052 ヘカテー 対 春日之エイブ
※このお話しは別人視点になります。
私の名前はヘカテー、宇宙傭兵団虹の剣に所属しているG・Sパイロットの1人なのだ。
かくかくしかじかで団長のテレイアを救出する事となったのだが、私は自分が恥ずかしいっ!
テレイアは「家庭の事情」で虹の剣を辞めると言ったのだが、私はそのままの意味でとらえて、テレイアの真の思いを感じる事が出来なかった。
まさか私達を思って自身の命を犠牲にする為だったなんて……。
"正義のヒーロー"を目指す私が再び身近な人間の心境に気付かずに、のうのうと日常に戻る所だったのだ。
テレイアは普段から色々忙しそうだったけど、私が父さんに手紙を出したり、面会が出来る様に気をかけてくれた。
そしてテレイアは私に隠していたつもりだが、コイウスカンパニーに残された負債や賠償金を肩代わりしてくれていた事も知っている――。
そんな恩人の窮地にすら気づけないなんぞ、万死に値するのだ!
今は3機のG・Sでテレイアが居るコロニー、"カラモス"へと向かっている。
後方から幾つもの星間弾道ミサイルも付いて来るが、あれはMRPシステムのパウダーが詰まってるだけだから、特に怖くはないのだ。
アイリスとクレインの新機体、そしてコハクが改良したこの"ヒルクアビス"が全速力で向かえば2時間ほどでカラモスに付くだろう。
暫らくカラモスに向かって飛行していた時であった。
【アイリス】『A方向から何か来る、戦闘配備を』
こちらに向かって飛んでくる1機のG・Sを捕えた。
【アイリス】『音声を繋いで警告します』
【アイリス】『そちらの機体聞こえますか?これ以上接近するなら攻撃します!』
【ゲストA】「ザザ――……あぁ~マジで来たんだダリィ、陛下の勅命が大当たりだねぇ虹の剣さん達」
【アイリス】『春日十士か』
【ゲストA】「そうだよ、俺の名前は"エイブ"、この機体は"ハヌマーン"、リメインが作った超機体さ」
ドシュ!ドシュ!ドシュ!
アイリスが間髪入れずにエイブの機体にビームガンを撃ち込んだ。
【エイブ】「怖っ!いきなりかよ……」
「えっ!?」
確実に手足を捕えた閃光、だがハヌマーンとやらは全くの無傷であった。
【エイブ】「熱線、効かざる――」
ハヌマーンを見ると、機体の廻りには細かな金色の粒が"蚊柱"の様に渦を巻いている。
『ならば』とアイリスはナイフに持ち替えてハヌマーンの頭部目がけて横なぎを放った。
だがハヌマーンの頭部に粒の蚊柱が集まり出すと、アイリスが放った横なぎを弾いた。
【アイリス】『刃が通らない!?』
【エイブ】「斬撃、効かざる」
【アイリス】『金粉を操作して攻撃が当たる瞬間、固定させて盾にしてるのか』
【エイブ】「正解、これが超兵器"筋斗粉塵"そして更に……」
ハヌマーンは両手で持った長い棍棒をアルミラージへ向けて振りぬいた。
アルミラージはバックステップで躱した―― かに思えたが。
ガッ!
【アイリス】『んっ!?』
振られた棒がアルミラージの殴打距離まで伸びた。
アイリスは即座に反応して右手で受流したので機体は無傷である。
【エイブ】「初見でこの"如意棍"に反応するとか……やっぱつえーな、ナバイを倒しただけの事はあるよ」
【アイリス】『"三節根"?いや棒事態が伸びたな』
【エイブ】「能力は地味だけど、これも一応超兵器の一つさ、流石にどれだけ伸びるかは秘密だよ」
【アイリス】『急いでるのに……、厄介なタイプだ』
【エイブ】「お互い様だ、俺もあんたら3機相手に勝とうと思っちゃいない……他の春日が来るまで足止めさせて貰うよ」
この機体と超兵器、そしてエイブは淡々と自分の仕事をこなすタイプ……こちらの数が有利でも長期戦に持ち込まれるのだ。
「アイリスとクレイン、ここは私に任せて先に行くのだ!」
【アイリス】『ヘカテー!?』
ピーターワンのブリッジで涙を流して頭を下げたアイリスに私は"正義"を見た。
決して格好良くないカッコイイ姿―― 私はそんなアイリスの正義を成就させたい、主役では無くサポートに徹する。
「いいから行くのだ!アイリスの選んだ道は仲間を信じて戦いを託す事でもあるのだ!」
【アイリス】『ヘカテー……、分かりました!でも死なないでください、ヘカテーも大切な仲間ですから』
「私は負けないのだっ!」
【エイブ】「なんか盛り上がっちゃってるけど、行かせる分けねぇじゃん、筋斗粉塵の結界で囲っちゃうよ」
ハヌマーンは身体に纏っていた金色の粉塵を広く空域に展開させた。
するとアルミラージは後ろから追随した、こちらに接近しつつあるミサイル群を指差し、アイリスはこう答えた。
【アイリス】『核ミサイルの1つをここで爆破させましょう』
【エイブ】「核!?なんてもん飛ばして来やがんだ!くそっ!粉塵俺を守れ!」
アルミラージはミサイルの1つにビームガンを撃ち込むと、広域に展開されてた粉塵が再びハヌマーンの身体を覆う。
ドンッ!
【エイブ】「……ん?おいおい核弾頭どころか何も積んで無いじゃん」
【エイブ】「どういう事だよって……あれぇ!?いない!」
既にアイリスとクレインは遥か遠くへ飛び去り、私は追いかけようとしたハヌマーンを回り込んで阻止した。
「ここから先へは行かせないのだ!」
【エイブ】「あぁ~マジでダルいわぁ、3人相手だったら足止めって事で言い訳出来たのに……一対一になったら」
【エイブ】「倒すしかねぇよな!!」
ハヌマーンは伸びる能力がある棍棒をブンブンと私が乗るヒルクアビスに向けて振りまわして来る。
恐れるな、前に出ろ、私のヒルクアビスも超機体であるはずなのだ!
銃もナイフも持たない拳を握りしめてハヌマーンへと距離を詰める。
コロシアムでも棍棒を持った相手と戦って来たし、インファイトを得意とする私に伸びる棒は大した脅威では無い……だが。
ぶん回された棍棒をひょいひょいと躱しながら、ヒルクの拳が届く位置まで詰め、ボディに拳を叩きこんだ。
ドンッ!
【エイブ】「やるな、だが打撃効かざるだ」
蠢く粉塵が殴った個所を覆い、衝撃を消された。
だがこのヒルクにはここからがあるのだ!
ズンッ!!
粉塵を貫通した衝撃によりハヌマーンは後方へと吹っ飛ぶ。
【エイブ】「うおっ!?なんだこの衝撃波は!」
"スネークメント"、お父さんが作り出した技術はキャロルにも届く!
【エイブ】「えぐり込む様なゼロインチパンチで筋斗粉塵すら貫通すんのか、警戒に値する兵器だがダメージまでには至ってないぜ」
届いて無かった……。
仕方ない、ヒルクアビスの奥の手だったが、アレを使わざるを得ないのだ。
「いっけぇ~、"シャゴッタン"!」
ヒルクアビスの背中に搭載された3つの大きな黒い玉が射出され、回転しながら弧を描いてハヌマーンへと襲い掛かった。
【エイブ】「何それ?きもっ!」
「きもくねぇのだ!かわいいのだ!」
【エイブ】「大婆様の"阿修羅"みたいな遠隔操作兵器か?どちらにせよ打ち落とすか粉塵でガードすりゃいい」
飛び掛かるシャゴッタンに棍棒を振り回し、接近させない様にするが、2つを牽制するのが限界な様で潜り抜けた1つの玉が機体に直撃した。
ゴッ!
【エイブ】「なんだ?ただデカい玉が体当たりするだけかよ……それじゃ粉塵は抜けねぇよ」
そんな分けないのだ!シャゴッタン、トランスフォーム!
脳波コントロールで命令を下されたシャゴッタンの後部からニョキニョキと尻尾が生え、グルグルと回転を始めた。
【エイブ】「きもっ!」
「きもくないっ!弾けろシャゴッタン!」
ドオォォォンッ!
シャゴッタンから強烈な衝撃波が発生し、ハヌマーンを守っていた粉塵が四方に飛散する。
【エイブ】「これは!?お前の機体が出せるゼロインチパンチ、黒い玉単体で出せるのかよ!」
その通りなのだ。
このシャゴッタンにはスネークメントと同じ技術が流用されていて、尻尾の回転で貯めた衝撃を一気に放出させる事が出来るのだ。
防壁となっていた粉塵が飛び散った今がチャンス!
ヒルクで一気に間合いを詰めると、がら空きとなった敵機の頭部へパンチを叩きこんだ。
パァン!
確実に入った……、だがハヌマーンの頭部は吹き飛ばずに、バルーン人形を殴ったかの様にグニャリと曲がって元の状態に戻った。
「なっ!?」
【エイブ】「効かざる、効かざる!この機体は特殊な繊維装甲でね、"ゴム"みたいな伸縮性を持ってるんだ」
そんな特性まで隠してたのか、流石はキャロルの超機体なのだ。
「ゴムみたいな装甲なら伸びない様に掴んでからパンチを叩きこめば!」
【エイブ】「いつまで自分のターンでいる気だよ、マジウケる」
頭部を掴もうと再びハヌマーンへと距離を詰めようとするが、自機の動きが鈍くなっている事に気づいた。
まるで重力がある場所で体中にデカい重しを付けられた様に――
【エイブ】「お前の機体に筋斗粉塵を絡ませた」
自機を見ると機体の手足や腰に金色の粉塵でコーティングされている。
【エイブ】「粉塵には大婆様の"載力小太刀"ほどでは無いが"固定能力"がある」
完全に動きを縛られては無いがヒルクの動きが通常時の五分の一ぐらいになってしまった。
【エイブ】「そのスピードじゃ俺の棍さばきは避け切れねぇな」
ハヌマーンは距離を取ると棍棒を容赦なくヒルクに打ち付ける。
ドッ!ガッ!ガッ!ゴッ!
「んぐっ!」
棍の軌道は読めるが、鈍くなった手足では甲でのガードが間に合わずに関節に直撃してダメージを負ってしまい、右手と両足が行動不能になってしまった。
【エイブ】「ガードに専念し過ぎて黒い玉の操作も追いついてねぇな、これで終わりだな、大人しく3人でやってりゃ良かったのに……春日ナメ過ぎでしょ」
【エイブ】「相手がガキだろうが始末する、それが春日だ……堕ちろ」
"死"……死ぬことはそんなに怖くなかった。
そういう世界で生きて行くんだから覚悟を持って居たが、私が死んだらアイリスもテレイアも私の死を背負ってしまい、この奪還作戦の意味を失ってしまう。
アイリスの見せた格好の悪い正義も全て無駄になってしまうのだ。
「そんな事は……絶対に……させないのだぁ!!」
「MRPシステム起動ぅ!」
ヒルクアビスから光り輝く粒子が発生する。
【エイブ】「何の光ぃ!?」
自分が情けない……、最初からMRPを使って居れば良かったのに、"欲"を出してお父さんが作ったシステムだけで倒そうとしてしまった。
脳波コントロールでイメージするのだ。
造形する物は、いつも自宅兼、工場で見て来た"父の誇り"、スネークメントを生み出す"腕"――
「右腕をパージ、肩から上を造形!」
【エイブ】「再生してる?させるかよ!」
ハヌマーンは棍棒を振りかざす……が、"何者"かに棒を掴まれた。
【エイブ】「なんだ!?」
造形したのはヒルクの右手だけじゃない……、シャゴッタンに"手を生やした"――
【エイブ】「きもっ!」
「きもくない!行けぇシャゴッタン第二形態!」
棒を掴んでたシャゴッタンがそのままハヌマーンへと突っ込むと、パンチと体当たりでスネークメントの衝撃を叩きこんだ。
パァァァン!
【エイブ】「うわっ!防御用の粉塵が散って……」
すかさず残り2つのシャゴッタンを突っ込ませる。
【エイブ】「だがハヌマーンの伸縮装甲なら打撃なんて効かざるだ!」
「打撃?この2つは伸ばしにつかうのだ!」
2つのシャゴッタンは各々、ハヌマーンの左右の手を掴むと逆方向へと力いっぱい引っ張り始めた。
水飴の様にウニョーンと伸びたハヌマーンのボディ。
【エイブ】「くそっ……特性上パージが出来ねぇ」
「ゴムの様な特性なら、限界まで伸ばした時に中心部にかかる衝撃は逃げずに食らうのだ……」
【エイブ】「はっ!……全ての粉塵よ集まって俺を守れ!」
残り1つのシャゴッタンを突っ込ませると、ハヌマーンはこの空域に散らばらせた粉塵を自身のボディへと集中させた。
ズンッ……パァァァン!
【エイブ】「ぐぅ!……なんとか防いだぜ」
「粉塵を解いてくれてありがとうなのだ……おかげで拳の射程距離に入れたのだよ――」
防御行動に気を取られてる隙に、右手を再生して既にハヌマーンへと距離を詰めていた。
【エイブ】「あ、しまっ……!」
「食らうのだ!うりゃ!りゃ!りゃ!りゃ!りゃ!りゃ!りゃ!りゃ!りゃ!」
防御用の粉塵が散りたてで、尚且つ伸びきって衝撃を逃がせないハヌマーンにパンチのラッシュを浴びせた。
ドゴ!ドゴ!ドゴ!ドゴ!ドゴ!ドゴ!ドゴ!ドゴ!
両足切断、両手切断、そして最後に頭とボディをシャゴッタンで引き延ばして――
【エイブ】「ひっ……!」
「G・Sコロシアムルール、手足の破損による行動不能及び……」
ハヌマーンの頭部に拳を添えて、一気にスネークメントを叩きこんで粉砕した。
ドンッ!
「頭部破壊により、試合終了!完全勝利なのだ!」
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春日十士 エイブ 搭乗機 超機体ハヌマーン 【行動不能】
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【エイブ】「こ、殺さないのか?」
「"不殺の傭兵士"が良いと言ってくれた人が居るから止めは刺さないのだ」
【エイブ】「甘いな……まぁそっちがその気なら甘えさせてもらうけどね、ソシャゲでもやって援軍でも待ってよっと」
なんかムカついたので一発ボディを殴っといた。
ドンッ!
【エイブ】「痛って!オイ!通信機ぶっ壊れちまったじゃねぇか!」
ふん、ざまぁみろなのだ。
しかし、ヒルクアビスも大分消耗してしまった。
MRPシステムで再生した物は時間制限があるし、このまま進んでもアイリス達の足手まといになってしまうのだ。
アイリスとクレインを信じて、一旦基地へと戻ろう。
そしてこの戦いが終わったら、お父さんに伝えるのだ。
お父さんが人生を賭けて作った技術は、マロタリ社どころか、充分にキャロルへ届いたと――
工房で深夜まで研究をしていた、ありし日の父の背中を思い出し涙を流しそうになったが、両頬をペチペチ叩いて気を引き締め、セレーネへと帰路につくのであった。




