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傍若無人王ロドルフ 【ブランシュ王国記2】  作者: 一狼
第1章 小麦事件と新開発
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◇◇◇1-⑬円卓会議◇◇◇

とある山脈の中腹に、教会があった。


今は使われなくなったその教会の近くの山肌に鉄の扉があり、その先には礼拝堂が作られていた。


そして、礼拝堂の先には幾つもの小部屋が作られており、その一室に数人の人影があった。


「巫女様、リノにおける計画の準備が出来ました。いつ何どきでも御下知頂ければ実行に移せます。」


「早速実行せよ。まずはバンジャマンを屠ってくれよう。」


巫女様と呼ばれた女は、金色の左目に憎悪の炎を宿していた。


◆◇◆◇◆◇


王宮の国王執務室の隣には、『ヴァレリーの円卓』と呼ばれるテーブルがある。


これはヴァレリーが国王当時、若い国王が臣下の意見を柔軟に聞き、施策に活かす会議を催すためのものであった。


ロドルフもその慣習を実践している。


今、その円卓にロドルフと、その重臣達が集まっていた。


「まず小麦焼き討ち事件に関してだが、確定ではないが『ユニオン・ガレア』を主犯と目し捜査を継続する。

ただし、ユニオン・ガレアは現在その存在を明確に特定できていない。

何らかの隠れ蓑に、その姿を隠していると思われるが、それさえも定かではない。

従って、どのような小さな犯罪もその背景を明らかにするように。

ただし、度が過ぎると国民に多大な迷惑をかけることとなる。その加減は注意するよう。これはクレストフ、そなたに厳に命ずる。」


「はっ!しかと承りました。」


「そしてユニオン・ガレアに繋がるかもしれぬ情報がある。元執政ゴーチエのことは以前話した通りだが、ゴーチエの死亡した日に行方をくらませた娘ドロテについてはその生死は不明だ。しかし、生きていたならば目の色を見れば判る。」


「目の色で御座いますか?」


クレストフが聞き返した。


「そうだ。ドロテはヘテロクロミア、つまり左右の目の色が違うということだ。右目はブルー、左目は金色をしていたという。」


重臣達の間から小さなどよめきが起こった。


「陛下、よろしいでしょうか?」


カミーユが発言を求めた。


「もちろんだ、カミーユ。」


「金色の目をしていたと聞いて思い当たる節があります。ユニオン・ガレアは元々ガレア島の自警集団であったという事ですが、ガレア島は先先代ヴァレリー国王時代に北海条約の拠点となるまで、別名『蛇島』と呼ばれるほど沢山の蛇が生息する島で、その信仰の対象は蛇です。」


カミーユの話に誰もが分かりきっていることだという顔をした。


「分かりませぬか?全てではありませぬが、蛇の目は金色をしております。」


『おおっ・・・』と得心の声が上がった。


「ユニオン・ガレア、いえ、ガレア島民にとって蛇は神聖な生き物です。

その蛇の目を持つ少女をはたして人身売買などで汚すでしょうか?

むしろ、ユニオン・ガレアの首班はゴーチエではなくドロテだったのではありますまいか?」


カミーユの仮説に一同は声もなかった。


「10歳にも満たぬ少女が自らの意思で犯罪の首班となるとは思えぬ。」


アデラールが異を唱えた。


「もちろん、その時節は自らの意思ではなく、ユニオン・ガレアに信仰のシンボルとして祭り上げられていただけであろう。なればこそゴーチエを首班としていたのであろう。」


アデラールの疑問にカミーユは続けた。


「ユニオン・ガレアはゴーチエに利用価値が無くなったからゴーチエを殺してドロテを拐ったという事か。」


「おそらくそう言うところでしょう。」


ロドルフの言葉にカミーユは同意した。


「しかし現在もドロテが生きているかは分からぬ、その子孫が居るかも、ユニオン・ガレアとの関係も明らかになった訳ではない。クレストフ、今の話を参考に捜査を進めよ。くれぐれも国民に要らぬ迷惑をかけるでないぞ。」


「はっ、承りました。」


「さて、最近は小麦焼き討ち事件に始まり、あまり建設的な議論が成されておらぬが、一つ私から提案がある。」


「どの様なお話でございましょう?」


「カミーユ、そう構えるな。」


「そう申されましても、陛下の傍若無人さには毎度臣下一同苦労致しますので、身構えざるを得ません。」


「そうか、そうであったな!」


笑い声が収まってからロドルフは続けた。


「教育改革を行う。」


「陛下、またしても話の進め方が傍若無人で御座います。」


「カミーユ、そなたがそうやって傍若無人を繰り返すから私は『傍若無人王』などと呼ばれるのだ。」


「事実ですので致し方ありません。それで教育改革のきっかけと骨子はどの様なものですか?」


「うむ、現在我が国において、教育とは貴族学校における貴族の為のものしかない。

市井においては、私塾しかなく、高額な月謝のため裕福な商人の子息しか学ぶ機会がない。」


「しかし、今後ブランシュが繁栄を続けるためには民力の向上が必須であると思う。

そこで国が国内各地に学校を作る。そこには身分の隔てなく、学びたいものが集える環境を整え、幼児から成人に至るまで等しく教育を受けられるようにしたい。」


「陛下、まさしく傍若無人で御座います。されど、国民に教育の機会をお与えになるのは良い考えです。」


「実はな、ジョスランのもとを訪れた際、ジョスランとヴィクトリーヌ叔母上にその発起人と学長就任を依頼しておる。」


「手回しの良いことで御座いますな。」


「嫌みを言うな、カミーユ。この教育機関設立はアベルに担当してもらおうと思うが如何か?」


意義なし!と皆が了承の声を上げた。


「それから、ブレソールの技術開発についてもこの教育機関の一学部としたい。

もちろん、極秘事項もあるだろうが、そういった部分を除けば情報は共有した方が良いように思うが如何か?」


意義なし!これも皆が了承した。


「ところでブレソール、進捗は如何か?」


「はい陛下。実は少々難儀しております。圧力窯の材質に問題があり、素材開発を検討しなくてはならない状況で御座います。」


ブレソールの新機構は、パワー不足を解消出来ず、解消するためには強固な圧力窯を作る必要があった。しかし、その圧力に耐えうる素材が見当たらず計画は停滞ぎみだった。


「うむ・・・なんとか早く実用化してほしいところなのだが・・・誰か何か良い考えはないか?どの様な事でも良い、きっかけが欲しい。」


ロドルフは、どの様な些細なヒントでも欲しかった。

それだけブレソールの新機構は、今後のブランシュの国力増強に必要だった。


「兄上・・・」


アベルが恐る恐る手を上げた。


「お叱りを覚悟で申し上げます。」


「アベル、前向きな議論ならば叱ることはない。遠慮せず申せ。」


「はい。要するに頑丈な鉄が有れば良いのですよね?素材の開発には長い時間と費用が掛かります。ならば、良い素材を買えれば問題は解決致します。」


「アベル様、ブランシュ国内から様々な素材を取り寄せましたが、どれも条件を満たしませんでした。」


ブレソールが半ば不快げに話した。


「ですから、ブランシュに無ければ国外から取り寄せてみてはどうでしょうか?例えば、ダレツは鉄器に限らず細工物には定評があります。ダレツの技術協力が有ればなんとかなるのではありませんか?」


アベルの話に一同はあり得ないという顔をした。


「アベル様、今でこそダレツは友好的ですが、また何時なんどき手のひらを返すかもしれませぬ。

ましてや新技術をわざわざ教えてやるような事は機密を教えるがごときです。」


第一師団長を勤めるアデラールがあり得ぬ事だと首を振りながら否定した。


「いや、そうとばかりも言えまい。」


ロドルフが天井を見上げ、右手中指でテーブルを小刻みに叩きながら言った。


しばらくそのテーブルを叩く音が室内に響いていた。


「確かにダレツは長い年月我が国の宿敵であった。しかし、レアンドル叔父上のおかげで今ではエーデランドと同等に友好的な国だ。

今後、ブランシュもエーデランドもダレツも領土拡張の侵略戦争を仕掛けるなど現実的ではない。

むしろ、お互いに経済力を高め、富を分けあえば要らぬ戦をしなくてもよくなると思う。

北海条約におけるエーデランドとナルウェラントとの関係が良い例ではないか?

ダレツにおいてもブレソールの新技術がそのきっかけになれば良い・・・いや、ダレツと協同開発でも良い。むしろ積極的に持ちかけた方が良いと思う・・・」


「はたしてダレツは信義を守るでしょうか?」


ブレソールはダレツに対する不信を隠さなかった。


「分からぬ。しかし一つだけ言えることがある。人を信用せぬものが他人から信用されることは無いと言うことだ。

信義を守らぬものは信義を口にするべきではないのだ。」


ロドルフの言葉に、一同は声もなかった。


「陛下、畏まりました。しかしこの事によりブランシュは外交政策を新にせねばなりませぬ。周辺国家との共存共栄、そしてそれらの国々を纏めるリーダーとしての役割が求められます。陛下にそのお覚悟は御座いますか?」


カミーユの言はもっともだった。


ブレソールの技術を軍事転用すれば、これまでの戦争形態を激変させる可能性がある。


いち早くその技術を実用化した国が他国に侵略戦争を仕掛ければ、国家間のパワーバランスが崩壊する恐れもある。


「カミーユ、懸念はもっともだ。しかしな、ブランシュには他国を侵略する意図はない。

ブランシュ建国にあたっては小国や部族を戦争により併呑してきた事実はある。

されど、ブランシュ建国の後は、ブランシュが他国の侵略を防ぐ戦はしても、自ら他国を侵す事はなかった。これは歴史が証明している。

これは今現在は歴史の結果であるが、今後のブランシュの指針とすることで隣国の信用を勝ち得る。その結果私個人ではなく、ブランシュがガイア大陸の盟主となる。そういう事ではいかぬか?」


カミーユは目を閉じロドルフの言葉を聞いていた。


「陛下、お見事です。些か傍若無人な考えも御座いますが、お見事なお考えと存じます。」


一同が賛意を口々に表明した。


「兄上、そのダレツとの交渉は私にお任せいただけませんか?

レアンドル叔父上に助力を請い入念に計画を立ててブレソールと共にダレツの協力を取り付けて参ります。」


「言い出したのはアベルだ、一任しよう。ただし、名目上交渉責任者はレアンドル叔父上とする。アベルはその補佐として実務に従事せよ。良い機会だ、レアンドル叔父上に外交交渉術を叩き込んでもらえ。」


「はい!兄上!しかと承りました!」


頬を上気させてアベルは目を輝かせた。


一週間後、アベルはブレソール他ブレソールの配下の技術者数人と護衛部隊を引き連れてサボワールに旅立った。


アベルの出発に先駆けて、ロドルフはレアンドルに事のなり行きを書状に認めて早馬を走らせた。


と同時に、ヴァレリーとバンジャマンにも書状を送り了承を求めた。


第一章 完

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