036 白兎
傭兵団虹の剣対、無人大型艦・惑星同盟軍艦隊との戦いが始まった。
『クレイン、私はコパン艦隊へと単騎駆けしますが大丈夫ですか?』
【クレイン】「少し怖いけど……大丈夫、大丈夫……相手弱いし」
『何かあったら直ぐに呼んで下さい、では任せました!』
俺は自機をフルスロットルで加速させると、コパン艦隊目がけ一直線に突き進んだ。
《敵の規模、旗艦500m級1、護衛艦200m級5、G・S40機、機種ラスター4、及び少数ラスター5》
了解、黒兎
コパン艦隊を望遠モニタに捉えた瞬間、艦隊から俺に向かって一斉射撃が始まった。
凄い弾幕だ。
ムジナ一家とやり合った時も同じ様な状況になったが、やはり訓練された軍隊、統率された射撃はまるで弾幕ゲームの様に均等で美しい。
だがその分読みやく弾幕の陣に穴を開けやすい、俺は自機の肩部にかけてあった実弾アサルトライフルを構えた。
弾はビームシールド拡散弾、飛んできた弾幕を回避しながらスペースの無い直撃弾だけを"パトリオットファイア"で撃ち消しながら敵艦隊へと接近した。
【コパン】「えぇいっ!たった1機に何をやっている!ちゃんと軌道予測して撃たんか!!」
狙おうが水平撃ちしようが変わらないさ、このまま突撃して旗艦に張り付いてやる。
【コパン】「馬鹿な!?我が艦隊が尻を取られるだとォ!どこに行った?……まさか我が艦に乗られてるっ!?」
ご名答
【コパン】「さ……さっさと引きはがせ!近接だ!近接武器に持ち替えるんだバカども!G・S部隊!」
俺は右手にビームライフル左手にビームガンを換装すると、近接武器に持ち替えて自機にワラワラと群がって来るG・S達に向かって撃ち始めた。
ドッ! ドッ! ドッ! ドッ! ドッ!
群がる第一波G・S軍勢の手、足のスラスターと背部のブースターを狙撃して行動不能にする。
すると中身のある行動不能のG・Sは、俺というゴールを目指す道筋を邪魔する障害物となるのだ。
味方の半壊した機体を避けるための迂回で動きが止まった第二波は容易く狙撃が出来る。
第二波部隊も行動不能に、そして第三波も――
【コパン】「貴様ら!何故張り付いた虫一匹も倒せないんだ!?何ぃ?味方機だと?動けない兵など死骸に等しいわ!」
【コパン】「迎撃機関砲でデブリをどかして道を開けてやるからこの艦を守れ!」
やれやれ、とんでもないパワハラ上官だな……まぁもうG・S部隊も片手で数えられるぐらいしか居ないし、ついでに護衛艦のブースターも破壊しといたから決着はついてるんだがな
俺は張り付いてる敵旗艦のブースターと機関砲に向かって射撃した。
ドッ!ドッ!ドシュ! ゴゴゴゴゴ…………
激しい爆破と轟音と共に半壊する敵旗艦
【コパン】「機能停止……行動不能……、我が艦隊がたった1機に……ぜ、全滅……ハ、ハハハ」
残った数機の敗残兵も行動不能にし、俺の仕事は終わった。
《コパン艦隊全て行動不能、死者0人、流石です》
《コクピットを狙うのは辞めたのですか?》
うーん、まぁ……あまり遺恨や因縁を残すのは後々面倒になるからね、出来るのならなるべく殺さないようにするさ
どうしようも無い状況なら迷わずヤルけどね……。
《なるほど》
無人大型艦の方はどうなったんだろう?あの程度なら大丈夫だとは思うが。
『クレイン、聞こえますか?そちらは終わりましたか?』
【クレイン】「アイリス……母艦が無人大型艦を翻弄しながら、主砲を当ててボコボコにしてるわ」
【クレイン】「私もあと2機のG・Sを墜とせば終わる……当たった、あと1機」
うん、俺が援護に行かなくて大丈夫そうだな
無人艦隊……、コロシアムでナバイが言っていた「戦闘アンドロイド、AIは"役に立たない"」……か、正にその言葉通りの実力だった。
ザー……――――
ジジジ……――ピッ……ピッ……ピッ
【ゲストA】「ザ……ザザ……あぁ……やっとダイブ出来た……」
『え!?』
急にノイズだらけの発信元不明な音声通信が響き渡る。
【クレイン】「えっ!何?なんなの……!?無人機最後の1機が、私のトリプルバレルの射撃を全部躱した……躱したの!」
あの3連撃を躱した!?
ナノエレクト機能を使った予測射撃が無いとは言え、それなりの射撃精度なクレインからの攻撃を回避するなんて……。
様子が変だ!速攻で援護に向かおう。
【クレイン】「こっちに向かって来るわ!……いいわ、引き寄せて撃つ――」
【クレイン】「撃つわ……捉えた…………え!?下半身をパージ……ぶつけて弾道をずらした!?」
【ゲストA】「トリプルバレル……いいなぁ……ザ――……くれよ」
自機の望遠モニタがクレインのラスター4と、それに接近するナイフを構えた上半身だけのパダチを捉えた。
【クレイン】「怖い、たすけて……たすけて……」
ここから撃つしか無い!
パダチの予想進路目がけ、ビームライフルを偏差撃ちする。
クレインに近接戦をされるギリギリのタイミングで、なんとか直撃弾にすることが出来た……と思った瞬間――
なんとパダチは背部のブースターと肩部スラスターを巧みに吹かして機体を捻り、回避した。
【ゲストA】「その距離から……ジジジ……合わせるか……やるね」
こいつ、強い!!
俺はとにかくクレインからあのパダチを離す様に射撃を続けながら接近する。
ヒラリヒラリとまるで舞い上がった羽の様にビームを躱すパダチ
『クレイン、今です!合わせて』
【クレイン】「あっ……十字砲火、撃つわ!撃つわ!」
パダチに対して俺とクレインの十字砲火を行う。
それでも怒涛の回避を見せたパダチだが、11撃目のレーザーが肩をかすめ、腕部が吹き飛んでバランスが崩れた所に俺が撃った12撃目の射撃がブースターを捉え、完全に機能停止させる事に成功した。
【ゲストA】「あぁ~……やっぱ基地から遠いから……ザザザ――無線がラグいなぁ……旧型機だし……ジジジ……」
【ゲストA】「……まぁ、言い訳だね……君たちの勝ち……ジ……」
無線?遠隔操作であの凄腕だったのか。
『アンタは何者なんだ?惑星同盟軍の軍人か?』
【ゲストA】「ん?……白い機体のヤツか……ザザ……違うよ……」
【ゲストA】「……コロニーは破壊出来なかったか……もう特に……ジジジ」
【ゲストA】「恐れる様なデータは……無いと思うし……まぁいいや」
【ゲストA】「あ、俺が何者だっけ?……ザザザ……うーん、色々名前が……あるけど……勝ったご褒美に、1つだけ……教えてあげる……」
そう答えた人物は右手しか動かなくなったパダチを操作し、手に持ったナイフを己のコクピットに向かって突き立てた。
ズンッ!
【ゲストA】「俺の名前は……白兎……」
【ゲストA】「ザ――…………」
パダチが完全に動かなくなり、音声通信が途切れた。
白兎――
黒兎と同じ戦闘AIなの……か?黒兎はアイツの事を知ってる?
《いえ、記憶を消される前ならあるいは……》
アイツが戦闘AIなのか、それともたまたま黒兎と繋がりを思わせる様な人間なのかは分からない……ただ一つ言える事は
白兎はこの世界で会ったG・S乗りの中で、誰よりも圧倒的に強いと言う事だった――
【テレイア】「こっちも終わったわ、無駄にデカくて硬いだけだったわね」
旋回したピーターワンからの連続砲撃でケバブの様に削られた無人大型艦は装甲が溶鋼し、スラスターを爆破させながら轟音と共にバラバラになって行った。
本来なら今回の仕事のメインだった物のあっけない最期である。
【テレイア】「所詮は惑星同盟のラジコンでしか無かったのね、でもこいつは帝国領でも暴れていた、この程度なら帝国軍でもやれたハズ……」
【テレイア】「あぁ……そう、両方が……なのね」
何かを悟ったかのように静かに語るテレイア、虹の剣として今回の行動は藪蛇であったのか、それとも正しい道を切り開く藪漕ぎであったのかは、進んだ先の答を見ないと分からないのであった。




