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043 ただいま

※このお話しは別人視点になります。


 おびただしい閃光(ビーム)の弾幕を放つナバイ艦隊、私はキャンプファイアーに飛び込む虫の様に全速力で中心部へと向かう。


 ホワイトポーンの外見は以前と同じだが修理が万全では無く、推力やパワーが低下している。


 だが、自機を操縦する私の気持ちはとても軽やかであった。


 艦隊からの弾幕を躱して、敵G・S部隊と接敵する距離まで来たその時、音声通信が入る。


 ガレオスに乗ったナバイからだ。


【ナバイ】「おやぁ?その白い機体はアイリスかい?」


 私は機体内にあるスピーカーに干渉(かんしょう)して電子音声を作り、ナバイに対して答えた。


「ザ――……、私はアイリスではございません、戦闘AI"黒兎"です」


【ナバイ】「誰だよ、え?他にも居たんだロボ畜生がさぁ」


「アイリスは畜生ではございません」


【ナバイ】「あぁ、今はガラクタか」


「アイリスの悪口を言う事は許さないです」


【ナバイ】「言うねぇ……、まぁ一応別個体とも一対一(サシ)でやっとこうかなぁ」


 実は以前戦ったのはアイリスでは無く私だという事実をあえて言わなかった。


 言えばナバイは私への興味を失くし、総攻撃で私を破壊してから、まだ意識の無いアイリスの元へと向かうのではないかと考えたからである。


【ナバイ】「って事だから他の皆は虹の剣の旗艦(きかん)を追撃、基地を見つけ次第破壊」


 ナバイの艦隊、及びG・S部隊はホワイトポーンをスルーしてセレーネ方面へと進路を進めた。


 セレーネには防衛施設や無人機を出せるので、私がここで猛将(もうしょう)であるナバイ1人を抑える方がいいだろう。


 暗い宇宙の一画で向かい合う2機のG・S、ホワイトポーンとガレオス――


【ナバイ】「じゃあ行くよぉ~、期待して無いけどさっ」


 ガレオスは構える。


 以前戦った時と同じ構え、右手を軽く曲げて前に出し、左手は首元に据える。


 私はあの日から何度も思考内でナバイとの戦いを再現してシミュレーションして来た。


 ホワイトポーンを操作して手に持ったビームガンと盾を離すと、指を軽く広げて、両手で剣を下段に持った様な構えをする。


 シミュレーション(模擬戦闘)で対ガレオス様に行きついた私の構え――


 ドッ!


 構えた刹那(せつな)、ガレオスの右直突きが自機頭部目がけて放たれる。


 重心を右手首に集中、横では無くガレオスの拳を頬に擦れる感じで突っ込むように躱し、そしてパリィだ。


 成功、さらに姿勢を崩したガレオスの頭部目がけてこちらの肘鉄(ひじてつ)を食らわす。


 ガッ!!


【ナバイ】「ぐっ!?」


 入りは浅い、だが頭部についた視野レンズの1つを破壊した。


 私は成長できるんだ――


 師はアイリスが戦ってきた時の動き、技は合気……アイキ?なんだっけ……いや、今は戦いに集中だ。


【ナバイ】「やるじゃない……君、アイリスより強いよぉ」


 違う。


 アイリスはこんなもんじゃない、きっと1発で頭を吹き飛ばした。


【ナバイ】「少し本気で行くよぉ、耐えてみなよ……僕の()()を!!」


 ガレオスは腰の(アギト)を展開させて、構える。


 ここからが本番だ。


 ガレオスはホワイトポーンに向かって一気に距離を詰めると、パンチ、キック、(アギト)によるコンビネーションの連打を放って来た。


 左ジャブはフェイント―― 右フックは回避―― (アギト)の横薙ぎ払い回避――


 ボディへのミドルキックをガード―― 右ストレートはパリィ――


 崩した所へ胸部への右ストレート―― ガードされる。


 

 2機による激しい近接戦の応酬(おうしゅう)、戦えている……私はあのナバイとやり合えているんだ。


【ナバイ】「いいねぇ~、君なかなか楽しいよぉ」


 右ローキック、回避―― 左フック、ガード―― 右掴み、屈み回避――


 左(アギト)のアッパー、上体反らし回避―― 右(アギト)をパリィ――


 ガレオスの連打に対して私が返せるのは相手の五から六手に対し1()だけだ。


 それでも決定打を1発も受けてない、このままガードや回避を完璧にこなして、ナバイの精神を疲弊(ひへい)させれば私にも勝機は(おとず)れるのかもしれない。


【ナバイ】「アハハハハッ!最高だよぉ!」


【ナバイ】「でも僕は近接戦だけじゃないんだよぉ……近接だけの試合じゃない、軍人としての僕を耐えしのげるかな?」


 そう言った直後、ガレオスは少しだけホワイトポーンとの距離を取ると、外腿(そともも)部のホルダーから2つの物を取り出して両手に持った。


 以前見たことある。


 あれは銃、五袋のバンブーが使っていた"ビームバーストガン"だ。


 まずい、それが来ることはシュミレーションしてない――


 ガレオスはバーストガンを構え、撃ちながら再び距離を詰めて来る。


 ドドシュッ!ドドシュッ!ドドシュッ!


 1撃目、盾を装備してガード―― 2、3、4撃目回避――ガレオス接近


 左ローキック回避―― バーストガン5撃目、回避不可、右手直撃―― 右手消失(ロスト)――


 再びバーストガンの連打、回避、回避、回避、回避、回避


 (アギト)直撃、反応できず―― 両足消失(ロスト)――


 バーストガン―― ガード、ガード、ガード、盾耐性限界でロスト


 左手直撃、消失(ロスト)――


 サブスラスター、及びメインスラスターにビーム直撃、消失(ロスト)――


 

 ホワイトポーン、行動不能――……



【ナバイ】「はい、一丁上がりぃ!」


 これが、今の私の限界か……。


【ナバイ】「じゃあ、最後はボディに穴開けて終わりに……ピピピピ!ん?シモクくんからだ、なんだよぉいい所でさぁ」


 ガレオスに送られた音声通信、一応傍受(ぼうじゅ)しとこう。


【ナバイ】「はいはい、どうしたの?」


【シモク】「大佐殿、虹の剣旗艦の予想進路先にある小惑星で奴らの基地とおぼしき施設を発見、主砲での破壊をしてよろしいでしょうか?」


 セレーネにある基地が見つかった?テレイア、アイリス、みんな……無事に逃げてくれ。


【ナバイ】「うん、いいよぉ、がんばってねぇ、じゃあよろしく」


【シモク】「は、はい!」


 ピッ――


【ナバイ】「まったく、一々聞かなくても勝手にやれって感じだよねぇ」


 ガレオスは再び銃口をホワイトポーンに向けた。


【ナバイ】「じゃあ改めて、君に止めを刺すとするかねぇ」


 私の存在もここまでか……ナバイの事だからAIレコーダーのハードが残らないぐらいにバラバラに破壊するであろう。


【ナバイ】「中々いい動きだったよぉ、でも僕と一緒の深みには……」


 ピピピピ!


【ナバイ】「なんだよ!またシモクくんから、空気読もうよぉ」


 ピッ


【ナバイ】「何!?少しは自分で考えて動いてよシモクくん!」


【シモク】「あの……た、大佐殿……なんて報告したらいいのか……」


【ナバイ】「あのさぁ、報告は要点(ようてん)をまとめて冷静に簡潔(かんけつ)にだよぉ!」


【シモク】「わ……我が艦隊は……」



【シモク】「壊滅(かいめつ)しました――」



【ナバイ】「はぁ!?」


【シモク】「壊滅したのです……」


 どう言う事だ?基地防衛用の無人タレットやG・Sだけじゃとても不可能なはず。


【ナバイ】「いやいやいや!さっきのさっきじゃん……基地見つけたから砲撃するって連絡したの、なんでぇ?」


【シモク】「基地の方から1つの閃光が来て、スピード的に砲撃だと思いましたが……」


【シモク】「そのスピードのまま直角にギュンギュン!動き出して、我々の艦隊やG・Sにガガガガッ!と()う様にすり抜けると……全機の手足やスラスターが破壊されて行動不能に!!!!」


【ナバイ】「……ちょっと何言ってるか分からない」


 ピッ!


【ナバイ】「異常事態が発生してる事は確かだ、ケリ(決着)を付けて僕も向かおう」


 私にも何が起きたか分からないが、通り過ぎた艦隊によるセレーネ進行は止まった様だ。


 だが私が消滅する事には変わりない。


【ナバイ】「さよならだ、漂うデブリ(鉄クズ)にしてあげるよぉ」


 これでいい……今できる最大限の事をしてナバイを本気にさせ、魂の無い戦闘AIとして生きるべき仲間を守る為に戦った。


 充分だよね?、アイリス……、この戦いではお役に立てたよね?


 私は戦闘AI、意味消失(いみしょうしつ)する時でさえ何も感じないのが普通だ。


 でも、それでも最後にアイリスに会いたい――


 アイリスに会って()めて貰いたい――


 あぁ……これが、"(さみ)しい"っていう感情なんだ。


 感情を学ぶなんて戦闘AI失格だな、私には戦う事しか無い、それだけで良かったし、それだけの存在だった。



 さようなら、アイリス――――



 「 違 う ! 」



 え!?


 ドガッ!


【ナバイ】「ぐうッ!?」


 突如現れた光の塊……いや、G・Sにナバイが乗るガレオスのボディが蹴られる。


 激しく吹き飛ぶガレオス、ボロボロになったホワイトポーンの目の前に謎の白いG・Sが立っていた。


 ホワイトポーンによく似ているが、少しサイズが大きいしデザインが違う。


【ゲストA】「ザ――……、く……黒兎」


 音声通信、その声はアイリス!?


【アイリス】「え~と、その……大丈夫か?」


「は、はい」


【アイリス】「そうか、良かった……」


「………………」


【アイリス】「…………あぁ~……う~ん…………」


 何とも説明し難い沈黙が流れた。


【アイリス】「あ゛ぁぁぁ!もうっ!……黒兎!!!!」


「は、はい!」


【アイリス】「酷いことを言ってすまなかった!ごめん!」


「アイリス……」


 その時、アイリスの乗ったG・Sにゆらりと近づくガレオスを捉えた。


「アイリス、後ろ!」


【アイリス】「あぁ、知ってる」


【ナバイ】「不意打ちとは酷いじゃないかぁ~、その機体は初めて見るけどアイリスなのかい?」


【アイリス】「邪魔だったので、()()()()どけたつもりですが」


【ナバイ】「そりゃどうもぉ~、ほいでぇ?君はその機体で前回のリベンジするつもりかい?ロボ畜生くん」


【アイリス】「ナバイさん」


【ナバイ】「んん?」


【アイリス】「戦うのはまた今度にしませんか?その時はホワイトポーンに乗りますので」


【ナバイ】「……どう言う意味かなぁ?」


【アイリス】「この"アルミラージ・ナイト"じゃ毛ほどの相手にすらならないって意味ですよ……言わせないでください」


【ナバイ】「はっ!!!!」


【ナバイ】「あはははははははははははは!面白いね君」


 ガレオスがバーストガンと(アギト)を構えて、アイリスの乗るアルミラージ・ナイトの直ぐ後ろまで近づく


【ナバイ】「こっち見ろよ、その新しい木偶(でく)をスクラップにしてあげるから」


【アイリス】「黒兎、帰ろう」


【ナバイ】「無視するんじゃないよぉ!!!!」


 激昂(げきこう)したナバイが乗るガレオスがアイリスの機体へと襲い掛かる。


「アイリス、危険です!」


【アイリス】「はぁー……、システム起動――」


 アイリスがそう呟いた瞬間、アルミラージ・ナイトが激しく発光し、あまりの強い光で視界が閉ざされる。


 ドシュッッッ!!!!


 何も見えない中で(にぶ)い金属音が響き渡った。


 そして、わずか1秒の時間ではあるが閉ざされていた視界が戻り出す。


「なっ!?」


 目の前の光景に私は驚愕(きょうがく)した――――


【ナバイ】「バ……バカな!」


 無傷のアルミラージ・ナイト、その近くに漂うガレオスの両手足と頭部、メインスラスターと(アギト)にブレードが1本ずつ突き刺さっていた。


 無惨(むざん)な串刺しである。


 アルミラージは(ブレード)なんて持っていたか?しかも8本も……


 いや、私が見た時はブレードどころかナイフ1本無い手ぶらだったはずだ。


【アイリス】「機体の尻についた玉に入っている圧縮された三物質のパウダー、それを消費する事によってナイフやブレードなどの単純構造な武器は60秒、銃などの精密機械武器は30から40秒間」


【アイリス】「ありとあらゆる武器を、機体に取り付けられたリングから出されたレーザーで再現(プリント)出来る――」



【アイリス】「これがミラージュリング・プリンタ・システムだ――――」



 セレーネを手に入れる時にコハクが使っていた失敗作、完成していたのか。


【アイリス】「やっぱ()()()()強いですねナバイさん、1手目を反応出来るんだから、まぁ俺のいた世界ならギリギリ100位(ランカー)に入れますよ」


【ナバイ】「んな゛っ!?」


【アイリス】「黒兎……がんばったんだな」


 アイリスはアルミラージを操作して、私が入ったボロボロのホワイトポーンをゆっくりと抱きしめた。


【ナバイ】「0.01秒の反応速度……ほ、本当に居たのだ!はははは!」


【ナバイ】「僕が目指すべき深み!産まれや地位で測れない力だけの世界ぃ!アイリス!君という底が見えない深海へと僕は――」


【アイリス】「うるさい!」


 ゴッ!


 アルミラージの雑な回し蹴りで行動不能となったガレオスが彼方へと吹っ飛んでいった。


【ナバイ】「――!……――!!ザ――……」


【アイリス】「あっ!……まぁ吹っ飛んだ方向は潰した惑星軍艦隊が居るから引っかかったり、誰かが回収するだろう……たぶん」


「フフ……」


 私は笑っていた。


 プログラムされていない自然に笑う行為だ。


【アイリス】「改めて黒兎、戻って来てくれないか?」


「でも私はG・Sの操作が巧くない……また足を引っ張るかもしれません」


【アイリス】「俺には黒兎が必要なんだ!友として……そして家族として!!」


「アイリス……」


 あぁ、この感覚は何なのだろう。


 暖かい日差しの中、お花畑で飛び跳ねた様な……いや、そんなまどろっこしい例えはもういらない、これは"嬉しい"という感情だ。


 そして――


《アイリス!》


『わッ!?びっくりした』


 無線で私という存在(データ)を飛ばし、アイリスの身体へと戻った。


『戻って来てくれたのか……黒兎』


 また新しい感覚を感じた。


 これは"懐かしい"という感情なのだろう。


『おかえり、黒兎!』


《ただいま、アイリス……》


 アイリスはゆっくりと両手を交差させて、自身の身体を抱きしめた。


 私はもう、あの"雨に濡れて置き去りにされた感覚"を味わうことは無いだろう。


 私には戻って来てくれる人、そして帰るべき場所があるのだから――。


《私からもこの言葉を贈ります、アイリス》



 ありがとう、そしておかえりなさい――――



ナバイと黒兎編 完結


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