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063 フレイ神父とヘルコス伯爵

 包囲網を完成させた帝国軍が前線を上げ始め、超機体を操る春日十士が先駆けてAI部隊を突破しようとしていた。


【ジョーカー】「伯爵、無人機をオート(自動操縦)にした方がいい、春日相手に意識を分散させるマルチパイロット(複数操縦)は厳しい」


【ヘルコス】「はいよ、こっからは軍略よりも機体や操者のフィジカル勝負だねぇ」


【ジョーカー】「もうエボニーは居ない春日だが、ネガティブな見積をするとこっち側の一体はここで脱落すると考えてる」


【ヘルコス】「ハハハッ!誰だよ」


【ジョーカー】「…………」


【ヘルコス】「……えっ!?」


【ジョーカー】「バンダースナッチがある(コロニー)側の部隊は二機、こっち(前線)側は一機突破されたな……春日の超機体、神父でも二機相手はキツそうだから援護に向かう」


【ヘルコス】「つまりはこっちの一機は自分が相手するのか、G・Sでの戦いは苦手なのになぁ」


【ジョーカー】「俺がシミュレーション(模擬戦)で多少は鍛えたんだからさ、まぁ頑張ってくれ軍師様……じゃあな」


 淡々と言い放ったジョーカーは金の羽を使って異次元へと消えて行った。


【ヘルコス】「所詮自分も駒って事かぁ、ハッハッハ!上等上等……()()()()を討つとしよう」


 レーダーを確認したヘルコスは早速前線に起きた異常を察知する。


(デコイが広範囲に渡って消え始めている?だが、高エネルギー反応が見られない事から直接的なダメージによる物では無いし、無人機の方はまだ健在……)


(デコイ消失部隊にいる無人機を再びリモート(遠隔操作)に切り替えて確認を取る)


 しかし、無人機は既に()()()()が操縦権を奪っていた。


(別な超兵器による"上書き干渉"か、一キロ範囲のデコイ消失と無人機鹵獲……これが出来るのは超機体"アウズン"が持つ"ムレータルス"だけだな)


 ヘルコスが乗るバーゲストの視野カメラが高速で接近する"手足が分離した"異様な機体を捉える。


(あれがアウズンか、手足と頭部を分離させたまま遠隔操作出来る特性があるんだったな)


 ヘルコスはドッペルカーニバルでバーゲストのデコイを数十体作り出し、隠れ潜む。


 すると、アウズンから音声通信信号が発せられたがヘルコスは無視した。


(あれのパイロットはたしか春日の"ガウナン"って奴、通信による逆探知で位置を探ろうとしてるな、その手には乗らないよぉ)


【ガウナン】「おい、バレてるぞこの野郎!コソコソ隠れやがって!!」


(はいはい嘘ばっか)


 しかし、アウズンは右手に持ったライフルを()()のバーゲストに向けて正確に狙いを定め、射撃を始める。


【ヘルコス】「なんでバレてるんだよ!?」


 慌てて回避行動を始めるヘルコス、アウズンは射撃を続けながら左手に持った投網状の超兵器"ムレータルス"をカウボーイの様に振り回し始めた。


【ガウナン】「傀儡化した無人機に無線を飛ばしたろ?逆探知して特定したんだよ!諦めて堂々と勝負しやがれ!」


【ヘルコス】「迂闊(うかつ)だったなぁ……まぁ自分は元々G・S乗りじゃないし多少のミスは仕方ないよねぇ、だからこそ堂々と戦う矜持(きょうじ)なんて無いから逃げるけど――」


 バーゲストはアウズンに背を向け、全速力(フルスロットル)で逃走を始める。


【ガウナン】「ちっ!根性の無い野郎だ……だが俺のアウズンから逃げられるか?そいつ(バーゲスト)は見た所サポート型だろ」


 ガウナンの言う通りバーゲストは後衛からデコイを発生させ部隊をサポートするのに特化したG・S、一方アウズンは単独斬獲(ざんかく)に優れたG・Sである。


 機動力でもパイロット技能でも上なアウズンから逃げ切れる事は不可能であった。


 アウズンのミサイルの様に飛ばされた左腕はバーゲストを追い抜かし、ムレータルス放り投げる。


【ヘルコス】「おわっ!?」


 ムレータルスは漁網(ぎょもう)の様に大きく広がり、バーゲストはさながら追い立てられた魚の如く退路を阻まれた。


【ガウナン】「さぁもう逃げ場は無ぇぜ!捕まるかスクラップになるか選びな!」


【ヘルコス】「ムレータルス、発動すれば機体は強制的に行動不能にされ、尚且つ傀儡化出来る能力……鹵獲系なら最強の超兵器だねぇ」


【ガウナン】「機能差を理由に泣き言か?情けねぇなオイ」


【ヘルコス】「強力な分"発動条件"も厳しいと読んでる、実際まだバーゲストは操作可能だしね」


【ヘルコス】「恐らく時間が掛かるチャージ式か網を完全に囲いきるのが条件、自分は後者と見てるよ、だって分離した両手で網の端持ってせっせと弧を描いてんだもん」


【ガウナン】「それがどうした!?条件が正解だとしてお前に出来る選択は変わらねぇぜ」


 ヘルコスは網に穴を開けて脱出する事を考えたが、その可能性を予測できるであろうガウナンが網を閉じる行動を優先している所から、網の切断は困難か不可能な作りをしていると判断して選択肢から外す。


【ヘルコス】「超兵器って物によっては変な条件(ルール)が設定されてるのがあるよねぇ、それが理にかなった事なのかお遊びで入れてるのかはキャロルじゃなきゃ解らないけどさ……」


 バーゲストは振り返り、遠くに見えるアウズンに身体を真っ直ぐ向けた。


【ヘルコス】「既に網は閉じかけてる、開いている場所はアウズン付近のみで交戦は不可避――」


【ヘルコス】「相手は天下に名の知れた春日、付け焼刃の操縦技術しかない自分では敗戦濃厚だが、アウズンは両手が()()()()だねぇ」


【ガウナン】「ふっ……たしかにお前は素人だな、手が無いなら俺に勝てると思ってるのだろうが――」


 アウズンの両脚が肩の部位へと移動し、(かかと)の溝からアームが出現してライフルや剣を持った。


【ガウナン】「失った手の替わりに脚部を手として換装出来るG・Sなんぞ山ほどある、そんな事も知らねぇとはなぁ!」


【ヘルコス】「それでも可能性がある方に賭けるよ、さぁ()()をしようじゃないか、春日十士!」


 バーゲストは装備されたライフルやビームガンなどの長距離兵器を全て外し、オリハルコンのブレード()を握りしめると、アウズンに向かって進み始める。


【ガウナン】「やってやろうじゃねぇか!大婆様の遺志を継ぐのは俺だ!!」


 アウズンもライフルを放り投げ、剣を持って構えた。


 一見してヘルコスが正々堂々と戦いを挑んだ形だが実際は違う。


 帝国に"決闘の文化"がある事を知っていたヘルコスは行動と言葉によってガウナンのプライドを刺激し"同調行動"を誘発させて遠距離武器を縛らせた。


 目的は剣での決闘などでは無く、()()()()まで安全に近づく事――


 バーゲストはアウズンまでおよそ二百メートルの距離まで近づくと急停止をし、持ったブレードを無造作に放る。


【ガウナン】「あっ!?」


【ヘルコス】「ほんと超兵器って変なルールがあるよねぇ……()()はある事を言わなきゃ使えないんだもん」


【ガウナン】「何余裕かましてんだ、あと数秒で網は閉じるぞ!」


 腰の左側に装備された筒の様な物を右手で握りしめたバーゲスト、ガウナンは何らかの超兵器だと察したが……。


【ヘルコス】「イチゴイチエの……」


 己よりも技術も経験も遥かに浅く、ムレータルスの条件達成寸前というアドバンテージ(優位性)による油断。


 そして決闘という規範意識が初めて相対する超兵器への対応を"(どう)"よりも"(けん)"を優先させてしまった事がガウナンの()()である。


【ヘルコス】「壱の太刀――」


 イチゴイチエによる空間断絶によってアウズンのボディが真っ二つに削り裂かれた。


【ヘルコス】「負けたら美学も死因になる、そんな物は犬にでも食わせるべきなのさ――」


――――――――――――――――――――――――――――――――


 超機体アウズン 【破壊】 春日十士 ガウナン 【死亡】


――――――――――――――――――――――――――――――――


【ヘルコス】「超兵器イチゴイチエ、別な機体(カメリア)(つい)な武器だからオートロックと高速抜刀が本来備わってたらしいが、防御不可で透明な斬撃……かなり使えるじゃないの」


 ガウナンを倒したヘルコスは消された分のデコイを作り直し、再び前線の指揮へと戻って行くのであった。



 時は数分前に戻る――


 ジャックが倒され、惑星軍が撤退を始めた時刻。


 バンダースナッチが格納されているコロニー付近で待機していたフレイが、高速で接近する二機のG・Sを捉えた。


 春日が乗る超機体"ハヌマーン"と"アレオーン"である。


 フレイは先行したアレオーンを足止めしようとグリンブルスティ(自機)を操作して接近を試みるが、ハヌマーンが目の前に立ち塞がった。


【フレイ】「ハヌマーン、データでは操者は"エイブ"という名であったな……」


【エイブ】「おっと行かせねぇよ、豚ヅラのG・Sくん」


 無視してアレオーンを追おうとしたが、コロニー付近で漂っていたゴルドレイヴンの羽が光るのを見てジョーカーが戻ると判断し、このままエイブを相手にする事を決める。


 超兵器グリンブルスティ、ゴルドレイヴンよりも大きめだが銃器や近接武器などは一切持っていない。


 猪の様な牙の生えた禍々しい頭部をしており、G・Sには不要なはずの開閉可能な"口"が付いている。


【エイブ】「無能テレラ軍の尻ぬぐいとか腑に落ち無いけど、まぁ仕事だしさぁ……だるいし帰りたいからさっさと落ちろ!」


 ハヌマーンはグリンブルスティの胴に目掛けて、超兵器如意棍(にょいこん)を振り抜いた。


【エイブ】「うっ!?」


 如意棍(にょいこん)はあっさりと、祈る様に添えられた右手で防がれる。


【エイブ】「硬っ!近接特化のタンク(重装甲)型かよ、面倒くさ」


 そう言ったエイブであったが、機体よりもフレイの操作技術に警戒を向ける。


 いくら重装甲であっても如意棍での殴打を片手で受けて無傷、棍先の加速位置を読み、衝撃を受流す(すべ)がある……これが出来るのはエボニーしか思い浮かば無いからだ。


【エイブ】「はぁダルい……逃げちまおうかなぁ……どうしよっかねぇ」


 気の無い事を言うエイブだが、広範囲に展開していた超兵器筋斗粉塵(きんとふんじん)をフレイに気づかれない様にグリンブルスティの後方へと集めていた。


【エイブ】「うーん……やっぱ倒すか!()()()使()()()()奴なら余裕だろ!」


 圧縮した筋斗粉塵を一気にグリンブルスティの両腕に絡ませ"手枷(てかせ)"にすると同時に、ハヌマーンはボディ目掛け、如意棍での渾身の突きを放つ。


【エイブ】「そいつのパワーでも数秒は動かせねぇよ!地獄に行ってお掃除ロボでもやっとけ!」


【フレイ】「……結果はラプラスが示す福音によって見えていた、その攻撃が()()に終わる事も――」


 グリンブルスティは上体を反らすと、突かれた根先に向かって()()を振り抜いた。


 あの状態で苦し紛れに頭部でガードをする試みは不自然では無い。


 だが相手を破壊する目的で作られた兵器とそうでは無い頭部との接触、両手で完全に固定され機体推力が乗せられた根での一撃は()()()()()()頭部を破壊し、そのまま胴体まで貫通出来る威力があるが――


【エイブ】「なっ!?……嘘だろ」


 驚愕するエイブが見た物は、グリンブルスティの強靭な(あご)によって砕かれた如意棍であった。


 人間の様にボリボリと咀嚼(そしゃく)をして棍先を飲み込むと、今度は両手に(まと)わり付いていた筋斗粉塵まで(すす)り始めた。


【エイブ】「きもっ!なんだよその口……しかも食われた筋斗は操作(通信)出来無ぇじゃん!」


【フレイ】「……先ほど"地獄"に行けと言ったな?それは間違いだ」


【エイブ】「は?」


【フレイ】「この世界、今生こそが地獄、死という浄化によって初めて混在から人へと昇華される――」


 グリンブルスティはハヌマーンに向けて両手を真っ直ぐと伸ばす。


 グリンブルスティの両手の平には銃口の様な底が見えない穴が開いていた。


【フレイ】「浄化の炎をもたらせ、超兵器"インフェルノ"」


 両手の穴からオレンジ色の強い光がエヌマーンに向かって立ち籠める。


【エイブ】「空気の無い宇宙で炎!?ありえねぇ……だが熱は効かざるだ!筋斗、俺を守れ!」


 残った筋斗粉塵を集めて自らを覆ったハヌマーン、しかし纏わり付いた光は延焼の様に広がり、粉塵を消滅させて行った。


【エイブ】「な、なんで!?ビームキャノンも防ぐ筋斗が……うわっ!?」


 粉塵を消滅させた光はハヌマーン本体にも纏わり付くが、機体には何も異常は起きない。


【エイブ】「あ、あれ?……燃えない」


【フレイ】「()()()()()()では無いのか――」


 グリンブルスティは一気に加速し、()をかき分けてハヌマーンに接近する。


【エイブ】「く、来んなっ!!」


 エイブは得体の知れない超兵器とフレイの雰囲気に畏怖し、突進して来たグリンブルスティの顔面へ不用意に殴りつけた。


 ハヌマーンの右ストレートを避けもせずに顔面で受けたグリンブルスティは微動だにせず、そのままハヌマーンの右手をボリボリと食らい始める。


【エイブ】「顎だけで……パワーやばっ!!」


 エイブはハヌマーンの右腕をパージ(分離)し、撤退を視野に入れた防御態勢で警戒をするが、グリンブルスティは(きびす)を返して背を向けた。


【エイブ】「へ?」


【フレイ】「……既に業火は(とも)された」


 唖然とするエイブだが、コクピット内に機体異常を知らせる警告音が鳴り響く。


 エイブが自機の確認をすると、右脚が激しく()()ていた。


【エイブ】「な、なんで!?さっきは()()なかったのに!?」


 慌てて右脚をパージするが"炎"は全身へと延焼し、火達磨(ひだるま)となったハヌマーンは徐々に崩壊を始める。


【エイブ】「くそっ!消えろ!う、うわあああああぁぁぁぁぁ――――」


――――――――――――――――――――――――――――――――


 超機体ハヌマーン 【消滅】 


――――――――――――――――――――――――――――――――


【フレイ】「業火に焼かれて初めて煉獄に至る、死しても役を与えられるのであれば、私は罪を喰らう羅刹(らせつ)にもなろう」


 コロニー近くの定位置へと戻ったグリンブルスティ、淡々と敵を倒すその強さと風貌は"鬼"と呼ぶに相応しい存在を示した。



 数分前――


 ハヌマーンと共にコロニーへと向かっていたグラーネが乗る超機体アレオーン。


 唯一防衛機を突破し、目標であるコロニーへの攻撃を開始しようとしたが進路上に突如大きな光と共に一機のG・Sが現れた。


 敵の超機体だと瞬時に察したグラーネはアレオーンが持つステルス機能を駆使し、コロニー破壊を優先する動きを見せるが……。


『見えているぞ!春日十士グラーネ』


【グラーネ】「っ!?」


 ゴルドレイヴンは銃口をアレオーンに向けながら音声通信を飛ばした。


【グラーネ】「電子の福音か……」


『どうして言い切れる、探知特化型かも知れないだろ?』


【グラーネ】「強いて言うなら"雰囲気"、大婆様(エボニー)や虹の剣アイリスと同じものを貴公から感じる」


『なるほど、それを感じ取れるあんたもそれなりって事だわな』


【グラーネ】「我が辿り着けない境地、一体どうやって身に付けたのだ?」


『どうだろうな……狙って覚醒出来るもんじゃない、俺は電子の福音と呼ばれる特性(スキル)は"才能"でもあり"障害"でもあると思っている』


『GSで戦う事が出来る者では無く、GSで戦う事()()()()者に宿る機械の鼓動や呼吸を見せる加護でもあり、戦の螺旋(らせん)へと導く呪いでもあるんだ』


【グラーネ】「春日である我も戦う事しか無い側の人間だと思うのだが、螺旋……勝利が足りて無いのか」


『そんなに欲しいのか?……まぁあんたには無理だろうな』


【グラーネ】「何故(なにゆえ)?」


『ここで螺旋から降りて逃げるか、俺に倒されるしか無いからだ』


【グラーネ】「春日は降りない、例え死地へと向かう崖だとしても登るしか無いのだ――」


 アレオーンは両手に持った槍を構え、ゴルドレイヴンと対峙する事を示す。


『両手槍、右手がバイコの槍で左手がメートルランス(※012話参照)か……データとは違うな、スタイルを変えた?』


【グラーネ】「左様、虹の剣に敗れてからな」


『なるほど……良い判断だよ、釘付けや崩し(体勢崩し)が出来るメートルをサブとして持つのは』


『あっ!そうだ、一つ聞いていいか?』


【グラーネ】「何ぞ?」


『春日の"メリー"は来てないみたいだが、参加してないのか?戦略どうこうで聞いてる分けじゃないから答えなくてもいいけど』


【グラーネ】「……国内の暴動鎮圧を担当している、全てをここに()けない」


『へぇー、それなら伯爵の生存率は上がりそうだ……』


【グラーネ】「もう聞く事は無いか?」


『あぁ、すまんな……ほんじゃ、やりますか』


 ゴルドレイヴンは両手に持った小銃を腰にしまうと、指を開いた状態で両腕を前に突き出だし、空手にある"前羽の構え"の様な体勢をとった。


『これは決して舐めプ(手心)じゃ無い、来い!』


【グラーネ】「いざ参る!!!!」


 アレオーンは両手の槍を構え、最大加速(フルスロットル)で一気に距離を詰める。


 超高速でグングン迫って来るアレオーンに対し不動のレイヴン、衝突する様な勢いであったが寸前でアレオーンは急停止をし、左手に持ったメートルランスを前に突き出すと(つば)に仕込まれた散弾を放った。


 近距離で放たれた散弾は機体を大きく動かさないと不可避であったが、レイヴンは身体を捻る事すらしない。


 機体への直撃弾は三発、その三発の飛んで来る弾丸を弧を描く軌道で撫でる様に左手で()()()()()


 人間では出来ない指を関節ごとに回転させる事によって弾丸が持つ衝撃を逃がしながら、片腕だけで弾丸を()()()()という妙技をジョーカーは行った。


 離れ業を成功させた者と間近で見せつけられた者、その行動に対しお互いに残心は無い。


 グラーネは本命である右での突き、察知していたジョーカーはその対応のみに全神経を巡らせていた。


 ここから決着まで僅か0.3秒――


 メートルランスによる攻撃は行動を鈍らせる為の"ジャブ"、散弾を放ったと同時に再び急加速をしたアレオーン、呼吸を合わせる様にレイヴンも最大加速(フルスロットル)で前に出る。


 ボディ目掛けバイコの槍による渾身の突きが放たれ、レイヴンは槍先が触れるギリギリの所で半身を捻って躱す。


 その動きは羽毛が舞う様に軽くしなやかであった。


 槍を回避すると同時にアレオーンの懐に飛び込む様に距離を詰めたレイヴンは、突く為に真っ直ぐ伸ばされたアレオーンの右手、小指から手首の間にある小指球(しょうしきゅう)の部位を掴んで180度捻る。


 手首がグルりと返されバイコの槍は持ち主であるアレオーンのボディに槍先が向き、レイヴンは左の掌底を槍底に叩きつけた。


gg(グット・ゲーム)


 ジョーカーの言葉はグラーネには届かない、動かなくなったアレオーンのボディには打ち付けられたバイコの槍が貫通しているのであった。


――――――――――――――――――――――――――――――――


 超機体アレオーン 【行動不能】 春日十士 グラーネ 【死亡】


――――――――――――――――――――――――――――――――


『指の塗料が少し剥がれた、予想より強かったよグラーネ』


『同じ道で同じ強さを求めた人間は嫌いじゃない、だからこそ全力で応えた……進むだけで戻れない一方通行が途切れただけだ――』


 淡々と手向けの言葉を放つジョーカーであったが、"理解者"を倒さなければならない宿命にどこか(わび)しさも含んでいる。


 一滴の惑いを拭う様にジョーカーは戦況確認へと意識を向けた。


『おーい伯爵生きてるか?そっち側の状況を教えてくれ』


【ヘルコス】「やばかったけどなんとか生きてるよ、帝国軍は春日が全滅してから進軍を止めて遠戦けん制するだけになったよ」


【ヘルコス】「ん?攻撃が止んだ……陣の一部が開いて、そっから高速で何かが来る」


『バーゲストの視野カメラと同期、確認をする』


 同期した映像には帝国軍勢が"モーゼの海割り"の様に空間を開け、そこに一機の小型艦とG・S三機が高速で先行して来た。


『白い機体、アルミラージ……来たぞ……来た!来た!!来た!!!!……ステージ3"虹の剣"』


『来いよ鍵山白華、お前の道はここで終わる……いや、その道は()であった事を教えてやる――』


 元は同じ人間から分かれた二体のアンドロイド、異世界で別な道を歩んだ二体は運命の交差(決戦場)で相まみえようとしているのであった。




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