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041 前に進むための否


 アイリスが目覚める2日前――


 ある宇宙空域で停泊している同盟軍の大型宇宙戦艦内


 同盟軍に復帰したナバイが自室で虹の剣との戦いの映像データを記録したメモリ媒体を(てのひら)で転がしながら考えていた。


「虹の剣を()らしめた報告はしたけど……虹の剣の団長はクーヤ皇女、この事実を報告するかなぁ~どうしようかだねぇ」


「"百五十年の和平計画"」


「帝国の皇女と惑星同盟軍の主軸企業であるマロタリ社の社長との結婚を条件に行われる、150年間に及ぶ不戦の約定(やくじょう)……」


「極めて軍と企業の癒着(ゆちゃく)色強い政略結婚(せいりゃくけっこん)だねぇ~」


 そう静かに独り言を呟くナバイではあるが、心中穏やかでは無かった。


 ナバイはノンキャリア組、貧しい家庭で育ったのでコネも無く、自分の腕一本で大佐の座まで登り詰めた男である。


 G・Sのパイロットとして数多(あまた)の戦場を経験する中で、何人もの同期の友人、先輩や後輩、そして部下が死ぬ場面を見て来た。


 そして地獄の様な戦場で生まれた敵のエースパイロットとの因縁(いんねん)――


 仲間の(しかばね)をかき分けながら敵を屍にして来た同盟軍G・S部隊、それなのに皇女の小娘と大企業のおぼっちゃんとの結婚という形で幕を閉じる。


 あまりにも不条理(ふじょうり)だという思いがナバイを(いら)つかせた。


 ナバイはふと、机の上に置かれた写真立てを見る。


 そこにはナバイが20代の頃に撮ったG・S部隊の集合写真が飾ってあり、写真に写っている数十人のパイロットの内、生き残っているのはナバイだけだ。


「僕たちが目指して戦った公平な世界とは何だったんだ……結局は一部の()()()に転がされる運命でしか無いんだねぇ~」


「分かってはいたが、せめて戦いの中で君たちの元へと行きたかったなぁ……アイリスなら沈めてくれると思ったんだがねぇ……」


「僕とやり合えそうな黒檀(エボニー)は引退してるし、150年の不戦が決まったら今後何をすればいいのかねぇ~」


 写真立てをゆっくりとうつ伏せに倒すナバイ


「G・Sに乗らずにコロシアムに呼ばれた時見たいに営業したり、名ばかり大佐として講演会出たりしてさぁ、新しく出来た橋の開通式に馬鹿みたいに勲章(くんしょう)を付けた軍服着て出たりしてねぇ~」


「そして歳をとって病院のベットで死んでゆく………………」


 ナバイは穏やかな表情から一気に険しい表情となり、手に持ったメモリ媒体を床に向かって叩きつけた。


 バシッ!


「ふざけるな!そんな事あってたまるか!!!!」


 メモリ媒体を何度も踏みつけてバラバラに砕くと、大きなため息をついたナバイは冷静さを取り戻す。


「はぁ~……政治はしたくないんだけど、仕方ないなぁ」


 机に置かれている音声通信機を手に取ると、どこかへと繋げる。


「……あ、シモクくーん、今から中隊編成集めといてくれな~い?んん?そうそう艦隊もだよ」


「じゃあまた後でねぇ~」


 音声通信機の接続を切ると、上着を羽織ってブリッジへと向かうナバイ


「今から虹の剣を皆殺しにする――」


「首だけの皇女の映像でも晒せば150年の不戦は無くなるねぇ……クックック」


「その後は軍部へのクーデターだ!あぁ~いそがし、いそがし!」


 今の彼には怒りの感情は既に無く、強い決意を表した真っすぐな瞳と、どんな手を使ってでも修羅(しゅら)の道を伸ばし続ける思いの歪んだ笑みが浮かび上がっていた――。



――――――――――――――――――――――――――――――――



 黒兎の正体は俺……!?


 しかも9歳の時と言えば、父が出て行った年である。


 G・Sの操作がまだ上手く無いのは当然だ……。


 そんな9歳の俺に、一番言ってなら無い事を放った。



「黒兎……君は邪魔だよ!いらないっ……!」



 黒兎が唯一話すことが出来て、家族と言われて"感情のノイズ"を表すぐらい思っていた俺からの言葉。


 俺は何て事をしてしまったんだ!!!!


 あまりの罪悪感に頭を両手で抱えたまま、目から涙がポロポロと流れ落ちた。


『う゛うぅぅぅ……』


 まるで小さな子供の様にむせび泣く姿を見たコハクさんは心配そうに声をかけて来た。


「わぁ!?兎さん、どうして泣いているデース?ポンポン痛いデスぅ?」


『俺は……なんて事を!、あいつは頑張っていたんだ……これからだったのに、それなのに酷い言葉を……う゛ぅ』


『あいつにとっての父さんが俺だったのに……俺が俺を裏切った!』


 自分でも何を言ってるのか分からない、そんな言葉を泣き(わめ)きながら聞かされているコハクさんは全くもって意味不明だろう。


 しかし、コハクさんはそんな俺を後ろから優しく抱きしめ、ゆっくりとした言葉で語りかけた。


「兎さん、私には事情が分からないデスけど……誰かと喧嘩(けんか)したのデスねぇ」


 背中にコハクさんの暖かな温もりを感じ、徐々に落ち着きを取り戻して行く。


「兎さんはその子と仲直りしたいのデスか?」


『仲直り……』


 黒兎は俺自身でもあるし、戦闘AIという独立した意識体(いしきたい)でもある。


 俺にとっての黒兎は一体何だったんだ?


 一つの身体の中で時には頼られて、頼って……G・Sの操縦が下手でイライラさせられたり、たまにファインプレイしたりする運命共同体――


 黒兎の事は嫌いだった?


 ……(いや)、嫌いではなかった。


 黒兎は友達なのか?それとも家族?


 ……否、答えが出ない


『ただ、俺は……もう一度話がしたい、傷つけた事を謝りたい』


「兎さんは優しい子デスねぇ~、その子となるべく早く会うデスよ」


『でも俺は負けた……期待してくれた皆を裏切ったんだ……合わせる顔が無い!』


 (うつむ)落胆(らくたん)した俺にコハクさんは頭を撫でながらやさしい口調で語った。


「大丈夫デスよ~兎さん、ベットの周りを見るデス」


『え?』


 周りを見ると、ベットの周りの床にはいくつもの寝袋や布団が敷かれている。


「兎さんが目を覚まさない間、ずっと虹の剣のクルー達がこの部屋で寝泊りして声をかけたり手を握ったりしてたデスよ~」


『みんなが……』


 意識が無い中、真っ暗な世界に現れたあの温かい光は虹の剣のみんなだったのか――


「みんなが見ているのは兎さんの戦闘技術だけじゃないって事デス!」


「気まずくなった人に会いに行くのはとても簡単でとても難しい事デスね……でも、例え自分が思っていない結果になったとしても」


「会わずにこれから先後悔するよりも、会ってスッキリするのがいいデスよ!」


 会いに行くという事……なぜ俺は父に会いたいと思っても、自分から探して会いに行こうとしなかったんだろう。


 "簡単でとても難しいこと"


 俺は怖かったんだ。


 父に迷惑がかかるんじゃないか、いや……俺が傷つく事に――


 会って拒絶(きょぜつ)されたらどうしよう。


 会って父が再婚していて、俺以外の子供と仲良くしていたら……。


 俺は自分が傷付く事から逃げて、ゲームの結果を出していれば向こうから会いに来てくれる事を勝手に妄想していた身勝手なヤツだ。


 じゃあ俺がやってきた事は無駄だったのか?


『………………』


 ピピピピピピピッ!!!!


 ん?なんか電子音が聞こえる。


「オウ!テレイアからデスねぇ!セレーネ周辺に変な艦影(かんえい)が現れたからピーターワンで見に行ってたデスよ~」


 コハクさんが部屋にあった音声通信機を作動させた。


「はいモチモチ~?」


【テレイア】「繋がった……コハク!艦影は惑星軍の艦隊でピーターワンに攻撃して来たわ!」


『え!?』


【テレイア】「数は中隊ぐらいだけど、ナバイが指揮してる艦隊なの!クレインとヘカテーがなんとか抑えてたけど、もう限界だからセレーネまで引っ張る、籠城(ろうじょう)するから用意しといて!」


「ワォ!それは大変デスッ!ありったけの無人機やタレットを準備するデス!」


【テレイア】「お願いね……もし、ピーターワンがセレーネに戻らなかったら、アイリスを連れて逃げて頂戴!」


 テレイア……


【テレイア】「ん!?どうしたのベスタ……え!?ホワイトポーンが勝手に出撃した!?なんで?誰も乗ってないでしょ!」


 どう言う事だ?


『あっ!』


 俺は思い出した。


 俺が意識を失っている間に一度勝手に起きて格納庫に行ったという話、それとホワイトポーンに搭載されている"AIレコーダーボックス"の事を。


 黒兎だ――


 黒兎がホワイトポーンに()()()出撃したんだ。


『ホワイトポーンはもう直ってるのですか?』


「ウーン……ブラックポーンのパーツを流用して形にはなってるデスが、元の万全な状態とは言い切れないデース」


 そんな状態でナバイに挑もうとしてるのか?無謀(むぼう)だ……。


『コハクさん、なんでもいいので動かせるG・Sは無いですか!?』


「G・Sが必要デスか?だったら丁度いいデス!"2つほど見せたい物"の二つ目を見せてあげマース!」


 そう嬉しそうに言ったコハクさんは、俺の手を繋いでセレーネの基地にある格納庫へと連れて行った。


 ………………


 …………


 ……


 セレーネ基地にある大きな格納庫、数々のG・Sが隔壁で分けられた部屋に格納されている。


「テレイアに頼まれてた新型G・Sの開発……その1機目である兎さん用の機体が完成したのデス!!」


 コハクさんは1つの部屋の前まで来るとシャッターの開閉スイッチを押した。


 ゆっくり開くシャッターの中から、少しずつ(あらわ)になる新型G・S


 その姿はホワイトポーンによく似ていたが身体(ボディ)はひと回り大きく、独自の形式と思われる長方形のスラスターが手足と腰に付けられていて、お尻には用途不明な兎の尻尾の様な丸い玉が付いてる。


 それ以外にも目を引いたのは両肩や両肘部についた金色の腕輪の様な物と、頭部に付けられたホワイトポーンよりもシャープで格好よくなったうさ耳スラスターと、おでこにある突起物?いや(つの)だ。


「推力はホワイトポーンの10倍、反応速度、パワーも段違いに上がってるデス!」


「そして"ミラージュリング・プリンタ・システム"が搭載されたスーパー!最強!ウルトラ!モンスターG・Sデス!!!!」


 これが俺の新しい機体……。


「その名も――――――」



 もう一度問おう。


 俺がやってきた事は無駄だったのか?


 (いや)……


 俺の人生はゲームしか無かった。


 (いや)

 

 それだけで良かったし、それだけで生きていた。


 (いや)!違う!!!!


 俺には虹の剣という大切な仲間が出来た。


 黒兎もだ!


 だから俺は俺が持ってる最大の技術(ちから)で仲間を守護(まも)る!


 俺が今まで出来なかった誰かに歩み寄る事、その最初の一歩を過去の自分自身……いや、黒兎へと歩みを進めよう。


 俺の新しい機体



 "アルミラージ・ナイト"で――――




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