027 正義のヒーロー
バトルコロシアムの選手である"ヘカテー"の父を名乗る"コイウス"さんについて行く虹の剣一行、コイウスさんは闘技場の裏口にあるスタッフだけが入れる参加者G・S搬入口に向かっている様だ。
柵で囲われたエリアのゲートでコイウスさんは警備員に首にかけていた証明書を見せて何やら話込むと、我々の入場許可も出たのか手招きして呼び寄せる。
「こっちだぁ~こっちぃ!」
柵の中にあるG・S輸送用の大きなトレーラーがある場所へと案内される。
「あ!コイウス親方、社長なのにどこ行ってたんですかぁ~」
トレーラーで作業をしていた作業着の若い男がコイウスに声をかけた。
「たまには観客席で見たかったんだよ!お前らのサポートのお陰で今日も勝てたな!でかしたぜ!」
半開きになったトレーラーのハッチから他にも数人の作業着を着た男達が出て来てコイウスさんの居る所へと向かって来る。
恐らくヒルク1号の整備士をやってるスタッフであろう。
「社長お疲れさまです!」
「おうよ!所でヘカテーはどこに居るんだ?」
「そ、それが……試合が終わってからいつものが……」
「はぁ……またごっこ遊びかぁ」
などと言うコイウスさんと社員と思われる男達の会話を聞いていると、トレーラーの屋根の上に登った小さな影が目に入った。
屋根の上で仁王立ちをしている小学生ぐらいの背丈しかなく、蛙をモチーフにした様なデザインのフルフェイスメットを被った女の子(?)が歌舞伎で見栄を切る様に言葉を発した。
「正義の味方、"ゲコ仮面"参上!!今日も悪をケロっと成敗……なのです!」
「コラ!ヘカテーまたそんな所に乗って遊んで!危ねぇから降りて来やがれ!」
あのベスタよりも小さな女の子がヘカテーなのか……全く"16歳"には見えないな、姿的な意味でも精神的な意味でも子供丸出しだ。
「ヒーローは無敵だから怪我をしないのです!ぬっ!?おじさん、その可憐な乙女達は誰なのです?まさか攫って来たのですか!?」
「人聞きの悪い事抜かすなっ!この人達は傭兵団"虹の剣"だ、お前も聞いたことがあるだろ?」
「ぬっ!?大悪党ムジナ一家を潰したあの虹の剣なのです!?い、今降りるのです!」
トレーラーの屋根から颯爽と……では無く、びくびくしながらそろーりと降りて来るヘカテー、怖いなら登らなきゃいいのに
「同じ"正義のヒーロー"として会えて光栄なのです!」
自分達の前まで来て敬礼をするヘカテーにテレイアは
「私達は正義でもヒーローでも無いわ!"仕事"と"趣味"でやってるの!」
「しゅ……趣味!?悪を殲滅する正義の義賊では無いのです!?」
「知らないわよ!アナタ正義を名乗る前に人前ではそのヘルメットを取って顔を見せなさい!礼儀をちゃんとしなさい!」
そう言うとテレイアはヘカテーを羽交い絞めにし、ヘルメットを強引に取った。
「んあぁ!?や、やめるのだー!あっ……あぁ!」
ヘルメットの中から露になった姿は、黒髪でショートツインテールで眠たそうな半目をし、褐色の肌をしたやはり小学生ぐらいの子供にしか見えない少女であった。
「ヘルメットが無いと……は、恥ずかしいのだ……」
顔を両手で隠し、メットを被ってた時の勢いが無くなって小声になるヘカテー
「なにこの可愛い生き物!絶対持って帰りたいわ!」
「んぁ~やめるのだー!」
ヘカテーの小さな体を抱き上げてじゃれるテレイアであった。
「やっぱ歳が近ぇ分、直ぐ仲良くなるなぁ~、じゃあそろそろ飯に行こうぜ!」
コイウスさんはそう言うと、ヘカテーと虹の剣一行を自身が持つスタッフ用の移動バスに案内すると(他のスタッフはG・S用トレーラーで事務所に戻るらしい)自ら運転してコロシアムの会場から街の方へと走り出した――
バスは暫く街の中を走行し、あまり建物が密集していない区間に入ると、そこにあった"中華料理店風"な飲食店でバスを止め、その店へと我々を案内した。
店に入ると既に予約済みだったのか、広めの個室へと案内され円卓のテーブルで食事会が始まった。
「オリジナルG・Sで同盟軍や帝国のメジャーなメーカーとやり合うのは大変な事じゃないですか?」
テレイアがコイウスさんに尋ねる。
テレイア団長はちゃんと敬語が使えたんだ……。
「おうよ!同盟は大企業"マロタリ社"の"ラスターシリーズ"帝国は"ダンプティン社"の"ピースシリーズ"が占めているからな!俺っちみてぇな小さな会社が軍や企業に売り込むのは難しいぜ」
ピースシリーズとはブラックポーンなどの事であろう。
「あの零距離から衝撃を出す技術を大企業に売り込むことは出来ないの?」
「"スネークメント"か、俺っちはG・S業界のニ強時代を変えたいと思ってるからなぁ、簡単に独自技術をくれてはやれねぇぜ!」
「じゃが手首にパイルバンカーでも装備すれば、零距離打撃を可能に出来るんじゃないかのう?」
ベスタ……意外と容赦が無い
「それは違うぞ丸眼鏡の嬢ちゃん!ほら……装備することによる稼働領域や重量が増えるし……えぇい!ロマンだ!ロマンってものがあるんだよぉ!」
そこはよく分かります、コイウスさん
「コロシアムで優勝してもG・S購入案件が来ない物なのかしら?」
「それだけマロタリ社の影響力がG・S業界に染み渡っちまってるのさ……実際俺っちのG・Sが採用間近だった警備会社がマロタリ社からの圧力があったらしくな、結局ダメになっちまったよ!」
「なにそれ!酷いわね!……やっぱロクな企業じゃ無いじゃない」
「おや、お嬢ちゃんもマロタリ社が嫌いなのかい?」
「いや、なんでも……」
何やらマロタリ社について関りのある発言があったテレイアだったが、話をはぐらかした。
「まぁコロシアムで何度も優勝して、俺っちのG・Sのが優れてることを証明するしか無いわなぁ」
「名を広めたいなら私から提案があるんですけど!」
「なんだいお嬢ちゃん?」
「うちでヒルク1号とヘカテーを入団させてみるのはどうかしら?」
「「え!?」」
驚くコイウスさんとヘカテー
「わ、私が……正義の軍団虹の剣にぃ!?ど、どうするのだ……カッコイイ衣装とか異名を考えなきゃいけないのだ!」
割とノリノリで食いついたヘカテーだが、コイウスさんは
「おいおい!うちで唯一まともに戦えるG・Sパイロットの娘を、しかも危ねぇ実戦の場に立たせるのは親としてちょっと許可出来ないぜ」
「でも戦闘G・Sは実戦で使うのよ、実戦で戦わずして世に浸透したメジャーなG・Sと肩を並べる知名度と信頼を得ることが出来るのかしら?」
コイウスさんの心情的な正論に対し、実務的な正論を放つテレイア、その言葉にコイウスさんは「ぐぬぬ……」と腕を組み、暫く考えた後で答えた。
「確かに……惑星コロシアムでの模擬戦だけでは、実戦配備を考える宇宙の警備企業や傭兵団には宣伝効果が薄いだろうぜ、宇宙の実戦でアピールすることが出来たら、大企業の影響が少ない"アルクトス国"からの案件が来るかも知れねぇしな……」
「だったらうちで……」
「いいや!兄貴の忘れ形見であるヘカテーを危険な目に合わせて何かあったら、俺っちは兄貴へ顔向けが出来なくなるぜ」
"忘れ形見"か……少なくともヘカテーの父親は亡くなっていて、コイウスさんはヘカテーの実の父親では無いようだ。
「おじさん、私は大丈夫なのだ、正義は悪に倒されることは無いのだ!」
「そう言う問題じゃねぇだろ……う~ん」
あと一歩の所だが決め手に欠けるヘカテーのスカウト、テレイアは新たな提案を出して説得を始めた。
「私達が簡単にはやられない強さがあると証明することが出来たら?」
「証明?いってぇどうやって?」
「そこのアイリスがバトルコロシアムで優勝したらヘカテーをうちに入れる!もし負けたらヘカテーを諦め、尚且つうちで使うG・Sを全て"ヒルク"にして、コイウスさんの会社を宣伝するわ!」
またとんでもない事を言い始めたテレイア、だが俺は何と無くこういう流れになる予感はしていた。
「おいおい、いくらプロだからってコロシアムをナメ過ぎじゃねぇか?俺っちとしてはオイシイ条件だがなぁ」
「大丈夫よ!うちのアイリスは最強だからね!」
腕を組んで暫く考えるコイウスさんは「ふぅ」と一息付くと
「……分かった、その賭けに乗った!必ず約束は守ってもらうぜ!」
こうして、俺はバトルコロシアムに出場する事になった――
ってか大会来週なのに出場出来るものなのか?などと危惧した思いで居ると……
「俺っちが知り合いの関係者に連絡しとくから、まぁ"虹の剣"が出るって言えば向こうさんも食いついて参加可能になるだろうよ!」
と、言う事なので啖呵を切っておいて出場出来ない様な、間抜けな事態は避けられるであろう。
「まぁ飯も来た事だし、そろそろG・Sだの軍だのの事は忘れて食おうぜ!」
従業員が様々な料理を持って来て、料理を食べながら日常会話などをするコイウスさんと虹の剣のメンバー達――
俺はアンドロイドだから食事は取れない……あの輪の中で1人だけ何も食べないで居ると心配されたり空気を悪くしてしまうんじゃないかと思った俺はさりげなく個室から出ると、店内でどこか時間が潰せそうな場所を探した。
すると、店内にあるトイレへと向かう廊下に小さなベンチを見つけるが、そのベンチでは既に同じく抜け出したヘカテーが座っていて、手に持ったタブレット端末で何かを見ている。
「ぬっ!? 貴方は虹の剣の人!」
こちらに気づいたヘカテー
『私はアイリスです、ヘカテーは何を見てるのですか?』
「私の大好きなアニメ、"宇宙ヒーロー・2人はゲコピョコ"なのです!一緒に見るのです?」
アニメ?どうせ時間を潰そうと思って居たから見てみるか、2人でベンチに座り体を寄せ合って1つのタブレットでのアニメ鑑賞会が始まった。
………………
…………
……
アニメの内容はクールなお嬢様"ピョコ"と熱血スポーツ少女キャラな"ゲコ"が、素性を隠して複座型の超大型G・Sに乗り込んで悪の宇宙人軍団"スラグ"と戦う、日曜の朝でも放送出来そうな分かりやすい勧善懲悪なアニメであった。
「やっぱゲコピョコは面白いのです!私もこんな正義のヒーローになれたらいいのですよ!」
『ヘカテーが持ち歩いてるヘルメットはゲコが付けてる物ですね、ゲコが好きなのですか?』
「そうなのです!私は近接戦が好きだからコンビでの近接担当なゲコ派なのですよ!でもピョコも好きなのですよ!」
などと、アニメを見終えてから2人で話をしていると――
「アイリス~!そろそろ帰るわよ~!」
テレイアと他のメンバー達が個室から出て来た。
『らしいので、そろそろ私は失礼します』
「そうなのか~……もっと一緒にゲコピョコに付いて語り合いたかったのに、仕方ないのだなぁ~」
『あ、そうだヘカテー』
「ん?なんなのだー?」
『どうやら私もコロシアムの大会に出るみたいなのですが……もし対戦相手になった時は全力で戦ってくれますか?』
「当たり前なのだ!虹の剣入団は少し興味あるけど……ズルせずに正々堂々と全力で戦うことが正義であるのだ!ゲコもきっとそうするのだ!」
『それを聞いて安心しました、対戦相手になっても"フェア"に戦いましょう!』
この世界でのG・Sバトル大会、しかも久しく忘れていた"挑戦者"としての出場か……
俺はまるでEスポーツ大会に臨む前の様なワクワクとした気持ちでホテルへと戻ったのであった――。




