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057 異世界最強VS人類最強

※この話は三人称視点となります。

 アルミラージ・ナイトの襲来で混乱を来す帝国軍


 旗艦である大型戦艦内で、司令官の春日十士マルブルは帝国最強のG・Sパイロットであるエボニーに出撃を要請する為、格納庫へと向かった。


 超機体の情報機密の為に区間分けされている春日の格納庫、エボニーと超機体ミュースの個室へ向かうと、エボニーは点滴を打ちながら戦場を映すモニタを見て居る。


「大婆様の言った通り、奴は怪物でした……ガウナンとメリーが子供扱い、ボディへの攻撃無しで手心までされる始末――」


 マルブルの報告にエボニーはカカカッと笑う。


「既に我が軍の半数が行動不能、あの機体性能から察するにキャロル一族が関わった超機体でありましょう……引退して闘病なされてる大婆様に頼むのは胸が痛みますが……」


 エボニーはこの世界でも治療が出来ないほど重度な末期癌であった。


「気にするなマルブルよ、我も望んでいた事なんだよ」


「大婆様、その点滴は抗癌剤じゃなくテロメア活性剤!?そんな御身体で使ったら……死ぬつもりですか!」


「春日として産まれ、戦士として生きた84年、生きてる方が異常だよ」


「ですが!」


「我にはG・Sで戦う事しか無かった、学問も家事も出来ず縁談からも逃げて戦い続けたが、不幸な人生とは思っていない」


「ただ"理解者"がおらんてな、やっと今、我と"遊べる"者が現れたんだ……薬を使ってでもこの老いた体を全盛期に持ってきたい」


「大婆様……」


「そんな顔をするなマルブル、我は楽しみで仕方無いんだ」


 エボニーは点滴を外し、ミュースに搭乗して出撃準備を始める。


「援護や随伴機はいかがします?」


「必要無い、むしろそれらを利用されて我が墜とされるから一対一(サシ)で出来る様にしてくれ」


「大婆様がそこまで言う相手ですか……」


「カッカッカ!我が初めて挑戦者になれそうだ……そろそろ参る、ハッチを開けておくれ」


 エボニーの覚悟を見たマルブルは渾身の敬礼を贈り、エボニーはミュースと遠隔複腕"阿修羅"に載力小太刀を持たせ射出口まで向かった。


「カラモス空域か、因果な事よな……こちらエボニー、搭乗機ミュース、発進するよ!」


 赤いモノアイを光らせながらエボニーが乗ったミュースは、アイリスが待つカラモスの戦場へと飛び立った。


………………


…………


……


 カラモスコロニー周辺空域、アルミラージの単騎駆けによって帝国軍、惑星軍合わせた警護艦、G・Sの三分の二が既に行動不能にされていた。


 アルミラージの圧倒的な性能と、アイリスの操縦技術に畏怖していた軍のパイロット達だが、こちらから攻撃をしかけなければアイリスは襲って来ない事を徐々に理解する。


 目の前であの春日が乗る超機体を雑兵の様に行動不能にした者に恐怖で向かって行く気が起きないのもそうだが、撃墜では無く不殺の行動不能化である事から、(いたずら)に仇を成す気分にさせ難くさせていた。


 決して突けない巨大な蜂の巣にどう行動していいか分からず、指揮官達も命令を出せずに静かなる膠着(こうちゃく)状態が続いている軍であったが、マルブルが総司令官として戻って来る。


「全軍攻撃停止、行動不能機回収及びパイロットの救助に尽力せよ!」


「奴は大婆様が一人でやる――」


 マルブルの命令にほっとしながら回収作業を始める兵達、アイリスは恐々と作業を進めるG・Sや回収艦に全く目もくれず、帝国の旗艦から飛び出した一つの(機影)だけを見て居た。


 それはエボニーが乗る超機体ミュース、ミュースからアルミラージに向けて音声通信が届く


【エボニー】「待たせたな若人よ」


『エボニーさん、この戦いに……』


【エボニー】「この"ゲーム"に意味が必要かえ?」


『そう、ですね……俺もこの時だけは、ただの競技者(ゲーマー)として――』


 回収作業を続けていた軍と救助を待っているパイロット達は作業を辞め、アルミラージとミュースにカメラを合わせ、注目する。


 誰もがこの怪物同士の一騎打ちが歴史に残る物になると感じていた。


【エボニー】「いざ行かん、遊び遊ばせ参ろうぞ!」


 ミュースに搭載された全てのスラスターが輝き、肉眼では消えたと思わせる様なスピードで六つの玉(阿修羅)と共にアルミラージに向けて突進する。


『MRP起動、ライフル1、シールド900、ブレード100、ナイフ600をモデリング開始』


 アルミラージの身体が光り、手元にライフル、機体付近の空域に大量のブレードやナイフ、ミュースの進路に足止め用のシールドが造形された。


【エボニー】「虚空に兵器を造形する超機体か、脅威ではあるがそれら兵器の遠隔操作は出来ないと見た」


 エボニーが言う通りMRPで例え銃を造形しても、機体が手に取って扱わなければならない、アルミラージはビームライフルを構えるとミュースに追随する阿修羅の一つに連続で放った。


 エボニーの脳波コントロールで動く阿修羅の動きは高度で、一つ一つの回避能力はエボニー以外の春日にも匹敵する。


 しかし、アイリスの神業的な偏差撃ちとMRPで作られ、障害物となった盾によって進路誘導された阿修羅にビームが直撃した。


【エボニー】「一機墜とされちまったねぇ、応用力では載力小太刀より上であるな」


 アルミラージとの距離を詰めようとするミュース、アイリスは一機目を墜とした様にビームを放つが、狙われた阿修羅は小太刀を放し、障害物として造形された盾を掴んでガードをする。


【エボニー】「カカッ!盾とはこう使うもんであろう、若人よ!」


『その盾は再現度20%の粗悪品ですよ』


 閃光はやすやすと盾を貫き、阿修羅を撃墜した。


【エボニー】「あんりゃ!そういう事も可能であるか……ならば盾は斬捨てて前に進むだけぞ」


『斬る行為という一手が増えますが、躱せますか?』


【エボニー】「我をなめてもらっちゃ困るなぁ」


 エボニーはターゲットにされた阿修羅を操作し、進路に作られた盾を切伏せて直進するが、斬る動作をした瞬間に射撃を合わせられる。


 だが、電子の福音の力とマズルフラッシュで閃光の軌道を読んでいたエボニーはギリギリ躱した……かに思われたが、遠投されたナイフによって阿修羅は行動不能になった。


【エボニー】「なんという二の矢……」


『強い人ほど重火器よりもシンプルな投擲のが読み難いものですよね』


【エボニー】「三個犠牲になったが、我が得意とする距離まで近づけた、お主は遠近どちらが得意かな?」


 ミュースがアルミラージの数十メートルの距離まで近づき、アルミラージはビームライフルを放ると、右手にブレード、左手にナイフを装備して構える。


 先ほどまでとは違い、ゆっくり、じりじりと間合いを詰める二機、残った三つの阿修羅はアルミラージを十字に囲む位置に配置された。


『小太刀を振れる手の数は計五本か、これはしんどそうだ』


【エボニー】「五本?ハズレだねぇ……阿修羅三、ミュースの手二、そしてこの――」


 ミュースの足首から先が変形し、先から小太刀が現れる。


【エボニー】「合計"七振りだ"!」


 ミュースは雷光の様なスピードで一気に間合いを詰めると、手足に付いた小太刀で斬りかかった。


 この戦いを唾を飲んで見て居る兵士達や他の春日でさえエボニーの磨き抜かれた技、小太刀一つ一つの太刀筋に反応出来る物は居ない


 しかし、アイリスは行動後を先読みした二の太刀で仕留められない様に繰出された斬撃を刃先ギリギリの所で全て躱し、さらには回し蹴りを放つ。


【エボニー】「良きカウンターの蹴り、だが外れだ」


『あと六振り……』


【エボニー】「ん!?阿修羅が1つ墜とされておる」


 アルミラージが放った蹴りはミュースを狙ったのでは無く、造形され、宙に浮いていたナイフを蹴り上げて後方にある阿修羅にぶち当てる事が目的であった。


【エボニー】「足癖、悪し!」


 ミュースは近接攻撃の手を緩めず、阿修羅を交えた連斬りを繰り出す。


 アルミラージは徐々に後方に下がりながらも身体を捻ったり回転させながら斬撃をギリギリで躱し続けたが、ミュースが繰り出す斬撃の内、十太刀に一太刀は回避不能まで詰められていた。


 手に持ったブレードやナイフで小太刀をガードした瞬間、それらを放す。


 載力小太刀によって固定された武器を持ち続ける事は、自身の機体も固定されて自由が効かなくなるに等しいからだ。


 ミュースからの斬撃を刀身で受け止めた瞬間、武器から手を放す神業を繰り返すアイリス、そして一万の兵を圧倒したアイリスを押しているエボニーの強さに、モニタ越しで観戦している兵達は釘付けになっている。


【帝国兵】「す、すげぇ……」


【帝国兵】「G・Sであんなしなやかな動きが出来る物なのか」


 一見、ミュースが連撃を繰り出しアルミラージを防戦一方にさせている様に思えるが、エボニーは有利な立場になってるとは微塵も思っていなかった。


 アルミラージの手足に少しでも小太刀が掠れば動きを止められ、その部位は分離(パージ)しなければならない、攻防の"駒"となる手足を容易く持って行ける小太刀の能力で近接機能ではミュースに分がある。


 だがアイリスが持つ"技"、相手の運動エネルギーを読んで利用する技術、アルミラージの動きで警戒すべきは手に持った刃物での斬撃では無く"掴み"


 もしミュースの手足のどれかが掴まれでもしたら、その部位をパージでもしない限り身体ごと動きを操作さる……即ち載力小太刀と同等の脅威とエボニーは感じていた。


 五体に触れられたら一気に形勢を崩される同条件、それでもエボニーはカウンターを恐れずに攻め続ける。


 "己こそが挑戦者"、攻め崩さなければ勝機は無いと判断し、事実アイリスを攻めあぐねさせていた。


『凄い……一太刀一太刀が急所を捉えた必殺、強い!』


【エボニー】「我の渾身を(ことごと)く防ぐお主に褒められ光栄だねぇ」


 達人同士の激しい近接戦が繰り広げる中、それを観ている兵達には普段の戦場では沸きあがらない思いが出る。


 ある者から見たら自分が応援するスポーツの決勝、別な者から見たら映画のクライマックスシーンなど、遺恨の無い、過去に目指し、夢見た憧れの者同士の純粋な勝負に感動する思い


 多かれ少なかれ最強を目指したG・S乗り達の眼中に繰り広げられる想像を超えた立ち廻りに、敵味方関係なく見惚れていた。


【帝国兵】「俺は夢でも見てるのか……」


【惑星軍兵】「なんて戦いだ、コミックの世界すら超えてる」


【ガウナン】「大婆様、がんばれ……いけぇぇぇ!これが春日だぁ!」


【メリー】「綺麗……、戦いじゃなくて完璧なペアダンスみたい」


だがこれら観衆よりも、(たかぶ)りと歓喜がエボニーとアイリスにはあった。


【エボニー】「楽しいな、この"遊び"は……」


『……はい』


 激しくも魅せる攻防が続くが、この楽しい時間も"勝敗"という決着を付けねばならない


 エボニーは病と操縦運動の影響で吐血が起きており、アイリスは激しい思考処理によって熱を帯びたアンドロイドCPUの冷却が間に合わずに焼切れるのも時間の問題であった。


 お互いにリミットが近づく中、先に詰み筋を仕掛けたのはエボニーである。


 数多の斬撃を繰り出す中、アイリスにある回避の癖を見つけ出す。


 ミュースと阿修羅のコンビネーションで放たれる斬撃をアルミラージはギリギリで体や手足の関節を曲げたり、機体を90度傾けて躱したりするが


 それでは避け切れないと判断した場合、機体を回転させて躱し、そのまま遠心力を利用したバックハンドブローなどのカウンターを狙う事がある。


 つまりは激しい回避行動を選択せざるを得ない体感まで追いつめている事、回転をさせなければ斬撃を当てられると考えたエボニーはアルミラージを壁を背にした様な形にする事を決めた。


 壁として使うものはコロニーや軍艦などあるが、アイリスの洞察力ならそこに(いざな)われている事に気づいてしまうだろうから、もっと手近で、そんなに大きくは無くても良い。


 目を付けたのは近くを漂っているG・Sと同サイズほどの小惑星、アイリスに気づかれずにアルミラージを小惑星まで追い込む様に連撃を繰り出す。


【エボニー】「ハァ……ハァ……」


 体力的にこの一手を必殺にしなければならないと覚悟を決めたエボニー、慎重かつ大胆に斬撃を繰り出し、徐々にアルミラージを後退させるが代償として阿修羅を全て撃墜されてしまう。


 そして、ついにアルミラージが小惑星を背にする形に追い込んだ――


『ん!?』


【エボニー】「ここが勝負の(きわ)、終焉の剣舞で閉幕としよう」


 詰めの斬撃を放とうとした瞬間、アルミラージは手から小さな玉を目の前で放り投げた。


 その玉はスモークグレネード、MRPで造形された物では無く持ってきた物、小さな破裂音と共に白い煙幕で二機を覆う。


【エボニー】「悪手ッ!」


 電子の福音を持つ自身に煙幕は無意味、だが煙幕の中からは機体が動く際に見える福音の光が見えない、煙中のアルミラージは不動である。


 ミュースは足で蹴り上げて、煙幕に一筋の隙間を作った。


 隙間から見えるのは、白い機体の肩と胴体の一部、それだけで充分位置を掴んだエボニーは一気に連撃を放つ――


 横薙ぎで両手足を、唐竹斬りで胴体に掠り傷を負わせ固定化に成功する。


【エボニー】「王手、勝っ!?」


 駄目押しの踵落としを頭部に食わらせようとした時、エボニーは目の前の機体に違和感を覚えた。


 これは、アルミラージでは無い――


 斬撃でダメージを与えていたのは造形された"ホワイトポーン"


 エボニーに様々な思考が駆け巡る。


 (何故?) (何時この機体が) (あのシステムか)


 (作れるのは兵器だけじゃ?) (否、G・Sも兵器)


 (あれは小惑星では無い)


 (システム(MRP)(パウダー)を固めて偽装した) 


 (本物は、裏)


 (煙幕と共に、塊をG・Sに形成した) (やられた)


 (追い込まれていた方は) (来る!!) (防御姿勢) 


 (我であった――)


 罠に気づき、真相を理解し、防御に入るまでにかかった時間は僅か0.2秒、"異世界の怪物"は、その刹那の隙を見逃さなかった――。


『囮に使ってすまない、ホワイトポーン』


 アルミラージ、右手ブレードからの切り上げ、ミュース、左手切断――


『それぐらい』


 アルミラージ、左手ナイフ、投擲、ミュース、右手使用不能――


『強かった……』


 アルミラージ、ブレード、下段回転切り、ミュース、両足切断――



――――――――――――――――――――――――――――――――


 春日十士 エボニー 搭乗機 超機体ミュース 【反撃不能】


――――――――――――――――――――――――――――――――



【エボニー】「ふぅ……、最初に武器のみを造形した時点で(はかりごと)の"布石"、手足の予備を用意しとくことも可能であったのに」


『はい、この手でしかパイロットを傷付けずに勝つ事は難しかった』


【エボニー】「カッカッ……別に殺してくれても構わなかったのに」


『それだとまた"遊べない"じゃないですか』


【エボニー】「……そうであるな、カッカッカッ天晴れ!完敗だ!」


【エボニー】「――楽しかったな」


『はい!』


 勝負の余韻に浸っていると、フリー回線のままだった音声通信から割れんばかりの歓声と拍手が聞こえて来た。


【帝国兵達】「パチ……パチ……パチパチパチパチ」


【惑星軍兵達】「パチパチパチパチパチパチパチ!ワアァァァ」


【ガウナン】「うっう……大婆様ァ!凄かったぞぉ!パチパチパチパチパチ」


 アイリスとエボニーは予想外だった観衆達の反応に戸惑うが、悪い気分ではない。


『懐かしい気分だ……』


【エボニー】「なんだい、我ら以外にもまだこんなにも、大馬鹿が居るんじゃないか……カッカッカッカ!」


 長きに渡り賢人会、そしてダキニの為の歯車でしか無かった兵士達、ここに居る者達が抱いた想いは効率や数字や損得では表せない


 人間であるからこそ分かる、非効率で、愚かでもあり、そして美しい


 "敬意"・"嫉妬"・"羨望"……そして"賛辞"であった――。



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