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【書籍化・コミカライズ】異世界でレシピ本を作ろうと思います!  作者: 櫻井みこと
本編

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18/50

知らない世界・14

 夜中、マリアが寝ている間に仲間を引き入れて家中を漁り、金品を奪って逃げようとしていたところを、町を巡回していたアドリアンが見つけた。

「恥ずかしい話だけど、私はすっかり寝入っていてね。全然気が付かなかったんだよ」

「気付かないほうがよかったです。もし遭遇していたら、危害を加えられていたかもしれません」

 命よりも大切なものなんてない。思わずそう言うと、マリアも頷いた。

「アドリアン様もそう言ってくれたよ。それでも、私が助かったのはアドリアン様のお陰だ」

 それから以前にも増して、様子を見に来てくれるらしい。きっと、マリアがあまりにも人が良いので心配になったのだと、琴子は思う。

(そんなことがあったのなら、わたしが疑われても仕方がないというか、彼があんなことを言ったのも納得かなぁ)

 むしろ、よくあの程度で引き下がってくれたと思う。

「それが、アドリアン様は姉が亡くなったからも代わりの人を雇わず、きちんと食事もなさっていない様子でね……」

彼は忙しくて、頻繁に食事をすることを忘れてしまっていた。

そんな人を見て、マリアが放っておけるはずがない。いつしか、彼が見回りに来てくれる日は、ここで食事をしていくことが習慣になったのだと、マリアは語ってくれた。

「こんな食堂で召し上がっていただくのは失礼かとも思ったんだけどね。でも……」

「すごく、わかります。食事をしない人や、栄養バランスが悪い人を見ると、どうしても放っておけないんですよね」

 琴子は思わずマリアに同意していた。

 騎士であるアドリアンが無防備なマリアを気にしているように、自分達のような人生の大半を料理に費やしているような人間は、食事を疎かにする人を放置できないのだ。

「もしかして、琴子もそうかい?」

「はい。よく勝手に差し入れとかしていました」

 ふたりは思わず頷き合う。

 やはりマリアとは、よく似ているのかもしれない。

「でもパンとスープだけだから、夜食かと思っていました。違うんですね」

「そうだね。だから本当はもっと栄養のあるものを食べてほしいんだけど……。無理に勧めることもできないからね」

 相手は同僚や顔見知りの人ではないから、それは仕方がないことか。

 それから後片付けも終わり、マリアも部屋に戻った。だが琴子は、もう一度戸締りを確認してから、二階の自室に戻ることにした。この町に窃盗団がいたなんて聞いたら、やっぱり怖い。

(でも騎士様が巡回している店に、押し入る強盗はいないかな。そのために、夜遅くまで町を回っているんだろうな……)

騎士の中でも身分が高そうなのに、こうして個人の店まで巡回しているなんてすごいと思う。きっと町に住む人々も安心するに違いない。

(ああ、それにしても。本物の騎士様に会っちゃったなぁ……)

 部屋に戻り、着替えをしながら先ほどのことを思い出す。

 ぞくりとするほど整った顔立ちに、鮮やかな青の騎士服。そして誤解が解けたあとに見せてくれた極上の笑顔。思い出すだけで、胸が高鳴る。

(異世界のイケメンは何というか、迫力満点ね。うん、いいもの見た!)

 琴子も年頃の女性である。喫茶店で働いていた同い年の里衣はもう結婚すると言っていたが、琴子の興味のすべては、料理に向けられている。だからイケメンは、テレビ画面などで鑑賞するものという認識だった。

(ナマで芸能人に遭遇した人って、きっとこんな感じなんだろうな)

 明日の朝も早く起きて、この町に滞在する許可をもらわなくてはならない。早く寝てしまおうと、ベッドに潜り込んだ。

 その騎士と、明日も遭遇するとは思わずに。


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