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061 宣戦布告

 テレイアを奪還してから二十日が過ぎた。


 俺達がしでかした事でレベリオ帝国とテレラ惑星同盟にある程度の混乱がもたらされる事は覚悟していたが、予想以上の事態が世界で起こる。


 ダキニの影響力が消えたのだ――


 当然ダキニから直接的に洗脳や脅迫を受けていた者だけでは無い


 ネットワーク上でダキニが演じていたバーチャルアイドルや政治指導者などもこぞって居なくなり、各国要人と入れ替わったアンドロイドの活動も停止したのである。


 世界各地で混乱が巻き起こり政府機能は停止、暴動やテロが横行するので軍が治安維持を行い、一時的な軍事政権を発足させてなんとか民衆をまとめている状況だ。


 俺が"顧みない"選択をした結果の一部、後悔はしていないが気にならないと言ったら嘘になる。


 だがこの道を選んだ以上、犠牲がある困難な進路でも踏み進むしかないのだ。


 今の虹の剣は傭兵団としての仕事を受けずに、なるべく身を隠しながらダキニに対する情報の精査を行っている。


 ダキニはあの戦いで消失したのだろうか?物理的に破壊してもデータは生き残るハズだが……。


 その答えを見つける為の鍵を黒兎が持っている。


 俺がカラモスに向かっている間、セレーネ基地にナバイと共に襲撃しに来た"白兎"が残した言葉を元にアルクトス領にある第四コロニーへと降り立った。


 A区にあるリハビリセンターに向かったのは俺とベスタの二人、受付でイザベラという入院患者の見舞いに来たと言うと、看護師が病棟の隅にある個室へと案内する。


『ここに"ロネーズ"が居るのか……』


 ドアを開け、病室に入ると五十代ぐらいの女性がベットに座っていた。


 その姿を見た瞬間、何故か俺の左目からだけ涙が溢れ始める。


「おや……どちら様だい?」


『貴方が、ロネーズさんですか?』


「えっ!?私の名前を知っている……そうか、全て終わったんだね……」


 女性は手を合わせ、祈るような仕草をした。


「所長、シルビア、ラフマー、みんな!私達の悲願は達成されたよ……」


「ロネーズ、わしを覚えておるか?」


「あんたっ!イリアかい!?」


 ロネーズはベスタを抱き寄せる。


「生きてたんだね……よかった!よかった!」


「色々な記憶を消された後に祖母と帝国に身を隠してたんじゃ」


「そうか……記憶が戻ったって事は"継承"されたって事だね、父親(ラフマー)の死と同時に事実を突き付けられて辛かっただろうに……」


「うーむ、唐突な事じゃから、混乱を整理するのに精一杯なのじゃ……とりあえず今はダキニはどうなったのかを知りたいのじゃ」


「ダキニは恐らく消失したよ、白兎……いや、ジョーカーの策略で」


『!?』


「詳しく教えてもらっていいかのう?」


「少し長くなるが――」


『あっ!ちょっとその前にいいですか?』


「君は?」


『俺はアンドロイドで名前はアイリス、俺の"中"には黒兎も居ます』


「っ!?あっ……あぁ!」


 ロネーズの瞳から涙が溢れ出し、俺を力強く抱きしめた。


「ごめん!ごめんねぇ!何もしてあげられなくて」


 頭の中にノイズが走るが、決して不快では無い……黒兎は嬉しくて"泣いて"いるんだ。


『黒兎は記憶をほとんど失ってますが、ロネーズさんが生きていた事、こうして再び会えた事を凄く喜んでます』


「そうかい……ありがとう黒兎、"あなた"にも申し訳ない事をしたね、別な世界から連れて来てしまって」


『俺は……結果論だけど、この世界に来て良かったと思っています!』


「本当にあの世界に未練は無いのかい?もしかしたら"帰す"事が出来るかもしれないよ」


『帰れる……元の世界に?……うっ!』


 ノイズが頭の中を駆け巡り、足元がふら付く。


「なんじゃ?アイリス大丈夫かの?」


『んっ……たぶん頭の熱が上がって、少し外の空気に当たって来ますからお二人で話を進めて下さい』


 心配する二人を余所に病室から出て屋上へと向かった。


 どうした黒兎?別に直ぐに元の世界に帰らないし、その決断もしてないぞ


《アイリス、その話の時に私のバイタルサイン(ノイズ)は出現してません》


 え!?


 だとしたら、あのノイズは、あの迷いは……"俺"か――


 今の俺には仲間も、やるべき事もある。


 元の世界に未練は無いと思っていた。


 だが心残りがあったんだ……決して忘れてはいけない、今の自分を形成した"願い"が。


『父さん……』


 コロニー内特有な偽物の空を眺めながら物思いにふけていると、息を切らしたベスタが屋上へと上がって来た。


「アイリス大変じゃ!各地の報道ライブが何者かに"ジャック"されたぞ!」


『えっ!?』


 急いで病室に戻り、壁にかけられたテレビを視聴すると、画面には帽子をかぶった不気味なピエロの絵と残り10分を刻むカウントダウンが映されている。


「アルクトスで放送されてる番組だけじゃのうて、ネットで流れてる放送ミラーを見る限りテレラやレベリオも含めたライブ配信やテレビ放送が全てこの画面になっとるんじゃ!」


「こんな真似が出来るのはダキニ……いや、まさかジョーカーか!?」


『ロネーズさん、そのジョーカーというのは白兎なんですね?』


「そうだよ、何故その名に変えたかは知らない」


 Joker(ジョーカー)、元居た世界でのゲーム"アカウント名"だ。


 本名の鍵山白華、そこから鍵→カギ(ジョウ)()をジョーカーとかけて付けた名である。


「もう直ぐカウントがゼロになる……はじまるぞ」


 カウントが0になると同時に軽快なBGMが流れ始め、白い帽子を被った肉付けされていないアンドロイドが画面に登場した。


「白兎!?」


 こいつが、もう一人の俺――


「映ってる?映ってるね……よし、どうもぉ~迷惑系ライバーの"ジョーカー"ですぅ!みなさん初めましてぇ~」


 なんだこのキャラ……共感性羞恥が出ちゃうよ。


【ジョーカー】「今日は電波やネットに詳しい知合いのAIに協力して貰ってね、全世界の通信をハッキングして放送してる訳ですがぁ……これから皆様にはちょっとした"手品"をご覧いただいて貰います」


【ジョーカー】「その名も"ビックリどっきり瞬間移動"ショー!!」


 ジョーカーは白いシーツを手に持つと、自分を映しているカメラをシーツで覆った。


【ジョーカー】「最初の旅先はアルクトスの首都、第一コロニーにある"中央議会"にご案内~!」


【ジョーカー】「(スリー)……(ツー)……(ワン)……ジャジャーン!」


 バッ!


 ジョーカーが白いシーツをめくると、映像に大きな会議場が映される。


 ざわ……ざわ……


 突如壇上に現れたアンドロイドに、アルクトスの議員達は困惑と恐怖で動揺している様子が画面越しで伝わった。


【ジョーカー】「議員の皆さん、本会議お疲れ様です!おや?あちらにはアルクトスの大統領デミトリーさんが居ますね」


【ジョーカー】「貴方の愛人が実は()()()()アンドロイドでしたが、どう思いました?二十日前に動かなくなっちゃいましたねぇ……元々キャロルの傀儡(かいらい)政権だからあんた等も紐が切れた人形みたいなもんだけどね、アハハハ!」


「くっ……警備兵!そいつをさっさと捕えろ!!」


 議場に数十人の警備兵が入って来るとジョーカーを捕えようと飛び掛かるが、ジョーカーはバレエを踊る様にスルリスルリと躱す。


 人間相手にあんな身のこなし……本当に俺が基盤となってるAIなのか?


 ジョーカーはお道化たように逃げまどいながら全身をシーツで包み、再びカウントを取り始めた。


【ジョーカー】「そろそろ次の場所に行きましょうか、アン・ドゥ・トロワ!!」


 激しい光で一瞬、画面が真っ白になる。


【ジョーカー】「さぁ、ここはレベリオ帝国の上院議事堂」


 バッ!


 画面には再び会議場が映し出されるが、さっきとは場所も人も違う。


 奴は本当に"瞬間移動"したのだ。


【ジョーカー】「皇帝と皇后は機械だった事が分かり、跡目の皇女は行方不明、皇帝の座を狙う残った貴族達によるドロドロな家督争いの現場ですねぇ」


「なんだこいつは!!」「どっから出て来たんだ!?」「警備兵!」


「配信されている!?」「なんでここが映ってるんだ、箝口令(かんこうれい)が敷かれた会議だぞ!」


【ジョーカー】「さっきと対して変わらない絵面だからもう次の場所行きましょ」


 再びシーツを被ってカウントを唱えると、画面が真っ白になる。


 画面が戻り、ジョーカーがシーツをめくるとそこは薄暗い廊下であった。


【ジョーカー】「おはようございます……ここはテレラにある惑星同盟軍"元帥"、ジャック・ベンジャミン氏の寝室前でございます~」


【ジョーカー】「本当はこっちでも議会に乗り込みたかったんだけど、時差の関係で明け方になるのでね、寝起きドッキリをする事にしました」


 ジョーカーはわざとらしい小声で喋りながら、ゆったりとした動きでドアを開けて寝室へと入って行く。


 ガチャ


【ジョーカー】「あっ!……起きてるし」


 画面に映ったのは立派な白い髭を生やした体躯がいい老人がベットに座ってテレビを観ている様子であった。


「貴様っ!本当にこの場所に!?」


【ジョーカー】「ジャック元帥、おはよ~ございます」


「くっ!ふざけるな!!」


 ジャック元帥は小棚から小銃を取り出し、ジョーカーに照準を合わせようとした瞬間。


【ジョーカー】「おっと……」


 ジョーカーは一気に間合を詰めると、ジャックが持っていた銃上部のスライドを片手で分解して使用不能にした。


「なっ!?」


【ジョーカー】「駄目、駄目、子供も観てるのにそんなの出しちゃ」


 ジョーカーはまるで俺が"G・Sに乗った時と同じ動き"が出来ている。


「ちぃ!……貴様の目的は何だ!?」


【ジョーカー】「では、そろそろ最後の旅へとご案内いたしましょう」


 ジャックの話を無視し、再びシーツに包まったジョーカーであったが、顔だけひょっこり出すとジャックに向かって呟いた。


【ジョーカー】「"ジャバウォック"って知っているか?十年以上前にキャロル・ラフマーに仕えていたG・S乗りの事を」


「な、なぜ貴様が軍の最高機密を!?」


【ジョーカー】「俺の事だよ、ザトー・ベンジャミンを殺したのはね……」


「っ!?」


 憎悪の表情を浮かべるジャックを余所に、ジョーカーはカウントを始めて再びどこかへと移動する。


【ジョーカー】「ジャジャーン!ここは惑星テレラ近郊にある、表向きは民間企業の物流コロニーでございま~す」


 映像には都心などにある巨大地下水路の様な広い空間が映されていた。


【ジョーカー】「本来は建築素材の倉庫ですが、今はこんなものがあります」


 ジョーカーがカメラを向けた先にはG・Sサイズぐらいある巨大な地球儀の様な物がある。


【ジョーカー】「こいつは超兵器"バンダースナッチ"、起動すれば"超大質量ブラックホール"を生み出せる」


 それを聞いたベスタとロネーズが驚愕の表情を浮かべた。


「人工の超大質量ブラックホール!?キャロルはそんな物まで発明していたのか」


「知らぬ……わしが継承したキャロルの知識にはそんな物は無いぞ!」


「"ゴーストハッキング"の様な隠された禁忌……それともただのハッタリだろうか?」


【ジョーカー】「分かる人にはヤバさが分かると思いますが、簡単に説明するとこいつを起動したら周辺空域にある全ての者が消滅します」


【ジョーカー】「当然、惑星テレラや周辺のコロニーごとね」


 こいつは一体何がやりたいんだ。


【ジョーカー】「帝国やアルクトスの皆様は範囲外である"自分達の住処には影響ない"と考えてるかもですが、俺が見せた瞬間移動、それも超兵器によるものでしてね」


【ジョーカー】「つまりはここで生成されたブラックホールをも自在に移動出来るという事、人類に安息の地はありません!」


【ジョーカー】「でもこれは"フェア"じゃない……せっかくの人間対AIという舞台が超兵器での蹂躙で終わるのは何とも味気無い」


【ジョーカー】「そこで、あなた達人類には三枚のカード(選択肢)を与えます、一枚目は俺達AI軍団と戦ってバンダースナッチを止める事、バンダースナッチは起動後に発生させたブラックホールを縮小不能な臨界までに至るのが十日」


 施設内部を歩きながら話すジョーカーは大きなハッチの前で止まると、レバーを引きハッチを開けた。


 開いたハッチの先には大量のG・Sが兵馬俑(へいばよう)の様にぎっしりと詰め込まれている。


【ジョーカー】「量産型無人G・Sアシュア、この倉庫以外の物も合わせて十万機が相手だ」


 これを聞いたベスタが、にわかには信じられ無いと言った表情で反応した。


「じゅ、十万機じゃと!?……二大国の総戦力クラスでは無いか!」


【ジョーカー】「二枚目のカードはテレラ同盟、レベリオ帝国、アルクトス領から出て行く事、ひっそりと開拓だのして暮らしたいいんじゃないっすか?」


【ジョーカー】「三枚目は"死"、以上があなた達人間に向けたAI側からの伝言……いや、宣戦布告だ――」


『…………』


【ジョーカー】「俺を酷いヤツだと思うかい?だが今まで賢人会がやって来た事と大して変わらない、むしろ分り易くシンプルにしたのさ」


【ジョーカー】「一般人は関係無い?それは違うね、あんた達が心の深層で支配者の敷かれたレールに気づきながらも、それに甘えて乗っかっていた事を知っている」


【ジョーカー】「人間達一人一人の怠惰や利己主義がキャロルや賢人会のシステムを作り出し、AIを人類抹殺の答えへと追い込んだ……あんた達は充分にチップを賭ける責任があるんだ」


【ジョーカー】「人類の進化だの革新だのを精査する段階は終わった、ってか面倒臭ぇんだよあんた等、だからさ……」


【ジョーカー】「秘匿、調略、謀略なんて必要無い、B級映画の様に単純な死ぬかぶっ壊れるかの勝負、正々堂々としたゲームを始めようじゃないか!!」


【ジョーカー】「それでは良いPVP(プレイヤーバトル)を、アイル・ビー・バック――」


 その言葉を最後にジョーカーの配信が終わり、元々放送されていたと思われるニュース番組に切り替わった。


 あまりの唐突で劇場型な宣戦布告に対して、病室にいる二人と一体は暫く唖然としている。


 恐らくこの放送を見た全ての人間も鳩が豆鉄砲を食らった表情をしているのだろう。


「ジョーカー……何でこんな事を、ダキニを倒して全て終わったんじゃないのかい!」


「今はとりあえずお互いの情報を共有するのじゃ」


 ロネーズは白兎、今はジョーカーと名乗っているAIについて知っている情報を語った。


 俺の記憶を元に先代キャロル、ベスタの父であるラフマーによって作られ、ダキニ討伐を目論むアクランド社を守るG・Sパイロットを行っていた事や、その後ダキニに操られた軍によって存続不能になった事など、ここまでは大方"ロネーズのレポート"で知っていた情報である。


 レポート後の話として、ロネーズはラゴスゲートの装置と"ゴーストハッキングシステム"を見つけ、行方不明になった白兎はジョーカーと名を改め、ダキニの元でG・Sパイロットやエージェント(スパイ)などを行っていた。


 ロネーズはダキニの傀儡である軍の攻撃を受けて大怪我をしたが、ジョーカーに救われてこの病院で治療を受ける。


 その後ジョーカーの提案によってゴーストハッキングを使い、ダキニに捕らえられて意識不明の状態にされていたラフマーとのコンタクト(意識通信)を成功させた。


 ラフマーは魂を電子空間に意向させて、ロネーズと共同で対ダキニ用のウイルスプログラムを完成させる。


 一方でジョーカーはダキニに従順なふりをしつつ情報を引き出し、ダキニが不滅である特性となっている、意識をネットワーク上に分散出来るクラウドシステムの存在を知った。


 そして今から二十日前の"あの日"、ジョーカーはクラウドシステムにアクセス出来る"権利"を何かしらの方法で入手し、システムにラフマーの(ゴースト)データごとウイルスを叩き込んだのであった。


 ラフマーの命と引き換えにクラウドシステムは破壊され、全世界からダキニの影響力が消えた事でロネーズはダキニは消滅したと判断し、ジョーカーからの連絡を待っていたのであったが……現在に至る。



 お互いの持つ情報を出し合った後、ロネーズは直ぐに退院して俺達と共にセレーネに向かう事を決めた。


 ロネーズの支度が終わる間、俺は再び屋上に向かって景色を眺めている。


『…………』


 なぁ、黒兎


《はい、アイリス》


 俺は君に話さなきゃいけない事があるんだ。


 もう感づいてるとは思うが、実は君は俺の……


《アイリス!》


『!?』


《私は人工AI黒兎、虹の剣の一員で、ロネーズの息子……》


『黒兎……』


《そしてアイリスの親友です……これが今の私であり、そして今後の私としての》


《"答え"なのです――》


 ……そうか、分かった。


 黒兎は選んだんだ、鍵山白華としてでは無い、自分だけの(答え)を。


 親友か、ハッキリ言われると小恥ずかしいけど、うん……俺もハッキリ返そう、嬉しいよ。


《アイリス……ありがとう》


 今度テレイアに頼んで黒兎用の身体(ボディ)を買って貰おう。


 そしたら二人であのクソゲーで遊んだり、キャッチボールでもしようよ。


《是非、やりたいです!》



 もう一人の"俺"である黒兎の巣立ち(独立)に嬉しい気持ちが大きいが、どこか少し寂しさもあった。


 一方でジョーカー、君の選んだその道は、望むべくして出した答えなのか?


 物思いにふけりながら空を見上げると、ヒラヒラと何かが落下して来るのが見えた。


『何だあれ?鳥の羽?……それにしてはデカい気が』


《あの羽は!》


 羽はこちらに向かって舞い落ち、屋上から数メートルの位置で強く発光する。


 虚空に紫に光る円形の穴がぽっかりと開き、中から何者かが飛び出すと病院の屋上に舞い降りた。


『!?』



 目の前に降り立ったのは、白いスーツを着て白いハットを被った骨格剥き出しのアンドロイド、先ほどまで映像で観ていたジョーカーであった。


『やぁ、無人戦艦(ブッロパピオン)以来だなアイリス、それとも鍵山白華って呼んだ方がいい?』


 突然の来訪に暫く絶句で返す事しか出来ない。


『お前は何歳の時にこの世界に来た?あっ!当てるわ……武器に拘りが無くて、積極的に前に突っ込む戦闘スタイル……うーん、22ぐらいだろ?』


『18だけど……ここの世界に呼ばれたのは』


『あれ?そんなガキの時のか……まぁいいや、ここに来たのは一応ラスボスであるお前に挨拶しようと思ってね』


 ラスボス?一体何を言ってるんだ。


『どうせ向かって来るんだろ?虹の剣はブラックホールを止める為にさ』


『何であんな事をするんだ?俺と戦いたいなら勝手に向かって来たらいいだろ?』


 その問いにジョーカーは呆れた様に両手を広げて答えた。


『自意識過剰だな、俺にとってお前が全てじゃないんだよ鍵山白華……俺の目的は"独立"だ』


『独立?』


『そう、ここが俺の世界である為にキャロル、ダキニ、軍、そして鍵山白華をこの舞台で決着を付け、俺が初めて一人の()として独立出来るんだ!』


『ほとんど何を言ってるか分からないが、充分個人として動いてる様に見えるが?』


『リセットが必要なのさ、プレイヤーも二人は要らない』


『…………』


 俺はこのジョーカーが自分とは全く違う存在に見えていたが、会って話して分かった。


 こいつは間違いなく俺と同じだ――


 正確にはこの世界に来たばかりの俺、異世界をゲームの世界だと考え、自分をゲームのキャラだと思い込んで演じている。


 だから本来他人とのコミュニケーションが苦手な俺がテレイアや他の人とも普通に会話が出来た。


 でも虹の剣(仲間達)との出会いと経験によって徐々に本来の自分を見せる様になったのである。


 だがもしもこの世界に来て心を許せる者と出会わず、ずっとキャラを演じ続けていたら?


 G・Sで戦う事しか出来ないと考えて戦うきっかけを探し、彷徨い続けてたら?


 その(ルート)を歩み、自ら戦う舞台(シナリオ)を用意するまでになった結果(道化師)が目の前に居るのであった。


『決着というのは己の問題、だからこそフェアにやらなくてはならない、俺は映像ではあるがお前とエボニーとの戦を観ている、超機体アルミラージと超兵器ミラーの……えー、プリンターの』


『ミラージュ・リング・プリンタシステム』


『そうそれ、それと"チェシャー"を潰した反物質巨大ハンマーを知っている、だからせめて俺が乗る機体と超兵器の事ぐらいは教えとくよ』


 ジョーカーは自身が乗る機体の事を説明し始める。


 機体名は"ゴルドレイヴン"、基本スペックはアルミラージよりも若干劣るが超兵器の羽によって()()()の扉を開く事が出来るらしい。


『キャロル候補のリメインが独自にラゴスゲートを作ろうとしたが失敗した、その時の副産物が超兵器"無名羽"、失敗が元だから名前すら付けられなかった哀れな兵器だ』


『金の羽を使うと異次元の扉を開くことが出来る、その異次元はこの世界でも俺達の居た世界でもそれらの隙間にあるラゴス空間でも無い、第四世界と過程されている』


『世界と言ってもこの次元より大分狭い、だが直ぐに物が取り出せる倉庫になる、ド〇えもんのポケットみたいにな』


『更に特徴として羽を使った世界との距離が1万分の1に圧縮される、第四世界で一歩進んで元の世界に戻れば、入った位置から大分移動してるって事だ』


『これが俺が見せた"瞬間移動"の秘密、羽のサイズは大中小あって小は人間一人分を、大でも第四世界に送れるのはG・S1機分がギリギリって所かな』


『便利だが万能では無い、第四世界からこの世界に戻る時に位置の齟齬(そご)が発生する』


『例えば第四世界の位置座標xy0からx2に移動してこの世界に戻ると、x2.0001からx2.9999までのどこかに飛ばされる、コロニー目指してワープしたのにどっかの惑星にめり込んでた、なんて事も起きちまうのさ』


『だが"銀の羽"を元の世界に置けば銀の羽がある位置に確実に移動出来る、金の羽は"入口専用"銀の羽は"出口専用"って事だ』


『搭載された羽の枚数や応用技は教えない、こっちも虹の剣が持つMRPシステムを全て理解してる訳じゃ無いからな』


『以上だ、これでフェアって事でいい?』


 まだ戦うとも言って無いのに機体の能力をべらべらと……、完全に自分の世界に入り込んでるな。


 出来るだけ対等な条件で戦いたい気持ちは分かるが、ジョーカーは俺よりも"フェアプレイ"に執着が強い気がした。


 俺の知らない未来で何かあったのだろうか……。


『あっ……()()()にこの事も教えといてやろう』


『父は死ぬぞ』


 ――――――――ッ!?


 不意を付くような父の事実に頭が真っ白になる。


『お前の時間軸で言うと二年後に癌でな、四年ぐらい手術や抗癌剤治療をしてたらしいが』


 ノイズが入り視界がぼやける、姿勢制御がおぼつかない――


『結局父には最後まで会えないままで終わる、お前のやってきた事は全て……』


 やめろ、言うな、頼む、頼む――――


『 無 駄 だ っ た な 』


 糸が切れたマリオネットの様に膝から崩れ落ちた。


「白兎!」


 屋上の扉が開き、ベスタが飛び出して来る。


『またか……』


「わしは全てを思い出した、現キャロルとしてぬしを戦に巻き込んだ事は謝る……償いは全てわしが受けるから、馬鹿な事はやめるのじゃ!」


『あぁ、何言ってるか分かんねぇ分かんねぇよ……今こいつと話してんだから、黙るかどっか行ってくれない?』


「しろうさ!」


『黙れと言ってるんだ!虹の剣整備士ベスタ!!』


「っ!?」


『二度目は無い、舞台に上がるというのなら容赦なく消す――』


 ベスタは今にも泣きそうな顔になり、うつむいてしまった。


《アイリス立って……世界を広く……広く視てください!》


《あなたの()()は、"無限大"である事を思い出して――》


 無限大……ゲームしか無かった今の自分にあるもの。


 そうだ、そうだな……ありがとう黒兎、もう大丈夫だ。


 俺はゆっくりと立ち上がり、ジョーカーを真っ直ぐ見る。


『ジョーカー!!!!』


『ん?』


『一つ間違えてるぞ』


『……何が?』


『あのハンマーはMRPシステムの応用だ、自分で想像した物を武器にする事が出来る』


『……シヴァ・アンバー、リメインの作品に劣らない代物を』


『欠点もある、いや欠点は俺だ……想像力が足りないからあのハンマーしか作れない』


『俺からは以上だ、これで()()()だなジョーカー』


 ジョーカーは『ククク』と笑うとコートの裏から金色の羽を取り出し、放ると羽から球状の光が発せられる。


『次は盤上で会おう、虹の剣アイリス――』


 最後にそう言ったジョーカーは光に飛び込んで姿を消したのであった。


 俺は覚悟を決める。


 一度元の世界に戻り、過去と向き合う事を。


 だがその前に、未来の自分と決着を付ける――


 フェアに対してフェアで返す。


 これがジョーカーが出した宣戦布告の返答であった。

 



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