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傍若無人王ロドルフ 【ブランシュ王国記2】  作者: 一狼
第1章 小麦事件と新開発
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◇◇◇1-⑫ジョスラン▪ファルギエール◇◇◇

翌日、ロドルフはヴィクトリーヌと共にジョスランの元を訪れた。


ジョスラン・ファルギエール。


バンジャマンの治世からヴァレリーの治世まで執政を勤め、ヴァレリーの治世に於いて政治制度改革を先導し、自ら執政職を退き、国王の統治権と政治制度の透明化、公平化を成し遂げた功労者である。


公職を引退後は、自邸にて貴族、市民を問わず、大人から子供まで幅広く受け入れ教育に取り組んでいた。


後にロドルフの助力もあり幼年学校や専門大学を立ち上げた人物である。


「これはこれは陛下、ヴィクトリーヌ様、ようこそお出でくださいました。」


ジョスランはわざわざ門まで出迎えに出てきていた。


80才を越えているとは思えないくらい、かくしゃくとした立ち居振る舞いであった。


「ジョスラン、元気そうで何よりだ!」


ヴィクトリーヌがジョスランに抱きついた。


「ヴィクトリーヌ様、おかわり無いようで安心致しました。ジュディット様はお元気ですか?」


「元気だ!ますます可愛らしゅうなっておるぞ!」


「陛下もおかわり無いようで。たいしたおもてなしも出来ませぬが、どうぞ御ゆるりとしてくださいまし。」


ジョスランは嬉しそうに二人を屋敷に案内した。


「ジョスラン、王宮を去って大分経つが、今の方が日に焼けて元気そうだな。」


ヴィクトリーヌは、ジョスランの元気な様子を心底喜んだ。


「お陰様でのんびりと余生を送らせていただいております。年を取ると土に親しむ時間が増えまする。トマトやらレタスやら作っておりますが、なかなかに奥が深いものでございますな。トマトなどは肥料を・・・おお、これは大農園主の奥方様には『魚に泳ぎを教える』でしたかな?」


そう言って笑うジョスランは、三賢候を支え続けた大宰相と言うよりは、市井の人望ある長老といった趣であった。


「されど、本日の来訪は世間話のためではありますまい。」


笑みを浮かべたままの顔であったが、その目にはかつての大宰相、執政ジョスランの光が宿っていた。


「さすがじゃの、まだまだ刀は錆びておらぬようじゃ。ロドルフ、あとはそなたからな。」


そう言ってヴィクトリーヌは部屋を出た。


「陛下、この老いぼれに聞きたいのはアルドワン家の事でございましょう?」


「如何にも。老候殿は先般の小麦焼き討ち事件についてはお聞き及びですか?」


「はい、現役を退いた身ながら、何かと報せを持ってくる者が少なからず居りまする。要らぬ報せと知らぬ振りを決め込んでも良いのですが、このような老いぼれでも役に立てばと話だけは聞いておる次第です。」


ヴィクトリーヌが言った通り、まだまだ切れ味鋭い刀が鞘の中で息ずいているような気合いを感じずにはいられなかった。


「単刀直入に聞く。アルドワン家は断絶したと聞いているが、事実か?」


ジョスランは茶を一口含み一呼吸置いた。


「アルドワン家は断絶しております。しかしそれはブランシュ王国貴族としての家名が断絶したということです。」


ジョスランは含みを持たせた言い方をした。


「貴族としての家名?」


「はい、あくまでも貴族としての家名です。」


「つまりアルドワンの一族は存在していると?」


ジョスランは立ちあがり、窓の外を眺めた。


外の景色ではなく、遠い過去を見るように。


「陛下、私はバンジャマン様よりゴーチエ・アルドワンの後任となるよう命じられました。ファルギエール家は、執政をゴーチエに譲ってから、ゴーチエの策謀によって孤立化していきました。決まっていた妹の結婚が破談になり、縁者にまであらゆる不利益、理不尽な仕打ちが続き、我が父は心労で世を去りました・・・」


ジョスランの述懐は、傷口に塩を刷り込むような痛みを感じずにはいられなかった。


「そのような苦労が有ったのか・・・」


「しかしゴーチエはやり過ぎました。権力、財を求め、あらゆる手段で政敵を屠り、その結果自らを焼き尽くす事となったのです。」


ロドルフは、改めて祖父バンジャマン、叔父レアンドル、父親ヴァレリーの苦労、そしてその三人に仕えたジョスランの偉大さに尊崇の念を禁じ得なかった。


「ジョスランが執政に就いた時、まだゴーチエは存命だったのだな?」


「はい、バンジャマン様はゴーチエの闇の正体を探るよう私に命ぜられました。しかし、病に伏したゴーチエからは何も聞き出せませんでした。されど、ただ一つゴーチエの死後判明した事実がありまする。」


「それは?」


「ロジリアとの繋がりでございます。」


「!」


「ゴーチエの死は、アルドワン家の馬番によって知らされました。憲兵を送り、再度の捜査を行ったところ、家具の隙間に落ちていた密書が見つかりました。おそらく蟄居を命じられた際慌てて処分した密書の一枚が取り残されたのでしょう。」


ロドルフは喉の乾きを覚えた。


「どのような密書なのだ?」


「ロジリアからのものでございます。」


ロドルフは王宮にロジリアの手が延びていたことに愕然とした。


「密書はブランシュのロジリア対策を報告するよう求めたものの一部でしたが、それ以上の事は文面からは確認できておりませぬ。」


「しかしそれではゴーチエがユニオン・ガレアと繋がっていたことは分からぬな。」


ロジリアとゴーチエの、ユニオン・ガレアとの繋がりんを明確に示すものは得られなかった。

ロドルフは振り出しに戻ったような感覚に失望を禁じ得なかった。


「それがそうでもありませぬ。」


「どういう事だ?」


「はい、実はゴーチエが死去した報せと同時にもう一つの報告がもたらされましてな。」


「・・・」


「ゴーチエの死去した朝、報告をもたらした馬番以外の使用人十数名全てが行方をくらませてしまったというのです。」


ロドルフは少しの間考えた。


「老候殿、それは馬番一人を除き全ての使用人がユニオン・ガレアに連なる者だったと言いたいのか?」


有り得ぬとは言い難かった。


しかし、ユニオン・ガレアの者ではなく、ロジリアの者であった可能性も否定できない。

そう言うロドルフにジョスランは明確に言い切った。


「ロジリアの者であれば、ゴーチエを殺さず逃げれば良いだけのはずです。

ましてや、念入りに十数名もの間諜を同じ場所に置くのは危険きわまりない。

むしろ、ユニオン・ガレアの者がゴーチエを首領と立てて利用し暗躍する事を選択していたのではないかと推察致します。」


つまり、ゴーチエを軸に、ロジリアとユニオン・ガレアとが間接的に繋がり、ブランシュ王国に於いて暗躍していたという構図になるのだと推測出来るわけである。


ロジリアとユニオン・ガレアが直接的な繋がりがないからこそ、ユニオン・ガレアはゴーチエの失脚を機に証拠隠滅のためにゴーチエを殺害したと思われる。


尚且つ当時のロジリアは、内紛が続き、とてもブランシュへ陰謀を巡らせる余裕はなかったはずであった。


「であれば今回の事件と当時のユニオン・ガレアとの繋がりは途切れたわけか・・・しかし、ゴーチエの娘、ドロテといったか?この者の消息は分からぬのか?」


「陛下、残念ながらその娘の消息は知れませぬ。公式には使用人として屋敷に居ったユニオン・ガレアに連れ去られてしまったのだろうと結論づけられております。人身売買も行われていたようですから、売られてしまったのだろうと・・・」


「それは娘にとっては気の毒な事であったな・・・」


「もし、娘が生きておれば一つだけ手掛かりがございます。」


「それは?」


「ドロテは大変美しい娘でありましたが、大きな特長がございました。ヘテロクロミア、つまり左右の目の色が違うのです。右はブルー、左は金色の目をしておりました。」


ゴーチエの死によってユニオン・ガレアの手掛かりは途絶えた。


ゴーチエの娘ドロテの生死も不明。


新しい事実はドロテがヘテロクロミアだという事だけだった。


「ドロテが生きていれば、もしくはドロテに子があればアルドワン家は断絶したとは言えぬという事だな。」


「左様でございます。」


「ドロテがユニオン・ガレアの手の者になったという可能性も否定できないと言うことか・・・」


「父親を無法に殺されたと思っていれば、それもあり得る事かと・・・」


ロドルフはこれ以上詳細を得るのは不可能だと判断した。


ユニオン・ガレアは、まだ存続している。そう考えて対策を立てるのが現実的に思われた。


「ジョスラン、手間をとらせたな。なあジョスラン。」


「はい陛下。」


「ときどきで良い、城へ出て私を含め若いものを指導してほしい。さすが三賢候に仕えた大宰相、その見識を眠らせておくのは惜しい。」


「・・・ならば陛下、一つご提案ごございます。」


「何だ?」


「現在私のもとには市民貴族の隔てなく学びに来るものが少なくありません。

如何でしょう?何処かに市民貴族の身分を越えて共にブランシュのために学ぶ為の学舎をお貸しいただけませぬか?そうなれば、王宮に働く者たちにもお出でいただけることと思いまする。」


「それは良い!分かった早速適する場所を探させよう。」


ジョスランの屋敷からの帰り道、ロドルフはヴィクトリーヌにジョスランとの話のあらましを伝えた。そして、ヴィクトリーヌにジョスランが提唱する学舎の学長就任を要請した。


「もちろん、ジョスランにも参画してもらいますが、姉上様には代表をお勤め願いたいのです。」


「葡萄畑の仕事があるから無理じゃな。」


「そこをなんとか?」


「無理じゃ!」


「お・・・お姉ちゃん・・・」


「・・・」


「お姉ちゃん!」


「仕方ないのぉ。」


ヴィクトリーヌはにやけ顔を浮かべながら了承した。

いや、させられた。


後にヴィクトリーヌは、ジョスランと共に幼児教育の学舎も立ち上げることとなる。

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