002 120秒の制約
出撃――!
今いる宇宙船、ってか宇宙船だったのか……格納庫が開き、カタパルトから『G・S』が射出された。
ズンッ!とした重力の感覚が体を伝うが、体が"アンドロイド"だからか、苦しくは無かった。
目の前には暗い中で、遠くに星がきらめく美しい宇宙空間が広がっている。
《レーダーに機影3、15秒後に戦闘区に入ります》
どうやら初めての宇宙に感動してる暇は無さそうだ。
黒兎、この機の武装を教えてくれ
《中距離ビームガンと近接電震ナイフの2つです》
それだけか、まぁいい
《敵機との戦闘距離まであと7秒》
いや、もう捉えた。
真っ暗な宇宙空間の彼方で3つの小さな光の点が蛇行しながら近づいてくる。
撃ち落とす。
《まだロックオン出来る範囲を超えています》
いいや、俺の範囲には入ってる!
敵の予想針路にビームガンを撃とうと、射撃用スティックのボタンを押そうとした。
だが俺の指は固定されたかのように全く動かない!?
黒兎!まだ自動操体モードが入ってるのか?
《いいえ、指を動かせないのは》
《"戦闘AI"である私、『黒兎』の行動システムに》
《貴方の意思よりも優先されるセーフティーロックが掛かっているので、戦闘でアリスは自由に行動できません》
んなぁ!?
なんだってえええええええええええぇぇぇぇ!!!!
《敵機と会敵しました》
《ロックオンされました》
《熱源確認》
まずい――
と思った瞬間、俺の体が勝手に動き出して、機体の操縦桿を握りしめた。
《回避行動をします》
機体後部のブースターから火柱を出して機体が激しく動き出す。
その後直ぐに機体から僅か数メートルの所で大きな一筋の光線が走った。
敵の"ビームライフル"だ。
俺はその光景を見て逆に冷静な思考になる。
黒兎、セーフティーロックを全て解除して俺にG・Sの操縦を任せることは出来るか?
《可能です、ただ》
ただ?
《システムの切り替えと一部の削除に120秒掛かります》
……長い
"超音速"で動くG・S戦闘での中の2分はとても長く感じるだろう。
だが、やるしかない!
黒兎、今すぐにセーフティを解除してくれ!
ついでに重力制御が人間用になってるからアンドロイドが耐えれるギリギリの制御まで緩めて、エンジンのリミッターを解除しといてくれ
《了解、セーフティとリミッターの解除開始》
さて、こっからだな
《残り115秒 敵機2、こちらに急速接近》
《ロックされました》
黒兎、回避だ。
《了解、こちらもビームで逆襲しますか?》
いや、回避だ。
一切反撃するな、蛇行して後方へ後方へだ。
《了解》
2機は俺の機体に近づきながら"ビームガン"を撃ち始めた。
下手に反撃したら2機の後方に居る"ビームライフル"持ちの餌食になる。
俺の機体は敵の"ビームガン"を回避はしているが、大袈裟に避け過ぎていると感じた。
黒兎、もっと短い移動で回避行動は出来ないか?
《最適な回避距離としてG・Sマニュアル記載通りの回避行動です》
最適距離ねぇ……
《残り60秒》
黒兎、1発だけ敵機に"ビームガン"を撃ってくれ
《了解、敵機ロックオン》
《発射》
俺の機体がビームガンを構えて敵目がけて撃った。
だがあっさりとかわされる。
なるほどね……。
《熱源接近 回避距離ギリギリです》
予想通り、こちらの攻撃と同時に"ビームライフル"を撃ってきた。
目の前に激しい閃光と鳴り響く轟音と共に機体がガタガタと揺れる。
機体は無事だが、どうやらこちらのビームガンの銃先にかすってしまったようだ。
《ビームガン消失、こちらの武装はナイフのみです》
《残り20秒》
黒兎、ライフルが撃たれた方向を軸に内側に向けて旋回しながら回避行動をしてくれ
《了解》
《ですが それをしたら敵機に挟み込まれるのでは?》
《残り10秒》
いいんだよ、それで
中距離装備の2機に追い込まれ、ライフル持ちの1機に狙われながら逃げ惑う、ロクな武器が無い自機。
《8……7……6……5》
敵はまるで簡単な"兎狩り"でもしてる気分なんだろうな
《4……3……2……》
まぁもうすぐ、たった1つの牙で噛みついてやるさ……
《1……0 セーフティ解除完了》
指も足も自由に動かせるようになった!
さぁ、こっちのターンだ。