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傍若無人王ロドルフ 【ブランシュ王国記2】  作者: 一狼
第1章 小麦事件と新開発
12/27

◇◇◇1-⑧角笛亭◇◇◇

墓参を翌日に控え、その晩の晩餐は賑やかなものになった。


晩餐を終え、皆が部屋へ戻るとロドルフの執務室にヴァレリーとレアンドルがやって来た。


「ロドルフ、出掛けるぞ!」


ヴァレリーがロドルフを促した。


「父上、明日は朝から忙しいですよ、叔父上までご一緒とは・・・」


そう言いながらロドルフはそそくさと支度を始めた。

王宮を出たところでロドルフ達は呼び止められた。


「陛下、何処へお出でですか?」


「セレスティーヌ!」

「シルベーヌ!」

「クリストフ!」


それぞれの腹心が待ち構えていた。


「レアンドル閣下、抜け駆けはよろしくありませんな。」


「クリストフ殿、お止めになるのでは?」


「いや、その、閣下抜け駆けではなく『抜け出し』は良くありませんぞ!」


シルベーヌの突っ込みにクリストフはしどろもどろである。


「わかったわかった!」


ヴァレリーは笑いながら続けた。


「シルベーヌ、久々に角笛亭の仔羊が食べたくはないか?供をせよ。」


「・・~致し方ありませんね。参りましょうか。」


6人は、振り返り王宮を見てから一目散に城下目掛けて走り去った。


◆◇◆◇◆


「晩餐であんなに食べたのに、太ってしまうではないか・・・」


誰に話すでもなくセレスティーヌが仔羊を頬張りながら呟いた。


「ますます嫁の貰い手が無くなるな。」


ロドルフの言葉に対する返事は頬を掠めたナイフだった。


「す・・・すまぬ・・・」


「ロドルフ、威厳もなにもあったもんじゃないな。」


爆笑するレアンドルとヴァレリーをセレスティーヌとシルベーヌは睨み付けた。


「いかがですか?旦那方。久しぶりの当店自慢の仔羊は?」


店主のアントニオがヴァンルージュを注ぎながら自らも椅子のひとつに腰掛けた。


注ぎきれなかったヴァンをらっぱ飲みにしながらアントニオはセレスティーヌにすり寄った。


「セレスティーヌ殿ぉ、相変わらずお美しい、今ワシは独り身なのだが、どうだ、角笛亭の女将になってみる気はないか?」


「アントニオ殿。お年を考えられよ。娘ごと私は同じ歳ぞ。」


「何を言う!娘と同じ歳であろうとセレスティーヌ殿はわしの娘ではない。何も問題ないではないか。毎日仔羊を食わせてやるぞ!」


そう言って豪快に笑うアントニオにセレスティーヌは苦笑するしかなかったが、後年、セレスティーヌは本当にアントニオに嫁ぐ事となる。


誰もが言葉を失い、誰もがアントニオを目の敵にすることとなる。そして角笛亭は益々繁盛したとかしないとか・・・


「しかしロドルフ、ブレソールの発明は画期的だな。お前の運河計画もなかなかだ。」


ヴァレリーが懐から地図を出して拡げた。


「実際に運河は輸送の手段としてだけではなく、戦略上軍事防衛の手段としても有効だ。経済上の有効性と軍事上の有効性とは相反する所があるが、ここを如何様に整合させるかは難しいぞ。」


ヴァレリーが地図上を示しながら問題提起したが、本人は至って乗り気であった。


「ロドルフ、いっそのこと運河は軍事施設に特化して、輸送手段はブレソールの開発に頼ってみてはどうだ?」


レアンドルが地図を指でなぞりながら呟いた。


「しかし、やはり大量輸送には船が良いと思うのですが?」


「そうだな・・・」


「ひとつよろしいですか?」


シルベーヌが遠慮がちに小さく手を挙げた。

「シルベーヌ何か妙案でもあるか?」


ヴァレリーがシルベーヌを促した。


「いえ、素人考えだと思うのですが・・・」


「言ってみなさい。」


「はい。皆様ご存じのように、プーリーには山岳地域があり、そこには鉱山もあります。その鉱山では、坑道の奥深くから鉱物を運搬するのに荷車を使うのですが、その荷車の道に鉄の棒を敷き、その上を滑らせるように荷車を運びます。その方法が利用できないものかと・・・」


「それだ!」


ロドルフが立ち上がって叫んだ。


「今ある街道とは別に真っ直ぐ最短距離で鉄の道を作る!そうすれば街道の荒れ具合や高低差など問題にならない!」


興奮して捲し立てるロドルフをヴァレリーが制した。


「まてまて、そうは言っても途中には川も谷もある。山もあれば真っ直ぐという訳にも行くまい。」


ヴァレリーの言うことももっともだった。


「父上、細かいことは後で考えましょう。まずはその技術が実現可能か否かです。それが叶うなら軍事のみならず、経済効果も計り知れないものになります。」


ロドルフは、地図を指し示し、王都からリノ、プーリー、サボワールと三本の線を引き、更にブランシュの要衝を結ぶ線を引いた。


「これまで人力や牛馬に頼ってきた移動が機械によって可能になるなら流通革命が起きます。社会システムが一変するでしょう。」


「人が動けば物が動く。物が動けば金が動くか・・・」


レアンドルが呟いた。


「プーリーにしてもサボワールにしても、軍事的要衝の色が濃いが、それぞれ地域に適した産業を持っている。リノなどはその典型であろう。それが自由に取引できるようになればその取引高は如何程になるか皆目見当がつかぬな・・・」


ヴァレリーが繁々と地図を見ながら呟いた。


「父上、叔父上、これは何としてもやり遂げたい事案です。ご協力をお願いします。一度一緒にブレソールから話を聞きましょう。」


「そうだな。少なくともこれが実現すれば、唯一友好関係にない隣国ロジリアに対して大きなアドバンテージとなろう。」


「明日にでも協議を開始しましょう。そうだ、オーレリアン叔父上のご意見も伺いたい、使者を遣わせます。」


オーレリアンは、バンジャマンの三男である。

バンジャマンがリノに赴く際同行していた。

南方平定にあたり、若くして武功を重ねた勇将である。


バンジャマンが現役を引退して、南方総督を引き継いでいた。


今回の墓参に当たっては、バンジャマンが王都に上るためリノに留まっていた。


軍略に精通し、レアンドル、ヴァレリー、オーレリアンの三兄弟の中でも、最も優れた軍略を持つと言われていた。


反面、料理を良くし、シェフ将軍の渾名をもっている。


「そうだな、私も久しぶりに会いたいものだ。」


ヴァレリーが同意した。


その後、新交通について、部下を交えて語り合い、夜は更けていった。

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