037 人喰いナバイ
俺とクレインが母艦へと帰艦すると、テレイアは直ぐに無人艦に狙われていたアクランドの記録保存コロニーへと艦を進める。
しばらく艦を進めるとサイズ的にピーターワンよりも少し小さなコロニーが見えて来た。
その小型コロニーに接舷して俺とテレイアとベスタでコロニーへと乗り込む
"レーコードコロニー"
俺の世界ではコロニーどころか宇宙ステーションぐらいしか無かったので、はっきりとどう言う物なのかは分からないが、重要な記録を点在させて完全消失のリスクを減らす為の物であろう。
「ベスタ、前の時みたいにお願い!」
「わかったのじゃ、祖母から貰ったキーで開けるわい」
そう言ったベスタはUSBメモリの様な物を扉横に設置されている端末へと差し込む、すると扉のランプが赤から緑色になり、扉が開かれた。
室内へ入ると広く真っ白な部屋に、ガラスで覆われた棚の中で俺が持っていたデカめのゲーミングPCみたいな媒体が大量に積み込まれている。
以前何かの画像で見た大企業のサーバールームみたいだと感じた。
「早速調べてみるのじゃ」
ベスタは手に持ったタブレット端末で部屋に置いてあるデータ媒体を繋げ、内部データの調査に入った。
………………
…………
……
40分後――
「うーん、どうやらこのコロニーにはAIのデータは無いのう」
そうベスタがモニタ端末をしまいながら話す。
俺が一瞬頭によぎった黒兎の別個体が居るかも……と言う心配は無かった様だ。
「私達がアイリス……黒兎を見つけるまでにも幾つかのレコードコロニーを廻ったからね、そうそうは無いんじゃないかしら?」
『そうなのですか艦長!?それなのに私の為に惑星軍と険悪になってしまい申し訳ないです……』
「それなら多分大丈夫!」
『え?』
「傭兵ギルドには帝国や惑星同盟軍と結ばれてる条約があるの」
「"キャロル条約"って言うんだけど、傭兵団がギルドから受けた仕事として帝国や惑星軍と戦い、損害を与えたとしても各軍はその傭兵団に対して団が請け負った作戦行動時以外の攻撃や討伐を禁止する条約よ」
『そんな条約が……』
「そうでもしないと軍事作戦で活躍しても対戦国に恨まれ、軍を派兵されて小さな傭兵団なんかはボコボコにされちゃうからね!」
『でもそんな条約、よく帝国や惑星同盟が許可しましたね』
「虹の剣が所属している傭兵ギルドを作り、統括しているのが"キャロル財閥"なの――」
「キャロル財閥は1600年の歴史を誇る宇宙一の大財閥、大きな活動内容ではアルクトス国を作り、さらにはマロタリ社やダンプティン社の筆頭株主でもあるわ」
『とんでもない組織じゃないですか!ほぼこの世界を支配してると言ってもいい』
「そう、だから帝国も惑星軍も条約を結ばざるをえなかったの、キャロル財閥がどちらかに傾けば、戦争が終わると言われるぐらいだし」
うわぁ……この世界の双璧も資金力と組織力の前ではタジタジなんだなぁ……。
「さっきのコパンとのいざこざも全部録画してあるわ!それをギルドに提出すれば少なくともお尋ね者になったり軍を出されて討伐、何て事にはならないでしょう」
「だからアイリスが気に病むことは無いのよ!」
『そ、そうなんですか……』
多少ホッとし安心した気分になったが、惑星軍を全て敵に回してまで俺の事を気にかけてくれた分けでは無かったか。
「でも例え全宇宙を敵に回しても私は動いていたけどね!」
テレイアは俺の心を読んでるのか?俺がギャルゲーのキャラだったら一気に好感度が上がって惚れてしまいそうだ。
ドガシャーン!!
わっ!?なんの音だ?
音の方向を見ると、ベスタがガラスのケースを破壊して中にある媒体を引っ張り出していた。
「ちょっと、ベスタ何やってるの?びっくりしたじゃない!」
「いやぁ~すまぬすまぬ、どうしても1個だけセキュリティが解除出来のうてなぁ~、コハクなら出来ると思って持って帰ろうと思ったのじゃ!」
「それこそAIじゃないの?」
「いや、古い媒体じゃからAIを記録するには容量が足りぬ、恐らく何かしらの研究記録じゃないかの?」
「へぇ~、まぁせっかく来たんだし、少しでも新しい情報の可能性があるなら持って帰りましょう!」
その様な流れでベスタが1つの媒体を持ち帰っただけで、このレコードコロニーを後にした。
あの媒体には果たして黒兎に関する新たな情報は入っているのだろうか?
僅かな期待と共に、本当にこの出来事で蛇は現れないのであろうか?と言う一抹の不安を抱きながら母艦へと戻るのであった――。
――――――――――――――――――――――――――――――――
テレラ惑星同盟領――
ある宇宙空域で停泊している同盟軍の大型宇宙戦艦、艦内の薄暗い一室で一人の男がある動画を見て居た。
男の名前は"ナバイ"、惑星同盟軍大佐
現在39歳、19歳からG・S乗りとして数多の戦場に赴き帝国軍、及びその他のG・S撃破数は400機を誇る惑星軍最強のパイロット
彼が見てるのはコロシアム大会の準決勝、アイリス対グノン戦の映像でブツブツと何かを呟きながら何度も見終わっては早戻しを行い、再生を繰り返していた。
「ナバイ大佐!こちらシモク少尉です、入ってよろしいでしょうか?」
そう部屋の入口から声が聞こえると、一瞬面倒そうな顔をしたナバイがロックを解除し、シモクと名乗る青年を部屋に招き入れた。
「ん?大佐殿は映像記録を見てたのですか?」
「シモクくんも見るかい?とても面白いよぉ……」
「これはこないだ本国で行われたコロシアムですね!」
「そうだよぉ……優勝したアンドロイド、アイリスの動きを見ていたんだ、所でシモクくん……こんな話を知ってるかい?」
「話、でありますか?」
「人間が脳で命令して身体を動かすときに……例えば脳でこのペンを持とうと思って手を動かすときに脳から手にかけてニューロン信号と言うものを出して命令するわけだが」
「脳で考えてから実際に手を動かす間、信号が到達するまでの遅延として0.35秒かかるらしいんだ……」
「は、はぁ……」
面倒そうな講釈が始まったなと渋々聞くシモクにナバイが続ける。
「でも僕は特殊体質でね、以前軍の科学者が僕を研究した時に発覚した事なんだけど、脳から全身へのニューロン伝達が0.25秒で出来るらしいんだよ」
「す、凄い!流石大佐殿!」
「シモクく~ん、僕はおべっかが欲しくてこの話をしたんじゃないんだよぉ……この映像を見てごらんよ」
そう言ったナバイはアイリスが乗るラスター4にグノンが乗ったラスター5が殴りかかるシーンをスロー再生にしてシモクに見せた。
「グノンがジャブを放った時の彼女の手の動きを見てごらん、グノンがパンチを出す動作をした瞬間、アイリス機の右手がパリィする動作に入っている……」
「ほぼ同時では無く……同時なんだ――」
「それはアイリスの反射神経も大佐殿ぐらいにあると言う意味ですか?」
「この映像を僕の事を研究した博士に見て貰ってさ、G・S操作による電気信号速度を引いた彼女のニューロン伝達速度を博士に計算して貰ったんだが……」
「その速度は0.01秒――」
「ばっ!……バケモノじゃないですか!?」
「もはや未来予知のレベルだね、機械だから出来るのかと思って博士に聞いたんだけど、人間並みの応用力でこの反応速度を出すには」
「宇宙一でかいコロニー並みのスーパーコンピューターと、冷却システム、それと幾つかの未知の物質が無いと無理らしいよぉ……」
「もしそれが本当なら、誰が勝てるのですか!?」
「そう、その本当ならってのが大事なんだよシモクくん、演劇や剣劇の様に最初から分かっていたら誰にでも出来る動きでもあるんだ」
「つまりは2人は通じていて、八百長をしていたのですか?」
「僕は9割方そう思う……、何かしら通じていたと言う情報もあるし、だが1割の可能性を確かめて見たい気持ちもあるんだ――」
静かに呟いたナバイは両目をごしごしと擦ると、動画を閉じてモニタを消した。
「ところでシモクくんは何しにきたの?」
「あっ!そうでした、大佐殿に暗号電文が届いております!」
シモクは手に持ったB5サイズほどの用紙をナバイに渡す。
「電文ん?古臭いねぇ……メールでいいじゃない、どれどれ」
"この電文は一部、艦隊将官にのみ送った物である"
"先日、コパン少佐率いる第十六艦隊が行動不能による全滅という恥辱を受けた"
「あはははは、あの無能二世将官が恥を晒したらしいよぉ……ざまぁないねぇ、民主主義掲げて戦ってる国が世襲やってんだから末期だよねぇ~シモクくん」
苦笑いでしか返せないシモクを余所に続きを読み始めるナバイ
"相手は傭兵団虹の剣であり、傭兵ギルドとの間にキャロル条約があるので我が軍は決して手を出さない様に"
「虹の剣……アイリスか!?」
"なお我が軍は現在、希望退役者を求めている"
"以上が大本営からの電文である、各々軍務に励むように"
不自然に退役希望者の一文が入った電文を読み終えたナバイの身体がプルプルと震えだす。
「くっ、ふふふふふふふふ!あっはははははははははは!!!!」
「た、大佐殿?」
「いやぁ~シモクくん、神様って居るのかもねぇ~……」
「は、はぁ……」
「シモクくん、今すぐに小隊分の数でいいから信用できる者を集めてくれ、それと辞表と履歴書を用意しとくといい、僕も書かなきゃなぁ~」
「えぇ!?どういう事ですかぁ大佐殿!」
「なぁ~に一月だけ僕達は軍を辞めてただの無法者になるだけさぁ……大丈夫、終わったら直ぐ再雇用されるから、一緒に条約の穴を潜ろうねぇ~」
ナバイは手に持った電報用紙をビリビリ破り始めると、空に向かって放り投げ、舞い上がった紙吹雪を浴びながら指揮者の様に両手を掲げた。
「アイリス、人の皮を被ったアンドロイド……そして偽りの実力!」
「その全てを丸裸にした後、僕の顎でスクラップにしてあげるよぉ!!!!」
「さぁ行こうか!シモクくん!虹を墜としに……くっふふふ……あっはははははははは!!!!」
大型戦艦の薄暗い一室で、深海の様に暗く冷たい笑い声が響き渡っていた――。




