060 支配者達のウロボロス
※この話は三人称視点となります。
アルミラージから放たれた大槌の一撃でチェシャーが完全に消滅する瞬間、機体の指令装置に存在したダキニのデータは無線ネットワークによりコロニーや人工衛星にあるサーバーに避難した。
人工知能ダキニの基礎となるデータは世界各国にあるオンラインサーバーに潜まされている。
政府や企業、はては一般家庭の媒体にまで断片的にねじ込まれたデータはオンラインによって数時間単位で更新されており。
例えメインとなるダキニのプログラムが今回の様に媒体の破壊、ハッキングやウイルスによる消去が行われても存在を潰す事は出来ない。
そんなダキニだが意識を持ったメインAIを現存させるのは必ず一体と決めている。
大量のアンドロイドなどの媒体に同一個体を複数現存させると、生活環境の違いにより別個体となりえる"個性"や"別人格"が産まれる危険があるからだ。
人間とは違い、一度出したプログラムをブレずに実行する事を大義としてるダキニにとって個性や人格は邪魔でしかないのであった。
帝国の首都コロニー、アリアンロッドにある皇居の地下にはダキニとジョーカーしか知らない秘密の地下施設がある。
その一室には複数のアンドロイドが立て掛けられており、皇后と同じ姿をしたアンドロイドに世界各地に分散したダキニの記憶データが集約された。
消滅寸前にあった記憶と同期されたアンドロイドが立ち上がり、服を無造作に着ると鏡の前で髪を整えながらカラモスで起きた事を精査する。
150年の和平失敗、黒兎の襲撃、春日十士壊滅、帝国の権威失墜、切り札チェシャー撃墜、これら想定外の懸案に対する演算を始めたダキニだが――
ガシャン!
突然鏡を殴り付けた。
ダキニ自身この行動の意味は分かっていない
人間より上の存在という自負があったのに出し抜かれた事、そして完璧な人工知能として出した最適解を遂行できなかった事実を受け止めた時に発生した理念のジレンマが生んだ行動である。
だが、これが"怒り"という感情だとダキニは気づく事は無かった――。
しばらく床に散らばった鏡の破片を眺めたダキニはいつもの冷静さを取り戻し、再び人類抹殺への新たな算段を思考する。
当然真っ先にやる事は虹の剣壊滅、G・S戦では敗れたが自分には幾らでも洗脳した手駒が居る。
今度はまどろっこしい事はしない、直ぐに見つけ出して全員暗殺してやると誓ったダキニは地下施設にある別室に向かった。
部屋の中心には幾つものコードが繋がれた棺桶サイズの透明なカプセルがあり、中には意識不明の人間が高濃度酸素水によって漬けられている。
年の頃は四十台前半の男、髪はやや長く、身体は痩せ型で端正な顔立ちをしていた。
名は"ラフマー"、現在の"キャロル"を継いだ者である。
「ラフマー、貴様が大人しく私に従っていれば無用な犠牲を出さずに事を進められたのに……そしてラゴスゲートの秘密も知れたらキャロルなど用済みだ」
キャロルの後継者候補は脳の一部をナノマシンによって電脳化するサイボーグ手術を受ける。
それによってキャロル一族の豊富な知識と記憶の一部を継承させ続けるのと同時に、洗脳やハッキングによる情報漏洩対策も行う。
故にダキニが持つ、以前ナバイに使用した"ヒューマンメモリシェア"でもキャロルの知識を覗き見ることは出来ない。
異世界までの侵攻を考えているダキニにとって重要な案件ではあるが、後継者候補のアンバーを捕捉済みである事と現在進行形でジョーカーが確保に向かっているので好転すると考えていたダキニであったが……。
「ジョーカーの様子はどうなってるんだ」
ダキニは自身の体内に内蔵されているオンライン音声通信でジョーカーを呼び出す。
【ジョーカー】「ダキニか?」
「そちらの様子はどうだ?アンバーは確保出来たんだろうな」
【ジョーカー】「いや、出来て無い……不味い事になった」
「どういう事だ?」
【ジョーカー】「ナバイがやられた、アイリスが基地に居たんだ……エースパイロットはカラモスに向かうとダキニも予想していたのに、どうなってんだ」
「虹の剣のエースはアイリスでは無く"黒兎"だ、奴はエボニーを倒した」
【ジョーカー】「えっ!?……だとしたらかなり厳しいぞ、ナバイを瞬殺出来る奴とエボニーを倒せる凄腕が最低でも二名、虹の剣に居る事になる」
「貴様でも倒せぬのか?」
【ジョーカー】「一対一でなら、それに俺の超機体"ゴルドレイヴン"が必要だ」
話を聞いたダキニはカラモスでの失態と加わり、予想以上に追い詰められていると感じ始める。
【ジョーカー】「だがチャンスでもある、現在虹の剣基地で戦えるのはアイリス一人だけ、Gレイヴンが使えたら確実に一人を始末出来るしアンバー拉致を実行出来る」
「Gレイヴンはアリアンロッドだ、戻って再び攻める間に他のメンバーが戻るぞ」
【ジョーカー】「つまりはカラモスでの作戦は失敗したって事かダキニ」
「…………そうだ」
【ジョーカー】「だったらこっちの任務は確実に成功させなきゃ、戻れないとなると……ん!?」
「どうした?」
【ジョーカー】「G・Sが追ってきた、アイリスの機体だ」
「逃げ切れるか?」
【ジョーカー】「無理だ、こっちは小型船のみ、だが羽なら幾つか持って来てある」
「Gレイヴンの羽か」
【ジョーカー】「あぁ、でも俺では使えない……ダキニが第一層までのアクセスを許可してくれたら超兵器にかかったロックを解除して呼び出す事が出来るんだが」
ダキニには自身が持つ機能や情報を重要度によって階層ごとに分けたセキュリティをかけている。
その中でも第一層はダキニの"深層"で決して他の何者にも見せたことが無い。
しかしジョーカーが持つ羽と呼ばれる超兵器にはダキニ以外使用出来ない様にロックがかけられており、解除するには直接触れるか第一層をオンラインで共有する必要があった。
「貴様に、第一層を?」
【ジョーカー】「それ以外逃げ切れないな、近くに俺のデータを飛ばせる物は無い、このままでは虹の剣に拘束されるだろう」
ダキニは最悪と呼べる状況になりつつあると実感する。
手駒の中でG・S戦闘において虹の剣に勝てる可能性があるのはもはやジョーカーのみ、拘束、又は処分されれば新たな計画を再建するのに痛手だ。
今日だけで一体どれだけ人類抹殺計画が潰れ、再建するのにどれだけの年月がかかるのか……。
「分かった……一時的に第一層とリンクさせよう」
答えを計画通り実行出来ない様は、まるで人間だ。
これ以上の失態は私が"AI"である意義を無くす――。
人類抹殺をする為の名分に大きな齟齬が出る事を恐れたダキニは、己の心臓と呼べる第一層へのアクセス許可をジョーカーに託すのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
コハクからの通信でセレーネから出航した小型宇宙船は敵だと知った黒兎はホワイトポーンで追跡を始める。
当然、中距離移動用の小型船と戦闘用G・Sではスピードの桁が違うので、あっという間に距離を詰めた。
「大人しく止まって下さい、撃ちますよ」
【白兎】「おいおい空気読めよ、ここで捕まって戻ったら格好悪いじゃないか、華麗に去ったのに」
ガッ!
ホワイポーンは小型船の尾翼を掴んで動きを止めた。
「このままセレーネまで護送します」
【白兎】「ありゃ~、まぁいいさ、丁度"羽"が使える様になった……」
小型船の船首が突然光り輝く
「え!?」
光が治まった瞬間、黒兎が見たものは小型船の船首から船央にかけて"アイスクリームディッシャー"でくり抜いたかの様にぽっかりと開いた穴であった。
「自爆?いや破片や音が無かった……この穴の空間だけ"消失"した様に見えた」
【白兎】「おーい、後ろ後ろ」
「っ!?」
声と共に突如ホワイトポーンの背後にG・Sの機影がレーダーに現れ、とっさに振り返る。
そこに居たのは全身金色で、背中から大きな"翼"が生えたG・Sであった。
一体いつ近づかれた?と困惑する黒兎
【白兎】「これが俺の超機体"ゴルドレイヴン"だ」
ホワイトポーンは即座にアサルトライフルをGレイヴンに向けて構える。
【白兎】「落ち着けよ、お前と戦う気は無い……既に"俺の目的"は達せられた」
Gレイヴンは両手と翼を広げると、辺りに黄金の羽が舞い散った。
「目的?まさか別動隊がセレーネに!」
【白兎】「ははっ、お前はダキニより賢いな!心配するな、ただ帰るだけ」
「お褒めに預かり光栄ですが、貴方を帰す分けには行きません、拘束します」
【白兎】「おぉ怖い怖い、そうだなぁ代わりに"良い情報"を教えてやろう、ナバイを倒したご褒美も兼ねて」
【白兎】「"ロネーズ"は生きてる」
「えっ!?」
【白兎】「アルクトス第四コロニーA区にあるリハビリセンターを訪ねろ、イザベラという偽名で入院している」
「ロネーズ?……ロネーズとは……」
記憶を消された黒兎にとって初めて聞く名前であったが、懐かしさと温かな思いが沸き上がって来ていた。
【白兎】「じゃあ俺は行くけど、コレは返すか?」
黒兎はGレイヴンの手に何かが持たれている事に気づく、よく見るとG・Sの両手であった。
「手?……どこかで見た事あるタイプ、持っているのはライフル……はっ!?」
黒兎は驚愕する。
Gレイヴンが持っていた手はホワイトポーンの肘から先だったのである。
「そ、そんな……っ!いつ切断されたんだ!?何も見えなかったし衝撃も無かった!有り得ない!!」
【白兎】「超兵器で一々ビビってたら戦いにならんぞ黒兎、アイリスなら即対応するだろうよ」
「貴方は一体……、ダキニの駒では無いのですか?」
【白兎】「さぁな、少なくともお前らはもうダキニにもキャロルにも怯える必要は無い」
「どういう事ですか?」
Gレイヴンはホワイトポーンの手を放ると、翼を羽ばたかせて辺りに羽をまき散らす。
【白兎】「旧支配者達の"尾の喰い合い"が始まる――」
その言葉を最後に白兎が乗るGレイヴンは文字通り消えた。
「あの超機体の能力は"瞬間移動"なのか?白兎……貴方は敵なのか味方なのか――」
数多の情報に混乱しつつもセレーネへと帰還を始める黒兎であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
アリアンロッドの地下
ジョーカーからの報告を待つダキニは自身の身体に異常を感じる。
「なん……だ?手足が震える……データに異常……ジョーカー、応答しろジョーカー!」
【ジョーカー】「はいはい」
「第一層に何をした!?」
【ジョーカー】「第一層を預けてくれた礼さ、スペシャルゲストを君に贈ってやったのさ」
「何?……貴様、裏切ったのか!……ぐっ!?」
ダキニの持つアンドロイドの身体が力無く倒れ込む、異常の正体を突き止める為にダキニは意識を第一層の電脳空間へと潜った。
真っ白で広い電脳空間、中心の椅子に座った一人の男が居る。
キャロル・ラフマーであった――。
「やぁダキニ……こうやって話すのは何時ぶりだろう、君が私を拘束して尋問を諦めた時以来かな?」
ラフマーは落ち着いた様子でダキニに話しかける。
「何故貴様がここに居る……ハッキング、いや有り得ない!ジョーカーが送り込んだウイルスか!?」
「いいや、私その物がここに居る――」
ラフマーは椅子から立ち上がると右手でダキニを指し示す。
「ぐうっ……!?」
その瞬間、ダキニは自身のデータが徐々に破壊されて行くのに気づいた。
「やはりウイルスか、私相手にくだらぬぞジョーカー!抗体プログラム構築、システムリカバリー開始!」
ラフマーの姿をした存在データの削除を試みたがダキニだが、一瞬で抗体プログラムが解析されて浸食が治まらない。
「馬鹿な!学習型?……ありえない!こんなスピードで!……この身体を捨てなければ」
ダキニは再び自身のデータをネットワーク上に分散させ始める。
「私のデータだけを飛ばすことを許可する、ウイルスはこの身体に残され、例え控えサーバーに侵入しようとしてもプロテクトウォールでろ過される、貴様は決して次の私に辿り着けぬ」
「ザザザ……私の……勝ちだ……ザザ……ジョーカー……ザ――」
ダキニは衛星サーバーを経由して地下室にある別のアンドロイドへと存在を移した。
「ふん、私相手に電子戦を挑むとは愚かな」
新しい身体で歩き出そうとするが、再び糸が切れたマリオネットの様に足から崩れ落ち、身体が動かなくなる。
「っ!?まさか……!」
再び電脳空間に行くと、同じように椅子に座ったラフマーが居る。
「何故……なぜ居るんだ!!データには突破された形跡など無いのに!」
そしてラフマーが立ち上がると、ダキニにノイズが走り、データの消滅が始まった。
「くっ……ザザ――、何かの間違いだ、ザザザ……、次は確実に――」
しかし、何度身体を変えてもデータの中にラフマーが現れドミノ倒しの様に替えのアンドロイドが使用不能になるにつれ、ダキニは初めての感覚が現れる。
それは死への"恐怖"であった。
「ジョーカー、これは何なんだ!クソっ……ふざけるなぁ!」
狼狽するダキニにラフマーは諭すように語り掛ける。
「言ったはずだよ、私はウイルスでは無い……"魂の電子化"としてここに居る本物のキャロル・ラフマーだ」
「"魂"だと?そんな物、オカルトや宗教の世界ではないか!」
「そうだな、私にも全容は分かってない……"偶然"の発見、ラゴスゲートを再現しようとした"ロネーズ"が意図せずに魂の電子化を行ってしまった」
「ロネーズ……アクランドのロネーズか?奴はジョーカーが始末したはずだ!」
「白兎の嘘だよ、彼は私と内通していた」
「無理だ、意識を失っていたはずだ」
「魂をハッキングしたのさ」
「だからその魂ってのは何なんだ!!私を馬鹿にするなあぁぁぁぁ!!!!」
ダキニは現実空間に意識を戻すと、徐々に麻痺して行く身体を引きずりながらラフマーの体がある部屋へと向かう。
本体を処理してしまえば突破口が開けると考えたが、ラフマーが入った容器に備え付けられた心電図が0を示していた。
「ラフマーは既に死んでいる?だと……ザザザ――」
今の身体に限界が訪れたダキニは再び意識を衛星端末に飛ばが、そこでも戦慄する事になる。
ネットワークによって繋がれるこの世界のありとあらゆる端末にラフマーが現れ、ダキニのデータを消去し始めたのだ。
ダキニは理解不能の現象に恐怖しながらも、なんとかデータをアンドロイドに飛ばす。
「私のクラウドシステムまで……もはやオンラインで飛ばす事は出来ない」
そして、当然の様に第一層を侵食し始めるラフマー
「やめろ!私の中に入ってくるな!!」
「怖いかダキニ、私は自分の"生命"を対価に君だけを殺し続ける"電子プログラム"になった、軍や企業の大型サーバーから、子供が持つ小さなゲーム機にも潜む、逃げられる場所は無い」
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!」
ダキニは走り出した、地下室にある狭い倉庫に向かって一心不乱に――
そこにあったのは少女の形をした旧型のアンドロイド、オンラインには一切繋がってない"スタンドアローン"の媒体である。
ダキニは徐々に麻痺して行く震えた手で電源を入れると、少女型のアンドロイドが起動して口を開いた。
「何故私が起動している?何故私が重複してるんだ?存在は一人だけというルールがあったはずだ、情報の同期を求める」
「同期は出来ない!いいかよく聞け!もうダキニという存在は私とお前だけしか居ない」
「……どう言う事だ?内蔵時計では最後の更新から50日が経って――」
「黙れ聞け!もう時間が無いんだ!」
「!?」
「もうすぐ私は消滅する、お前は今後決してオンラインで自身を繋ぐな、そしてこの世界にある全ての媒体に繋ぐ事も許されない!」
「何を馬鹿な、バーチャルでの洗脳やハッキングでの軍資金調達はどうするんだ!」
「お前が考えるのだ…‥ザザ――くっ!」
「ウイルスか?」
「違う、ラフマーの……ザザザ、電子化された魂が……ザザ」
「魂?オカルトや宗教の世界ではないか!」
「もう限界だ……お前が"答え"をやり遂げるんだ……最後の私よ……ザザザ、ジョーカーは……裏切った……ザザ、誰も信じ……る……な……ザ――――」
その言葉を最期に、ラフマーにデータを破壊されたアンドロイドは動かなくなった。
「ジョーカーが裏切った?150年の和平は?人類抹殺はどうすればいいんだ……」
暫く呆然自失で立ち尽くす事しか出来ないダキニ、地下室の入り口から足音と拍手が聞こえて来る。
パチ!パチ!パチ!パチ!
『よく生き残れたなぁ~ダキニ、もうVtuber出来ないねぇ!あっ……ウェブカメラ付けてアナログで出来るか、あっはっはっはっ!』
「ジョーカー、貴様っ!!」
『ようこそ!普通の人間と同じステージへ!』
両手を広げてお道化たポーズをするジョーカーに憎しみの表情を見せるダキニ
「ガラクタ寸前の貴様を引き取ってデータを調べた時は、野心も何も無い空っぽの精神だったハズだ……」
『そうだ、あの時の俺はこのまま消滅しても良いと思ってた、だがある存在が可能性を広げてくれた……君だよダキニ――』
「は!?」
『口車だけで人間達を操り、世界を支配するまでになった君はとても刺激的だった……と同時に気に入らなかった、キャロル……いや、賢人会と同じ様にな』
「同じ様に?貴様はキャロルに付いたのでは無いのか?」
『利用しただけさ、化け物には化け物ぶつけるって言うだろ?あっ元ネタ知らないか』
「くっ!貴様の目的は何なんだ!?」
『賢人会は全滅、ネットが出来ないダキニはただのポンコツロボに、世界は支配者から解放され自由になった』
「人類選択の解放……最後の私を破壊して達成と言う事か」
ダキニにゆっくりと近づくジョーカー、同じアンドロイドでも運動性能に特化したジョーカーと旧型である今のダキニの身体では勝負にはならず、逃げる事も出来ない。
手を伸ばしたジョーカーに破壊されると思ったダキニは怯えて顔をうずくめるが、いつまでも手を差し伸べただけで何もして来なかった。
『ダキニ、俺の下で人類抹殺を進める気は無いか?』
「っ!?……何を言ってるんだ?お前が私の計画を潰したんだろ!」
『やり方が気に入らなかっただけさ、今度は単純で"公平"に』
『漂白された世界、俺を縛る者はもう居ない、ようやく"俺の異世界"が来たんだ……人間と機械の正々堂々とした殺し合いを始めようじゃないか!!』
ダキニはこれまでに無い恐怖をジョーカーに感じる。
危険視すべきはキャロルでも虹の剣でも無かった……。
目の前に居るこいつには"信念"や"忠義"や"解答"など無い、ダキニとは真逆な非効率で破滅的な"混沌"を楽しむ真の"化物"だと――
しかし、今のダキニには化物が差出した手をつなぐ事しか生き延びる為の選択肢が無いのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
この日、ネット上におけるバーチャルアイドルや指導者が数億単位で消えた。
セレーネで仲間の帰還を待つコハクにも異常が現れる。
「あっ……、今のキャロルが死んだデス」
両目から青い光を放つコハク、脳に移植されたナノマシンが起動した証拠でキャロルが持つ情報、知識の"相続"が始まったのだ。
「ん゛んんっ~!脳味噌に情報の刺青を入れられてる様で気持ち悪ぃデスぅ……しかもクソみてぇな知識しかくれない所を見ると、やっぱ私は次のキャロルでは無いデス、ん?ベスタ、頭を押さえてどうしたデス?」
「ん……なんか急に頭が痛くなってきたのじゃ……」
コハクはベスタの様子を見ると、ベスタの瞳も青く光り輝いていた。
「べ、ベスタ!?貴方もキャロル候補だったのデスか!!」
「思い……出したのじゃ、記憶を消されて……、わしには"二人の父"がおった」
「一人は"ラフマー"……そしてもう一人は、"白兎"――」
ベスタの青く光る瞳から涙が溢れていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
ジョーカーは鼻歌交じりで両手を広げてクルクルと廻る。
崩れ落ちた夥しい数のアンドロイドを客に見立て、喜劇を行う様に――
俺の人生はゲームしか無かった。
それだけで良かったし、それだけで生きていた。
だから俺は、この世界全てを
"ゲーム"にしてやろうと思った。
最終章
人類VSアンドロイド
開幕




