044 2人の新機体
ナバイの艦隊がセレーネを襲撃しに来た後日談を簡潔に語る。
行動不能となったナバイ艦隊を救助しに来た惑星同盟軍と一触即発となったが、テレイアが呼んだ傭兵ギルドとアルクトス関係者が第三者委員として間に入り、事の顛末を調査する事になる。
虹の剣は通信記録や映像を提出(皇女の部分は巧く誤魔化した)、ナバイは惑星軍に嘘の申告をして艦隊を出していた事もあり、調査委員は惑星同盟軍のナバイが私怨で虹の剣を襲撃したという結果を出した。
惑星軍側はなんとかして自身に有利な条件に持ち込もうとしたが、ナバイは何も証言しなかったらしく、渋々ナバイを逮捕して軍法会議にかける事と虹の剣への謝罪だけで決着を図ろうとする。
本当は多額の賠償金を請求できる案件だが、テレイアが皇女という事実を隠したい事と、これ以上の惑星同盟軍との軋轢は傭兵団として好ましく無いと判断したテレイアは惑星軍が出した条件を全て飲んで解決となった。
それから一月後――
襲撃事件の事後処理で忙しかった事もあるが、母艦のメンテナンスやアルミラージ以外の新機体、その最終調整とテストを行う為に仕事の依頼を受けずにいた。
俺はその期間、頭に数針縫う怪我をしたベスタを見舞ったり基地や母艦の掃除などの雑用をしながら、空いた時間に黒兎を鍛える事にした。
どう黒兎を鍛えるかと言うと、"思考内シュミレーション戦闘"だ。
俺がこの世界に来たきっかけとなったG・S対戦で、俺はゲームであったが黒兎は思考内のシュミレーションだったのを思い出し、黒兎に『俺にも思考内で対戦は出来ないか?』と聞いて試したら出来たのである。
まるでゲームのギガント・スケアクロウをVRでやった様なシュミレーションはこの世界のG・Sゲームよりは遥かに良い、ステージは宇宙ステージ1つと機体はブラックポーンしか無いけどね。
黒兎は過去の俺……、元々回避力や近接戦はそれなりに強かったし、模擬戦で教えるとメキメキ戦闘技術が上達して行き、とりあえずナバイと互角ぐらいまでには仕上げた。
かなり厳しく指導したから模擬戦が終わる頃には黒兎の声がか細く、ゲッソリとしていた感じだが、まぁ気のせいだろう。
今日はついにクレインとヘカテーの新型機が完成形として虹の剣に配備される日だ。
チームとして機体の特性を覚える為に軽い模擬戦をするという流れになったので、俺はセレーネの格納庫へと向かった。
格納庫に向かうとコハクさんとベスタが機体のシステムチェックをしている。
黒兎
《はい、アイリス》
そろそろ黒兎の存在を他のメンバーに打明けないか?黒兎も過去に一緒に居たことあるベスタと話したいだろうし
《いやぁ~……う~ん》
乗り気じゃ無さそうだな、どうした?
《は……恥ずかしいので保留でお願いします》
そ、そうか……。
うわぁ、誰かにそっくりだ。
まぁ基本俺なんだから当たり前だが、強要するものでは無いし本人希望によるタイミングに任せるか。
俺も黒兎に"過去の俺から取ったデータ"である事を言えずにいる。
過去の俺という事実を認めつつも、黒兎の経験は別な分岐、別な過程で生きて来たもの。
あながち"俺"そのものでは無いので、下手に"鍵山白華"という人物の上塗りをする事に躊躇する気持ちがあるからだ。
それでも保留や先送りで黒兎にとって悪影響が出た場合は打ち明けるつもりである。
俺は作業をしている2人に挨拶するとベスタに体調の事を尋ねた。
『ベスタ、頭の怪我はもう大丈夫なのですか?』
「うぬ!血が出たが脳には影響無かったからのう」
『それは良かったです』
「あの時、アイリスがホワイトポーンを遠隔操作で動かして助けてくれたしのう」
あれは黒兎がした事だ。
『私は遠隔操作してませんよ』
「え!?」
『もしかしたらベスタが大切にしていたホワイトポーンに、ベスタを思う誰かの魂が宿ってベスタを守ったのかもしれませんよ』
「何を言っとるんじゃおぬしは」
ぐっ!
「クサイ台詞じゃがわしを思う魂、ふふ……そういう事にしとくかのう」
《……アイリス、ありがとう》
俺は本当の事を言っただけだよ。
「時間がある時にホワイトポーンも改修しとくかのう!またお守りになってくれるかもしれぬし」
そう言ったベスタはどこか嬉しそうに作業へと戻った。
じゃあ俺もアルミラージに乗って外で2人を待つとするかな。
コクピットに乗り込むといつものセーフティロックがかかり、黒兎が操縦することになる。
黒兎、アルミラージに乗るのは初めてだよね?
《はい》
基本操作は変わらないが、ミラージュリングプリンタと脳波コントロールシステムが搭載されてるんだ。
《MRPシステムは分かりますが脳波コントロールというのは?》
脳波コントロールは通常ならレバーやスイッチやペダルでやる操縦を、脳で考えた行動をG・Sがするって事さ、まぁ俺たちアンドロイドは思考データを直通電波で飛ばすから脳波と呼べるか微妙だがな
《なるほど》
俺はマニュアルの方が好きだからやらないけど、好みで切り替えて操縦すればいいさ、MRPで再現できる武器のデータは機体に入ってるからそれを記憶しとくといいよ。
《了解しました》
黒兎はアルミラージを操作してセレーネの基地から飛び立つと、模擬戦予定地である基地の反対側にある地帯へと向かった。
………………
…………
……
ボウリング玉ぐらいの岩がゴロゴロ転がっているだけの平地で待機していると、テレイアとコハクさんからの音声通信が入る。
【テレイア】「じゃあこれから新機体のお披露目、及び機能テストを兼ねた模擬戦を始めるわね、アイリスはガチでやってぶっ壊さないでね」
『大丈夫ですよ』
【コハク】「じゃあまずはクレインの新機体デース!その名も"ロングイ"」
地平線の奥から1機のG・Sが低空飛行でこちらに向かって来る。
あれがクレインの新機体ロングイか……高さはアルミラージと同じぐらいだが装甲が厚くてゴツめだな、目に留まる特徴は背部にアーチ状で六角形の大きな物が付いている。
一見して背負った甲羅に見えるがふき抜けになってるので、空気抵抗は無さそうだが重装甲や盾としては使え無さそうだ。
【コハク】「アイリス!ロングイにビームライフルを撃つデスよー!」
『え?直撃弾でいいんですか?』
【コハク】「オーライ!」
らしいから黒兎、1発当ててみよう。
《了解、MRPシステム、ビームライフルをモデリング開始》
両手をライフルを持った様に構えるとMRPシステムを起動させ、リングが光輝き小刻みに動いたレーザーがビームライフルを造形した。
《すごい機能ですね》
『でもビームライフルなら30秒ほどで崩れ落ちて粉末に戻るらしい』
《なるほど、リミットを考えながら立ち回る必要がありそうです》
《では、ロングイにロックオン、撃ちます》
ドシュ!
念のためロングイのボディでは無く頭部を狙って射撃した黒兎、しかし、直撃弾が当たる瞬間―― 菱型の光の膜がロングイを覆い、ビームをかき消したのであった。
『ビームシールド?』
【コハク】「半分正解で半分不正解デス!背部に取り付けられた六角型の装置から光や熱、さらには砲弾をも拡散させる素粒子を身体全体に展開させてシールドとなりマース」
【コハク】「三層に展開されたシールドはメガレーザー砲なら1発、荷電粒子砲でも30秒間耐える事が出来、20秒のインターバルを挟めば再展開も可能デース」
それは凄いな、狙撃戦で位置を逆算されカウンタースナイプされても何も問題は無くなる。
『武器は以前と同じでトリプルバレルライフルのみですか?』
【コハク】「本人の希望デスが十分強い武器デスネー、MRPシステムも付いてるからいざとなったら別なのも作れるデスし」
たしかにライフルで3連発はかなりの脅威だし、弱点だった銃身の焼け付きもMRPで取り換えられるから鬼に金棒だ。
【クレイン】「これなら少しは怖くなくなるかも……なくなるかも……」
『そうですね、単騎でも十分に戦えそうです』
【クレイン】「それはヤダ、傍に居て……傍に居て……」
『う~ん……』
ぶっちゃけ今のクレインならナバイより強いから守る必要無さそうなのだが。
【テレイア】「なるほど、よく分かったわ!主に母艦の護衛に使えそうね、ってか母艦にもあのシールド付けて欲しいわ!」
【コハク】「オッケーね!ついでにMRPシステムも付けときマース!」
それはいい、母艦の防衛を強化すれば意識をより攻めに集中できるから。
【コハク】「では次の機体を紹介するデース!ヘカテー機"ヒルクアビス"!」
再び地平線の奥から1機のG・Sがこちらへと飛行して来た。
大きさはアルミラージよりも小さめ……と言うかほとんどヒルク1号と変わらない。
肩と足にMRPであるリングと、背中に十字?いや逆T字の棒を背負っていて、その先にはG・S頭部 (1.8m)ほどの大きさな黒い玉が各先端に一つ付いている。
【コハク】「本人からの希望で機体自体はあまりカスタムしてないデス、その変わり……」
【ヘカテー】「うおおおお!アイリスぶっ倒してやるのだー!あの時のリベンジをはたしてやるのだぁぁぁ!!!!」
【コハク】「説明させろデース!!」
《3……2……1……0、セーフティ解除》
プレゼンテーションの様な感じで終わったクレインとは違い、やる気満々のガチンコ勝負をしかけるつもりのヘカテーはヒルクアビスでこちら向かって突っ込んで来る。
『新型機……未知の兵器との真剣勝負……面白い、受けて立ちましょう!』
【ヘカテー】「この愛と正義のヒルクアビスなら!誰にも負けないのだぁ!!」
【テレイア】「ちょっとあんた達!これはお披露目会で……」
俺のアルミラージナイトとヘカテーのヒルクアビスの真剣勝負が始まった――。
………………
…………
……
セレーネの基地内
「うわ゛あぁぁん!!!!あぁーん!!あぁーん!!びゃあぁぁぁぁぁ!」
響き渡るヘカテーの号泣、正座させられる俺、大破したヒルクアビス。
「こらアイリス!」
腕を組んだテレイアの怒号
「どこの世界に新機体お披露目で一方的にボコボコに壊すヤツがいるのよ!」
『ごめんなさい……』
「これは修理に2週間、費用は5憶senコースデスねぇ!」
「びゃあぁぁぁぁぁん!待ち焦がれてたのにぃぃぃ!!」
「よしよし、部屋でココアでも飲みましょう……飲みましょう……」
「アイリスはたまに空気が読めないのう」
『いやぁ~、でも真剣勝負を挑まれたらこちらとしても本気で』
「言い訳しないの!」
『はい……』
こうして2機の新機体お披露目会は、ヘカテー機大破と俺の好感度を下げるという結果で幕を閉じたのであった――。
その日の夜――
部屋で自身の充電をしながら思いをめぐらす。
いやぁ……ヒルクアビスの黒い玉があんな動きをするなんて、凄かったなぁ、ヒルクアビスもロングイも……そしてアルミラージナイトも。
『はぁ…………』
自身が乗る機体も仲間の乗る機体も強くなるのはいい事だ。
しかし、ホワイトポーンの時点で俺にとっては脅威となる敵は居なかった……。
ナバイも最初から俺だったらぶっちゃけ完封できてるし、これからアルミラージで戦う事になったら戦闘が事務的になり過ぎてしまうのでは――
いや、1人居た!
"白兎"……もう二人目である"俺"。
ロネーズのレポートを見る限り、恐らく"未来の俺"である存在、だが以前俺と戦った時、向こうは過去の俺を認識していなかった。
つまりは別分岐、所謂"パラレルワールド"の俺あろう。
18歳の時にこの世界に飛ばされず、虹の剣に所属しなかった未来の俺か……。
"闇堕ち"してそうだなぁ、「お前のやって来た事は無駄だったのだ!」みたいな事言って来そう。
ははっ……そこまで生真面目なキャラじゃないか、俺って奴は。
今の俺も闇みたいなもんだし……だって未来の俺と戦えるかもって考えたら、少し楽しい気分になってるんだもの、度し難い戦闘狂いだ。
君も俺を知ったら同じ気持ちになるのかな、そして今の君には守りたい仲間が居るのか?白兎。
勝手に敵になる前提でいずれ来る白兎との戦いに胸を弾ませながらスリープモードへと付く俺であった。




