030 コロシアム大会(前編)
大会前夜――
俺とケレスはショッピングモールで3人の覆面男に襲撃された事をテレイアに報告した。
「う~ん、マロタリ社がねぇ……でもこちらもラスター4に搭乗するのに、アイリスを襲う理由があるのかしら?」
そう言ったテレイアにケレスが手に持ったタブレット画面を見せる。
「ですがお嬢様、大会の優勝候補の"グノン"はマロタリ社"コロシアムファイター部"とプロ契約を結んでる選手です」
グノン、あのラスター5に乗っていた選手か。
「なるほど、一応は狙う理由はあるってことね……この件は私とケレスで調査してみるわ、アイリスは気にせず大会でベストを尽くしてね!」
うーん……ここまで大規模な大会になると、ドロドロとした裏の争いも起きるものなんだなぁ……。
まぁ俺に出来ることはG・Sに乗って戦う事だけだから、その辺は2人に任せるとしよう。
俺はホテルの自室へと戻ると、うなじのプラグに充電コードを差し込み省電力モードで待機するのであった――
………………
…………
……
大会当日――
いよいよG・Sバトルコロシアム本大会、貸切バスでホテルから会場へと向かい外を見ると、会場へと続く人の列が見える。
それだけこの大会は注目を集めているってことか。
俺とベスタだけがスタッフエリアへと向かい、他のクルーは観客席へと向かった。
スタッフエリアでヘカテーとコイウスさんを見かけたので挨拶をする。
『どうも、コイウスさん、ヘカテー』
「お?虹の剣の所のアイリスか!今日はよろしくな!」
「アイリス……同じ正義でも対戦相手になったら手加減しないのだ!」
『フフ……それは楽しみにしてますよヘカテー』
やっぱ悪くないな……殺伐とした実戦ではなく、スポーツ感溢れる試合前のやり取りってのも。
「選手の皆さん!これよりトーナメント表を発表します、特設モニタをご覧ください!」
大会の運営スタッフが選手達に向けてアナウンスをする。
選手達はスタッフエリアに置かれた大きなモニタに集まると、映し出されたトーナメント表を確認した。
俺はAグループの、第一試合……一番最初の試合じゃないか!
「アイリスはAグループなのだ、私はBグループのシードだから、戦うのは決勝になるのだなぁ」
『では決勝で会いましょう、ヘカテー』
まるでスポーツ漫画の様な会話をして俺は自陣営に戻り、G・Sに乗って準備を始めた。
漫画とかでは"決勝で会おう!"って言うと実現しないんだよなぁ~……そんなフラグを成立させない様に頑張らないとな
「第一試合のアイリス選手!東ゲートでの待機をお願いします、開会式終了後直ぐに試合を開始いたします!」
忙しないな……まぁ仕方ない、俺はラスター4で闘技場ゲート前へと向かう。
ゲート前で待機していると、会場内のアナウンス声が聞こえて来る。
「さぁ!いよいよ始まる、年に1度のG・Sコロシアムチャンピオンを決める大会が来たぞォォォ!!!!」
観客達の大歓声も地鳴りの様に聞こえて来た。
「今日はスペシャルゲストが来ているぞォ!なんとォ!惑星同盟軍最強G・Sパイロットォ……帝国側から人食いと恐れられている"ナバイ"大佐だァァァ!!!!」
惑星同盟最強か……以前聞いたことがある"黒檀の女王"とは違う猛者みたいだが、"ナバイ"……名前を覚えておこう。
ナバイの紹介があってから観客の声もひと際大きくなった気がする。
それだけ国民からも認知された存在と言う事なのだろう。
「それでは早速試合を始めたいと思いますゥゥゥ!Aブロック1回戦!虹の剣アイリス対、南陸大会優勝者"ガルーレ"選手、入場ゥ!!!!」
闘技場東側のゲートが開きだすと同時に、奥に見える西側のゲートも開くのが確認出来た。
《セーフティ解除》
手足の自由が効く様になり、俺は自機を操縦して開始位置へと向かった。
相手のガルーレって人もラスター4か、手にはアサルトライフルを持っている。
対する俺の武装は……何も無い、素手だ――
「それではァ!第一回戦!試合開始ィィィィ!!!!」
開始のブザーと共に俺は相手機に向かって直線に走り出す。
相手機は俺に向かってアサルトライフルを構えると、フルオート射撃でアマルガム弾を放ってきた。
俺は相手に向かって走りながらボーリングを投げる様な下投げの態勢で土の地面に右手を突っ込むと、そのまま手の平で土を大きくかき出し、飛んできたアマルガムの弾幕に土を降り掛けた。
半液体金属であるアマルガム弾の利点である吸着性だが、土や砂による干渉も増えてしまうのが弱点である。
土をぶっかけられた弾幕は自機へと直撃しするが吸着性や衝撃が弱まり、もはやただのゴム模擬弾の様な破壊力しか無く、虚しくカンカンと弾かれた。
「おぉっと!アイリス選手、前に向かって土をぶっかけたぞぉ!?G・Sバトルは猫の粗相処理や子供の喧嘩じゃないんだぞォ!」
会場に「アハハハ!」と笑いが立ち込める。
うぅ……戦術なのに
俺は気を取り直して全速力で敵機へと近づく、土かけで不意を突かれていた相手も再びアサルトを構えて俺に狙いを定めようとしている。
また土かけて笑われるのもなんか嫌だな……
俺は敵のエイムが定まらない様に捻りを加えた前方宙返りで一気に敵に近づくと、そのままの動きの勢いで"寸勁"を放とうと敵機の顔面へと拳を突き出した状態で振りぬいた。
しかし、運動モーメントを拳に集約することに失敗したのか、敵機の頭部をぐりっと押し込むだけで拳は横に逸れて空を切り、ダメージを与える事は出来なかった。
うーん……難しいもんだなぁ
俺はそのまま敵機頭部に腕を回して抱え込み、格闘技の"フロントチョーク"の姿勢に持ち込むと体重移動とテコの原理で敵機の頭部を引きちぎった。
「おぉっと!ガルーレ機の頭部が破壊された!試合終了ゥ!勝者!虹の剣アイリス選手ゥゥゥ!!!!」
ほっ……、笑い声から歓声になって良かった。
やはり専用の機能が無ければ寸勁みたいな技は無理なのだろうか……でも俺がたまにやるパリィは"合気道"の技に近い物があるしそれを応用して利用すればもしくは――
などとブツブツと呟きながら闘技場を後にする。
あっ!しまった!
相手機の頭部を持って来てしまった……いかんな、考え込み過ぎて礼節を疎かにするのは、それに"ナバイ"の顔を見とけばよかった。
俺は反省をしながらスタッフルームへと戻るのであった――。
………………
…………
……
大会は1回戦、2回戦、3回戦と進み、俺は全ての試合を素手のみで勝利を収めた。
他の優勝候補であるヘカテーやグノンも順当に勝ち進んでいる様である。
そしていよいよAブロックの最後、大会の準決勝を控える事となり、相手はラスター5に乗る大会優勝候補"グノン"だ。
まだBブロックの準々決勝が行われていて、俺はスタッフエリアの自陣区間で椅子に座り、ベスタが自機の整備をしている様子を眺めながら待機していると
「ジジジ……大会運営からのお知らせです……グノン選手とチームスタッフは運営本部にお越しください……ザ――」
スタッフエリアに点在してあるスピーカーからその様な音声が流れた。
何だろう?選手やスタッフが呼び出されるなんて……。
まぁ今は試合の事に集中するか、あっ……そうだ黒兎
《はいアイリス》
以前黒兎が機体の温度探知をやっていた気がするけど、俺にサーモグラフィ視点にすることが出来るか?
《可能です》
パイロットを傷付けずに戦う試合では、機体内部の人間がどの位置に居るか分かればやり易そうだからな……じゃあ俺の視界をサーマルモードにしてくれ
《了解 サーマルアイに設定します》
おっ!?
俺の視界がまるでプ〇デターの様に、熱を帯びた所は赤く、冷えた場所は青に近い色で表示される様になった。
でもすんごい広角過ぎるよ!会場全域の人の動きが丸見えになって酔ってしまいそうだ……。
少しずつ人間の視力範囲程度の視界に戻そうとしたその時だった。
スタッフルームの一画、"グノン陣営"へとコソコソと入って行く人影を捉えた。
あれ?たしかグノンとスタッフは全員運営本部に呼び出されて居ないはず……あの人達は何をやってるんだ。
人数は5人……2人を見張りに付かせてグノンが乗るラスター5が格納されているトレーラーに入って行き、グノンが使うと思われるアサルトライフルの弾丸を取り替えている。
《あれは"実弾"ですね》
大会では実弾は禁止のはず、なぜグノンのラスター5に?
マロタリ社がやっている事なのか?分からん、何のメリットが?もし試合中にバレたら失格になるし、企業イメージとしても最悪になるんじゃ?
そんな疑問を抱きながら俺はその工作をした5人をサーマルアイで動きを追う。
するとグノンとそのスタッフと思われる人達が何かを言いながら自陣に戻る姿を捉え、俺は話している内容に聞き耳を立てた。
「いったい何だったんだあの放送は!」
「運営側はそんな放送はしてない、だとよ!」
「まったくいい迷惑だぜ!」
そんな事を話しながら自陣へと戻って行くグノン陣営、そしてアマルガム弾から実弾に変える工作を行った5人はコソコソとグノン陣営から出て何処かへと向かって行った。
俺は椅子から立って、自陣から出るとその5人をサーマルアイと通常視野モードで見失わない様にしながら後を付けた。
するとその5人は"ある選手の陣営である区画"へと向かいそこで作業を始める。
グノン陣営に忍び込んだ時とは違い、堂々と各自の作業を始めた所から、ここがこの5人の本来の陣営であると思われる。
俺はその5人の中のある人物に目が行った。
あそこは"ヘカテーの陣営"
5人の内の1人は"コイウス"さんであった――。




