-02 リアル
二人分の鍵山白華がこちらの世界に来て半年――
二つの存在は別個体のアンドロイドにデータを分けられ、G・Sでの模擬戦を行った結果、勝った方を"白兎"負けた方を"黒兎"と名付けられた。
とは言ったものの、黒兎はぐずるだけで模擬戦での勝負にすらならなかったのが事実である。
その後もやる気の無い黒兎との演習ばかりで、実戦が全く無い状況に白兎は飽き飽きしていた。
『あぁ~つまらん、今日も動かない黒兎相手に模擬戦、模擬戦』
白兎は搭乗した"ラスター2"のコクピットから愚痴をこぼす。
『撃って来いよ、大丈夫だよ模擬弾だから怖くないし、G・Sでの戦闘は好きだったろ?』
【黒兎】「…………」
無視を続ける黒兎が乗るラスター2の手足に模擬弾を撃ち始めた白兎。
ドンッ!ドンッ!ドンッ!
『ほらほら、楽しいだろ?』
【黒兎】「うぅ……やだぁ」
【マル所長】「こら白兎!黒兎をいじめるんじゃないよ!」
音声通信で白兎をしかる老齢の女性は"アクランド工学研究所"の所長だ。
『いじめてないよ、遊んであげてるのさ』
【マル所長】「やはり黒兎では戦闘は無理だねぇ……、二人での模擬戦は今日で最後だよ」
『じゃあ黒兎はどうするんだ?やっぱデータの消去?』
【マル所長】「そういう声もあるけどねぇ、なんとか"元の方"に戻せないものかと」
『それは反対だよ、あんな世界……どうせあの"結果"に辿り着くぐらいなら、ここに居た方が幸せだ』
【マル所長】「それは黒兎が決める事だよ……どちらにせよ今の技術じゃ強引にデータを戻す事は出来ない、とりあえずコロニーに戻って来な」
『だそうだ、帰るよ黒兎』
【黒兎】「……ん」
二機は研究所コロニーへ戻ると、格納庫で二人の白衣を着た人間の女性が出迎えた。
一人は老齢で白髪の所長マル、もう一人は四十台ぐらいの中年女性、副所長の"ロネーズ"である。
「黒兎は私が預かる、もうG・Sで戦わせる事も無いでしょう」
そう言ったロネーズはコクピットでうずくまる黒兎の手を引いて、格納庫を後にした。
『あいつは本当に"俺だった"のかね……、ところで所長、ラフマーはどこ行ったんだ?』
「アルクトスの首都に行ったよ、"調略"さ、戦いはドンパチだけじゃ無いからね」
『アルクトスはまだキャロルの支配権にあるんだろ?だったら俺達もこんな小さなコロニーでコソコソやらずに、首都でやればいいじゃないか』
「中立国で目立つ軍事行動は出来ない事と、既に議会の三分の一がダキニの手駒になりつつあるらしいからねぇ……結構ギリギリなのさ」
『ふーん、じゃあここに攻めて来る機体が現れたらいよいよって事か』
「そういう事だから模擬戦でも真剣にやるんだよ……あっ、そうだ!」
『ん?』
「ロネーズが黒兎の担当をする事になったからね、あんたにも"担当"を一人付けるよ、わたしゃ忙しくて無理だし」
『別にいらないでしょ、俺は子供じゃないんだし』
「アンドロイド身体のメンテだので必要なんだよ!今から呼んで来る」
マルは通信機器で一人の人物を格納庫に呼び出した。
来たのは十代に見える背の低い女性、髪は後ろ結びのポニーテールで丸い眼鏡をかけており、美しいと言うよりも可愛らしい人だと言うのが白兎の第一印象である。
「私の娘の"シルビア"だよ」
『娘!?所長七十歳ぐらいじゃん……』
「養子だよ!デリカシーが無いねぇ……ほらシルビア、挨拶なさい」
紹介された女性は白兎に近づいて緊張気味に答えた。
「アクランド研究員のシルビア、二十五歳じゃ、白兎殿これからよろしく頼むのう!」
『二十五歳!?それに"じゃ"って……何かのキャラ付け?』
「違うじゃ!」
「あぁ~、シルビアは辺境開拓民出身で、その地方特有の"訛り"があるんだよ、それがあんたに内蔵されてる翻訳機能が反応してそう解読されてるんだろうよ」
『そうなのか……それは済まなかったな、よろしく!シルビア』
握手を交わす二人、こうして相棒となったシルビアとの生活が始まった。
シルビアは明るく、白兎に対して積極的に異世界の事を聞くなど、話しかけられる性格だったので二人は直ぐに仲良くなる。
そんな日常を良い意味では平和、悪い意味では退屈とも白兎は捉えていたが、半年後に事態は動く。
白兎とシルビアは食堂室で雑談をしていると、突然施設内のスピーカーからアラート音と警報が流れ始めた。
《コロニーに惑星軍と思しきG・S小隊が探知衛星を破壊しつつ接近中、スタッフ各員、第一種戦闘配備》
「遂にこういう日が来てしまったのじゃ……」
『だからこそ俺が召喚されたんだろう、行こう』
二人は格納庫に向かうと、白兎はラスター2に乗り込んで出撃の準備をする。
「装備は?」
『ライフル1、小銃1を両方実弾で、それとナイフ2本で行く』
「了解じゃ、ほい換装終了!いつでも出れるぞ」
『仕事が早いね、ハッチ開放して、出撃する』
「白兎、死ぬんじゃないぞい!」
『ロボに死って概念あるか知らんが……善処するよシルビア』
アクランドのコロニーから出撃した白兎は敵部隊予測進路でライフルを構えた。
『敵機五、全てこちらと同じラスター2か、さて……初めての"実戦"敵さんはどんなもんか』
【マル所長】「白兎、もう出たのかい!?今、他の警備兵も出させるからそれまで……」
『もう落とせる距離だが?』
【マル所長】「まだそのライフルじゃ届かない距離だろ?」
『そんなの公式が勝手に言ってるだけだ、宇宙での実弾に射程外は無い、放つ――』
ドン!ドドン!ドドン!
『終わったよ……』
【マル所長】「は!?」
『偏差した初弾で全機コクピットに命中、正規軍でこの程度か、ガッカリだな』
オペレーター達がレーダーを確認すると、確かに敵機は行動不能になっている。
全て一発の弾丸で通常射程外からパイロットを殺害、想像以上の実力に所内はどよめくが、ほとんどの職員が白兎に抱いた印象は期待では無く、不気味さや恐怖であった。
その後もコロニーへとダキニにそそのかされた惑星軍の反キャロル派勢力が襲撃に来ることがあり、日を追うごとに部隊の規模が大きくなって行く。
何度も研究コロニーを変えても事態は変わらず、襲撃の度に白兎が瞬殺しても所員達が抱く重苦しい雰囲気は次第に増して行った。
「なんで居場所がバレるんだ!?」
「内通者が居るんだろ……」
「もうやだ……こんな本格的な戦いになると思わなかった」
「俺は降りる!」
「なぁ、俺等警備兵って居るのか?そろそろアルクトス正規軍に戻りたいんだが」
「どうせあの不気味なアンドロイドが倒しちまうしな」
「AIと敵対してるのにエースをAIに任せるなんて……どうかしてる!」
「お前ら軍人として情けなく無いのか!あんな機械に仕事を奪われて!」
「でもあいつ無茶苦茶強いよ、たぶん帝国の春日並みだ、任せて本土に帰ろうぜ」
150人居た研究員、戦闘員も徐々に退職や異動希望を出して去って行き、コロニーに残った者は僅か20人程となる。
「じわじわと着実に詰められてるねぇ、命を賭けるとした志願者を厳正に選んだけど、いざ事が起きたら脆いもんだよ」
所長室で事態を憂いるマルにラフマーは達観したかの様に語り掛けた。
「だが逆に情報漏洩や内通のリスクが低くなった、軍事行使にも白兎が対処してくれる」
「こちらもそろそろ動かないとねぇ……、対ダキニ用のウイルスプログラムは完成しつつあるよ」
「だが最低でも二種類は欲しい所だ、失敗した時の保険にな」
「電子の怪物が相手だからねぇ、肝心のウイルスを撃ち込む本体は特定出来たのかい?」
「あぁ、今現在ダキニが成りすましている相手はテレラ政府、保健福祉長官の"カルトリ・シャクティ"だ」
「次期大統領候補って言われてるあの女かい」
「盲点だったよ、まさか軍事や経済よりも"医療"の中枢を握って支配を広めてたなんて……、今は電脳だけじゃなくて人工臓器にもナノコンピューターが入ってるから、その名の通り心臓を乗っ取られる様なもんだ」
「自身のデータを入れた医療機器を独占的に認可させてバラ撒き、移植した人間を脅すなり操るのかい、人間の弱い所を突く寄生虫だねぇ」
「奴の進撃もここまでだ、我々が開発したウイルスでダキニというキャロルが生み出した罪の一旦を消すことが叶うだろう……私が命を賭けて成すべき使命なのだから」
「……ラフマー、あんま根を詰めすぎないで、たまにはあの子と会って話しでもしなよ」
「そうだな……、だがもう私には時間が無い」
一方、格納庫では白兎とシルビアがG・Sのメンテナンスを行いながら会話をしている。
白兎はシルビアとの他愛の無い会話が楽しみの一つとなっていた。
『最近は初弾で落とせない敵や見た事無い機体も投入されてるな』
「それだけ相手も本気になって来てるって事じゃのう、ところで質問なんじゃが」
『ん?』
「なんで白兎は実弾銃器に拘るのじゃ?ビームの方が軽いし出力調整も出来るぞ」
『う~ん、なんと言ったらいいのか……実弾みたいな物質だと、自機から放たれた後でもまだそこに"自分の意思"が繋がっている様に思えるんだ』
「へぇ~、電子の福音だったかのう?その能力と関係あるのかえ?」
『いや、たぶん気持ち的な物だろう』
「本体から離れてもか……、もしや白兎は元の世界に帰りたいのじゃないのか?」
『それは無いよ……有り得ない』
「でも黒兎の事もあるしのう……」
『シルビア、元の世界にあった映画やアニメとかでさ、アンドロイドやクローンで"自分は本当の自分じゃない"と知ったキャラはショックを受けるんだけど』
『俺の場合は違った……オリジナルじゃない事が凄く嬉しいんだ』
「白兎……」
『そう、俺は戦闘AI白兎、G・Sで向かって来る敵を殺し続ける、それだけの機械』
その言葉を聞いたシルビアが何か発っしようとした時、スピーカーからアラートが鳴り始めた。
《敵影確認、数不明、総員、第一種戦闘配備》
『最近多いなぁ、シルビア、システムチェックを』
「う、うぬ……!」
《第一G・S警備兵、コロニーから離れ過ぎです、迎撃の命令は出てません、警備兵!戻りなさい!》
施設内放送でイラついたオペレーターの声が響き渡る。
『なんだ?』
「コロニー外周警備担当のG・Sが、無断で敵影に向かってる様じゃ!」
『裏切りか?……とにかく早く出撃しよう』
「うぬ……白兎」
『ん?』
「わしはそれでもお主に"人間"であって欲しい、だから出来る限り人は殺すな」
『ぷっ、なんだよその理屈、人だって人殺すのに……まぁ善処しとくよ』
そう言い白兎はラスター2に飛び乗ると、シルビアは右手の拳を掲げ、人差し指を広げた後、親指を上へ示すポーズをする。
これはG・Sパイロットを送り出す時に"幸運を祈る"為の願懸けで、白兎もハッチが閉まる瞬間、隙間から見える様にシルビアに対して同じポーズを返して出撃するのであった。
命令違反で敵機に向かって行ったのは三機、表向き警備兵だがアルクトス軍の兵士である。
彼等はキャロルに対する忠誠心はあったが、敵であるダキニと同じAIである白兎に対して嫌悪感を抱いており、模擬戦や作戦行動を一緒にする事は一度も無かった。
『こちら白兎、警備兵三名、今すぐに帰還してください』
【警備兵A】「黙れ機械風情が!」
【警備兵B】「我々は決して機械や惑星軍に遅れはとらん」
【警備兵C】「ここで手柄をあげて、貴様が不要だとラフマーさんに認めさせるのだ!」
裏切りで無いと分かったが、白兎は呆れかえる。
今までコロニーに襲い掛かって来る惑星軍をあっさり倒せたのは、あくまでも白兎の実力があったからだ。
戦争が形骸化されたとはいえ、実戦経験が惑星軍と中立国であるアルクトス軍では差があり、このまま三機が戦闘に入れば結果は明らかである。
『もうすぐ敵機の射程に入りますよ、下がって!』
【警備兵A】「分かってる!黙って見てろポンコツ!」
先行した警備兵三機に追随する白兎、前方に複数の惑星軍G・Sをレーダーに捉えた瞬間、敵機から放たれた飛翔体が高速で三機に向かってくるのに気づく。
『来るぞっ!』
飛翔体をギリギリで躱した三機。
【警備兵B】「躱せた、俺達だって……」
『バカ!単発弾じゃなくて榴弾だ!』
【警備兵C】「は!?」
ドンッ!!!!
躱された飛翔体は直ぐに破裂し、内部から飛び出した小型の金属の球が三機に降り注いだ。
ガガガガガガッ!
【警備兵B】「あ、あぁ……ザ――……」
三機の内二機が大量の破片をボディに浴びて、パイロットは死亡、行動不能となる。
残り一機も半壊してろくに動けなくなり、警備兵はパニックに陥り、ビームガンを連射し始めた。
【警備兵A】「あぁぁぁっ!!やめろ……ちくしょおぉぉぉ!!!!」
『それじゃ駄目だ、位置を教えてる様なもんだぞ!』
白兎は遠方の敵機から二発目の榴弾が発射された事に気づく。
前方で駄々っ子の様にビームを撃つ警備兵への直撃弾になる事を確信した白兎はライフルで榴弾を打ち落とそうと考えたが、弾道が警備兵と重なってしまい動きが遅れた。
『仕方ない、リスキーだが』
白兎はライフルを構え、警備兵の機体背部にある姿勢制御装置を打ち抜くと、機体は激しく縦回転を始める。
【警備兵A】「わあぁぁぁぁ!!た、助け……」
即座に二発目を放ち、プロペラの様に回転する機体の隙間を通して迫りくる榴弾にぶつける神業を成し遂げた。
なんとか榴弾から救ったが、今だ警備兵が危機的状況にある事は変わらない。
この時、頭を過ったのは出撃前のシルビアとの会話――
「お主に"人間"であって欲しい、だから出来る限り人は殺すな」
だが警備兵を守りながら敵機を行動不能にする事は困難で、さらにはコロニーへの危険性も増す。
『……ちくしょう、だから一人がいいんだ』
白兎はライフルで敵機のコクピットを狙い撃ちする。
最短で、繊密で、冷徹な狙撃で次々と敵パイロットを撃ち続け、警備兵一人守る為に二十二人の敵パイロット殺害したのであった。
戦闘を終え、格納庫に戻ると救助された警備兵が担架で運ばれる最中だったが、白兎を見た途端に罵声を浴びせ始める。
「あいつが俺を撃ちやがったんだ!やっぱあいつは仲間すら狙う殺人マシーンなんだよ!今すぐ追い出せよ!!」
そのまま医療班に押さえつけられながら運ばれた警備兵に白兎は何も言い返せなかった。
シルビアとの約束を破ってまで助けた人間からの仕打ちで頭が真っ白になり、虚しさだけが駆け巡る。
それ以降、白兎は他人との距離を今まで以上に取る様になり、唯一シルビアには心を開いていたが……。
数日後のある日、いつもの様に格納庫でメンテナンス作業をしていると――
「わし、ラフマーと結婚するのじゃ!」
『え!?』
笑顔でそう答えたシルビアに一瞬動きが止まった白兎。
ラフマーとシルビアは同じアカデミーと言う話を聞いた事があり、たまに二人で話している所を見たことがある。
流れ的には自然であったが、白兎の胸の奥底でモヤモヤとした、プラスチックを燃やした煙を肺に流し込まれた様な気分が現れた。
『それは……おめでとうございます、シルビア』
それでも白兎はシルビアに祝福の言葉を贈る。
今、抱いた感情は"嘘"である、自分の役割はG・Sで戦えればいいだけの"戦闘アンドロイド"であると己に言い聞かせながらも
この世界はゲームや漫画の様な世界では無く、自分は主役では無いもう一つの現実であると、白兎は感じ始めるのであった。
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惑星テレラを司る銀河の辺境に小さな廃コロニーが漂っている。
そのコロニーへと近づく長距離航行艦があった。
司令官は惑星同盟軍大佐"ザトー"、髪は長いドレッドヘアー、筋骨隆々の四十代男性。
「接舷しろ!俺と数名で乗り込む、他は周囲の警戒!」
誰も居ない廃コロニー内部に部下数名と乗り込んだザトーは一機のG・Sを見つけた。
「くっくっく……こんな所に隠してやがって、ついに見つけたぞ!先々代キャロル、"シヴァ・ルドラ"の超機体を」
「伝説の"超機体"本当に実在してやがったのか、やりましたねザトーの兄貴!」
部下の一人が興奮気味にザトーに話しかける。
「おう!"チャガマ"よ、これで生意気なナバイや帝国の春日なんぞぶっ潰してやる……、だがまずはキャロルを守る"ジャバウォック"からだ」
「ジャバウォック、最近惑星軍で騒がれてる姿を見せずにコクピットに弾丸を撃ち込んでくるG・S乗りっすか……すぐにでもヤリに行くんですかい?」
「いや……超機体だけじゃなく、俺自身の"改造"も入れる」
「改造?」
「あぁ、軍で実験してる特殊な培養細胞とナノマシンを組み合わせた物を移植する電脳化だ、これをやれば反応速度が数十倍に跳ね上がる……誰も俺を止められなくなるぜ!あのエボニーですらなぁ!」
「キャロルだろうと邪魔する奴は許さねぇ、我が指導者"ヴォルペ"と共に再びテレラの血が世界の中心である世を実現させようじゃねぇか!!」
ルドラが何の為にこの超機体を造り、辺境に隠した理由は分からない。
彼の遺した最強のオーバーテクノロジーが、凶暴な民族主義者に渡った結果がそこにはあった。




