031 コロシアム大会(後篇)
「それでは!ただ今より!Aブロック決勝戦、虹の剣アイリス選手対、コロシアムファイター部エース、グノン選手だ!」
闘技場の東西にあるゲートが開くと、俺とグノンの機体が闘技場グラウンドに入って行き開始位置へと移動した。
「優勝候補とダークホースの一戦ンッ!試合開始ィィィィィ!!!!」
会場に鳴り響く試合開始のブザー、それと同時にグノンが乗ったラスター5が装備しているアサルトライフルを俺のラスター4に狙いを定め、1発撃った。
ドンッ!
会場に響く火薬の乾いた破裂音――
それと同時に俺は後方に吹っ飛び、1回転をして倒れ込んだ。
(あれ?もう終わり?)と言う様な雰囲気と静寂が会場に包まれる中
「実弾だぁ!実弾が使われたぞぉぉぉ!!!!」
観客席に居た1人が大声でそう叫ぶと……その瞬間、大声で叫んだ男を複数の警備員が押さえつけた。
その光景に他の観客達もドヨドヨと戸惑いの声が流れ始め、会場内に一時試合停止のアナウンスが流れる。
「た、ただ今、グノン選手の機体確認を行っておりますので、お客様は暫くお待ちください!」
闘技場内に数十人の運営スタッフが入って来ると、グノンのラスター5と手に持ったアサルトライフルをチェックし始め、倒れている俺のラスター4にも医療担架を持ったスタッフがやって来た。
………………
…………
……
「お待たせしました!一部から実弾を使われているとの声が上がったので、ただ今機体チェックを行った所――」
「グノン選手のラスター5が放った物は"空砲"であると確認が取れました!よって試合を再開いたします!!!!」
俺は自機に集まって来たスタッフに『大丈夫です』と言うと、すくりと立ち上がって、自機は無傷であることをアピールした。
一時不穏な空気が流れた観客席だが、試合再開が確定すると一気に大歓声が上がる。
その中で取り押さえられた男は「そんな馬鹿な……」と呟きながら、数人の警備員に連れられて会場を後にした。
闘技場から運営スタッフが去り、仕切り直しの試合再開の合図を待っていると、自機にグノンからの音声通信が入る。
【グノン】「君が言った通りに、俺をハメようとしたした人間を釣り出せたよ、感謝する!」
『いえ、こちらこそ打ち合わせ通りに動いてくれて有難いです』
―――――――――――――――――――――――――――――――
試合開始前に遡る――
俺は通信機でテレイアをスタッフエリアに呼び出すと、コイウスさんらヘカテーチームのスタッフがやった実弾入れ替えの件を話した。
「なるほど、昨日アイリスを襲ったのも恐らくコイウスさんの所のスタッフね、財布に入っていたマロタリの社員証を調べたら襲撃日以前に紛失届が出ていたらしいわ」
「わざと財布を落としてマロタリ社がやった事にして、今日は実弾に挿げ替えて問題を起こさせる事でマスコミとの繋がりがある私達を利用したマロタリ社の"ネガティブキャンペーン"を狙った……」
今までの情報で独自の推理をしたテレイア
「コイウスさん、残念だわ……」
『どうするのですかテレイア?私は相手が実弾でも勝つ自信はありますが』
「アイリスを襲って、更に実弾で危険にさらして……私達の知名度を利用した事は許せないわね!ケレスをグノン陣営に内密に行ってもらって一芝居打って貰いましょう!」
『一芝居ですか?』
「そう!グノン陣営に実弾に変えられてる事を伝えて、さらに弾丸を"空砲"に挿げ替えて貰うの……それを試合中グノンに撃って貰ってアイリスは"まるで実弾を食らった様に"吹っ飛んで!」
『私も演じるのですね』
「コイウスさんは挿げ替えがバレてる事を知らない、思惑通りに行ってるなら観客席に仲間を潜ませて実弾が使われた事をアピールする可能性があるわ!」
「人を呪わば穴三つ、虹の剣、マロタリ社、コロシアム運営全てを使ってコイウスさんをハメ返してあげましょう……」
そう冷徹に放ったテレイアは直ぐにケレスをグノン陣営に向かわせ、段取りを進めた。
八百長などの問題があるから選手同士及びスタッフ同士の接触は禁止されているので、極力内密にである。
暫くするとケレスがやって来てグノン陣営側も了承した事を伝えた。
グノンは熱血漢なスポーツマンタイプらしく、弾を挿げ替えられた事に憤慨していたとの事。
そして俺は段取り通りグノンのラスター5がライフルで空砲を撃った瞬間、まるで実弾を受けたかの様に(多少オーバーアクション過ぎたが)吹っ飛んで見せ、見事に客席に居た工作員を釣り上げたのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
現在に戻る――
『警備員も動いたって事は運営にも伝わったって事か……』
【グノン】「その通りだ、運営側も進行に汚点を残す分けには行かないからな!半信半疑だったが動いてくれた様だ!」
【グノン】「君たち虹の剣が提出してくれた"映像記録"も相まって、今回の件は警察にも話が行くだろう」
俺の頭に記録された実弾が挿げ替えられた証拠映像も、メモリ媒体にコピーされて渡されていた。
【グノン】「これで"コイウスカンパニー"もお終いだな、まぁ自業自得だが」
『………………』
ヘカテーはこの事を知らないだろう、純粋な正義の味方を目指している彼女が事実を知ったらと思うと胸が苦しくなって来る。
「皆様ァ!お待たせいたしました!では試合再開ィィィ!!!!」
そうアナウンスがあった後、試合再開のブザーが鳴らされた。
【グノン】「これで試合に集中出来るな!悪いけど勝たせてもらうよ!」
そう言うとグノンが乗るラスター5は俺のラスター4に向かって、何も武器を持たずに走って突っ込んで来た。
『勿論ガチンコで戦いましょう、ライフルはいいのですか?』
【グノン】「君が素手なら俺も素手でやろうじゃないか!まぁ俺は元々インファイターだから問題無いさ!」
ラスター5はボクシングの様な構えとステップをし始めると、俺に向かってシュッ!シュッ!と左ジャブを放ってきた。
近接戦で無駄に足技やタックルを使って来ない所は俺を警戒した立ち回りだな、俺は左ジャブを右手でパリィしたりステップを踏んで回避し、左手で相手の右ストレートを警戒する様にガードをする。
「おぉっと!グノン選手の猛攻がアイリス選手を襲うぞォ!アイリス選手は防戦一方だァ!」
まぁアナウンスが言う様に防戦一方なのだが、正直言うとグノンの左ジャブを掴んで左腕部を捻じ切ったり、ジャブに蹴りのカウンターを合わせて頭部を吹き飛ばすことも可能なのだが……俺はある"技"を試したいのでそのタイミングを狙っているのだ。
【グノン】「俺の左ジャブを全て見切るなんて流石だな!だが"機体差"と言う物がある、このまま俺のラスター5と同様の動きをしたら君のラスター4にガタが来るぞ!」
確かにこれはゲームじゃない、性能的に格上なラスター5の動きに無理やり付いて行っては、何時か俺のラスター4がオイル漏れの機能不全を起こしてやられちゃうだろうよ。
そろそろ罠を張るとしよう――
ラスター5が俺の頭部に左ジャブを放つ
ゴッ!
左ジャブが俺の顔面を捉え、衝撃でラスター4はガクンと膝をついた。
【グノン】「やはりガタが来たか、捉えたよ!終わらせてもらう!」
膝を付いた俺の頭部にラスター5の容赦ない渾身の右ストレートが打ち下ろされた……が――
ガッ!
放たれた右ストレートがラスター4の顔面を捉える前に、ラスター4がグイッと伸ばした右手が掌底打ちの様な形でラスター5の顔面を捉え、右ストレートはラスター4の頭部に届かず空を切った。
【グノン】「カウンター!?いや、振りかぶりの無い苦し紛れのつっかえ棒だ!バックステップして頭部を掴ませない、今度は振りぬいてやる!」
『いえ、確実に入りましたよ、貴方の機体が自重をかけた渾身の一撃の衝撃は全てそちらにお返ししました』
【グノン】「一体何を!?」
ドンッ!
ラスター5がバックステップをした瞬間―― ラスター5の頭部がバラバラに弾け飛んだ。
【グノン】「こ、これは……ヘカテーの技!?馬鹿な!ラスター4にはそんな機能は無いはずだ!」
『貴方の左ジャブは芯に捉えてません、首関節で受流すボクシング技"スリッピングアウェー"で食らったように見せかけ、振り下ろしの右ストレートを誘発させた所をお互いの運動モーメントを利用した衝撃を頭部に与えました』
「と、頭部破壊!試合終了ゥゥゥ!勝者、アイリス選手!決勝進出!お互い素早い動きでとてもレベルが高い試合だったぞォォォ!!!!」
観客の割れんばかりの歓声や拍手が闘技場を覆う。
『これが、"寸勁"です――』
相手の力を利用しなきゃならない時点で不完全とも呼べるが……まぁこれで良しとしよう。
呆然と立ち尽くす頭部の無いラスター5に一礼をし、闘技場を後にするのであった。
◆◇◆ 機体紹介のコーナー ◇◆◇
惑星同盟軍採用 新型量産機 【ラスター5】
全長 8.5m
重量 8.0t
推力 230000kg
装甲材質 オリハルコン
主動力 ハーツドライブ
マロタリ社が開発した新型軍用G・S
レベリオ帝国の量産機ブラックポーンに対抗する為に開発された。
性能ではブラックポーンを超えたが、コストをかけ過ぎた為に生産効率が悪く、同盟軍の中でもあまり支給する事が出来ずに、将官クラスや特殊部隊しか搭乗することが出来ていないのが現状である。
主な武装は レーザーガン・レーザーライフル
オリハルコン電震ナイフ・オリハルコンブレード
オリハルコン弾オートライフル
オリハルコン弾ピストル
オリハルコン弾ショットガン
さらには新型兵器のバーストガンやビームバズーカなどの武器も換装可能である。
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