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048 肉の傀儡

※この話は前半『三人称視点』後半はいつもの『主人公視点』となります。

 時はヘルコスの戦いの直前――


 レベリオ帝国軍の旗艦である大型戦艦内


 この戦いでの総司令官である50代で背の高い褐色の男、名前は"マルブル"、春日十士の1人である。


 マルブルは格納庫に向かうと、そこには5つの機体と、4人のパイロットが居た。


「皇帝陛下の命により、ついに我々十士が本来の力を発揮する時が来た!」


 そうマルブルが激を飛ばすが、4人のパイロットは各々自由にしている。


 真面目に直立で聞く者、マルブルに目もくれず椅子に座って携帯端末をいじる者、地べたに寝転がる者。


 だがマルブルは厳しく注意出来ない、今作戦の総司令ではあるが同じ春日十士、階級は同等である。


「これだからG・S乗り担当は……あと1人、大婆様は?引退したとはいえ形式的に出ると言う話では無かったのか!おい"エイブ"聞いてるのか?」


 マルブルの嘆きにエイブと呼ばれたくせ毛の青年は携帯をいじりながら答えた。


「昨日"近くのコロニーに遊びに行く"って言ったまま音信不通だよ~」


「はぁ~、かつて戦場の女王(クイーン)と呼ばれていた大婆様も老いで気力が失せたのか……」


「誰が気力が失せたって!?マルブルよ」


「あ!?」


 格納庫への扉が開き、杖を付いた体躯の良い老婆が入って来た。


「大婆様!」


 老婆がマルブルの元へ来た瞬間、先ほどまで携帯をいじったり寝転がっていた春日のパイロット達がバッと直立し、敬礼で迎えた。


「ぐっ!こいつら俺の言う事は聞かん癖して……大婆様も大事な決戦の日に他所のコロニーへ行かんでくださいよ!」


「いやぁ~すまんなマルブル、して……今回のヘルコスでは我ら春日が出撃らしいが――」


「陛下の命令です、護衛と隠密が主だった春日が決戦に出るのは果たして何十年ぶりでありましょうか」


「二十五年ぶりだよ……今生(こんじょう)(みかど)は現状維持派だと思ったのだが、まぁ我ら氏族は使命を全うするだけだがなぁ……所でマルブル」


「はい?」


「クーヤ様と春日の、"クリスタ"が一緒に行方をくらました件はどうなっておる?」


「同じ陸戦担当の春日、"アロイ"が捜索してましたが、連絡が途絶えてます」


「うーむ……何か嫌な予感がするねぇ」


「大婆様、そろそろお時間ですので機体に搭乗を」


 老婆はコクリと頷くと、格納庫にある1機のG・Sの前へと歩みを進める。


 機体の名前は"ミュース"、キャロルの後継者候補が作った超機体である。


「ミュースでの実戦は初めてだねぇ、そして"載力(さいりき)小太刀"……刀身から特殊な素粒子(ヒックス粒子)を発して触れた物を数秒間固定する能力――」


「常に動き廻って戦うG・S、戦艦では掠っただけで、下手すれば己の運動エネルギーでバラバラになる恐ろしい兵器ですね」


「だがその分ピーキー()だねぇ、我じゃないと扱えないだろうよぉ!カカッ」


「新しいオプションの"阿修羅(アシュラ)"もありますね」


「遠隔操作の複腕か、我はあんま好かないねぇ……」


「何故です?」


「気持ち悪いじゃないか!タコじゃあるまいし、それにズルいだろう、二腕の今のままでも我に敵など居ないのによぅ」


 やれやれと手を挙げるマルブル、老婆はミュースの胸部からコクピットへと乗り込む。


「パイロットスーツは着ないのですか?」


「要らず……だってダサいじゃないか!カッカカカ!」


 そう老婆は高らかに笑うと胸部ハッチを閉じてシステムチェックを行い、発進の準備を始めた。


「量産機でも千機以上墜として来た我に超機体と超兵器かい、弱っちいけど一生懸命なナバイも居ない戦場ねぇ……」


「まぁ前線からは引退した身、(かなめ)は若い春日に任せて我は余所にちょっかい出す不届き者の監視に回るとするかねぇ」


 格納庫のハッチが開き、射出カタパルトへとミュースを移動させる。


「こんな戦場よりあの子とやるゲームの方が楽しく()えそうだねぇ」


【オペレーター】「一番機発進してください」


「あい了解、こちら機体ミュース、搭乗者"エボニー"発進する!」


 赤いモノアイを光らせながら、老婆エボニーが乗ったミュースはヘルコスの戦場へと飛び立つのであった――。


 ………………


 …………


 ……


 今回のヘルコスの戦いでは昨今の"儀式的な戦争"を考えて居た惑星同盟軍の楽観を裏切り、春日十士による超機体での奇襲によって大損害を受けた惑星軍は撤退を始める。


 第三十七次ヘルコスの戦いは30分にも満たない時間での決着となった。


 惑星軍が撤退すると深追いはせずに帝国の旗艦へと次々戻る春日の超機体達、エボニーが乗るミュースも帰艦し胸部ハッチを開く。


「大婆様!我々の大勝利ですぞ!やはり超機体と春日は無敵ですな」


 圧勝で興奮したマルブルがミュースへと近づくが、エボニーの様子を見て驚いた。


「お、大婆様!?どうしたんですかその汗は?」


 パイロットは精神面以外にも体力的にも消耗するが、大ベテランで尚且つ監督役として出撃したエボニーが額に汗を(にじ)ませるのを見たのは初めての経験である。


「いやはやマルブルよ……とてつもない"怪物"がおったわ」


「怪物?惑星同盟にですか?」


「いいや、あれは恐らくフリーの警備員か傭兵であろう」


「我々の知らない超機体でも見たので?」


「機体も良かった、だが乗り手の事だよ、戦陣を離れてコロニーへと向かう帝国軍を追っていたのだが」


「それらを一瞬で行動不能にした機体があってねぇ……戦闘区域に入ってたから頭でも吹き飛ばして脅かしてやろうと思ったんだが」


「我が放った(いち)の太刀をあっさり防いで、尚且つ"載力(さいりき)小太刀"の能力を見抜いた」


 エボニーの言葉に驚きの表情を隠せないマルブル


「……そんな事が出来る者が」


「さらには貫手を滑り込ませて我を仕留める態勢も取っていた、あのまま死合っていたら墜とされてたかもしれぬな」


「マルブルよ……どうやら外聞(がいぶん)を捨てて"阿修羅(アシュラ)"を使いこなさなければいかん時が来るかも知れぬな――」


「大婆様、どこか嬉しそうですね」


「カッカカカ!(たかぶ)るじゃないか、産まれてこの方84年、G・S乗りになって70年、初めて同等……いや我以上の者と()れるのやもしれぬのだからねぇ!」


 呆れて手を挙げるマルブルとしわくちゃの笑顔を見せるエボニー、戦場に似つかわしくない老婆の笑みだが、春日である他の4名のパイロット達は驚愕と絶句の表情を浮かべていた。


 何故なら先ほどまで惑星軍を圧倒していたこの4名が同時にエボニーを相手にしても勝つことは難しいからである。


 ヘルコスの戦いでの"未知の怪物(アイリス)"による一瞬の介入、この波紋が小さな揺らぎで終わるのか、大波になるかはまだ分からないのであった――。



――――――――――――――――――――――――――――――――



 ヘルコスの戦いを終えてコロニーに戻り、虹の剣のメンバーは休憩や買い物など各々の時間を過ごしていた。


 俺とテレイアとケレスはホテル二階にある休息場でテレビを観ながら休んでいた。


 テレビではニュースが流れていてニュースキャスターが今回のヘルコスの戦いを紹介している。


【キャスター】「今年の決戦での死者は推定で帝国側50人、惑星同盟側1万3千人という、一方的な結果となりました」


【キャスター】「帝国側の猛攻にはどういった背景があるのでしょうか?裏に居るキャロルとの関係も気になる所ですが――」


 ニュースを観るテレイアは無表情であったが、どこか動揺している様にも見えた。


 テレイアは元々帝国の皇女、普通は自国の大勝は喜ぶ物なのだろうが……皇女の座を捨てて家を出たという事は複雑な事情があるのだろう。


 テレビを観ていると1階ロビーへと続く階段を登り、休息場へと誰かが近づく気配を感じた。


 ホテルの人か客が来たのかと思ったが、ケレスの表情が険しくなる。


 三十代ぐらいの一人の男が近づいて来て声をかけて来た。


「ようやく見つけましたクーヤ様、それにクリスタ……いや、今はケレスと名乗ってるのか」


「アロイ様!?」


『知り合いですか?ケレス』


「私と同じ春日十士、その陸戦担当の1人よ」


 過去の言動で何となく察してはいたがケレスは春日十士なのか、そしてこのアロイという長身で細マッチョな男も肉弾戦はかなりの使い手なのだろう。


「私を連れ戻しに来たの!?()()()の命令で……」


 椅子から立ち上がったテレイアは警戒した様子で後退りし、ケレスは護る様に前に立ちはだかった。


「"あいつ"と呼んでると言う事はクーヤ様もお気づきになられているのですね、俺ももっと早くに気づいていれば……」


 そう呟いたアロイは羽織の内側に手を突っ込んで腰から何かを取り出した。


「お嬢様、下がって!」


 ケレスは叫んでテーブルにあった空き瓶を掴んで構える。


 アロイが取り出したのは"銃"であった――。


 どうする、俺に出来る事はあるのか!?


「クリスタ、俺に娘が居る事を知ってるな?妻と別れてからは俺が生きる理由は娘だけだった……」


「アロイ様……」


「娘には普通の生活をさせたいと学校に行かせていたが、仕事柄、なかなか娘と会えない日が続いていた……」


「ある日家に戻ると、娘は一日中"3Dゴーグル"を付けたまま眠っていた」


「娘はバーチャルの世界に依存してしまっていたんだ!更にはバーチャルキャラである偽りの母親に洗脳されてもいた!」


「そんなッ!?」


「娘を救おうと仮想空間から距離を置かせようとしたが、自殺未遂を何度も繰り返す様になった……」


「俺は娘のマインドコントロールを解こうとバーチャル空間に入り娘を洗脳したキャラと対峙したが、そいつはある事を条件に娘の洗脳を解くと約束した」


「一つはクーヤ様に"百五十年の和平に協力せねば今後も()()が続く"という事を伝える――」


「ッ……!」


 絶句するテレイア、"百五十年の和平"どっかで聞いた様な……、そうだ!ナバイと戦った時にテレイアが言ってた事だ。


 和平だったら別に受けてもいいのでは?……それと()()が続くの()()ってなんだ?……アロイは話を続ける。


「二つ目は……奴は()()()()()()から約束は必ず守る」


「ふぅ……クリスタ、いやケレス、お前は春日に縛られず自由に生きろ」


 アロイは銃を自身の顎の下に沿え、銃口を頭部に向けた。


「あっ……」


「二つ目を実行しなきゃな、その前に」


「なぁ、覚えてるか?お爺様の命令とは言えお前の飼ってたモグラを俺が川に捨てた事を……」


「アロイ様やめて……」


「あの時、実はモグラは畑に逃がして芋を川に流してやったんだよ……ハハハッ、俺も甘いだろ?ごめんな辛い思いさせて」


 笑顔でそう言ったアロイに向かってケレスは走り出した……が――


 パンッ!!


 G・Sでの戦闘とは違う、乾いた銃声と白い壁に咲かせた血痕――


 崩れ落ちたアロイに駆け寄るケレスと呆然と座り込んだテレイア、俺はテレイアの肩に手を添えることしか出来なかった。


「アロイ様……私の先生であり、兄の様な存在だった……」


 遺体となったアロイの顔を撫でるケレス、いつも無表情だった彼女の目からは涙が溢れている。


 娘を人質に取ってテレイアの目の前で自殺させて脅迫する……。


 何という卑劣(ひれつ)――


 だが事はアロイの死だけでは終わらなかった。


 ド――ンッ!……ドン!……ゴッ……ドンッ!


 ホテルの外から複数の爆発音が鳴りだした。


 俺とテレイアで窓から外の様子を見ると、コロニー内の繁華街や住宅街のあちこちで大きな火花と土煙が立ち込めていて、女性の叫び声や子供の泣き声も聞こえて来た。


 しばらくするとあちこちでサイレンの音が響き渡り、まるで大災害が起きた後の様な騒ぎとなっている。


【キャスター】「緊急速報です、たった今このコロニー内で同時多発に爆発が起きております、住民、旅行者の方は落ち着いて避難を――」


 ピピピッ!


 テレイアの携帯通信機が鳴った。


「はい、どうしたのベスタ?大丈夫?」


 そうだ、ベスタは他のメンバーと買い物に行っていたんだ。


「えっ!……コリンとカイリが爆発に巻き込まれた!?」


 頭の中が真っ白になる。


「うん……病院に、分かった私も向かうわ!ケレス……私とアイリスだけで向かうわ」


 ケレスはアロイの遺体にコートをかけると、いつもの無表情に戻って立ち上がった。


「いえ、私も一緒に行きます」


 ケレスの気丈な言葉にテレイアはコクリと頷いて、3人でコロニー内にある病院へと向かう。


 ………………


 …………


 ……


 タクシーで病院に向かっていたが、爆破事件の影響で起きた渋滞につかまり、走ってなんとか病院へとたどり着いた。


 病院では事件の影響で大量の怪我人が溢れていて、医者や看護師らが忙しなく動き、うめき声や泣き叫ぶ声が響いていて地獄の様な光景である。


 そんな中でようやくベスタを見つけ、手に包帯を巻いたカイリとも合流した。


「3人で買い物してたら、少し前に居た男の人が大声で叫んだと思ったら背負ってたリュックが爆発したんだ……」


「色んな破片が飛んで来て、お姉ちゃん(コリン)が僕を庇って……うっ、うう!」


 泣き崩れるカイリをベスタは抱きしめる。


 コリンが治療を受けている集中治療室から看護師が出て来て、コリンの状態をテレイアに説明した。


「今は麻酔で眠ってますが、一命は取り留めました」


 少しだけホッとしたが。


「ですが、左足は損傷が激しく切断せざる負えなくて……」


「そんなっ……」


「現在では高度なサイボーグ義足や人工タンパク質での再生治療が可能ですので」


「分かりました、コリンの意識が戻ったらどうするか話し合います……コリンの事をよろしくお願いします!」


 そう言って看護師に頭を下げたテレイアは、肩を落とした様子でフラフラと待合室の椅子へと座ってうな垂れた。


 待合室ではテレビが置いてあり、爆破事件のニュースが流れている。


【キャスター】「目撃者や防犯カメラの映像によると、犯人は老若男女で統一性が無く、手荷物や身体に隠した爆弾を起動させる時に何かを叫んでいた様子が(うかが)えます」


【キャスター】「そのほとんどが"バーチャルキャラクター"の名前や関連項目で、事件となんらかの関係があると思われ――」


 俺もテレイアの隣に座るが、なんて言葉をかけていいのか分からずにいるとテレイアが小声で呟き始めた。


()()がここまで自分の出した計画に執着するとは思わなかった……」


「人類は進化と繁栄を極めて、己の育った星すら離れ、宇宙を開拓するほどとなったが"闘争"と"孤独"からの卒業は出来なかった」


「停滞した人類の進化に一石を投じようとキャロルは人を導き答えを与える"人工知能(AI)"を作り出す」


「でもそのAIの出した答えは"人類は死ぬ事で救われる"と言うものだった――」


「キャロルはそのAIを削除(デリート)しようとしたけど、そいつはネットを使って惑星やコロニーに散らばる一般や企業、軍用のハードへと逃げ込んだ」


「何も持たないデータだけの存在だったヤツだが、自身が出した人類抹殺の答を実行に移す……」


「目を付けたのはネット上で人気を博したバーチャルキャラクター、心理学、脳科学、医学や宗教、各地の政治思考……そして洗脳術(マインドコントロール)を独学で覚えたヤツは」


「ネット空間に依存した孤独な人間が求める、恋人、家族、教師や指導者、医師や介護士、ペットのキャラにまで演じて人間を洗脳して己の手駒にした」


「人間の弱さや孤独に付け込んで信仰者を集め続け、やがて惑星同盟や帝国の上層部の者まで凋落する……そして――」


 うつ向いたまま語るテレイア、拳を強く握り絞めすぎて爪で切った手からは血の雫が流れ落ちていた。


「ヤツは私の両親を殺して、帰る場所も奪い、帝国を乗っり、さらには虹の剣の仲間まで……こんな事にッ!」


「ヤツ……殺人AI"ダキニ"は私の人生を賭けても消さなきゃならない相手――」



 俺はこの世界に来てG・S乗りになった時、傭兵団としてG・Sでの戦闘で勝ち続けていれば全てが上手く行くと思っていた。


 しかしテレイア、虹の剣にとっての最大の敵が"AI"、しかもアンドロイドなどの身体を持たずに実態を隠し、人間を操って攻撃をしかけてくる相手……。


 何も出来ずに仲間やその親族、そして一般市民がやられて行き、打ちひしがれるテレイアを見て己の無力さを感じる事しか出来なかった――。


【キャスター】「以上が爆破事件の速報です」


【キャスター】「この様な悲劇が起こらない様、やはり惑星と帝国の和平を行い、人々の団結を見せる事が良いと私は思います」


【キャスター】「以上ニュースヘルコスライブ、バーチャルニュースキャスタータマモでした、それでは良いひと時を――」


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