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053 クレイン 対 春日之グラーネ

※このお話しは別人視点になります。

 私の名前はクレイン、傭兵団虹の剣でG・Sパイロットをしている。


 今現在、説明は省略するが団長であるテレイアを奪還(だっかん)する為に、G・Sで彼女が居るコロニーへと向かっている。


 ヘカテーが春日十士と交戦した為、現在は2人(2機)だ。


 私を守ってくれるアイリスと二人きり……、普段なら嬉しい状況であるが今回は大量の敵が待ち構えてる場所に突撃するのだから、浮かれる余裕なんて無い。


 テレイアが少し(うらや)ましい……アイリスをあそこまで熱くさせている存在だから。


 私が同じ立場になった時、アイリスは同じ様に私を思ってくれるのだろうか?


 そして、私にとってテレイアと虹の剣の存在は何なのだろうか……。


 あぁ……いかん、集中しなきゃならないのに余計な事を思い起こさせる。


【アイリス】『先ほどから左後方から付いて来る機体、何か用ですか?』


「え!?」


 急なアイリスの音声に驚く


【アイリス】『聞こえませんか?馬の様な頭をしたG・S、あんたの事ですよ』


 自機のレーダーを見ても機影は写ってない、モニタで位置方向を見ても何も無い……どういう事だ。


【ゲストA】「ザ、ザ――……何故気づいた?この超機体"アレオーン"はレーダーに映らず姿も見えない完全ステルスなはずだ」


 背筋がぞっとした。


 本当に居た何も見えない敵機の性能とそれを見抜いたアイリスに


【ゲストA】「失礼、我の名は春日十士の"グラーネ"、陛下の勅命(ちょくめい)により虹の剣を討伐しに来た」


【グラーネ】「敵ながら恥を承知で一つ教えて欲しい、なぜ気付いた?」


『う~ん……私もなんと説明したらいいのか、"機体にながれる血管"みたいな光が見えたと言うか……』


 血管?光?


 そんなものは私には見えないし、たぶん他の人も見えないはず。


【グラーネ】「なるほど……大婆様と同じ"電子の福音(ふくいん)"が見える者か」


【アイリス】『電子の福音?』


【グラーネ】「質問に答えてくれた礼で教えよう」


 グラーネが言う"電子の福音"とは今だ完全に解明されてない人間が持つ"未知の能力"の一つで、G・Sによる命を賭けた戦闘を繰り返す事で発現すると言われている。


 長年都市伝説扱いされていたが、春日のエボニーを科学的に研究した事で仮定したその能力とは――


 搭乗者(パイロット)がG・Sを操作する際に、例えば脳で右手を操作したいと考え、レバーを操作してG・Sに命令を与えるが。


 電子の福音を持つ者は"右手を操作したい"と思った他パイロットの思考が、あるはずの無いG・Sとパイロットに繋がれた"神経パルス"を可視化して見る事が出来ると言うのだ。


 つまりはパイロットがG・Sにレバーやボタン操作などで命令を下し、右手を操作する際に発生する遅延速度をすっ飛ばして先読み出来るという……G・S乗りからしたら恐ろしい超能力である。


『俺がたまに見える感覚はそうだったのか、てっきりゲーム……じゃなくて、G・Sで戦いまくり過ぎて頭がおかしくなって、幻覚でも見てるのかと思ってた』


【グラーネ】「まさか対策が確立されていない電子の福音を持つ者が相手とは……この機体との相性が最悪である事は間違いない」


【グラーネ】「ならばここは猛将(もうしょう)を相手にせずに本丸攻めを行うべきと判断した」


【アイリス】『逃げた?……いや、セレーネの方向に向かっている』


 あっ……!それはマズく無いだろうか?


 後方ではヘカテーがもう1人の春日と戦ってるし、その空域を避けたとしてもセレーネ基地にこの透明な機体に対応できる者が居るのだろうか?


 アイリスが追って戦うにしても、テレイア奪還が遅延(ちえん)されてしまう。


「アイリス……私があいつと戦うわ……戦うわ」


【アイリス】『クレイン、ですがグラーネが乗る超機体(アレオーン)を見る事が出来るのですか?』


 私はアイリスの乗るアルミラージに二丁携えていた"トリプルバレルライフル"の一丁を渡した。


「これには模擬戦用のペイント弾が入っている、入っている」


【アイリス】『え?なぜ模擬弾が』


「ヘルコスの戦いで透明な機体が出たという話をアイリスから聞いてたから、対策として持って来てたの、来てたの」


【アイリス】『なるほど、何をすればいいか分かりました――』


 アルミラージはライフルを構えると、私から見たらただの虚空(こくう)を撃ち始めた。


 ドンッ!ドンッ!ドンッ!


【グラーネ】「狙撃か、流石、捉えられてる……だが我の機体には強固なシールドが備わっている」


 発射された三発の内、二発は躱したのか空を切り一発は何かに直撃した。


 ゴッ!


【グラーネ】「"実弾"か、そんな物ではこの"ユニコの盾"は貫けない」


 よし、()は付けれた。


 盾の性能(衝撃吸収力)が良すぎてペイント弾と気づいてないんだ。


「アイリスは行って、私はグラーネを追う、これなら奴を倒せるわ……倒せるわ」


 本当は護ってくれる存在が居ないと戦うのは怖いけど、大切な人から護られたいのなら、等価な価値を持たなければならないだろう。


【アイリス】『クレイン、任せました!危なくなったら逃げてください!』


 そう言ってアイリスの乗るアルミラージはこの空域から去って行った。


【グラーネ】「福音を持つ者はカラモスへと向かい、持たぬ者が我を追うか……正気とは思えぬ判断だが、好機、ここで1機仕留めてくれよう」


 グラーネが乗るアレオーンが前進をやめ、抗戦態勢へと入る。


 ここからだ……ここから……私が守られるだけの存在から、護るべき人間になる為のスタートだ。


 レーダーを見ずに、G・Sの視界モニタとコクピットに付いた小窓から肉眼でアレオーン(ペイント跡)を注視する。


 こちらにじりじりと近づいて来るが、旋回やジグザグに動いて射線を切る動きはしていない、やはり私が発見出来てる事に気づいてはいないのだろう。


 ライフルを水平に構えて呼吸を整える。


 コハクが開発し、トリプルバレルに装弾されている"渦竜(うずりゅう)弾"、これはビームシールド拡散弾と強力な徹甲弾が合わさった重装甲貫通に特化した物。


 欠点は弾着距離が凄く短い事、だからアレオーンが逃げてる時はアイリスに模擬弾(色付け)の方を頼んだ。


 アレオーンが持つ"ユニコの盾"がどれほどの耐熱、耐衝力があるか不明だから、確実に一度は直撃弾にしたい所だ。


 油断させてギリギリまで近づけたい……、もう少し、あと少し……


 来た!確実に当てれる射程距離――


「撃つわ……撃つわ……」


 近づいて来る塗料跡に向けて狙撃した。


 ドドン!ドン!…………ゴッガン!


 三発とも塗料が付いた物体に直撃し、壊れた事で透明化の機能が停止したのか、飛び散る金属の破片が見て取れる。


 だが1機分のG・Sを破壊したにはあまりにも破片が少ない……そう思った瞬間――


 ブゥゥゥゥゥン……、ドシュ!


 自機(ロングイ)に搭載された素粒子シールドが発現して直撃した銃弾らしき物を防いだ。


【グラーネ】「機体を覆うシールドか、仕留め損ねた」


【グラーネ】「そしてユニコの盾を()()()にして正解だった、強力な貫通弾を持ってるとは思わなかったぞ」


「ペイントが付いてるって気づいてたの?気づいてたの?」


【グラーネ】「当然だ、春日をあまり舐めるなよ……"独立移動式シールド"であるユニコの盾を失ったのは痛手だが」


【グラーネ】「貴様がアレオーンを決して捉える事が出来ない事実は変わらない」


 落ち着け……、自機(ロングイ)には戦艦の主砲でも防げる素粒子シールドがある。


 敵機が攻撃した瞬間、射線を逆算して位置を割り出すんだ。


 沈黙が続き、私は息を整えて自機の廻り全てを注視する。


 すると、自機を覆った六角形の粒子による光の膜(シールド)、その一部に()がぼっかりと空いた瞬間、首筋に鳥肌が立った。


 私は嫌な予感がして直ぐに回避行動を取るが――


 ズガガガッ……!


 シールドを突き破っ来た()()()が肩をかすめ、左腕が完全に使用不能になった。


「粒子シールドが突破された……されたの!?」


【グラーネ】「よく躱したな、この"バイコの槍"は貴様の貫通弾の様に重装甲、ビームコート、粒子シールドなどあらゆる防壁を溶けたチョコレートの様にして貫通する能力を持つ槍だ」


 うわっ、最悪だ。


 敵機の姿が見えない、自機(ロングイ)の超兵器である粒子シールドも貫かれるなんて……どうしたものか。


 とりあえず置物にならずに、飛び回って逃げねば


 パニック状態で自機を操作してジグザグに飛行し始める。


【グラーネ】「逃げるか、だが役職柄、戦功をあげねばならぬのでな……追撃させて貰う」


 来るのか、自機は敵機(アレオーン)を突き放せる速度はあるのだろうか……などと思っているとまた粒子シールドが反応してシールド後方に穴が開いた。


 ドゴッ!ズガガガガガ!


「くっ!」


 槍の攻撃を下腹部に受けてしまい、激しくコクピット内が揺れる。


 敵機のが推進力が上、更には攻撃で腰にあるスラスターの1つが機能停止に(おちい)った。


もう逃げる事は出来ない……、次の攻撃で確実にボディ(コクピット)を貫かれるだろう。


 私は何やってんだろう……、みんな仲間の為に戦ってるのに自分の事ばかり考えて、敗れて死ぬのか。


 攻撃の衝撃で取れた私の髪留め(カチューシャ)がフワフワと漂っているのが見える。


 このカチューシャはテレイアがくれた物、(かご)でずっと孤独に生活してきた私は髪は伸ばしっぱなしのボサボサで、化粧などの身だしなみの仕方もさっぱり分からない。


 そんな私にテレイアはメイクの仕方を教えてくれたり、髪を整えて結ってくれたりしてもらった。

 

 嫌な気分ではなかった……むしろ彼女に髪をいじられてる時は頭がフワフワして気持ちが良く、母に髪を洗われていた時を思い出していた。


 あぁ……またあのフワフワを味わいたい、ここで死んだら味わえない、死にたくないという籠に居た時は無かった感情を与えてくれた仲間達。


 私が死んだらずっと私の帰りを待ち続けてくれるのだろうか?籠に居た私みたいにずっと……、う~んそれは嫌だなぁ


 らしくないけど、たまには我武者羅(がむしゃら)に生きてみるか、うん!


「脳波コントロールシステム、MRPシステム起動……システム起動!」


 自機の肩部にあるハッチが開き、光り輝くパウダーが噴射される。


【グラーネ】「目くらましか、あがいても無駄、死を受け入れよ」


 イメージしろ、思い出すんだ。


 本当は思い出したく無いが、散々メンテしてきた()()の構造を、造形(モデリング)する為に――。


 自機(ロングイ)の腰部から細くて長い()()が造形される。


【グラーネ】「なんだそれは?隠していた鞭……、面白い、我の槍が貴様を貫くか、その鞭が我に直撃するか勝負と行こうではないか!」


 ライフルを構え、その場で停止していると粒子シールドがこじ開けられた。


【グラーネ】「どうやら我の勝ちの様だ、この間合いではその鞭も役に立たない」


「いいえ、あなたの姿も動きも全て読んでいたわ……読んでいたわ」


 自機の上体を逸らして、()()()()見えない機体から繰りだされた見えない槍からの突きを回避した。


【グラーネ】「何!?馬鹿なっ……見えていないと出来ない動き!」


「この尻尾は鞭では無いわ……"ナノエレクトワイヤー"よ」


 そう、これは私の両親が作ったあらゆる物を探知し行動すら予測演算する"籠の素材(ナノエレクトワイアー)"だ。


 渾身の一突きを躱された敵機(アレオーン)は無防備な態勢となり、その一瞬の隙を私は見逃さない


「うしろの正面……撃つわ……撃つわ……」


 ドンッ!ドンッ!ドンッ!


 トリプルバレルライフル、これも私の両親が作った物だ。


「撃つわ……撃つわ!撃つわ!」


 ドンッ!ドンッ!ドンッ!


 連続で銃弾を浴びせ、敵機(アレオーン)の両手足に頭部、そしてスラスター全てを破壊した。


――――――――――――――――――――――――――――――――


 春日十士 グラーネ 搭乗機 超機体アレオーン 【行動不能】


――――――――――――――――――――――――――――――――


【グラーネ】「ぐっ……不覚!超機体の能力を過信し過ぎた」


【グラーネ】「いいや、認めよう……貴様、いやお主は強かった……さぁ我を殺せ!」


「私は帰るわ……帰るわ……」


【グラーネ】「何故だ!?情けなどいらぬ!やれぇ!」


「貴方にも帰りを待ってる人が居るでしょ?自覚は無くても居るはずだわ、その人の為よ……恥と言うなら生き恥を敗北のペナルティとなさい、なさい」


【グラーネ】「…………死よりも酷であるな」


 私はそれ以上何も語らず、グラーネを置いてこの空域を後にした。



 格好よく締めたが、身体の震えと冷や汗が止まらない……ひやぁぁぁぁぁ怖かった!怖かった!


「やっぱ私は護られる方がいいわ……いいわ……」


 人はそうそう変われない、まぁ私は私なりに生きて、その過程で仲間を笑顔にしよう。


 仲間の笑顔は私の幸せにも繋がるから


 今はとりあえずセレーネに戻ろう。


 この機体のあり様じゃ、アイリスに付いて行っても戦力にならないからだ。


 今回は()()()に助けられる()()()役を友人(テレイア)に譲ろう。


 テレイアに貰ったカチューシャを付け直し、今度は編み込みの"ツインテール"のやり方でも教わろう……いや、私じゃ似合わないかな


 などと苦笑しながらセレーネへの帰路を進むのであった。


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