038 ガレオスの顎
虹の剣一行は本拠地である惑星セレーネに戻ると、ベスタが持ち帰ったデータ媒体をコハクに渡す。
コハクさんが言うには
「2日あればセキュリティ解除できマース!」
と言う事なのでそれまでの空いた時間に、セレーネ近くにある人類が居住している惑星へと買い出しに行く事になった。
クレインとヘカテーは開発中の新型及び改修G・S機の適正身体検査と訓練を行う為、セレーネで留守番だ。
それ以外のメンバーで母艦に乗り、セレーネから数時間程移動した場所にある"惑星ハノメ"へと向かう。
………………
…………
……
5時間後――
灰色の霧に覆われた小惑星ハノメへと到着した。
1年のうちの半分以上"水銀"が混じった雨が降り続くこの惑星では、広い地域で人間が居住している訳では無く、惑星に数個ある巨大なドームの中に街を作って暮らして居る。
どうやらこの惑星を人が住めるよう本格的に開拓している訳では無く、ここで採れる鉱物などの資源の為に集まった労働者が多くなって商業や流通が出来た人類居住惑星らしい
母艦でドーム横にある空港に停泊すると、虹の剣一行は買い出しの為に居住ドーム内へと歩みを進めた。
ドーム内の繁華街に到着するとテレイアが各々買い出しする物を決め、俺はティッシュなどの消耗品を担当する事になり、地図を確認しながら1人でドラックストアへと向かった。
ティッシュだけでも両手が塞がりそうだな、カートを借りて何度か往復しないと……
などと思いながら帰路についているとゲームセンターらしき建物を見つけ、ガラス越しに覗いたら奥の方に以前テレイアと買い出しの時に遊んだG・Sゲームの筐体を発見した。
あぁ、やっぱこの世界のゲームはあの低クオリティがデフォなのかぁ……。
………………
でも、まぁ……少しだけ遊んで行こうかなぁ~
俺はゲームセンターに入ると早速G・Sゲームの筐体に腰掛けプレイを始めた。
相変わらずカクカクのフレームレートと荒い3Dポリゴンだなぁ、でもやっちゃう……くやしい
なんでだろう、色々と気を使わずに戦えるからだろうか?こっちの世界に来てからいっぱい"縛り"的なモノが増えた気がするし
そんな事を考えてる内に1回で全クリしてしまった――。
もう1回プレイしようと思った俺だが、ある事を思い付く
黒兎、やってみないか?
《え!?、私がですか?》
ほら、G・S操縦の練習になるかもしれないからね
《このゲームで技術が上がるか疑問ですが、やってみます》
身体の自由を黒兎に預け、ゲームをやらせる。
ゲームのストーリーモードが始まると、先ほど俺がしてたプレイをなぞるかの様なコピープレイをする黒兎。
しかし、敵の出現位置は微妙に変わっているので稀にダメージを食らっていた。
黒兎、上級者のプレイを真似する事は悪く無いが、自分で考えて臨機応変に動かないと自身の成長にならないよ。
《はい、善処します》
そろそろ黒兎もこの世界のエース級とやり合えるだけの技術を付けて貰いたいという本音がある。
《アイリス、1つ聞いてもよろしいでしょうか?》
ん?何だい?
《一昨日のレコードコロニーを守る戦いでテレイアが》
《黒兎に関するAIの事を家族と仰ってましたが》
あぁ、たしかそんな事言ってたな
《アイリスにとって私は……家族という部類に入るのでしょうか?》
う~ん、家族と言う定義には色々あるからなぁ
血の繋がり、人種、コミュニティの仲間……等々、ずっと同じ身体を共有していて同じ虹の剣のメンバーとしてやってる黒兎は、充分に家族と言えるんじゃないかな?
《……ジッジジ――ザッ!ザー……――》
わっ!?すごいノイズが頭に響いたぞ
《すいません、なにか不思議な気分になって熱くなりました》
たまに出てたノイズ音は黒兎の感情の起伏があったら出る物なのか?
《分かりません、ただ胸を火で炙られた様に熱くなって跳ねあがりたい感覚と》
《冷たい雨に打たれて1人で立っている様な感覚が現れました》
それは嬉しいのか悲しいのかどっちなんだか……。
などと脳内会話をしているとゲーム内から「ボーン!」とSEが鳴り、「you died」と言う文字が表示された。
あぁ~負けちゃったかぁ……色々考える事はいいけど、目の前の事には集中しなきゃ駄目だよ。
《申し訳ございません》
まぁ仕方ない、俺は俺、黒兎は黒兎なんだから――
ゲームを終えて両手にティッシュや医療用品の入った袋を抱えながら、母艦へと向かう途中、ポケットに入った通信機がブルブルと震え出した。
お?なんだろう、テレイアからだ。
ピッ
『はい』
【テレイア】「アイリス!直ぐにピーターワンに戻れる!?」
『あと少しで付きますが……何かあったんですか?』
【テレイア】「なんか惑星軍の揚陸艦にちょっかい出されてるの!小さいの1隻だけなんだけど」
『えぇ!?でもキャロル条約があるから手を出せないハズじゃないのですか?』
【テレイア】「そのはずなんだけど……、とにかく戻って来て!」
『分かりました』
通信機を切ると小走りで空港へと向かう。
空港に到着し母艦が停泊してあるホームに付くと、母艦の目の前にピーターワンと同サイズぐらいの艦がまるで人質に取る様に主砲の砲口を母艦に突き付けていた。
俺は直ぐに母艦に乗艦してブリッジへと向かうと、何やらテレイアが音声通信で目の前の艦に居る人間と話をしている。
「さっさと艦をどかしなさいよ!惑星同盟軍でしょ?こんなことして許されると思っているの!?」
【ゲストA】「さっきから言ってるじゃないかぁ、僕らは"調査会社"の者だよぉ……虹の剣にかかったある疑惑の調査依頼があってさぁ」
「調査会社って探偵!?それに疑惑って何よ?」
【ゲストA】「コロシアム準決勝での八百長疑惑だよ」
八百長!?何を言ってんだこの人は
「準決勝ってアイリス対グノンね?そんな事して無いし、虹の剣側や向こうのチームに何の得なんて無いと思うんだけど?」
【ゲストA】「それは疑惑がある二者同士の勝手な解釈でさぁ、第三者であるこちらの疑惑解消にはならないよぉ?」
「だったらどう証明しろと言うの!?あんたらが軍じゃないなら民間会社の違法行為として治安維持軍に通報するわよ!」
【ゲストA】「好きに通報したらいいさ、でも果たして軍は来るかなぁ?」
「ッ!?あなた……!」
【ゲストA】「おっと証明の話だったね、要はグノンと戦ったアイリス選手の実力が分かればいいのだよぉ」
【ゲストA】「僕もそこそこG・S操作に心得があってねぇ……どうだろう? 僕に1対1で勝てたから依頼主に八百長は無かったと伝えよう」
「馬鹿馬鹿しい!相手にしてられないわ!」
テレイアの事だから「やってやろうじゃないの!」などと言うと思ったが、冷静に判断できる大人になったんだなぁ。
それはさて置き……有名になると変な奴等が絡んでくるようになるのはこの世界でも同じなんだ。
『いいですよ、テレイア艦長……私が倒してきます!』
「アイリスが言うなら……分かったわ!絶対勝ってね!」
【ゲストA】「決まりだねぇ、じゃあ人気の無い場所でやろうか」
その様な流れで母艦と自称調査会社の艦は、惑星ハノメの居住ドームから離れた岩と崖しかない平地へと移動する。
俺はホワイトポーンに乗り込むとナイフだけを装備して灰色の雨が降り注ぐ大地へと降下した。
相手の艦からもハッチが開き、1機のG・Sが降下する。
なんだあのG・Sは?ラスターシリーズでも無く初めて見るタイプだ。
西洋のプレートアーマーみたいな身体で、色は濃く暗い青、シャープなボディとは裏腹にバックの肩部と腰部には大きなスラスターが付いている。
【ゲストA】「じゃあやろうかぁアイリスくん」
『そのG・S……あなたは何者なんですか?』
【ゲストA】「あれぇ?忘れちゃったのぉ?寂しいなぁ……僕は"ナバイ"だよぉ、コロシアムで会ったじゃないか」
『ナバイ!?』
【テレイア】「惑星同盟軍のエースが何で調査会社に居るのよ!?」
数日前のコロシアムでは大佐と言う肩書があり、軍に居たハズなのに……なにかきな臭さを感じるな
黒兎、セキュリティ解除まであと何秒だ。
《今から解除します 残り120秒》
え!?解除はじめて無かったの?
《言われて無かったので》
いやいや……いつも言ってたっけ?……というか言わなくても察して解除開始して欲しかったよ。
《……申し訳ございません》
仕方が無いな、……うん、仕方が無い――
【ナバイ】「君の機体はブラックポーンの改造機か、僕の機体は"ガレオス"、マロタリ社の次世代試作機さ」
【ナバイ】「まぁコスト的に絶対量産化はされないだろうがねぇ、性能的にはブラックポーンの7倍ぐらいだよぉ……じゃあ、ぶっ壊してあげるねぇアイリスぅぅぅ!!!!」
ドッ!
ナバイの乗るガレオスが激しいソニックウェーブをかき分けながら自機に向かって突っ込んで来た。
桁違いに速いっ!
黒兎、ナバイは遠距離武器を持って無い、ガレオスを常に対面になる様に身体を向けながら下がるんだ。
《了解、残り100秒》
このままバックステップで距離を取りながらセーフティ解除までの時間を稼ごうと思ったが、ホワイトポーンを上回るスピードとナバイの軌道読みの速さであっという間に近接戦の距離まで詰められた。
黒兎!両手で頭部をガード、来るぞ!
ドッ!ガガガガガ!!!!
ガレオスの両手から放たれたマシンガンの様な連打に両手で亀の様にガードしながら後ろに下がる事しか出来ないホワイトポーン
【ナバイ】「おやおやぁ?どうしたんだいアイリスぅ~」
【ナバイ】「グノン戦で見せた力のベクトルを操る感じなパリィを見せてくれよぉ……なぁ!」
フェンシングの様に一気に間合いを詰めてからの拳法の様な素早いリードパンチ、まるでブルースリーの格闘技"ジークンドー"みたいな格闘スタイルだ。
黒兎、このままじゃガードがこじ開けられる、なりふり構わず逃げながら避ける様にしよう。
《了解、残り80秒》
【ナバイ】「あれぇ?逃げてばっか、やっぱあれは劇だったんだぁ~」
距離を取ろうとしても直ぐさま詰められる。
【ナバイ】「銃器を持つための手による近接でもガードで精一杯、ならばガレオス本来の近接攻撃は避けれるかなぁ?」
え!?どういう事だ?
俺はガレオスの全体の動きを警戒して見る様にしていると、腰部にあるスラスターと思われた物が不自然に動き出した。
あれは……まさかムジナ一家の"チャガマ"機にあった様な隠し武器!?
あれが本来の近接用なら今まで出してきたパンチよりもスピードも威力も――――やばいっ!
黒兎、身体を横に捻って……いや腕は二つあるから左手でガードして……
いや、通常腕からのパンチも……とにかく回避してくれ!!!!
《あ……は、はい、了解しま》
ドゴッ!ギリリリリッ
つっ!?
大きな金属の衝突音と共に自機のコクピット内に激しい衝撃と振動が巻き起こる。
ガレオスの腰部から高速で伸びた大きな隠し腕が、自機のボディをかすめてしまったのだ。
【ナバイ】「この2つの腰腕の先には純度の高いオリハルコンの牙、そして4つの牙を動かしたときの握力はラスター5を3機分動かせるパワーがある」
【ナバイ】「牙の握撃と腕による回転エネルギーの衝撃が合わさり、触れたらどんな装甲でもビスケットみたいに粉砕さぁ……」
【ナバイ】「これがガレオスの顎だよぉアイリスぅ!アハハハ!」
子供が玩具を自慢する様に答えるナバイ、その言葉通りの威力でカスっただけのホワイトポーンの胴が削れ、コクピットにも大きな穴が開き外からの灰色の雨が俺の頬を濡らしていた。
黒兎、次は集中して絶対に躱すんだ。
機体をガレオスと対面向きにならずに腕を伸ばした状態で横向きで後ろに逃げよう。
《…………アイリス》
ん?どうしたんだ黒兎、早く構えるんだ……左手でスラストレバーと姿勢制御を操作して――
俺は自身の左手方面に視線を向ける。
『あっ!?』
だが、そこに俺の左手は無かった――
左肩から下は皮がめくれ、切断面からは幾つかコードがぶらりと垂れて小さな火花が舞っている。
顎はここまで届いてしまっていたんだ……。
《残り60秒》
俺だったら受け返せた……
俺だったら躱せていたんだ!
俺は手を失った事よりも、自分が敗北するかも知れないと言う焦りと
黒兎に対する苛つきの気持ちが大きくなって行った。




