058 最後で最高で最悪な傑作
※この話は三人称視点となります。
キャロルの後継者候補"カー・リメイン"、36歳、女
技術力のバランサーとして帝国側のG・Sメーカー"ダンプティン社"に配属された彼女は正に天才である。
数々の新技術や春日が乗る超機体の全てを開発、兵器やG・S部門において、歴代のキャロル一族でも群を抜いていた。
研究、開発者として孤独に生きてきた彼女だが、初めて"恋"をする。
相手は皇帝からの注文をダンプティン社に伝える伝令職の男性
最初は仕事だけの関係だったが、積極的に声をかけてくる男性と話している内に意気投合し、付合い始めた。
産まれてからキャロル一族として厳しい英才教育を受け、人の温もりを感じた事のなかった彼女はすぐに夢中になる。
皇帝では無く、彼の為にも注文以上の働きを見せたリメインであったが、既にダキニが他のキャロル候補であるアンバーを見つけていた事もあり
九機の超機体を完成させた時点でダキニに"こいつは生かしておいては危険だ"と判断され殺害された。
背後からの銃撃が後頭部に当たり即死――
撃ったのが恋人、そして人間で無い事実を知らずに散った命、それが幸いだった事かはもはや分からないのであった――。
………………
…………
……
時は現在に戻る。
テレイアは空港まで向かい、小型の宇宙船をレンタルしてコロニーからの脱出をしようとしている。
一方で同時刻、ダキニは焦っていた。
演算されたプログラム通りに事が進まない、これではまるで"人間"、これ以上のエラーは自身が出した"答え"を貫き通す為の大義名分が無に帰す。
頭を撃たれて朽ち果てた皇帝であった物に驚く人々に
「これは影武者であり、本物の皇帝は無事だ」
と騙した皇后は早々に混乱する議場を後にすると、直ぐに空港に停泊している帝国の大型戦艦に搭乗し、格納庫へと向かった。
格納庫のほぼ全ての空きを占有する一つの"巨大なタンク"
この中身はダキニしか知らない、ここまで黙って皇后を護衛し、送り届けた春日のパランとミネラも現状に我慢できず口を出す。
「一体何が起こってるのですか!?本物の陛下は何処におられるのです!」
「議会はどうするんですか!?あの状態でほって置いたら後々の外交に響くのでは!?」
二人に背を向け、暫くの間タンクに付いた装置をいじったダキニは振り返らずに冷たい声色で語り出した。
「この計画は見直す、人間がここまで愚かだとは……軌道修正する必要がある」
今まで見て来た皇后とは別人の様な雰囲気に驚くパランとミネラ
「その前に失敗した150年の和平という計画を完全に消去しなければならない」
タンクに付いた装置が起動し、電子音声が流れる。
《ロック第五層から第二層まで解除、起動準備を始めます》
「皇后様、何をおっしゃって……それに、そのタンクは一体?」
「同盟条約会議は虹の剣というテロ組織の襲撃によって阻止された」
「これは虹の剣にすべての罪をおっかぶせて、尚且つ議会、いや目撃者全てを消去する為の超機体――」
「「 は!? 」」
タンクがガタガタと震えだし、不気味なエンジン音と共に徐々に膨れ上がって行く。
《起動準備完了、周辺技術者は避難を、第一層解除で起動します》
「形成した場合の全長300メートル、99.99%が"液体金属"例えエボニーや黒兎とやらでも堕とす事は出来ない」
《第一層解除確認》
「唯一の欠点は起動する際、周囲1.5キロが吹き飛ぶ事だ――」
《チェシャー起動》
ドオォォォォォォォォォォォォォォォン――……
パンパンに膨張したタンクが一気に破裂した。
――――――――――――――――――――――――――――――――
春日十士 パラン及びミネラ 【死亡】
――――――――――――――――――――――――――――――――
突然の巨大な爆発によってコロニーに大穴が空き、カラモスに住む多くの人間が犠牲になる。
既の所でコロニーから脱出したテレイアが乗る宇宙船にも爆破による衝撃が届き、激しい揺れを起こしていた。
「わっ!?何?」
そして、コロニーの異常事態はアイリスと軍が居る戦闘空域にも影響を及ぼす。
【帝国兵】「なんだあの光は!」
【帝国兵】「爆発!?……核か?」
【エボニー】「なんという……」
『あれは……、テレイアは無事なのか!』
コロニーの爆心地から銀色の物がどんどん膨らんで行って人型になり、超巨大なバルーン人形の様な物になる。
【帝国兵】「あれは……G・Sなのか?」
【帝国兵】「あんなデカいのがか?」
【帝国兵】「援軍……?今更まだやるのか!?」
巨大な人型の物がゆっくりと動き出し、状況が掴めない軍勢に向かってサイドスローで投球する様に腕を振りぬいた。
ブオォォォォォォォォォォ――……
大きな風圧と共におびただしい数の銀色の水滴が、雨あられの様にG・Sや軍艦に降り注ぐ。
【帝国兵】「なんか来るぞ!」
【エボニー】「嫌な感じがするねぇ」
『……ッ!みんな避けろ!』
【帝国兵】「え!?」
ズガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッ!!!!
水滴は突如、鋭利で硬い"槍"となり、G・Sや軍艦を串刺しにし始めた。
【帝国兵】「ひっ!……ザ――……」
【帝国兵】「避けろ!避けろ!うわっあ!」
わずか一振りで生まれた死の豪雨によって数千の命が消える。
【惑星軍兵】「どうなってんだよ!帝国が騙したのか!?」
【帝国兵】「知るかよ!動ける機体は撃て!」
まだアイリスによって行動不能にされていなかった機体が一斉射撃を巨大なG・Sに浴びせる。
しかし、レーザー兵器は表面で弾かれ、実弾を食らわせて穴を開けても直ぐに穴は塞がった。
【帝国兵】「なんだありゃ、まるで全身が水だ!」
【惑星軍兵】「どうやって倒すんだよ!」
【帝国兵】「ば、化け物……」
再び腕を振りかぶる巨大G・S、軍勢は絶望の声を上げる。
【帝国兵】「また来るぞ……あの槍の雨が!」
【帝国兵】「嫌だ……死にたくない!死にたくないぃぃ!」
『MRPシステム、シールド造形!』
アイリスは飛んで来る槍の進路上に盾を造形し、軍のG・Sや軍艦を守った。
【帝国兵】「た、助かった?」
『早く帰艦して逃げるんだ!』
【帝国兵】「す、すまねぇ!」
【エボニー】「マルブルよ、我も帰艦する……予備パーツの準備をせい!」
軍のG・Sや軍艦が巨大G・Sから一目散に離れる中、アイリスが乗るアルミラージだけは巨大G・Sに向かって行く
『あんた何なんだ!味方もろとも攻撃して……俺を狙えよ!下手くそ』
【ゲストA】「ザ――……ザ……私はダキニ、貴様が黒兎か?」
『ッ!?あんたがダキニか!』
【ダキニ】「そうだ、人が求め、人の答えを出したAIが私だ」
【ダキニ】「黒兎よ、貴様も私と一緒に戦わないか?同じAIであろう」
『何?』
【ダキニ】「人間という生き物は度し難い、人種や階級、経済にとらわれて……」
『断る!』
【ダキニ】「……何故?」
『あんたが嫌いだからだ』
【ダキニ】「そうか、実にシンプルで愚かな答えだ」
【ダキニ】「狂ったAIは要らぬ……消去してやろう、ここに居る人間全てと共に」
『狂ってるのはあんただ、思い通りに行かなければ簡単に壊すし殺す』
【ダキニ】「その言葉を人間に言ってやれ、私にすがっておいて……」
【ダキニ】「いや、もういい……答えを実行するだけだ、消えろ黒兎」
巨大G・Sがブルブルと震えだし、全身からハリセンボンの様にトゲが伸びだしてアルミラージに襲い掛かる。
回避するアルミラージだが、伸びたトゲがさらに枝分かれして追尾をして来た。
動き回りながらブレードを造形し、何度も巨大G・Sに投げ込んで貫かせるが機体にダメージは無く、穴も直ぐに塞がってしまう。
『コクピットはどこだ』
アイリスは電子の福音を駆使して巨大G・Sを見るが、体中が光り輝いていて命令信号を出している位置を掴めないでいる。
『機体というより、生き物みたいだ……一体どうすれば』
アイリスが攻めあぐねている中、エボニーは帝国の旗艦へと戻った。
「大婆様!よくぞご無事で」
「マルブルよ、直ちにミュースの腕だけで良いから予備を繋げてくれ」
「口から血が……そんなお身体じゃ無理ですよ!避難しましょう!」
「そうだ……もう無理なんだよマルブル、本来ならあの子との戦で散るはずだった、そう想定したギリギリの体調で向かった……今ある命は消えかけの火だ」
「だが我は満たされた、だからせめてあの子と、ここに居るこれからの未来を担う者達をあの無粋者から守る為に使いたい――」
マルブルは唇を噛みしめ、震えた声で技術者にミュースの修理を命令した。
「アレも持ってくよ、この艦に積んであったろう」
腕が修理されると武器庫にあったミサイル用の"弾頭"を抱えて再び発進したミュース、マルブルと旗艦に居たすべての兵や技術者が渾身の敬礼でボニーを送り出したのであった。
一方でアイリスは様々な武器を造形しては巨大G・Sに撃ち込んだり、斬りかかったりするが、暖簾に腕押しである。
【ダキニ】「無駄だ、この液体金属の超機体"チェシャー"には、この世界のどんな兵器でも倒す事は出来ない……これがキャロルでも最高の技術者だった者が最期に残した傑作だ」
『液体金属……何かMRPで作れる有効な武器は無いのか……』
体の一部を飛ばし、液化と硬化を繰り返して攻撃をしてくる超機体チェシャー
アイリスは攻撃を躱しながら、MRPで造形出来る武器データを探し回ってチェシャーの攻略を考えるが、
パイロットとしての技術だけでは崩せない"壁"に苦悩するだけであった。




