025 惑星テレラへ
惑星を不法占拠していた"コハク"を専属の開発者にしてから3週間が経った――
改めて虹の剣の基地となったこの小惑星は団長が"セレーネ"と名付け、この3週間、基地にする為の改修工事を俺とクレインがG・Sを使って作業をしたり、コハクが用意した自動操縦の作業用ロボが行った。
元々"惑星セレーネ"にはコハクが勝手に研究基地施設を作っていたので、そこに追加の居住施設と母艦の格納施設をプレハブ工法で簡単に組み立てただけだから、そんなには難しい工事では無かった。
コハクとベスタは内部の細かい作業を、コリンとカイリは掃除、雑用をテレイアとケレスはこの惑星を基地にするにあたっての申請などの事務作業を行っていた。
一応、惑星同盟領となるので同盟サイドに住居届や、惑星所有税、セーフロードやその他諸々のデータ申請を送らないといけないらしく、ほぼ徹夜でデータ入力をしていたテレイアとケレスは大変だったろう。
そして今日――
「我が虹の剣の基地が完成したわ!……まぁとりあえず形だけだけどね!」
基地に作られた会議室に集められたクルーに向けて、目にクマを作ったテレイアが言い放った。
「そして前々から話してた"惑星テレラ"への入港許可が得られたの!早速休養も兼ねて遊びに行きましょう!」
寝不足でおかしくなっているのか、目的のG・Sパイロットを探すことは頭からすっぽ抜けてるテレイアであった。
コハクは基地で研究開発や管理の役目があるので、コハク以外のクルーが母艦に乗って惑星テレラに向けて出発する。
「テレラに付くまでは8時間……私とケレスは仮眠取るから、何かあったら起こしてね!航路はセーフロードだから大丈夫でしょうけど」
そう言うとテレイアとケレスはフラフラとブリッジから自室へと戻って行った。
お疲れ様、ゆっくり休んでください……。
俺は何が起こるか分からないから、一応カイリ、コリンと共にブリッジで待機する。
そして、惑星セレーネから出発してから8時間後――
遂に地球によく似た惑星、テレラへと上陸することになった母艦、テレイアとケレスも起きて来て、ブリッジで指示を出す。
「コリン、大気圏姿勢制御システムを!みんなはじっと座っていてね!」
「了解!」
母艦が惑星に向かって落下して行くと同時に、船の周りが高熱で包まれ、ガタガタと揺れ出した。
普段G・Sでバカみたいなスピードを出して戦っているはずの俺だが、何故か緊張感が沸いて姿勢をピンと伸ばしながら椅子にしがみついていた。
「大気圏突破しました」
「ふぅ……コリン、逆推力噴射開始!重力制御システムを起動して、後はナビに従って航路を進んでね」
俺は椅子から立ち上がり、ゆっくりとブリッジにある窓から外を眺めた。
『わぁ……!!』
俺は感動して思わず声を上げてしまった――
目の前に見えるのは美しい青い海と、様々に色づいた景色……数カ月もの間、ほとんど色の無い宇宙と人工的な照明色しか見て来てなかったから、とても新鮮に見えた。
家で籠ってゲームばかりしていた俺にこんな思いが沸き上がるなんて……
当たり前に見える景色が当たり前に見えなくなり、ずっと当たり前であったものと再び出会った時はこんなにも愛おしい気持ちになる。
そんな感傷に浸りながら、俺は母艦が空港へと着陸するまで、まるで電車で外の景色を眺めている子供の様に外を見つめていたのであった――。
小型、中型、大型の宇宙船が数多く離発着をしている巨大な空港へと着陸した母艦
停泊すると入国審査員が艦内に入り色々と手続きを終えると、星テレラの大地へと降り立つ虹の剣一行、久々の天然光と地球と同程度の重力の感覚を味わいながらテレイアの後をついて行く。
途中、俺の少し後ろを歩いていたクレインが
「本場の重力は凄いわね……胸が重いわ……重いわ……」
と小さく呟く言葉にドキッとする。
「アイリス……少し持って頂戴……おっぱい持って……」
『えっ!それは……数日もすれば慣れるので頑張りましょう』
と適当に話を流す俺であった。
テレイアは空港近くにある広い芝生と噴水があるだけのシンプルな公園に付くと
「ホテルにまで行くハイヤーが到着するまでここで休んでて頂戴!」
と言うことなので、送迎車が来るまでこの公園で時間を潰すことになった。
テレイアとケレスとベスタとクレインは噴水にあるベンチに座って休んでいて、コリンとカイリは芝生を走り回って遊んでいる。
この手の待ち時間が苦手な俺は公園をウロウロと散歩をしている。
何か雑誌的なモノが欲しい……と、辺りを見渡すと丁度公園内にキオスクがあったので覗いて見ると、何故か俺は雑誌では無くバレーボールサイズのゴムボールを手に取った。
「お嬢ちゃん、300senだよ……」
ボールを持っただけでキオスク店員のおばさんに販促されてしまったので、俺は思わず『あっ、はい』と言って反射的に買ってしまった……。
仕方なくこのピンク色のゴムボールで時間を潰そうと、芝生に行ってポーンと空に向かって投げ始める。
宇宙に居た時よりも素早く落下して、バイーンと跳ねる様が何だか楽しい気分になった。
昔聞いたことある話だが、宇宙飛行士が地球に帰った時にテーブルから落下したペンの姿が新鮮に思え、何度も放り投げて落して周りからドン引きされたらしいが……。
今、俺はその宇宙飛行士の気持ちが分かるぞ!
一人でボールを投げて遊んでいると、コリンとカイリが駆け寄って来た。
「アイリスおねーちゃん何やってるの?」
『ボールを投げてるのです、強い重力が楽しくて』
「私もやりたーい」「ぼくもー!」
『いいですよ~、落したら負けです!とうっ!』
俺はボールを上向きにコリンに投げる。
唐突なバレーボールのトス合戦が始まった。
3人で交互にボールを回してるとテレイアや他のメンバーもやって来て、いつの間にか全員でゴムボールで遊んでいた。
「次はベスタに飛ばすわよ!それっ!」
テレイアがベスタにパスを放ると、ベスタはうまく返せずにゴロゴロとボールが後方に転がってしまう。
「あ゛ぁ~!わしは運動が苦手なんじゃよぉ~」
他の皆が微笑ましく笑う。
黒兎!
《はい、アイリス》
君に身体の操作を任せるから遊んでごらん
《え?》
まぁまぁいいから、たまにはねっ
《了解》
俺はいつもとは逆の様な感じで、黒兎に身体の自由を譲渡した。
「アイリスに投げるのじゃ!ほれほれ!」
ベスタから投げられたボールをトスした黒兎
「アイリスはボールを放る時、ぴょんぴょん跳ねるのね!」
「かわいいわ……かわいいわ……」
黒兎がボールをトスするときの妙な癖が皆にウケてしまい、皆が俺に向けてパスを出しまくる様になった。
「あははは、アイリスおねーちゃんピョンピョーン!かわいい!」
「アイリスは子供の様に元気じゃのう!」
「……濡れるわ」
俺はなんだか恥ずかしくなってきた……。
黒兎、そろそろ自動操縦を解除してくれ
《……ひ、120秒解除に必要です》
嘘だ!
もしかして黒兎は楽しいのかな?まぁそれならいいか……たまには自由に遊んで、楽しませないとな――
黒兎の意外な一面を発見しつつ、ボール遊びを終え公園の駐車場に到着したハイヤーでホテルへと向かった虹の剣一行であった。
………………
…………
……
ホテルに到着しチェックインを済ませようとするが、ロビーにあった大きな掲示板に貼られたポスターを熱心に見つめるテレイア、俺は何のポスターを見ているのかと覗く……。
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惑星歴〇〇〇〇年〇〇〇〇日・第29回"G・Sコロシアム大会"開催!!
注目は軽量級部門連覇を目指す前大会王者、16歳の少女"ヘカテー選手"
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俺と他の仲間達はこの時点でテレイアが何を言い出すか察した。
「この子をスカウトしに行くわよ!!!!」




