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054 覚醒

※この話は三人称視点となります。

 アイリス達がセレーネを後にした直後、春日とは違う一機のG・Sがセレーネへと向かっていた。


 その機体の名は"ガレオス・K(クラーケン)"搭乗者は元惑星同盟軍大佐、ナバイである。


 ガレオス・Kはガレオスの改造機、追加装甲によってひと回り大きくなり、さらには背中に巨大な(つぼみ)の様なオプションパーツが取り付けられた。


 操縦者であるナバイはフルフェイスヘルメット(ヘッドギア)の様な物を被らされており、脳波コントロールによって機体を動かしている。


 ナバイは以前の様な饒舌(じょうぜつ)な軽口を発せず


「沈める……沈める……沈める……」


 とだけブツブツ呟くだけであった。


 そんなガレオスKの右肩には何者かが立っている。


 人間では無く、白い服とハットを被ったアンドロイド"ジョーカー"、またの名を"白兎"だ。


『あれがセレーネか、さてさて手筈通りに進められるかどうかだな、調子はどうだ?ナバイ』


「沈める……沈める……」


『あぁ~すっかり()()っちゃってるなぁ……俺にも洗脳(せんのう)の才能があるのかも』


『まぁナバイには電子の福音が無いものの、"超神経発火"があるから上等なパイロットだよ』


 超神経発火とは、人間が考えて行動する時に発生するニューロン信号(神経発火)による平均的遅延時間である0.35秒の壁を突破できる特異体質の呼び名である。


 電子の福音と共に帝国で研究をされているが、福音とは違い、エボニー以外にも持つ者は多く確認されている。


 主に持つ者は、春日十士のエボニー、エイブ、メリー。


 虹の剣パイロットではアイリスとクレイン、ヘカテー、そして黒兎も最近になって0.35秒の壁を突破していた。


 そしてこのナバイとジョーカーもそうだ。


 先天性もあれば命を賭けた戦闘によって覚醒する事もある電子の福音と超神経発火、双方を持つ者はアイリスとエボニー、ジョーカーのみである。


 ガレオスKはセレーネに上陸し、しばらく飛行していると大きな洞穴にある建造物を捉えた。


『あれが虹の剣の基地か』


 その時、ガレオスKに音声通信が送られ、ジョーカーは自身の身体に備わる通信機能を同期(リンク)させて繋いだ。


【ゲストA】「オンドリャー!誰の許可得てうちの星に上陸してるデスか~!?ぶっ飛ばされんうちにさっさと出て行きヤガレデース!!!!」


『うるさっ!……攻めに来たんだよ、虹の剣に居る"シヴァ・アンバー"を、差し出せば大人しく帰ってあげるよ』


【ゲストA】「ファッ!?それは私の事ですネー!今はコハクと名乗ってるのに、さてはオメーさんはダキニの手下ですネッ!?」


 コハクのテンションの高さとキャラに戸惑うジョーカーは、やれやれという仕草をしながらガレオスKから陸上に飛び降り、話を続ける。


『君がアンバーか、一緒に来てくれる気はあるのか?』


【アンバー】「行くわけねぇデス!次のキャロルになるのもごめんデスねー!」


『じゃあ力ずくで連れてくしか無いな』


【アンバー】「黙って捕まる私じゃねぇデスよ!行け、ナンデイン達!」


 洞穴にある基地から続々と牛の様な頭部を持つ無人G・Sが現れた。


『ナンデイン、"ギガスケ3"に出て来たG・Sか……日本のアニメやゲームが好きだった先代キャロルの意識片鱗(へんりん)を受け継いでる証拠だな』


『ナバイ、沈めろ』


 「言われるまでも無い」と言わんばかりに基地に向けてガレオスKを急加速させるナバイ


【アンバー】「なんで惑星軍のナバイが帝国側に!?まぁいいデス、やっちまうデスよぉ!」


 数十機のナンデインらがビームガンを構え、ガレオスに向かって一斉に閃光が放たれる。


 ドシュ!ドドシュ!ドドシュ!


 ガレオスは飛んでくる(おびただ)しい閃光を機体を捻ったり回転(ロール)させながら躱し、ナンデインが陣取る空域の中心へと突っ込んだ。


「沈める……沈める……沈めっ!」


 ガレオスKの後部にある(つぼみ)の様な物が開き、中から触手の様な八本の管がウネウネ動きながら飛び出す。


 その管先は全てガレオスの奥の手であった"(アギト)"であり、本数が増えただけでなく脳波コントロールシステムで動き、スピードも射腕距離も三倍になっていた。


 ドガッ!ドガガガッ!ズンッ……


 次々と大蛇に食いつかれるが(ごと)く、顎に捕まるナンデイン達


 ゴシャン!という鈍い金属音と共に、顎の圧力によってバラバラにされた機体の残骸が次々とセレーネの地表に落下して行った。


『機体は悪くないが、やっぱAIがお粗末だな、ダキニの二の舞を恐れて学習機能を制限した物しか作れないからか?』


【アンバー】「ぐぐぐ……悔しいデス、超機体があればガレオスなんて」


『フフッ、君がおしゃべりで助かるよ、まぁ主力はカラモスに向かった事は想定済みだがな』


【アンバー】「コソコソと裏を付くなんて卑怯者デス!」


『なんとでも言うがいいさ、じゃあそろそろ捕獲に入る、基地を多少破壊するから耐衝ポットにでも入っててくれ』


【アンバー】「やめろデス!みんなが帰る場所なのデス!」


『やれナバイ!』


 ガレオスKがズンズンと歩いて基地へと近づき、うねる顎の一つを施設に向けて放とうとしたその時――


 ドガッ!……ズンッ


 飛来した一機のG・Sが(ブレード)による斬撃で振りかざされた顎を切断した。


【ゲストB】「アイリスの帰る場所は私が守ります!」


『ブラックポーンの改造機……黒兎か』


【アンバー】「なぜ黒兎の事を知ってるデス!?」


『キャロル候補なのに知らないのか?俺が黒兎と同時期に作られた戦闘AI"白兎"だからさ』


【黒兎】「無人大型艦(ブッロパピオン)の時にGSを遠隔操作していた……私と同じアクランドで作られたのですか?」


『そのリアクションだとやはり記憶を消されてるな黒兎、大人しくペットロボを続けてれば良かったのに』


【黒兎】「過去に何があったかは分かりませんが、私は私の守りたい者の為に戦うだけです!」


『結局はそうなるのか……まるで(さい)河原(かわら)だな、"鍵山白華"という地獄の――』


 黒兎には白兎(ジョーカー)の放った言葉の意味は分からなかった。


 気にならないと言えば嘘になるが、今は目の前に居る禍々しい姿となったガレオスと対する事に黒兎は集中する。


『まぁせいぜい守ってみなよ、そいつを沈めろナバイ!』


「沈める……沈める……沈めるっ!」


 黒兎が操るホワイトポーンに向けて猛進するガレオスK、ホワイトポーンは二刀流に持ったブレードを構えた。


 腹をすかせた大蛇の様に七本の顎が一斉にホワイトポーンに襲い掛かる。


【黒兎】「これら全てが顎、食らう分けにはいかない――」


 身体を捻ったり素早いステップで顎をギリギリで躱し続けるホワイトポーン


『ガレオスK相手にここまでやる様になったか黒兎、()()には先天的に超神経発火があるが、それは経験を積まないと出来ない動きだ』


 しかし避ける事が精一杯で、顎をブレードで切り落としたりガレオス本体に攻撃を転じる事が出来ないでいた。


 お互い決め手を欠けた攻防が続く中、イラつき始めたナバイの攻撃が荒くなり、顎による攻撃で基地施設までも巻き込むようになる。


 ドゴッ!ガッ!ズン……!


【アンバー】「ひぇ!このままじゃ捕まる前に基地ごと潰れてしまうデス」


『やはり脳波コントロールだと反応は上がるが、感情の起伏によって精密動作が鈍る傾向にあるんだなぁ……』


【黒兎】「なんとか止めなければ、こんな時アイリスなら――」


 黒兎が放った"アイリス"という言葉にナバイが反応し、ガレオスは更に見境無く暴れ始めた。


「アイリス……沈める……深みに……アイリスゥッ!!!!」


 ドンッ!ゴッゴッ!ドガガガガッ!!


【黒兎】「ナバイさん!貴方はッ……」


 破壊され始める基地を見た黒兎は焦りと共に、思考の中に消されたはずの記憶の断面が流れ始める。


 アクランド研究所時代、兎のペットロボとしてベスタの祖母やロネーズ、そしてベスタと過ごした日々と、その日常が失われた日を――


【黒兎】「私はもう失う分けにはいかない……失いたくないんだ!」


 その瞬間、黒兎が操るホワイトポーンの動きが変わった。


 ガレオスや顎の行動を先読みした動きで(ブレード)を振るい、次々と顎の先端を斬り落として行く。


『その動き、電子の福音が覚醒したのか?……』


 ジョーカーの声は黒兎に入らない。


 ただひたすらにガレオスに流れる光の線を見ながら戦う事に必死になっていたからだ。


 突如現れた理解できない能力の事を考える前に行動するだけである。


【黒兎】「アイリスは私を信じて託してくれた!絶対に守る!」


 ズガッ!!……ズンッ!


 最後の顎が斬り落とされ、残ったのはガレオス本体だけとなった。


『あぁ~、こりゃダメだね……相手が悪かったな』


 そう呟いたジョーカーは音声通信を切ると戦線から離れ、歩いて土煙が舞う基地方面へと向かって行った。


「う゛ぐっ!……沈める……う゛っ!……頭が……」


 ジョーカーからの思考介入が外れたナバイは苦しみ出す。


【黒兎】「ナバイさん、貴方は性格はともかくGSでの戦闘には誇りがあったはずです!」


「…………誇り……僕は――」


 ホワイトポーンはガレオスに近づくと、両手に持ったブレードを地面に突き立て拳を握って構えた。


【黒兎】「自分の意思で、公平(フェア)に決闘しましょう」


公平(フェア)に……」


 ナバイは自身に付けられたヘッドギアを外すと足元に叩きつけ、大きく深呼吸をして手動操作に戻し、ガレオスを操作して以前の様な拳を突き出した構えをする。


【黒兎】「では、行きます――」


 構えを決闘の了承と判断した黒兎はホワイトポーンでガレオスに向けて突進し、ナバイも迎え撃つ。


 ホワイトポーンはガレオスの頭部に右ストレートを放つがガレオスは素早いバックステップで躱す。


 ナバイは八本の顎と脳波コントロールを失った代わりに、戦いに対する冷静さを取り戻していた。


 躱すと同時に放たれたガレオスからの右カウンターパンチ、確実にホワイトポーンの頭部を捉えたかに見えたが、頭部を捻る事で衝撃を逃がす"スリッピング・アウェー"で躱す。


【黒兎】「アイリスから教わった技!」


 そのままガレオスの手首を掴むと、相手の力の動きを読んで体幹を崩し、手刀でガレオスの首を殴打、頭部を切断する。


 それでもガレオスは身体を捻って肘打ちを放ってくるが、ホワイトポーンはしゃがんで躱し、振りぬかれた腕を掴むと、ガレオスの力のモーメントを利用した浮落(投げ技)で地面に叩きつけた。


 ズンッ!!!!


「ぐっ……!」


 衝撃で背部のメインスラスターを破壊すると、ホワイトポーンはそのまま寝技に持ち込んで、両手足の関節を全て捻じり切ってガレオスを行動不能にするのであった。



【黒兎】「これで一勝二敗ですね、ナバイさん」


 まるでカードゲームに勝ったかの様に話す黒兎にナバイは衝撃によって朦朧(もうろう)とする意識の中、苦笑しながら答える。


「フフッ……君もイカレテルよ、僕みたいにな、あぁ……アイリス、エボニー、そして君……」


「楽しいねぇ……また目指すべき()()が増えて…………」


 そう小さく呟いて、柔らかな笑みを浮かべながらナバイは意識を失って行った。


 ………………


 …………


 ……


 セレーネの基地内部、モニタで黒兎の勝利を見てホッと撫でおろすコハクであったが。


『はい、手を挙げてゆっくり後ろを向きなアンバー!』


「ファッ!?」


 いつの間にか施設に侵入していたジョーカーは背後から銃をコハクに向けていた。


『GS戦にばかり気を取られてちゃ駄目だよ』


「チッ……お前の目的はなんデス!?」


『"ラゴスゲート"を知っているな?』


「ラゴス……?分からないデス」


『今更とぼけるなよ、あんたはキャロル候補でここには黒兎が居る、こんな繋がりがあって知らないで通すか』


「黒兎?黒兎はテレイアが持って来たデスよ、それに私は候補でも末端(まったん)で科学技術の一部しか継承してないデス」


『何?……まぁどのみち記憶を覗き見させてもらうよ、一緒に来てくれ、拒否権は無い!』


 銃を構えたままコハクに近づくジョーカーだが。


「銃を捨てるのじゃ!」


 ベスタがジョカ―の背後から銃を付きつけていた。


「ベスタ!ナイスデス」


『もう一人居たのか……、だがその銃は対人用の弾じゃないの?アンドロイドに効くのかなぁ?』


 そう余裕な感じでゆっくりとベスタの方に顔を向けたジョーカーだが驚愕の声を上げる。


『……っ!?お前は"イリア"!なぜここに――』


 今まで飄々(ひょうひょう)とした態度だったジョーカーが焦りの感情を表す。


「なぜわしの()()を……お主、何者じゃ!?」


『お前が連れて来たのか、アンバー!?』


「違うデスよ!何なんデスか、次から次へと知らない新用語言いやがって!それに私を全ての黒幕認定すんなデス!」


 噛み合わない会話のやり取りで暫く沈黙が続く


『アクランドにキャロル、帝国皇女……十分な因果は揃ってる』


『はぁ……なかなか計画通り行かないもんだな』


 ため息交じりで呟き、銃の構えを解いて手を降ろすジョーカー、その姿を見たベスタも油断して構えを緩めた瞬間――


 バッ!


 ジョーカーは被っていた帽子をベスタに投げつけ、彼女が居る出口方面へと全力で走った。


「ひっ……!」


 一瞬で間合いを詰められて怯えるベスタだが、ジョーカーはベスタに危害を加える分けでも無く、真横を通り過ぎながら


『君は傭兵団なんて抜けて、どこか遠くの星に逃げろ』


『すまない……すまなかったイリア――』


 どこか寂しそうに呟くとそのまま基地の格納庫へと走り去り、小型宇宙船を奪って飛び去って行ったのであった。


「ベスタ大丈夫デスかぁ?あいつは一体何だったんデスか……ベスタ?」


 ベスタの瞳からは涙が溢れている。


「怖かったのデスねぇ……よしよし、もう大丈夫デスよ」


 コハクはベスタを抱きしめたが、ベスタは自身の涙は恐怖や怯えによる物では無いと感じた。


「白兎……?」


 ジョーカーに対した"白兎"と言う名称が無意識に出たが、ベスタは記憶を(さかのぼ)ってもそれらしき存在は一切思い出せなく。


 ただ心の奥底に懐かしさと暖かな思いが沸き上がって来る事を感じたのであった。



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