026 G・Sバトルコロシアム
惑星テレラのホテルで1泊した次の日――
虹の剣一行はバスである場所へと向かっていた。
G・S同士が観客の前で戦い、雌雄を決する円形闘技場"G・Sバトルコロシアム"の会場だ。
バスに乗って移動すること30分、視界に巨大なドーム状の建物が入って来た。
俺が元の世界で見た野球場のドームや、Eスポーツ世界大会が行われた競技場の3倍はあろうかという大きさである。
バスから降りて会場へと向かうと、多くの人達がドームに集まっている。
どうやらこの世界ではメジャーな競技であるとこが窺い知れた。
虹の剣一行はチケットを買って会場の観客席へと入って行く、会場内は数多くの観客達の熱気に溢れており、中には家族連れも見られる。
観客席を覆う分厚い防弾と思われるガラスを挟んで、内部には大きな硬い土で出来た平地があり、そこでG・Sが戦うのだろう。
だがいくら防弾ガラスとは言え、この程度のガラスではビームピストルでもぶち抜けそうだが……大丈夫なんだろうか?
「今日はエキシビジョンマッチらしいわね!本大会でも無いのにこんなに人が集まるなんて……相当みんな暇なのね!」
見に来ているお客さんに失礼な事を言う団長を無視してG・Sのコロシアムとはどんなものか見ることにするか……。
エキシビジョンマッチが始まる時間となり、会場内に軽快な口調のアナウンスが流れる。
「会場のみなさま~!今日のG・Sバトルコロシアムに集まって頂きありがとうぅぅぅぅ!!!!」
会場の照明が消され、闘技場方面にスポットライトが当てられた。
「今日は来週行われる第29回G・Sコロシアム大会に向けてのエキシビジョンマッチを開催いたしますぅぅぅ!」
観客席からは歓声が巻き起こった。
「まずは大会優勝候補の1人、新型G・S"ラスター5"を操るスピードスター!"グノン"選手ぅぅぅ!」
「対するは地方大会チャンピオン!"ラスター4"を操る弾幕ウォール!"サーディン"選手ぅぅぅ!」
「両選手!入場ぅぅぅぅ!!!!」
軽快な音楽が鳴り、スポットライトが闘技場の東西にある観音開きの扉へと当てられると、ゆっくりと開かれた扉から2機のG・Sがズンズンと足音を立てながら出て来た。
国立競技場のグラウンドより広そうな闘技場の東西で見つめ合う2機のG・S、音楽が止まり照明も闘技場全域に当たる様になると、試合開始のブザーが鳴らされた。
プオォォォォォォォォォォン!!!!
「試合開始ぃ!!!!」
試合開始と共に2機のG・Sは二足歩行で走り、対戦相手に接敵する。
どうやらメインスラスターでの飛行移動や、足裏スラスターでのホバリング移動は禁止されている様だ。
地方チャンプのラスター4が手に持ったアサルトライフルをグノンが乗るラスター5に向けて構え、引金を引いた。
ドガガガガガガ!
連続音と共に放たれたアサルトライフルの弾丸、しかしよく見ると弾は半分溶けかかった"アマルガム"か……なるほど、これなら観客席を覆う防弾ガラスをぶち破れないな。
放たれた連続弾だったが、それを横跳びや前転で回避するラスター5だが、スラスターが制限された動きでは全て避け切れずに手に装備された大きな盾で数発の弾をガードした。
盾に直撃したアマルガム弾は盾を貫通しなかったが、盾にへばりついた液体金属が固まり始める。
あの弾は装甲に直接ダメージを与えることは出来ないが、機体に張り付けて動きを鈍くしたり、装甲関節部に引っ付けて動きを止めることも出来るかもしれないな。
"死合"ではなく安全性を考えた"試合"とする為のアマルガム弾か、よく考えられている。
だが、こうなると決着は近接戦がメインとなるだろう、見た所ブレードやナイフを装備してないからそれらも禁止なのだろう。
回避と盾ガードをしつつ徐々に相手との距離を詰めるラスター5、そして相手のラスター4との距離が10mほどになると盾を相手に向かってぶん投げた。
「おぉっと!防戦一方と思われたグノン選手!自らの盾を投げつけて一気に距離を詰めたぁぁぁぁ!!!!」
盾をぶつけられ、一瞬怯んだラスター4に駆け寄ってタックルををかましたラスター5、そのままラスター4を押し倒すと馬乗りになり、グラウンドポジションを取ると相手の顔面をガンガンと殴り始めた。
下のラスター4は必死に顔面をガードしたり、上のラスター5に抱き着いて打撃を防ごうとするが、ラスター5のパワー差とガードの隙間から正確に当てられるパンチを防ぐことが出来ず、ついにはラスター4の頭部がバラバラに破壊された。
「頭部破壊ノックダウン!試合終了ぅぅぅ!!勝者、グノン選手ぅぅぅ!!!!」
試合終了のブザーが鳴りグノンが乗るラスター5が観客席に手を挙げると、割れんばかりの歓声が沸き起こる。
なるほど、頭部を破壊すれば決着なのか……まぁ他にも行動不能にすれば勝利というルールもありそうだが、とりあえずは大体のことは分かった。
観客に手を振りながら闘技場を後にするラスター5と、クレーン車でトラックに載せられ運ばれる行動不能となったラスター4であった。
「興奮冷めやらぬままに次の試合に行きますぅぅぅ!もう1人の大会優勝候補、前大会チャンピオン!まだ16歳の可憐な少女!小さな町工場で作られたG・S"ヒルク1号"を操る"ヘカテー"選手ゥゥゥ!」
町工場?惑星や帝国のメジャー系列なG・Sじゃないのか……まぁコハクさんもオリジナルG・Sを造っていたから不思議ではないか。
「対するは第三コロニーチャンピオン!ラスター4を操る"ラウト"選手ゥ!」
「両選手!入場ぅぅぅぅ!!!!」
先ほどと同じように闘技場の東西にあるハッチが開き、ラウトが乗るラスター4とヘカテーが乗るヒルク1号とやらが出て来た。
ヒルク1号はエメラルドグリーン色で少し丸みを帯びたボディをしていて、特に目を引くのは手足がまるで串団子の様な丸い関節であった。
「試合開始ぃぃぃぃ!!!!」
試合開始のブザーが鳴ると共に短距離走の様な姿勢で相手に向かって走り出したヒルク1号、相手のラスター4は先端に大きな分銅が付いた鎖をブンブンと振り回してヒルク1号にぶん投げた。
ヒルク1号は軽く上体を逸らして分銅を回避するが、すかさずラスター4は手首を内側に引いて鎖にしなりを作って鞭の様に鎖による打撃を与えようとする。
だが、完全に鎖が胸部を捉えたかの様に思えたが、ヒルク1号は身体を"逆U字曲線"の様にグニャリと捻って回避した。
『すごい……あんな柔らかい動きが出来るG・Sがあるのか!』
思わず声に出して呟くと……。
「ハハハッ!凄ぇだろお嬢ちゃん、俺っちが造ったヒルク1号は!」
『え!?』
振り返ると後ろの席には40代ぐらいのラグビー選手の様な身体付きがいい色黒の中年男性が、ウンウンと頷きながら語っていた。
『おじさんがヒルクを開発したんですか?町工場の?』
「おうよ!まぁとりあえず試合を見ようぜ!」
風貌も喋り方もいかにも"下町の職人"って感じの人だな、まぁとりあえず試合を見るとしよう。
ラスター4の鎖攻撃をウネウネとコミカルな動きとアクロバティックな側転で躱しながら一気に距離を詰めるヒルク1号、素手の格闘戦の間合いまで詰められるとラスター4は手に持った鎖を放してヒルク1号にタックルをする姿勢を取った。
『ラスター4はいい判断です』
「それはどうかなぁ~お嬢ちゃん」
俺の呟きに後ろに座っているヒルクを造ったと言うおじさんが返した。
タックルをしに来たラスター4に対し自らも姿勢、重心を下げて対応するヒルク1号、お互いに身体がぶつかり合い相撲の"がっぷり四つ"を組んだ体制となる。
俺はパワーと重心操作が巧い方が投げ飛ばして終わりと予想していたが、ヒルク1号が相手の腰に当てていた右手を徐々に相手頭部に持って行く
『喉輪攻めで決めるつもりかな?でもあれでは腰が乗っていない』
「その通りだお嬢ちゃん、出力でもラスター4と同程度のヒルクでは、力押しで倒すことも出来ないだろうよ……だがな!」
ヒルク1号はラスター4の頭部に右の手のひらを当てると、ヒルクの右の肩から手首にかけての関節が妙な動きを始めた。
それはまるで蛇が前に進むようなウネウネとした動きを素早くやっている。
そして、その動きをした直後――
ドンッ!
という破裂音と共にラスター4の頭部がバラバラに吹き飛んだ。
「頭部破壊ノックダウン!試合終了ぅぅぅ!!!!勝者、ヘカテー選手ぅぅぅ!!!!」
観客達の割れんばかりの歓声の中、俺はヒルク1号の決め手の分析をする。
『0距離からG・S身体の動きだけで衝撃を発生させたのか、しかも片手だけで……"寸勁"いや、"零勁"をG・Sでやったんだ』
中国拳法にある拳や平手を相手にくっつけたまま衝撃を与える零勁、G・Sでそんな技を見ることが出来たなんて、胸が躍るじゃないか。
「一目見ただけで理屈を理解するとは……お嬢ちゃん只者じゃないねぇ!すんだのれいだのはよく分からんが」
俺が呟いた分析結果に後ろのおじさんが反応した。
「あれこそ俺っちが開発したユニバーサルジョイントで遠心力を利用した回転エネルギーを衝撃へと変える技術……その名も"スネークメント"だぜ!!」
また新手のこの世界特有システムか。
「俺っちの名前は"コイウス"、お嬢ちゃんはG・S乗りかい?」
『えっ!えっと……お、私は』
コイウスと名乗るおじさんが急に距離を縮めて来たので、俺はオドオドとし出すと。
「この子はアイリスよ!私がやってる傭兵団、虹の剣のエースパイロットなんだから!」
2人の会話にテレイアが割って入ってくれた。
「傭兵団、虹の剣っていうと、悪名高いムジナファミリーを潰して最近話題になったっていうアレかい!?ひゃあ~たまげたなぁ!!!!」
虹の剣も有名になったもんだなぁ……取材を受けた"ハッタさん"の記事も関係あるのかも知れないな
手を腰に当てて「フフン」と満足気にするテレイアにコイウスさんは
「虹の剣のお嬢さん達、コロシアムの試合はもう終わりだし、もし良かったら俺っちと姪っ子……いや今は娘のヘカテーと一緒に飯でも食いに行かねぇか?」
『え?』
突然の提案に驚く俺とテレイア
「娘はG・Sの事とアニメの事しか興味無くてよぉ……何時も一人でふさぎ込んでたり、変な独り言を言いながら走り回ったりしてよぉ、もしかしたらお嬢ちゃんがいい話し相手になるんじゃねぇかとなぁ、俺っちが奢るから、なっ!なっ?」
ヘカテーを求めている虹の剣にとって願っても無い提案、もちろんテレイアは即決で承諾する。
俺は都合よく事が運びすぎてるなぁ……と思いつつ、テレイアはそういう"幸運の元"に居るのだと勝手に納得して、ヘカテーの父親を名乗るコイウスさんの後をついて行くのであった――。




