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059 +1%のイマジネーション

 (まばた)きの様に目の前が赤くチラつく。


 アンドロイドの身体に搭載された、警告時に瞳のランプが赤く点滅する機能のせいだ。


 頭に搭載されたCPU(思考処理装置)の冷却が間に合わずに熱を帯び過ぎている。


 こんな時に黒兎が居てくれたら、対処方法が分かったんだろうな……。


 黒兎に対して一人で戦える様に(うなが)しときながら、俺の方こそ一人立ち出来ていなかったんだ。


 この世界で戦ってこれたのは、俺一人の力じゃない……、改めてそう思い起させる。


 目の前に居る巨大G・S"チェシャー"に勝てる要素が見つからない、全身が液体金属?


 昔見た映画の敵役として液体金属のアンドロイドが出て来たが、そいつは溶鉱炉に落として倒されていた。


 だがマイナス270度の気温になる宇宙空間で、溶鋼を作り出して巨大なG・Sにぶっかけるのは現実的では無い。


 逆にマイナス270度でも液体を保ってられるチェシャーは、凍結兵器などで凝固させて砕く事も出来ないという事でもあった。


 チェシャーは液化と凝固を利用した槍の雨と、身体から何本も触手の様な物を伸ばしてアルミラージに襲い掛かって来るが、俺は決め手を失い避ける事しか出来ないでいる。


 何かいい兵器……MRPで造形出来る有効な物は無いのか!


 細かくバラバラにすれば、核を作るか?一応は可能らしいが、核エネルギーを作るのに何度も容器を造形して、不動のまま30分以上掛かる、実戦では無理だ。


 手詰まりか……、否、一つだけある――。


 だが()()()()はコハクさんでも全容が掴めてなく、危険で、俺が苦手とする分野を使う。


 そんな事を考えながらチェシャーの攻撃を躱そうとした時だった。


 ズガッガガ!


『え!?』


 槍がアルミラージの右足に直撃して吹き飛ぶ。


 嘘だろ!ちゃんと回避操作をしたハズ……相手が新たな戦法を使った分けじゃない、難なく回避出来た攻撃だ。


 俺の身体、アンドロイドの神経回路にガタが来てる?それとも俺の油断か?


 まだボディは大丈夫なはず、だとしたら後者……エボニーさんとの戦が終わってどこかフワフワとした気分になってたのか?


 落ち着け、気を戻せ、だがどうやって倒せばいい……。


【エボニー】「らしくないじゃないか!我に勝ったんだから、もっとしっかりするんだよ!」


 後方からミュースが高速で接近するのが見える。


『エボニーさん!』


 ミュースを修理して加勢しに来てくれたんだ。


 前までゲームや実戦をして来た中でほとんど一人でやってきたし、それで良いと思っていた。


 だが、チェシャーというどうにもならない敵相手に孤独と不安があった俺にとって、こんなにも心強い援軍は凄く安心した気分になる。


【エボニー】「受け取れ、若人!」


 ミュースからアルミラージに向けて何かが投げ込まれた。


『それは載力小太刀!?』


 斬った物を固定出来る超兵器、液体が斬れるか疑問だが、あれなら今の現状を打破出来るかもしれない。


『二人でなら!』


 小太刀を掴んでチェシャーに向かうミュースに追随(ついずい)しようとしたが……。


『なっ!?』


 小太刀を掴んだ自機の右手が固定されて、反動で盛大にすっこけた。


【エボニー】「カッカッカ!そーら、直ぐ油断するぅ!」


『何を!?冗談やってる場合じゃ……』


【エボニー】「すまんな若人、もう一緒に遊んでやれん!少しじっとしておれ」


『どうしてですか!二人で戦えば、ん?ミュースが抱えている物って……』


 ロケットの先端部、あの大きさ……"核弾頭"か!?すごく嫌な予感がする。


【エボニー】「参る!」


 ミュースは片腕で弾頭を抱えながら、小太刀を持った逆の手で突きを繰り出しながら、チェシャーの胸部に向けて突っ込んだ。


【ダキニ】「載力小太刀か、無駄な事を」


 突きの体当たりでチェシャーの胸に大穴を開けたが、固定の能力は斬った部分にしか発動しなく、液体金属のごくごく一部を砂鉄の様にしただけである。


【エボニー】「やはり同じ超兵器でも前期品では対応されておるか……」


【ダキニ】「春日の黒檀家エボニー、私は貴様を買っていたのだがやはり所詮は人間だったな」


 チェシャーは突っ込んできたミュースを自身の身体で包み込んだ。


【ダキニ】「ミュースでこの空域から逃げていればよかったものを……、このままチェシャーの身体で圧迫してやる、己の判断を後悔しながら潰れて逝け」


【エボニー】「子を成さずとも遺すもの有り、我が人生に後悔無し、されど貴様の思い通りでは死なぬ!」


 ミュースは抱えた弾頭を拳で殴り付ける。


【ダキニ】「核?わざと内部に潜り込んだのか」


【エボニー】「窮鼠(きゅうそ)最期の牙」


『やめろおぉぉぉぉ!!!!』


【エボニー】「さらば我が友よ――」


 ミュースから出た真っ白な核爆発の光がチェシャー、そしてこの空域全体を覆いつくした。


 ズドオォォォォォォォォォォォォォォ…………


――――――――――――――――――――――――――――――――


 超機体ミュース 【消滅】 春日十士 エボニー 【死亡】


――――――――――――――――――――――――――――――――


『あ……あぁ……』


 爆発による光や粉塵が収まっても目の前が歪んで見える。


 頭の中でエボニーさんとゲームをした時と父とゲームをした日々が交互に流れ、そして父が家から出ていく時の記憶も再生された。


 虹の剣の仲間達とはまた違う、再び好きな事の"理解者"を失った事へのショックで呆然とする。


 暫く頭の中が真っ白になっていたが、爆心地の空域方角で灰色の巨大なアメーバの様な物が再び人型に変形する姿が見えた。


『っ!?……まさか』


【ダキニ】「愚かな、核一発ごときではこの99.99%液体金属を再生不能に出来る分け無かろう」


【ダキニ】「生き物の本質である遺伝子も残せず、戦いに明け暮れて歳を重ね、唯一の特技ですら敗北し、最期は無駄死に……、実に非生産的でくだらない人生だとは思わないか?黒兎よ」


 視界が赤くぼやける、喪失感からダキニに対する怒りの感情へと切り替わる。


『ふざ……けるな!』


 もう神経が焼切れようとも構わない、俺と機体が燃え尽きるまでこの小太刀で何度でも切り刻んでやる!


 後の事など考えて無かった。


 ダキニの言う、"愚かな人間"丸だし……否、人間から見ても愚かな向こう見ずを進もうとする。


 全ての推進装置を最大にして、チェシャーに向けて突撃を始めようとした時、声が聞こえた。


 もう居るはずの無い人の声が――


「そんな顔をするな若人よもっと楽しめ……人生は楽しんだ物勝ち、楽しんだら新しい想像が産まれる」


「限界を超えた想像力は無敵だ――」


 幻聴なのかは分からないが、もう二度と聞こえてこない事はなんとなく感じる。


 怒りの感情が無くなり、涙が溢れて来た。


 俺は自機を操作してコクピットのハッチを開ける。


【ダキニ】「どうした?己の身体を露出させて、やはり勝てぬと分かって降参か……」


 冷たい外気が身体を伝い、(CPU)が冷却されて瞳の中の赤い光(警告灯)が治まった。


 涙が一瞬で凍り、指で拭うとパラパラと舞う姿がとても綺麗に見える。


 気持ちが冷静になると、俺は二つの出来事を思い出した――。


――――――――――――――――――――――――――――――――


 一つは俺がまだ六歳だった頃。


 父と二人で近所にある定食屋で夕食を済ませた帰り道、夜空を見上げると満月が輝いている。


「おとーさん!月ピカピカ!」


「本当だ白華、月が綺麗だね」


「月にウサギみたいなのが居る!」


 俺が月の模様が兎みたいだと言うと、父は月模様のうんちくを語りだした。


「白華には兎に見えたのか……、月の模様は人々によって見え方が違うんだよ、カニに見えたりワニやロバに見える人も居るんだ」


「ワニには見えないよー」


「一つの模様でも人それぞれの考えや思いがあるんだよ、でも日本では兎が餅を付いてる姿に見える人が多いよ」


「うーん……、ウサギには見えたけど」


「ん?」


「ぼくは餅つきじゃなくて、"ウサギが月をぶっ壊す"様に見えたよ!」


 その言葉を聞いた父は声を出して笑った後、俺の頭をワシャワシャと撫でる。


「ぼく変かな?」


「いいや、変じゃ無いさ!月は誰の物でも無い、白華が思う兎がそうならそれでいいんだよ、想像力は誰にも縛られない自由な物なんだから」


「うーん、難しくてよく分かんない……月のウサギって何か名前があるの?」


「そうだなぁ、たしか古い物語では"玉兎(ぎょくと)"って呼ばれたりしてるよ」


「ぎょくと……」


 幼き日の楽しかった父との思いで。


 そして二つ目はごく最近の出来事――


 新機体アルミラージ・ナイトを託されて間もない頃、セレーネ基地でコハクさんはMRPシステムにある試作段階の機能を説明する。


「MRPシステムでモデリング(造形)する物は、主に機体に記録された"現実にある武器"の構造データを読み込んで形にしマース」


「ですがこのシステムを完成させるのに、私でもよく分かってない様な物質を導電や繋ぎ素材としてぶち込み、ナノマシンにしたデス!」


「脳波コントロール下でのシステムテストで()()()に気づいたのデス」


「MRPシステムには()がある……既存の兵器だけでは無く、"想像した兵器"を造形する機能が――」


「ただしこの機能はとても危険(デンジャー)デス、今だ全て解明されて無い人間の脳と未知の物質とのリンクで作られた兵器は核なんかよりも大規模で宇宙の法則すら滅茶苦茶にしてしまう可能性がありマース」


「だから普段はMRPにリミッター(制限)をかけますネー、仲間も自身も巻き込んでしまうかもデスから」


「んん?この機能の名前デスかぁ?……そうデスねぇ――」


………………


…………


……


――――――――――――――――――――――――――――――――


 俺は手動操作から脳波コントロールに切り替えるとMRPシステムのリミッターを解除した。


『エボニーさんの死は無駄なんかじゃない……あんたに99.99%と言う言葉を出させた』


【ダキニ】「それがどうした?」


『つまりは00.01%に液体化出来ない心臓となる指令装置があるって事……』


【ダキニ】「そうだ、だが貴様に破壊出来るのか?位置も掴めず、核でも破壊出来なかった物を、方法が無ければ不可能と同意味だ」


【ダキニ】「この世界のどんな兵器でも破壊出来ないのがこのチェシャーだ」


『もう十分だ……行くぞダキニ!』


(ミラージュ)(リング)(プリンタ)システム』


 想像による何者にも縛られない既存を超えた向こう側、その名を



『イマジネーションバースト――』



 アルミラージとこの空域全てにバラまかれたMRPパウダーが様々な色に発光し始める。


【ダキニ】「この光は……?何をした黒兎」


 アルミラージで両手を掲げ、上段に構えると光達は一斉に手に集まりだす。


 俺は瞳を閉じて、神経を集中させる。


 イメージしろ、想い、繋げ、形に!


 光が徐々に形作られ、300mを超す"巨大な剣"へと変わって行く。


【ダキニ】「何かと思えば……ただの剣か、くだらぬ」


『耐えてみろ……』


 その剣をチェシャーに向かって振り下ろした。


 ブワッ!!


【ダキニ】「その一振りで00.01を破壊出来る可能性に賭けたのか?愚か」


 チェシャーに直撃すると、剣の接触部が蒸発するかの様に消滅し始める。


【ダキニ】「何!?この剣はチェシャーの体液と対極にある"反物質"だと言うのか!」


 剣で真っ二つにするが、再び一つになったチェシャー、そして巨大な剣は消え去った。


【ダキニ】「少し驚いたが、結局は心臓を捉えることが出来なかったな、所詮は低確率の賭けには変わらなかった」


『耐えてみろ!』


【ダキニ】「え?……なっ!?なんだそれは!!!!」


 ダキニは気づいた。


 本命は左手で振ったその剣では無く、この右手に持ったコロニー並みにデカい……全長10キロにも及ぶ超巨大な(ハンマー)である事に。


【ダキニ】「あ……有り得ない、しかもその色、剣と同じ様に反物質か?」


【ダキニ】「だがそんな質量の物、いくら無重力空間でも振れるはずが……は!?」


【ダキニ】「持ち手の部位、それは"載力小太刀"、まさか……小太刀が持つ能力、質量粒子(ヒックス粒子)の力場操作を組み合わせて――」


 限界を超えた想像力は――


限界(100%)を超えた想像(イマジネーション)


 無敵だ――


 エボニーさんが遺した小太刀を両手で握りしめ、大槌からしたら虫にも等しいチェシャーに向かって一気に振り下ろす。


 ブオオオオオォォォォォォォォォォ!!!!!!


『月も砕ける俺だけの……玉兎だ!』


 ドグシャアァァァァァァァ―――!!!!!!


【ダキニ】「ぐう゛ぅぅぅぅっ!!!!」


 大槌の一撃により、チェシャーが頭から消滅して行く


【ダキニ】「ザザ……!これで済むと思うなよ黒兎……ザッザ――、この場の私が消えようとも、存在は……ザザザ――」


 ドシュ!!……


――――――――――――――――――――――――――――――――


 超機体チェシャー 【完全消滅】


――――――――――――――――――――――――――――――――


 大槌(おおづち)はパウダーに戻って砂の様に飛び散り、俺は衝撃でハッチががら空きだったコクピットから宇宙空間へと投げ出される。


 戻らなきゃ……でも、頭がぼーっとするし、身体に力が入らない……。


 顧みない全力は、アンドロイドの身体を内外からボロボロにしていた。


 朦朧(もうろう)とする意識の中、ゆっくりと近づく小型の宇宙船がこちらに向かう姿がうっすらと見える。


 近くまで来るとハッチが開き、中から宇宙服を着た人間が出てきて宇宙を漂っていた俺を抱えた。


 フルフェイスのヘルメット超しから顔が見える。


 テレイアだ。


「アイリス……どうして……」


『すいません、圧勝するって言ったのに……苦戦しちゃい……ました』


 ヘルメットの中で幾つもの涙の雫が浮かんでいる。


「そうじゃなくて……アイリス、ごめん……ごめんね……」


『テレイア、その言葉は間違いですよ……』


「え?」


 俺は満身創痍の身体だが、精一杯の力を振り絞って遠くを指し示す。


 指し示したその先には、こちらに向かってくるピーターワンの姿があった。


『こういう時には……"ただいま"って言うんですよ』


 笑顔でそう答えると、テレイアの表情が緩み、はにかんだ笑顔を見せ。


「あなたって……こんな時に、ふぅ……なんだか照れるけど」


「ただいま!アイリス」


 あぁ……この笑顔、やっと取り戻す事が出来たんだ。


『おかえりなさいテレイア、家に……帰りましょう』


 友との別れの寂しさを胸に秘め、虹の剣にとって掛け替えの無い一色であるテレイアの帰還に胸を撫で下ろすのであった。



レベリオ帝国編、完結

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