045 服だけを溶かすヌルヌルの宇宙ゴミを回収する事に
虹の剣は数多のゴタゴタで一月以上傭兵団としての仕事を受注出来ずにいたが、ようやく今日から営業再開らしい。
俺はまだ仕事の詳しい概要を聞いていないが、流石にあれだけの事があったんだから惑星同盟からの依頼では無いだろう。
惑星セレーネから出発して12時間、アルクトス領にある中型のコロニーへとたどり着いた。
停泊したピーターワンのブリッジで今回受ける仕事についてのブリーフィングが始まる。
さて、新機体も揃ったことだし一体どんな依頼を受けたのだろうか?
中隊クラスを虹の剣だけで相手にする戦い―― それとも大隊がぶつかり合う決戦に参加するのだろうか?
そう思っていた俺だがテレイアの口から出た依頼内容は意外な物であった。
「今日やる仕事は宇宙ゴミの回収業よ!」
『えぇー』
「えぇー、じゃない!本当は新型三機のデビュー戦を派手な戦場で飾りたかったけど、誰かさんのせいでお預けになったんじゃない!」
『返す言葉も御座いません……』
「今回はちょっと変わったデブリを回収する事になってるから、G・Sに乗るのは母艦護衛のクレインだけで、アイリスとヘカテーには専用のデブリ回収艦に乗って作業してもらうわよ!」
『私はG・Sの操作は得意ですが……小型艦は操舵した事無いです、コリンがやった方がいいのでは?』
「そうなったらアイリスがピーターワンを操舵するの?」
『え、それは……』
「すべこべ言わずに回収艦に乗って準備なさい!」
『は、はい!』
と、いう事で俺とヘカテーはコロニーの空港に停泊してある大型トラックサイズの小型艦に乗り込んでデブリがある空域へと向かった。
俺は小型艦の操舵は出来ないが、黒兎のデータ内に操舵のスキルがあったので操舵は黒兎に任せる事にした。
隣の操舵席に座っているヘカテーに挨拶をしたらプイッとそっぽを向かれてしまう。
うーん、あの時ヘカテーもガチンコでやるつもりだったじゃないか……女の子の気持ちは難しいもんだ。
しばらく進んでいくと細かな岩々が点在する流星体群へと入って行き、小回りが利かないピーターワンはその地区の外で待機し、小型艦だけが内部へと侵入する。
【テレイア】「ここからは2人に任せるわ、何かあったら連絡して頂戴」
『了解』
【テレイア】「回収するのは液状の宇宙ゴミ、リサイクル業者に納品されるハズだった薬品が輸送艦の事故によって中身が漏れ出てここまで浮遊して来たらしいわ」
『液体、だからトリモチ弾じゃなくてバキュームホースが装備されてるんですね』
【テレイア】「そうよ、タンクに全て入れたら岩にぶつからない様に母艦にまで戻って頂戴ね、その薬液はあまり危険は無いけど"テロペン繊維"を溶かす作用があるの」
『テロペン繊維?』
【テレイア】「アルクトス領にあるテロペン惑星から取れる化石燃料で作られた繊維よ、よく伸びて丈夫だからこの世界のほとんどの衣服に使われているわ」
へぇ~、俺が居た世界にあったナイロンみたいな物か。
【テレイア】「……ザ、ザザ……ん?通信が荒いわね……ジジジ――流星体群のせいかしら?……じゃあ任せるからお願いねザ――……」
テレイアからの音声通信が途絶えてしまった。
まぁ母艦の護衛にはクレインが居るから大丈夫であろう。
しばらく流星体群の中を進むと、前方に薄緑色の大きな液体の塊玉をモニタに捉えた。
『アレが目標ですね、私(黒兎)が操舵して近づくのでヘカテーはバキューム管を操作して吸い出してください』
「………………」
うつ向いたまま押し黙るヘカテー
『まだヒルクを壊した事を怒ってるのですか?』
「その事はそんなに怒ってないのだ……」
少しはまだ怒ってるのか。
「ただ、以前ナバイ艦隊が攻めて来た時に私も出撃したのは知ってるのだ?」
『はい、クレインと2人で母艦を守ってたのは知ってます』
「私はもっとやれると思ったのだ……、あんな一方的に襲って来た悪党だから平気で倒せると思ったのに、いざ実戦で人を……その……殺すことが怖くなって手が震えていつもコロシアムで出来た動きが出来なくて情けなくなったのだ」
『情けなくなる事なんてありません』
「でも……」
『人を殺すことが怖いって気持ちが当たり前なんです!私もクレインもテレイアもやらざるをえなかった状況で生きて来たから冷静に倒せてきた』
「じゃあ私も経験を積んだら、冷静に人を――」
『嫌なら敵を殺さずに行動不能にすればいいのですよ』
「え!?」
『やさしい不殺の傭兵士、とてもいいと思います』
「そんな甘い考えでやっていけるものなのだ?」
『行動不能にする事は殺す事より難しい、されど相手は殺しに来る……甘い考えかもしれませんが厳しい考えでもあります』
『自分や仲間の命が危険になった時はその誓いを捨てるかどうかの選択も来るかも知れない』
「う~、どれが正義なのか分からないのだぁ~」
『まぁあまり気にせずに、とりあえず殺さなくて済むものは殺さない……ぐらいの感覚でやって行きましょうよ』
「分かったのだ、その誓いを継続させる為にも強くならなきゃいけないのだ!」
『そうですよ、一緒にがんばりましょう!何かあったら私に相談してください、あまり頼りにならないかもですが』
「うん!!」
少しだけ俺とヘカテーとの距離が埋まった気がする。
パイロットとしても人としても可愛い後輩が出来て悪い気分では無かった。
気を取り直して小型艦で液体の塊玉へと近づくと、ヘカテーが操作しているバキューム管を玉の中心部に差し込んで吸引を始める。
ズルルルと音が響き渡り小型艦が小刻みに震えだす。
小型艦の後部に付けられた大きなタンクにどんどん薬液が入って行き、この空域にまき散らされた薬液全てを吸引した。
『ではそろそろ母艦に戻りましょうか』
「ホース収納完了、うん、もどるのだー!」
小型艦を旋回させて母艦に向けて出発しようとしたその時、ヘカテーが立ち上がり、俺の袖を引っ張った。
「私にも操舵をやらせて欲しいのだ!障害物が無いコロシアムで戦って来た私にとっていい練習になるのだー」
『うん!、それもそうですね、経験と練習はとてもいい事です』
俺は操舵席をヘカテーに譲り、ヘカテーは舵を握って小型艦のアクセルを踏んで移動させた。
「G・S操縦とは違うのだなぁ~」
『車に近い感じですねぇ』
「車を運転した事ないから分からないのだ~、しかしスピードが遅いのだ、これでギア上げるのかな?フルスロットルじゃないと練習にならないのだ!」
そう言ったヘカテーは小型艦の最大速度までギアを上げる。
「おぉ~、G・Sに近いぐらいのスピードが出たのだぁ~これで岩をスイスイ避けて練習するのだ」
『でも艦は横長だから内輪差的な物があるのでその辺の注意を……』
「え!?」
ガンッ!!!!ゴリゴリゴリィィィィ!!キィ―――……
小型艦の側面に大き目の岩が衝突して激しい振動が起きる。
ほら言わんこっちゃない!
「あ゛あぁー!やっちゃたのだぁ!」
『落ち着いて、ダメージコントロールを』
《メインスラスター破損、爆破の危険があるのでパージします》
了解黒兎、やってくれ、母艦への通信は……繋がらないか、緊急用の信号弾があったな発射しておこう。
小型艦から信号弾が放たれ、点滅した強い光を放ち始める。
『これでテレイアが救援に来てくれるはずです』
「ごめんなさい、なのだ……」
『人間失敗から学ぶものですよ、謝ることが出来るヘカテーはいい子です』
ゆっくりとヘカテーの頭を撫でて励ます。
先の黒兎との一件以来、誰かのミスに対して優しく出来る様になった気がする。
「アイリスぅ~……へへ~、たまに変な奴だけど"ピョコ"みたいな優しいお姉さんみたいな所もあるのだぁ」
『あぁアニメのキャラですね~、じゃあヘカテーがゲコで虹の剣のゲコピョココンビで行きましょうか』
「いいねぇ~!なのだ」
そんな他愛もない会話をして救助を待っていたが、小型艦内部ではとても切迫した事態が起きていた。
《アイリス、後ろを見てください!》
『ん!?……ゲッ!』
後ろを振り返ると操舵室のドアの隙間から緑色の液体がドロドロと流れ込んできた。
《先ほどの衝突で格納庫の薬液タンクに穴が開いた様です》
《さらには衝撃で液の塊が操舵室に向けて流れ込んできてます》
無重力での液体は低い位置じゃなくて塊になって浮遊する。
隔壁はどうなってるんだ?あっ!ドアも半開きになっちゃってる。
《衝撃による故障で隔壁が機能してません》
あんな少しの衝撃でか?なんてボロ船なんだ……。
「うわぁ!?ドロドロの薬液が入って来たのだ!」
ドアが完全に開いてしまい、薬液が一気に室内へと流れ込んだ。
『操舵室全てを沈める勢いで入って来てますね、とりあえず溺れない位置に移動しましょう』
室内で薬液の無い空間へと2人で逃げまわっていたが、ついには首から下がすべて浸かってしまい、身長が低いヘカテーが溺れない様に抱き上げながら待つ事になってしまった。
「んぁ~、これ大丈夫なのかぁ?」
『外への空気漏れは起きてないみたいだ、テレイアが来るまで耐えるしか……あっ!?服が溶け始めてる!』
俺たちの服もテロペン繊維なのか。
「か、体は溶けたりしないのだ?」
『あくまでテロペン繊維だけを溶かす薬品だから大丈夫だと思いますが、あまり口に入る事は避けといた方が良さそうですね』
「うん!」
どんどん2人の服は溶けて行き、ついには全裸で抱き合う姿となった。
『………………』
「………………」
お互い顔を赤らめて、気まずい雰囲気になる。
俺は小児性愛者では無い、いやヘカテーはたしか17歳だから少女と呼べるか微妙だが裸で身体を密着させる事で徐々にドキドキとした気分になって行く。
いくら小さな身体でもこんな……、膨らみかけの胸と先端を……、お互いがローションみたいなヌルヌルの薬液で満たしながら……、く、首元にヘカテーの甘い吐息が……密着させたら。
「ちょっと、寒くなって来たのだ……」
《ヘカテーに低体温症の危険性があります》
おっと、卑猥な気持ちになってる場合じゃない!黒兎、アンドロイドの身体を発熱させて暖を取らせることは出来るか?
《可能です、ボディの体温を上げます》
俺の身体が電気アンカーみたいに暖かくなる。
「あぁ~、温かくて柔らかくて気持ちいいのだぁなぁ~アイリスは」
ヘカテーの低体温症の危機は免れたが、暖を求めてさらに激しく抱き着いてくる様になり、強く抱くと身体が薬液でズルズル滑る。
何度もずり落ちそうになっては元の位置に戻る行為が、まるで"裸で擦り合っている"状態になってしまい、俺の身体と気持ちをかき乱すのであった。
「ん?なんだかお股の所に硬いモノが当たるのだ?」
『あっ!そ、それは……』
し、静まれ……!俺の限界を超えし1パーセントよ!
「これは、おじさんにも付いてた男にしか無いアレでは?アイリスは男の子だったのだなぁ!」
『まぁ両方兼ね備えてるので何とも言えませんが……』
「そうなのかぁ、世の中にはいろんな人が居るのだなぁ~」
簡単に納得したヘカテーだが俺ののっぴきならない状況は変わらない、裸の少女に抱き着かれて身体を擦られている。
これは"生理現象"だと自分に言い聞かせながら性的な興奮を抑えようとするが、ヘカテーの褐色の肌が薬液によって艶が出てさらに美しく見えてしまったり、耳元にかかる吐息と半目だが潤んだ瞳で見つめられると彼女に堕とされてしまいそうだ。
早く救助に来てくれ!テレイア団長!
「アイリスぅ……なんだから胸の辺りがドキドキして、頭がフワフワした気分になってきたのだぁ……もっとギューってするのだ」
ヘカテーの方にも"生理現象"が起きてしまってる。
《ヘカテーの下腹部からの分泌液が上昇しています》
《何か異常事態でしょうか?》
んがッ!?
余計な援護射撃するんじゃないよ!
狭い操舵室の中で二人きり、裸で抱き合いお互いの体温を感じながら見つめ合う俺とヘカテー。
「ハァ……ハァ……アイリスぅ……」
『あぁ……ヘカテー……』
特殊で非日常的な状況が二人を狂わせる。
「んっ……いいよ……なのだ」
ヘカテーのその一言で俺の中にあるナニかが決壊し、彼女と唇を重ねようと徐々に顔を近づけた。
彼女も俺を受け入れる為に艶やかな唇を小さく開き、瞳を閉じて待ち受ける態勢を取った……その時であった――。
ズンッ!!
『わっ!?なんだ』
小型艦に何かがぶつかる音と振動が起こる。
ザザザザ――……
【ケレス】「接舷成功」
【テレイア】「アイリス!ヘカテー!聞こえる?助けに来たわよ!大丈夫?」
『あっ……は、はいテレイア』
「ん……だ、大丈夫なのだー、あぁ~タスカッタノダ―」
『サスガデス、ダンチョー』
【テレイア】「ん?なんか棒読みね、何か変な事でもしてたの?」
『「 しっ、してないです!!のだ!! 」』
こうして、俺とヘカテーによる二人きりでの初仕事は小型艦の故障という失敗で終わってしまったが、二人の距離を縮めたという意味では良かったのではなかろうか?
いや、距離を縮め過ぎて今後気まずくなりそうだな……と杞憂する結果となったのであった――――。




