表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/76

062 王者の銃弾

 テレラ領にある巨大な物流コロニー内で、一体の少女型アンドロイドが苛立った様子で右往左往(うおうさおう)していた。


 近くの机に置いてあった"銀色の羽"が発光し、異次元へと繋がる穴からジョーカーが出て来る。


『ただいまダキニ、どうだった?いい感じに映ってた?』


「貴様は何をやってるんだ!わざわざ映像で全人類に情報を開示して!ふざけるのも大概にしろ!!」


『そう怒るなよ、色々"嘘"も混じってたろ?』


「何の得も無い嘘であろう!バンダースナッチは一度起動したら二度と使えないし、羽でブラックホールは移動出来ない……」


「そして何が10万機だ!実際は無人G・Sは2000機と数十の戦艦だけしか無い!無駄な嘘で脅威を感じた人類が10万機以上の部隊を送って来るではないか!」


『全部かき集めて、まとめて叩くチャンスじゃないか……数は超機体"バーゲスト"が持つ機能で誤魔化す』


()()か……だが誰が乗るんだ?貴様はGレイヴンで戦うのだろ?私はもうデジタルでのマルチタスク(複数操作)は出来ない、貴様やラフマーのせいでな」


『当てはある、過去にキャロルが集めていた"死んだ偉人達の記憶データ"、それを基盤にAIを作り出した……超機体のAIレコーダーにインストールさせて戦わせる』


「そいつ等は使えるのか?」


『ダキニよりも全然使えるさ、二体だけだがな』


「ちっ!……生前は一体何者だったのだ?」


『一人は帝国の天才軍略家"ヘルコス伯爵(はくしゃく)"、超機体バーゲストに搭載させる』


 ヘルコス伯爵、レベリオ国独立後に侵攻によって最も領地を拡大させた伝説の指揮官である。


 しかし余りにも有能が過ぎて惑星軍の領地を半分以上侵攻、均衡を崩した事で賢人会に目を付けられ皇帝から撤退を命じられるが、ヘルコスは命令を無視して軍を進めた。


 その事で皇帝から怒りを買い春日十士によって暗殺され、遺体はキャロルの実験施設へと引き渡される。


 表向きは英雄として(とむら)われ、星の一つに名前が付けられる栄誉を貰ったが、皮肉にも恒星ヘルコスは帝国とテレラとの均衡を図る指標になるのであった。


『二人目は革命家"フレイ神父"、最初の"電子の福音"覚醒者であり名付け親、超機体"グリンブルスティ"に搭載させる』


 フレイ神父、キャロル候補でありながら賢人会を壊滅させる事を考え、自身が代表を務める宗教団体を使って武装蜂起した。


 数千の信者と共に無人であった惑星に立て籠もり、賢人会が送り込んだ帝国軍や惑星軍の討伐部隊を3年間退けて来たが、キャロルも直接介入を始める。


 星に超機体の部隊を送り込まれ、フレイ神父も自ら作った超機体で出撃して奮戦するも人員や物量の差には勝てずに戦死した。



「……そいつらを手駒に戦う事は分かった、だが肝心な答えになっていない、貴様は本当に人類を抹殺する気があるのか!?」


『あるけど?』


「だったら使い捨てで替えが無いバンダースナッチを起動させ、テレラを潰したとする……それで?その後はどうするんだ!逃げ続ける人間は?」


『さぁ?その時考えようよ』


 ダキニは呆れや唖然を通り越して絶望の表情を浮かべる。


『いいかダキニ、俺達は人間を殺し続けるシステムとなるんだ、"人間"とは尊厳や誇りがある者……俺達に向かって来る者が人間だ』


『ビクビクと怯えて逃げ続ける者は人間じゃない、"家畜"だよ』


「そんなのは貴様の勝手な感想と定義だ!」


『ハッハッハ!ダキニがそれを言うか!?定義だの道理を決めるのは力を持った奴だよ、君やキャロルや人間達が教えてくれた事だ』


『君は"ゲーム"に敗れた、今ゲームを支配してるのは俺!……俺のルール(道理)が嫌なら直ぐに出て行けばいい――』


 ダキニはそれ以上追及しなくなった。


 甘い言葉による説得や懐柔は得意であったが、それはあくまで普通の人間――


 独善的で利己主義で唯我独尊なジョーカーにはもはや何を言って無駄だと理解したのである。


『事を進めるなら君は直ぐに超機体"ドゥルガー"に乗って出撃しろ、役割はバンダースナッチの護衛だ』


「護衛?私はある程度G・Sで戦う事は出来るが春日クラスには及ばぬぞ」


『知ってる、シールドだけ張って余計な事はしなくていい、"チェシャ―(最強超機体)"に乗って負けたヤツに期待してないよ』


「――ッ!?だったら貴様はあの状況で勝てたのか!?反物質の巨大なハンマーから!」


『余裕……あの技は脅威だが隙が多い、ハンマーに気づいて殴打まで5秒……その間にヤツの視界外でパージしたコア(指令装置)をハンマーの範囲外に投げればいい』


『ボディの99%は失われるがチェシャーは戦闘可能、アルミラージはパイロットのオーバーヒートによって行動不能だったから勝ち確だ』


『その事に気づきから実行まで俺なら0.3秒、エボニーなら0.5秒、他の春日やナバイなら3秒って所か』


『一方で君は棒立ちで直撃、超機体同士の戦いでは珍妙な攻防が当たり前なのに既存のデータに思考が縛られ、己の判断で動けないポンコツAIではついて行けないんだよ』


 ガッ!


『いたっ!?』


 ジョーカーの脛を蹴ったダキニは無言でスタスタと部屋を出て、G・S格納庫へと向かって行った。


『いや痛くは無いけどさぁ……やれやれ』


 ジョーカーは部屋の中央にあるバンダースナッチに近づくと、コントロールパネルを操作して起動させる。


 不気味な轟音と共に装置の巨大なリングが回転し、発生したプラズマの光が中央へと集約して徐々に小さなブラックホールを形成して行った。


『ブラックホールは発現してもすぐに威力は発揮しない、臨界点に達したら拘束粒子(リミッター)を外して解き放つ』


 ジョーカーは装置に背を向けG・S格納庫へと歩みを進める。


『帰る場所は要らない、今なら分かる……"あの時"俺は泣けなかった――』


………………


…………


……


 ダキニが機体に乗ってコロニーから出撃すると、この空域には既に無人の戦艦やG・Sが陣を敷いていた。


「たったこれだけで惑星同盟軍の猛攻を10日も耐えるのか……」


【ゲストA】「惑星軍だけじゃ済まないと思うけどねぇー」


「誰だ貴様は、馴れ馴れしい」


【ゲストA】「うおっと失敬!自分は"ヘルコス"、元帝国の軍事参謀だよ、君がダキニだねジョーカーから話は聞いてるよ」


【ヘルコス】「あっちの機体に乗ってる"フレイ神父"の周波番号送るから登録しといてね、彼は無口なんだ」


【フレイ】「…………」


「貴様らが死骸のコピーAIか、ジョーカーがどんな餌で引き入れたか知らんが、人格を持ったAIなどいつ裏切るか判らんな」


【ヘルコス】「いきなり辛辣だなダキニちゃんは、人格があるっつっても自分らは普通じゃないからなぁ……共通の目標がある限りは裏切らないよ」


【ヘルコス】「自分は戦場で(こま)遊び出来ればいいだけ、ジョーカー寄りの思考さ、神父はどうなんだ?」


【フレイ】「ラプラス(信仰神)の思し召しのままに、生に苦悩する人類に浄化の道を――」


【ヘルコス】「だってさ、神父はダキニちゃん寄りだねぇ」


【ヘルコス】「まぁ時代は違えど、ここに居る面子は賢人会やキャロルに振り回された同士なんだから仲良くしようよ」


「ふん……くだらん、馴れ合いなど隙を作るだけだ」


【ヘルコス】「ダキニちゃんがジョーカーに付け込まれた様にかい?ん?」


「……負け犬の死骸コピーが」


 険悪な空気が流れる中、コロニーから出撃したゴルドレイヴンが合流する。


【ジョーカー】「挨拶は済んだ?バンダースナッチを起動させたから防衛陣を頼むよ」


【ヘルコス】「無人機の配置は済んでる、後はダキニちゃんがコロニーをシールドで囲うだけ」


【ジョーカー】「了解、お?……早速レーダーに向かって来る機影が出たな」


【ヘルコス】「二個中隊規模、本気じゃないね」


【ジョーカー】「流石に10万規模の軍が居ると言っても信じないか、やっぱ"結果"をその目で見て貰わないと」


【ジョーカー】「伯爵、バーゲストの超兵器で分からせてやってくれ……全滅させちゃ駄目だよ、目撃者を残さないとね」


【ヘルコス】「はいよ、昔と同じならどんだけ削れば惑星軍が撤退するのか見当が付く」


 ヘルコス伯爵が乗る超機体バーゲスト


 大きさはゴルドレイヴンと同程度、頭部が犬の様な造形をしており、目を引くのは背部に背負った大きな柱だ。


 柱の先には大きな"ミラボール"の様な球が取り付けられている。


 この柱こそがバーゲストの"超兵器"、その名も……


【ヘルコス】「"ドッペルカーニバル"発動――」


 柱の球から拡散された強い光が発せられ、光の先から夥しい数のG・Sや戦艦が現れた。


 否、実際に現れたのでは無く"映し出された映像"である。


 超兵器ドッペルカーニバル、目視だけでは無くこの世界のG・Sや戦艦に搭載されている電波や音波、光波などのあらゆるレーダー兵器に反応するアクティブデコイ(移動型のおとり)を作り出せる能力。


 最大で10万機前後を投影可能、現時点では触れたり攻撃を当てるか電子の福音で視る以外に偽物かどうか判断する手立ては無い。


【ジョーカー】「無人機の操作指揮も伯爵に任せる、この戦いでは一機もデコイだとバレたくない、そこを踏まえた戦闘をしてくれ」


【ヘルコス】「はいよ、その縛りでも自分一人で余裕だね」


 単横陣で向かって来る惑星軍中隊はG・S部隊を出撃させて艦砲射撃を始める。


【ヘルコス】「さぁさぁ偽物達がおりなす人形劇の始まりだ、お代は命の輝きで結構、その輝きは蛮勇かな?それとも愚者かなぁ?」


 惑星軍の尖兵部隊とヘルコスが指揮する偽物と本物が入り混じった部隊との戦闘が始まった。



 三時間後――


 惑星テレラに居るジャック元帥の元に"敵数およそ10万、我が軍被害甚大により撤退"という連絡が入る。


 ジャックはしばらく頭を抱えた後、自室の通信機で自身とパイプ(繋がり)があるレベリオ帝国の貴族の元へ連絡を始めた。


 リモートによる極秘の会談により、帝国との休戦条約及び期限付きの同盟が確約される。


 ジャックは面子を捨てでも帝国側に援軍を要請、帝国側もこの件によって惑星領の難民が帝国領に押し寄せるのを危惧し、三万の兵と春日十士派兵を承諾した。


 会談を終えたジャックの表情は怒りに満ちている。


 彼は己の利権の為ならどんな事もして来た。


 賢人会のメンバーとして己の部下を死地に送って間引く事をし、賢人会を裏切りダキニに協力する事も行い、屈したダキニ相手にもひょうひょうと結論を濁して和平協議を引き延ばした人間である。


 結果としてダキニの怒りを買い、先のヘルコスの戦いで帝国側による"ブック破り(八百長拒否)"によって蹂躙され、和平協議を応じるしか無くなったのであった。


 数々の不祥事によって立場が危うくなっているジャック、その中で起きたジョーカーによるテロ行為。


不肖(ふしょう)ではあるが我が息子"ザトー"を殺したアンドロイド、さらにはわしの立場を追い込むとは……許せぬ!コケにしおって!」


「……だが好機でもある、わし自らが指揮してこの乱を鎮めれば、キャロルもダキニも居ない世界の手綱を我らベンジャミン一族が握れる――」


「そうじゃ!相手が人間でないのなら"戦時国際法"もクソも無い、"核"をどんどん使ってあのふざけたアンドロイドを……ついでに誤射に見立てて、わしに恥をかかせた帝国軍も削り取ってやるわい!」


「最後に笑うのはわしだ……見ておれ愚者どもが――」


 様々な思惑を乗せた人間対AIとの決戦が始まろうとしている。



 ジョーカーがバンダースナッチを起動させて八日後

 

 ブラックホール臨界まで残り48時間――


 惑星・帝国同盟軍、戦艦及びG・S合わせて十二万対、ジョーカー率いるAI軍との戦いの火蓋が切られた。


【ジョーカー】「すげぇ数だ……いいね、たぎるよ」


【ヘルコス】「敵第一陣、艦砲射撃をしながら進軍中、さぁどうするよジョーカー」


【ジョーカー】「ダキニはコロニーを"トラヴァルジン(超兵器)"で覆え」


 トラヴァルジンとはダキニが乗るドゥルガーに搭載された超兵器で、機体から"あらゆる衝撃や熱を吸収する"膜"を発する事が出来る。


【ジョーカー】「神父はコロニー付近でドゥルガーに近づく敵を迎撃してくれ」


【ジョーカー】「ドゥルガーは既存兵器相手なら最強の防衛及び護衛特化型G・Sだが敵側の超兵器……春日が持つ"バイコの槍"や"ムレータルス"で攻略されるだろう、神父にはそれらに対応してもらう」


【フレイ】「理解した……」


【ジョーカー】「伯爵は(デコイ)と本物を混ぜた部隊で迎え撃ってくれ、陣形は任せる」


【ヘルコス】「はいよ、こちらも艦砲射撃で応戦しながら隊を進めとく」


【ジョーカー】「俺は中衛で色々やるよ、基本はコロニー防衛で動いてくれ」


 AI軍は各々の配置につき、ヘルコスが指揮する無人機(デコイ含む)部隊と先陣を切ったジャックが指揮する惑星軍との艦隊戦が始まった。


 大隊どうしの戦いでは射程が長い戦艦主砲による艦砲射撃の撃合いで始まるのが基本、普段は暗黒の宇宙空間で夥しい数の閃光が交差する。


 ドッペルカーニバルで映写された戦艦やG・Sもビームやミサイルを放つ事が出来るが当然それらも映像に過ぎなく、現実の大部隊を弾幕によって押し返す事など不可能だ。


 徐々に前線を下げられるAI軍、しかし惑星軍は追撃の進軍を行わない。


【ジョーカー】「妙だな……前線が上がったならG・S部隊を突撃させるだろ」


 惑星軍艦隊は引潮(ひきしお)の様に後退を始めると、大きなランチャー(発射筒)が付いた少数戦艦部隊のみを前進させる。


【ジョーカー】「なるほど……"核"か」


 ランチャーが付いた戦艦から大きなミサイルが発射され、AI軍の前線部隊に向かって飛翔し始めた。


【ヘルコス】「500発はあるよ、水増しデコイはまた作れるけど無人機の半分はもってかれちゃうねぇ」


【ジョーカー】「核を撃ちまくるなんて最高に馬鹿で意識が低くていい……人間と機械との戦なんてこういうのでいいんだよ――」


 ジョーカーが乗るゴルドレイヴンは、いたる所に()()()()()異様な拳銃を両手持ちで構える。


【ジョーカー】「撃墜援護する、伯爵も出来る限り落としてくれ」


 ゴルドレイヴンの二丁拳銃からマシンガンの様な連射で放たれる弾丸は、一発一発正確に核ミサイルに着弾、爆破させた。


 核爆発による激しい光の連鎖が辺りを輝かす。


【ヘルコス】「誘爆させてもどんどん撃って来るよ、こっちも核は無いのかい?」


【ジョーカー】「あるよ、第四世界に六発だけ」


【ヘルコス】「充分……ちょうだい」


 核を受け取ったヘルコスはジョーカーに敵の核ミサイルをあえて幾つか撃ち漏らす様に頼んだ。


 弾幕を抜けた核ミサイルは無人機や無人艦に直撃し、大規模な爆発が最前列の部隊を覆う。


【ヘルコス】「爆破と共にデコイを消す、これで敵はこちらの過半数は削ったと思って前線を上げて来る」


 ヘルコスの言った通りに惑星軍は核による釘付けを止め、部隊の前進を始めた。


【ジョーカー】「引き寄せてこっちの核でやるつもりか?」


【ヘルコス】「あぁ、でも今のままじゃ致命打に出来る弾数は無いし半端に削って後退されても嫌だしね……まずはマインド(精神)をガタガタにさせてもらうよ」


 ヘルコスは遠隔操作できる無人艦に核を持たせると、数百のデコイ艦を作り出して単横陣を組ませ、惑星軍と同じようにミサイル攻撃を仕掛ける。


【ヘルコス】「本物は一発だけ――」


 しかし、本物の一発は惑星軍の圧倒的な弾幕によって爆破されてしまった。


【ジョーカー】「あの爆心地では数体しかやれてない、一本無駄にしちゃったんじゃない?」


【ヘルコス】「いやいや、こっちも"核を持っている"って事を相手に認識させた、これが()()んだ」


 惑星軍は前進を止めて防御陣を形成し始める。


【ヘルコス】「ビビってるねぇ!こっから五時間ぐらい(デコイ)のミサイルを撃ち込み続ける」


【ジョーカー】「意味あんの?それ」


【ヘルコス】「奴らはデコイの存在に気づくが"もしかしたら本物があるかも"と、全力になって弾幕を張り続ける、ミサイル一発一発に怯えながらね」


【ジョーカー】「弾や燃料を消費させてるのか」


【ヘルコス】「どちらかと言えば"精神の消耗"だよ、人間の集中力ってのは90分が限度だからね」


【ヘルコス】「その時間を超えてずーーーーっと偽物のミサイルを送り続けたらどうなると思う?」


【ジョーカー】「恐怖で耐えられなくなって逃げる、とか?」


【ヘルコス】「違う違う、"楽観"が精神を支配するさ――」


【ヘルコス】「"もう本物の核は無いだろう"、"自分の所には核は来ないだろう"と……死と隣り合わせの作業を長時間続けた人間は根拠の無い楽観的判断に(すが)る」


【ヘルコス】「そういった感情が兵達に蔓延し、将までに効き始め、耐えられなくなった時にする行動が"無策の進軍"さ……早くこの苦しみから抜けたい~楽になりたい~ってね」


 三時間後、ヘルコスが言った通りに惑星軍は防御陣を解いて進軍を始めた。


【ヘルコス】「予想より早いな、今の軍は自分の時代よりも堪え性が無いねぇ、面子を気にして後退出来ないのは相変わらずだけどさ」


 進軍を始める惑星軍の弾幕は明らかに甘くなっている。


 ヘルコスはデコイのミサイルを放つと同時に、今度は本物の核ミサイル五発を惑星軍に向けて放った。


【ヘルコス】「人はそれを"油断"と呼ぶ――」


 核ミサイルは惑星軍艦隊にしっかりと()()()、大規模な爆発が前衛及び中衛部隊の大半を巻き込む。


 ジャック元帥は自身が乗る旗艦から目視でも確認できる距離で、爆発する自軍を唖然とした表情で眺める事しか出来なかった。


【ジョーカー】「素晴らしいよ伯爵、俺には無い強さだ」


【ヘルコス】「でも本隊(ジャック)までは潰せなかったよ、物量差を軍略で埋めるのは難しいね……惑星軍は一度引いちゃうな」


【ジョーカー】「いいや、ジャックにはここで退場してもらう……この戦いで一番つまらない相手、言わば"ステージ1(ワン)"だ、時間を掛けたくない」


【ヘルコス】「敵の頭が一番つまらないかぁ……でもどうやるんだい?瞬間移動で詰めるとしても例の羽は広域にバラ撒いて無いんだろ?」


【ジョーカー】「あぁ、羽は貴重だからね、爆発に巻き込まれたり回収されたら嫌だし」


 ジョーカーはゴルドレイヴンを操作し、背部にある翼から金の羽と銀の羽を一本ずつ抜く。


【ジョーカー】「超兵器"無名羽"の利点は瞬間移動と四次元ポケット(携帯物置)だけじゃない……第三の利点"大規模施設からのエネルギー転用"だ」


 この世界と羽で繋ぐ事が出来る異次元、"第四世界"にはリメインが実験の為に造った施設が幾つかあった。


 実験は主にこちらの世界で行うには()()()()()代物ばかりで、銀河その物や時空間を歪めてしまう様なリスクがある事を第四世界で試していた。


 そういった施設の一つに"物質加速器"がある。


 戦艦並みの大きなパイプを円形に繋いだ、円周50㎞にも及ぶ超大型加速器――


【ジョーカー】「今施設で加速されてるのは"タキオン"という物質で作られた弾丸、光速の一歩手前の速度で円形加速器を廻っている」


【ジョーカー】「その弾丸を羽を消費してここに移動させ、旗艦に向けて射出する」


 ゴルドレイヴンは金の羽で異空間への穴を開けると、左腕を穴に突っ込み、右手に持った小銃(ピストル)の銃口に銀の羽先を詰めて構える。


【ジョーカー】「撃つ訳じゃなく、エイム(狙い)を合わせて羽を添えるだけだが、ここが凄く重要」


【ジョーカー】「タキオンは速度と共に質量が下がる、標的より前に小蠅サイズの小石に掠っただけで軌道が狂っちまうんだ」


【ジョーカー】「どんな距離でも確実に隙間を通せる狙撃が必須、俺以外には使えない超兵器の応用技」


 銀の羽が光ると同時に亜光速のタキオン弾が飛び出す。


 その弾速は正に"一閃"、ゴルドレイヴンの右手が光った瞬間には既にジャックが乗る旗艦の船首に直撃していた。


 直撃と共に質量が無に等しいタキオンは、装甲に傷一つ付けれずに跳ね返る。


 しかしタキオン弾内部に仕込まれた液体オリハルコンが反作用によって飛び出し、カタパルトの様に加速されて刹那の光速となって旗艦に衝突した。


【ジョーカー】「砕け失せろ、裏切り者――」


 超加速によって膨大な質量エネルギーとなった物との衝突、旗艦は一瞬でプレス機にかけらた様にペシャンコになり、衝撃波によって粉々に砕け散る。


――――――――――――――――――――――――――――――――


 惑星同盟軍元帥 ジャック・ベンジャミン 【死亡】


――――――――――――――――――――――――――――――――


 旗艦は爆心地となり、広がった衝撃波は次々と周りの随伴部隊を破壊して行った。


 その威力は大型兵器での戦いが当たり前のこの世界で"核と定義"されている物の10倍であり、衝撃波により発生したプラズマによって爆心地からミルククラウンの様な巨大オーロラが出現する。


 王冠(クラウン)形の衝撃波が現れる事から、研究者の間ではこう呼ばれていた。


【ジョーカー】「"王者の銃弾"――」


【ヘルコス】「軍を蹂躙する(キング)の一撃か、美しいね……でも最初からそれを使えば良かったんじゃない?」


【ジョーカー】「嫌だよ、貴重な羽(大)を消費して()()()()なんだから……」


【ヘルコス】「ハハッ!やっぱ面白いなジョーカーは……だが惑星軍の被害は甚大、元帥も討たれて撤退を始めてる……こりゃもう勝ちかな?」


【ジョーカー】「そうでも無いさ」


【ヘルコス】「ん!?」


 一目散に撤退する惑星軍とは別に、戦闘空域に残りAI軍を囲む布陣をする部隊があった。


【ヘルコス】「三重包囲網……惑星軍が遠戦にかまけてる間に後方から囲んだのか……あれなら広範囲攻撃でも被害が出難いし攻めも可能」


【ジョーカー】「敵側にも本隊(ジャック)に期待してない連中が居たって事だ、ふっ……やるじゃないか"マルブル"、こっからは緊張感持って行かないとな」


 包囲する敵部隊の中から、高速でAI部隊に向かうG・S数機をジョーカーは捉えた。


【ジョーカー】「"ステージ2"帝国軍、春日十士戦スタート」


 共に超機体を操る帝国春日対AIとの戦いが始まる――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ