024 ミラージュリング・プリンタシステム
全長40mの巨大G・S"マッハサフェード"が動き出した。
しかし、名前にマッハと付いている割には動きが遅い、だが装甲は厚くビームガンでは同じ位置に連続で閃光を当てないとダメージは通らなそうだ。
黒兎、マッハサフェード機内に生体反応はあるかな?
《ありません、アレも自動操縦と思われます》
じゃあ遠慮することは無いってことか……流石に不法占拠程度で仕留めちゃうのも何だしだからな、ただ一つ気になるのは"ミラージュリングプリンタシステム"だ。
【コハク】「行くデース、マッハサフェード!そんなチッセーG・Sなんてバラバラにしてやるデス!」
マッハサフェードはゆっくりとした動きで、腰に下げていた"ビームバズーカ"を4つの手全てに装備すると自機に向かって撃ちまくり始めた。
『クレインはあの巨大G・Sから、ビームライフルギリギリの射程まで下がってください』
【クレイン】「分かった……怖いわね」
俺は自機に向かって飛んでくるビームライフルの閃光よりもはるかに太いビームバズーカの閃光をスイスイと躱す。
ビームバズーカの閃光は極太だが、その分ビームライフルよりも射程が狭い……だが、それでも威力は抜群で通常サイズのG・Sが直撃したら全身が吹き飛ぶか、溶鋼して跡形も残らないであろう。
しかしマッハサフェードに搭載されている自動操縦AIは単調な行動しか出来ないのか、せっかくの4つある腕に装備された極太閃光も4発同時にロック撃ちというお粗末な物であった。
【コハク】「なんで当たらねぇデスカ―!同盟軍や帝国でもこんなツエェェG・Sはいねぇデスヨー!!!!」
この人はこのハイテクな世界でも天才の部類に入るだろうが、G・S戦闘に関しては素人だな、"ミラージュなんちゃら"とやらを見てみたかったが、これ以上ビームバズーカを乱射されて星を穴だらけにされても困るしそろそろ倒すとするか。
俺はマッハサフェードがビームバズーカを放たれる直前に起きる砲身のチャージングの隙を見計らって、4つ全てのビームバズーカの砲身目がけビーンガンを放った。
ドン!という轟音と主にビームバズーカの砲身が爆発し、ドロリと溶鋼し始める。
【コハク】「シット!!マッハサフェード、バズーカをポイするデス!」
マッハサフェードは4つの手に持った溶けたバズーカを放ろうとするが、4つの内の2つの手は爆破の衝撃に巻き込まれ、操作不能に陥っている様だった。
【コハク】「ピンチこそチャンス!今こそ"ミラージュリングプリンタ"を使うべきデース!」
《洞穴内から小型船の熱源反応、内部に1人の生体反応有り》
洞穴の中から大型トレーラーぐらいのサイズな宇宙船が出て来た。
恐らくあれを操縦しているのは"コハク"であろう。
その小型船の後部には何故か大きな金属で出来た輪っかが付いてる、小型船は一時停止したマッハサフェードに近づく……。
俺は何時でもマッハサフェードを破壊出来たが、ミラージュリングプリンタが何なのか見てみたくなったので暫く傍観することにした。
【コハク】「ミラージュリングプリンタシステム起動ゥ!ポチっとな!」
そうコハクが言うと、小型船に付いている輪っかが光輝きだし、輪っか中央から映写機が出す様な圧縮された閃光をマッハサフェードの故障した手に向かって照射し始める。
するとマッハサフェードは手首から上をパージすると、閃光が当てられた断面部分から徐々に新しい手が再生し始めた!?
さらには手を完全に再生し終えると、今度は溶鋼して完全にロストしたビームバズーカまでも徐々に再生するのであった。
なるほど、"ミラージュリングプリンタ"とは物質を再現する"3Dプリンター"の事か。
しかし、オリハルコンの強度とビームバズーカみたいな精密兵器すら再生出来るなんて……これはとんでもない技術なんじゃないか!?
【コハク】「ヌッフフフ!見ましたかぁ!?これがこの星でしか採取出来ない"アンオブタニウム"・"ミスリル"・"アメノヒスイ"の三物質を微粒子パウダーにすることで可能にした超技術、ミラージュリング・プリンタシステム……デスッ!」
再生機能とは中々厄介な能力だな、早めに決着を付けてしまおう。
などと思って居たが……マッハサフェードは手とビームバズーカの再生が終わった瞬間――
溶けた棒アイスがズルリと棒からはがれ落ちてしまう様に、手とビームバズーカが地面へと落下した。(※この惑星には多少の重力が存在する)
【コハク】「オ゛ォウ!やっぱり外気避けのジェル液のせいでヌルヌルズルズルして関節に接続出来ないネェ!仕方ないデス……ジェル液を拭いて繋げるデスよぉ!」
腰を折り曲げて地面に落ちた手をまるで芋を洗うかの様にゴシゴシと手でふき取るマッハサフェード、なんともシュールで間抜けな光景だ。
だが、拾い上げて自身の手首に再生された手をはめ込もうとした時……その再生された手がボロボロとパウダー状になって崩れ去ってしまった。
【コハク】「あ゛ぁッ!……やっぱり外気に触れたら硬度を失って元の微粒子へと戻ってしまいマース、やはり関節部はオリハルコンを混ぜるべきか……でもオリハルコンを粒子化したら再生は出来ないデス……更なる改善が必要デスネー!」
あぁ……つまりミラージュリングプリンタはまだ未完成なのか、ならばもう終わらせてしまおう。
俺は自機で一気にマッハサフェードに近づくと、ビームガンを構えて両足、両手、主力推進に向けて閃光を放つと、音声通信でクレインに指示した。
『クレイン、敵機の身体中心軸に3撃とも同時に狙撃してください』
【クレイン】「了解、撃つわ……撃つわ……」
俺の攻撃で完全に動きを止められたマッハサフェードの胸部へと、強力な3つのビームライフルの閃光が直撃した――。
胸に大きな穴を開けると、激しい轟音とともにマッハサフェードは地面へと崩れ落ちるのであった。
《マッハサフェード撃墜》
【コハク】「ノオォォォォォォォォ!!ウギャアアアアアアア!!!!」
うるさっ!
とりあえず俺はコハクが乗っている小型船を両手で抱きかかえるように捕まえると、母艦へと連行する。
【コハク】「放すデス!私を捕まえてどうするつもりデスか!さては無理やり貝を合わせるつもりデスネ!」
何言ってんだこの人は……
俺は無視をしてそのまま母艦に帰艦すると、格納庫で小型船を降ろした。
格納庫では既にテレイアとケレスが銃を持って待ち構えており、俺に「それのハッチを開けて」と指示をしてきたので、自機で小型船のドアをこじ開ける。
すると、テレイアは容赦無く空いた入り口にスモークグレネードを数個投げ込む……爆発音がした後、小型船内部が煙まみれになると
「ゴホ!ゴホ!なんすかぁ!?煙いデース!!オエッ!」
という声と共に、小型船の入り口から白衣を着たクセのあるフワフワ金髪ロングヘア―のすらっとしてモデルの様な体系をした女性が涙目で出て来た。
この人が"コハク"か。
すかさずケレスが後ろ手に手錠をかけてねじ伏せた。
「ウギュッ!」
と呻くコハクにテレイアが引導を渡す言葉を浴びせる。
「この不法占拠ポンコツ科学者め!不動産屋か同盟軍に引き渡してやるわ!」
「うわああぁぁぁぁん!あの星を最大限に活用できるのは私だけなのにィ!」
「あんな使えない"3Dプリンタ"作って何が活用なのよ!」
「チクショォォ!もっと資金があったら作れてたデス!私が作ったサイキョーのG・Sが、MRPでポンポンと出す無尽蔵の武器で敵を薙払う……チョーカッケー姿がもう少しで見れたデスのにィィィ!くやちぃ!!!!」
「……資金があったら完成させれたの?」
あっ……テレイアが食いついちゃった。
「あたりきシャカリキデスッ!この天才科学者コハク様に不可能は無いデスッ!」
手錠をかけられ正座させられながらも吼えるコハクに対し、少し考えてからテレイアが提案する。
「うちの傭兵団は100億senあるんだけど……うちがあんたのパトロンになったら完成させれるかしら?」
「ひゃ……100億sen!?こんなメスガキまみれの群れにデス!?」
「殴るわよ……」
「オウ!100憶あったら作れるデス!是非とも私のパトロンになってくだサーイ!私は自分の研究と成果を出すことが出来るチャンスがあれば何でもしマース!靴を舐めましょうか?それとも貴方と貝を合わせますかぁ!?」
「何言ってんの!?私だって人を選ぶわ!」
"貝を合わせる"こと事態は否定しないのか……。
「ケレス、その人の手錠を外してちょうだい」
「はい……お嬢様」
手錠を外され、手の自由が利くようになったコハクにテレイアは右手を差し出しこう言った。
「いいわ!アナタのパトロンになってあげる!ただしアナタにはその"ミラージュ"なんちゃら以外にも"3機"の"新型G・S"を開発して貰うわ!資金が足りなくなったら幾らでも稼いで渡してあげる!」
「オォーウ……幾らでも、私に好きなだけ研究と開発をさせてくれるのデスかぁ……このコハク、貴方の為に尽くすデース!」
そう言ったコハクは差し出されたテレイアの手を握って握手をした。
「百合園の誓いとして貝を合わせるデスかぁ?」
「遠慮しとくわ!!」
こうして傭兵団、虹の剣は拠点となる"惑星"を手に入れただけでは無く、専属の研究、開発者までも手に入れたのであった――。




