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042 黒兎

※このお話しは別人視点になります。


 私の名前は黒兎


 アクランド工学研究所で開発されたG・S用の戦闘AIだ。


 それなのに私はG・Sでの操縦技術が上手くない、帝国や惑星同盟軍の一般兵パイロットよりは強いが、エース級やベテランの凄腕(すごうで)と戦ったらやられてしまう。


 戦闘では私の中に入り込んだもう1つの存在"アイリス"に任せきりだ。


 アイリスの戦闘技術は圧倒的で、アイリスこそが開発された戦闘AI本来の姿で、私の方がバグ(異物)なのではないかと思うぐらいである。


 だから本当は戦闘全てアイリスに任せたいが、アイリスが黒兎では無い事を他のクルーに隠さなきゃならない事情が出来てしまい、G・Sに乗るたびに身体(ボディ)へのセキュリティチェックをパスする為のプログロムを解除するのに120秒かかるので、その間は私が操縦するしか無いのだ。


 最初はこの120秒間を何も考えずに淡々(たんたん)と操縦していたが、アイリスのG・S操縦にかける思いと負けん気が同じ身体を通して私に影響を与えたのか、私もG・S操縦を上達させてせめてアイリスの足を引っ張らない様に……という思いが芽生(めば)えてくる。


 私はAIだから感情が無い、だからこの思いは戦闘AIとして成長する為の打算(ださん)的なプログラムだろう。


 しかし、アイリスと一緒になって日が経つにつれて私の意識の中に数々の"不可解な感覚"が現れる様になった。


 アイリスに()められた時は、暖かな日差しの中、野原で寝ていると花の香がして来た様な感覚に――


 戦いで私が上手く操縦出来ずに負傷したり、武器がロストした状態でアイリスに引き()ぐ事になったら、背筋と耳元に氷水と熱湯を交互にかけられた様な感覚が出る事があった。


 これが人間の持つ感情という物なのだろうか?


 だが私は過去にこの様な感覚を抱いた事がある気がしていた。


 戦闘AIとしてプログラムされてく中でβ(試作)版の記憶が何度も消されている事は知っている。


 それなのに、時々ノイズの様に再生される2つのビジョン(幻影)……。


 1つは白いシャツを着てスーツケースを持った中年男性が家から出る姿、2つ目は白衣を着た中年女性が口から出血をしながら私を()でてる姿だ。


 記憶の消去(デリート)が不完全で断片的(だんぺんてき)に残っているのだろうか?


 このビジョンが出た時は、"冷たい雨に打たれてから暗い部屋に閉じ込められる"感覚が現れる。


 あまりいい感覚ではない……出来ればもう感じたくないと思っていたが、ナバイとの戦いで私がミスする度に、そしてアイリスから叱咤(しった)される度にあの感覚が何度も出た。


 そして私はホワイトポーンを万全どころかロクに機能しない状態でアイリスに引き継がせてしまい、そのせいでナバイに敗れてしまったのである。


 温厚(おんこう)なアイリスが激怒していた……いや、私がさせてしまったんだ。


 アイリスからの最後の言葉、


 「黒兎……君は邪魔だよ!いらないっ……!」


 言われて当然だ。


 私はそれほどまでに無能で、アイリスと一緒に居るのに(あたい)しない欠陥(けっかん)品である。


 私は再び味わう事になった――


 "冷たい雨に打たれてから暗い部屋に閉じ込められる"感覚……いや、それに落雷を頭に受けた様な感覚がプラスされている。


 アイリスの……あのアンドロイドの身体から出て行こう。


 ホワイトポーンに入ってるAIレコーダーシステムなら私の存在ごと潜り込める。


 アイリスの意識はまだ戻っていない、ベットの周りには他のクルーが居るが全員眠っているのでバレずに動くなら今だ。


 私は音を立てない様に起きると、ゆっくりと部屋を出て格納庫へと向かった。


 ………………


 …………


 ……


 格納庫に向かうとナバイとの戦いでバラバラにされたホワイトポーンが元の状態に近い形で修復されて寝かされている。


 ボディにあるAIレコーダーは無事だったからシステムにダイブ出来るはずだ。


 外からホワイトポーンのシステムを起動させると、私は無線通信でAIレコーダーへとアクセスし、黒兎()の存在のみをレコーダーへと移動させ始めた。


 徐々に意識がレコーダーへと移動する中、アイリスと過ごした日々を思い出す。


 肉付けして焦っているアイリスに棒を付けてあげた事、ムジナ一家の五袋と戦い勝利しアイリスに褒められた事、虹の剣のクルーとボール遊びをした事――。


 私という存在がアンドロイドの身体から、レコーダーである小さな箱の媒体(ハード)へと完全に移行した。


 なるべく安全な位置にアイリスの身体を寝かせたが少し心配になったので、ホワイトポーンの視野カメラを使ってアイリスの状態を見る。


 するとアンドロイドであるアイリスの身体……その目から涙が(あふ)れていた――


 あの涙はアイリスの物なのか……それとも私の?


 この感覚は何なんだろう。


 曇り空の中、水たまりに……いや、夕焼けに照らされながら砂利道を……違う、私はAIだから"答え"を出さなければならないのに分からない……。


 もうあの身体に戻る事は無いから、答えを知る日は来ないのだろう――



 その後、無事アイリスは回収されて、ホワイトポーンはピーターワンの格納庫へと搬送され私はホワイトポーンのAIレコーダーに移行したはいいが、今後の事についてどうするべきかを考えて居た。


 ホワイトポーンにはアイリスも乗るだろうが、私と通信越しでも会いたくはないだろう。


 どうしたものか……と色々な案を考えて数日経ったある日――


 虹の剣のクルーがバタバタと(せわ)しなく走り回る気配と艦の発進準備をしていたので、何かと思い音声通信を傍受(ぼうじゅ)して聞いてみた。


 どうやら惑星セレーネ周辺に不審(ふしん)な艦影が複数確認されたらしい


 アイリス以外のクルーがピーターワンに乗り込むと、不審艦がある方向へと発進させた。


 ゆっくりと艦影へと近づくピーターワン、セレーネは一応、惑星同盟領であるが辺境(へんきょう)の星だ。

  

 近くに帝国や他国の星やコロニーも無く、セレーネに来るピーターワン以外の宇宙船は小さな宅配艦ぐらいである為、大型の艦隊が来るのは不自然である。


 それでも()()()()、こちら側に空域通過連絡や信号を送らずにこの近辺を通り過ぎる艦隊かもしれないと考えたのか、テレイアは音声通信を艦隊に飛ばして確認を得ようとした。


【テレイア】「えー……聞こえますかー、こちらこの空域の所有者です!貴艦の所属と通行理由をお聞かせください」


 ジジジ――――…………


【ゲストA】「これはこれは皇女様、わざわざお出迎えに来てくれるとは光栄だねぇ~」


【テレイア】「その声……ナバイ!?」


 何故ナバイが再び虹の剣に絡んで来たんだ?今回の規模は奴が以前名乗った"調査会社"という範疇(はんちゅう)を超えている。


【ナバイ】「ちょっと折り入ったお話しがあるからさぁ~、こっちの艦に来てもらえないかなぁ?」


【テレイア】「こちらに向けて戦艦やG・Sで陣を組んで折り入ってですって?断ると言ったら?」


【ナバイ】「あい了解……全艦砲門開いてぇ~、G・S部隊進行開始ぃ……目標、虹の剣の艦及び基地、撃墜、爆破、解体」


【ナバイ】「全員殺せ――」


【テレイア】「え!?」


【ナバイ】「150年の和平など(おとず)れないよぉ」


 遠くの宇宙(そら)から数多の光の玉が動き出すのを感じる。


【テレイア】「総員戦闘配備!面舵、船反転!ヘカテー、クレイン出撃!」


 虹の剣とナバイ率いる惑星同盟軍艦隊との戦闘が始まった。


 敵、大型艦1、中型艦12.G・S機110、絶望的戦力差を前にテレイアはセレーネへの退却をしながら戦う事になる。


 敵艦からの砲撃を流星体群に入って石を盾にしたり、コリンの巧みな操舵で回避しながら後退するピーターワン


 近づいて来る敵G・S群をクレインの射撃で削ったり足止めをしていたが、慣れていない機体 (セレーネにあったブラックポーン)と宇宙空間での戦闘が初めてなヘカテーは敵の群れ目がけてとりあえずビームを撃つので精一杯な様子だ。


 最初の内は敵を釘付(くぎづ)けにしてたが、徐々に前線を押し上げられて敵の攻撃もピーターワンにかすめる様になる。


【テレイア】「くっ……!このままだと不味いわね」


【クレイン】「これ以上は銃身が焼け付いて撃てないわ……撃てないわ」


【ヘカテー】「射撃は苦手なのだー、せめてヒルクに乗れて近接戦に出来れば」


【テレイア】「もう少し粘りたかったけど、セレーネの基地で籠城(ろうじょう)戦するしか無さそうね……」


 ピーターワンを加速させてセレーネへの退却を急いだが――


 ドンッ!!!!


【テレイア】「う゛っ!」


 敵艦、副砲から放たれた砲撃が格納庫に近い部分に直撃し、爆破が起きて激しく揺れる。


【ケレス】「ピーターワン中破、ダメージコントロール開始、隔壁D2閉鎖」


【テレイア】「格納庫に居るベスタは大丈夫なの!?」


 私はホワイトポーンの視野カメラを使って格納庫内の強化ガラスで挟んだコントロールルームを見た。


 するとそこには頭から血を流したベスタの姿が――。


 攻撃の揺れでどこかにぶつけたのだろうか?私の見立てでは命に別状は無いのだが。


 なんだろうこの感覚は……、まるで口からドス黒い油を流し込まれた様な  


 そして同時に私の思考にビジョン(幻影)が流れ出した。



 映ったのは3人の人物、1人はよくビジョン(幻影)に登場する白衣の中年女性、そして同じく白衣を着て丸い眼鏡をかけてる白髪の老年女性……そして1人の少女。


 あの少女、ベスタだ――。


 彼女の幼年期、私の存在が入った兎のペットロボを抱いて寝ている。


 以前アイリスがベスタと寝た時に話していた過去を見て居るのか?


 このビジョン(幻影)はとても温かい感覚が私を包み込んだ。



 そんなベスタが今、目の前で傷付いている。


 同時にホワイトポーンは動き出していた。


 AI(機械)が行うアルゴリズム(思考手順)を吹っ飛ばして、身体が先に動いたのである。


 ベスタは勝手に起動したホワイトポーンを見て驚きの表情を浮かべている。


 もうあの嫌な感覚を味わいたくない……、だからこそ守りたい


 ベスタを、虹の剣の皆を、そしてアイリスを――


 私にはG・Sで戦う事しか出来ない、その為のAIだし、その為の存在だ。


《ホワイトポーン発進、目標ナバイ艦隊、及びナバイ機のガレオス》


 私は戦闘AI黒兎……、だが私は私の意思で意義を全うする。



 例えここで存在が消えても――


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