訴えた。


「いや、さすがに病気の可能性を抱えたまま、入城は出来ぬのだろう、この野営は我々には行幸だ!」


モイーズは功名に焦っていた。


「今夜決行する!半日間に合わぬかと思っていたが、ギリギリで間に合いそうだ!」


モイーズが狂喜するのとは逆に刺客の頭は冷たく冷めていった。


夜半、野営にダレツ王宮より医師団らしき一行が到着した。それを見たモイーズが確信に満ちた表情で呟いた。


「間違いない!レアンドルは病床だ!行け!行け!」


刺客の一団は、モイーズの下知で動き出した。

山脈越えで人数を減らした一団は、一直線にレアンドルの天幕のみを襲撃する計画であった。


いや、人数が減りすぎて、他の手段を選択する余地も、時間的な余裕も無かったのだ。


実行隊の頭は、この作戦が無謀だと承知していた。

失敗するだろうとも思っていた。


しかし、功名に逸ったモイーズの下知でも従わねばならなかった。


駄目だと思ったら、離脱する算段は整えていた。

案の定、天幕に突入するともぬけの殻だった。


「どういう事だ!誰もおらぬではないか?」


モイーズは喚き立てるだけだった。

実行隊の頭は、側近の数名に目配せし、モイーズの足を蹴り転ばせた。


「な、何をする!?」


モイーズは地面に転がりながら叫んだ。

そこへ四方からレアンドルの一団が雪崩れ込み、刺客達を切り払いモイーズ目掛け殺到した。

刺客の頭はその隙に数名と共に手薄そうな方向へ走り出した。

数人の兵士を切りつけ、刺客の頭は天幕の外に出た。


「何処へ行く?」


刺客達の行く手を遮ったのはレアンドルであった。


「閣下、ここはお任せください。」


そう言ってバスチアンが大剣を抜き放った。

サボワール一の巨漢と言われるバスチアンであるが、それでもその剣は不釣り合いなほど大きかった。


「そのような大剣が役に立つものか!ハッタリ屋が!」


そう叫んで刺客の頭は剣を鞘に納めたままバスチアンに走り寄り、近付き様横殴りに剣を抜き放った。

その素早さは、歴戦の経験を思わせるものだった。

しかしバスチアンの剣は、事も無げに刺客の剣撃をいなした。


大剣を扱うでなく、軽い鞭でも扱うような剣捌きと体捌きであった。


刺客頭がいなされてバランスを崩したところに大剣を振り下ろし、刺客頭の剣を弾き飛ばした。


「ハッタリではないぞ。普通の剣は軽すぎて扱いにくいだけなのだよ。」


軽々と大剣を鞘に納めながらバスチアンが言い放った。


「バスチアン、たまには私にも剣を抜かせて欲しいものだな。」


「閣下に抜かせぬために私たちが居るのです。お諦め下さい。」


レアンドルの言葉を即答で却下するバスチアンであった。

こうして暗殺部隊は全員を捕らえた。

結果として、レアンドル暗殺計画はお粗末なものであったと言わざるを得ない。


リノにおけるバンジャマン他の有力者暗殺計画失敗で、なし崩しに失地挽回の為だけのレアンドル暗殺計画であった。


計画は杜撰で行き当たりばったり。


ヒステリックに「火中の栗を拾う」ような意味のない行動の結果がこれであった。


迎え撃ったレアンドルでさえ、あまりのお粗末さに笑うことすらできなかった。


翌朝、レアンドルは暗殺部隊を縛り上げて馬車に押し込め、ダレツ王国首都バンへ到着した。


「義兄上!お久しぶりです!何やら一騒ぎあったようですが、ご健勝でなによりです!」


そう言ってレアンドルを出迎えたのは、ダレツ国王エルゲンベルトその人であった。


「これは国王陛下自らのお出迎えとは痛み入ります。陛下もご健勝でなによりでございます。」


レアンドルは義弟に当たるとも一国の国王であるエルゲンベルトに対して敬意をもって片膝付いて挨拶した。


「義兄上、堅苦しい挨拶は抜きでお願いします!さぁ、どうぞ中へ!」


レアンドルはエルゲンベルトに促され入城した。


長年ブランシュとダレツは紛争を抱えていた。

主に、南方の港を領有したいダレツの思惑に起因していた。


レアンドルが国王の時代、第一王子のエルゲンベルトと第二王子のクラウスとの間で王位継承問題が起こり、当事病床にあったダレツ国王ベルンハルトを、休戦協定を結んでまで見舞ったレアンドルの為人に心を動かされたベルンハルト国王が、和平の道を選択したのだった。


その際、ブランシュ強硬派であった第二王子のクラウスではなく、融和政策を提唱していた当事の第一王子エルゲンベルトが正式に後継指名されたのであった。


しかし平和協定を結ぶにも、ブランシュとダレツの確執は長きにわたっており、レアンドルの周囲でも反対の声は少なくなかった。


しかしレアンドルはこう言って周辺を黙らせた。


「条約が締結されても、敵国として長年戦争してきたブランシュにたいして王朝は纏まるまい。締結に至らなければ、それはそれでダレツが弱体化するだけの事さ。まあ、三年は様子を見ても良かろうよ。」


かくして条約は締結された。


また、この時レアンドルはエルゲンベルトの姉、マルティナと婚約した。


この婚約はダレツ側にとってはダレツとしての長年の問題を解決した形になった。


他ならぬマルティナの嫁ぎ先問題である。


マルティナは非常に美しい娘であったが、反面気性が激しく、嫁ぎ先に苦慮していた。


その噂を聞いていたブランシュ側は、レアンドル本人以外、総じて難色を示した。


しかし、当のレアンドルが平気な顔をしているので、反対意見も下火になり、婚約は成立した。


その後は、ブランシュとダレツの関係は良好を極め国王エルゲンベルトはレアンドルを実の兄のように慕い、ことあるごとにダレツへ招き親睦を深めた。


捕らえられた刺客の一団は、ダレツ王宮の牢獄に幽閉された。


「陛下、刺客どもはブランシュへ送り詮議したいのですが、ダレツ国内での事件ですから体面も御座いましょう。一度、ダレツ側の取り調べを経てからお渡し頂きたいのですがいかがでしょうか?」


「義兄上、相変わらず律儀なことです。お気遣いは無用です。この一件に関してはダレツは預かり知らぬこと。御随意になさってください。」


そこへオーレリアンが到着した報告が届いた。


「構わぬ、これへお通しせよ。」


エルゲンベルトはオーレリアンを迎賓室へ招き入れた。


「エルゲンベルト陛下、お久しゅうございます!兄上!ご無事でなによりです!」


「オーレリアン殿、リノからはるばるようこそおいで下された!」


「オーレリアン、賊ならもう退治したぞ。」


レアンドルの言葉にオーレリアンはマルティナの言葉を思い出さずにはいられなかった。


「全くマルティナ義姉上の言う通りでした。」


「ほう、我が姉君に何を言われましたか?」


エルゲンベルトは興味深げに聞いた。


「はい、うちの旦那様、つまりレアンドル兄上の事ですが、『うちの旦那様なら大丈夫、しかし義弟殿の立場も分かるから、ダレツ国内に武装した部隊が入れるよう一筆認めよう』と。」


「さすが我が姉君だ、男であれば私ではなく姉君が国王であったろうと言われる所以だな!」


そう言ってエルゲンベルトは笑い飛ばした。


「それはブランシュでも同じことを言われておりました。ヴィクトリーヌ姉上が男であったらと。」


「すると、お互いの姉君が喧嘩したことは、両国の戦争でしたか?」


「左様ですね、もっとも今では両名とも肝胆相照らす仲になっております。今のダレツとブランシュを象徴するのがこの女性二人なのかも知れませんね。」


三人は心のそこから声を上げて笑った。


「ところで兄上、アベルが見当たりませぬが?」


そう言ったオーレリアンを見て、レアンドルとエルゲンベルトは顔を見合わせて笑った。


「オーレリアン殿、アベル殿は少々尻の皮が剥けまして、ベッドの上でございますよ。」


そう言ってまた二人は腹を抱えて笑った。


オーレリアンは何の事か分からず『はぁ・・・』と言うだけだった。

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