017 泥舟は沈む
自機に向けて二丁の"バーストビームガン"を撃って来る、バンブー搭乗の"ラスター5改"
俺は実弾オートライフルに持ち替えると、連発で放たれたビームの閃光を再び"パトリオットファイア"で相殺させる。
【バンブー】「なんだぁ!?その銃は!俺のオモチャが一発も当たらねぇじゃねかぁ!オイ!」
【スゥーコ】「あなた……想像以上の化物の様ね、ビームを防ぎながら後ろから私に狙撃されない様に、常にバンブーの機体と重なる位置に移動してるわ」
俺はワイヤー結界の外でスゥーコの機体がビームライフルで自機を背後から狙撃することは分かっていた。
【バンブー】「てめぇ!スゥーコ、俺に遠慮してんじゃねぇ!構わず撃っちまえ!俺なら華麗に躱せるぜ!」
【スゥーコ】「おだまりっ!アンタは曲がりなりにもボスの息子なんだから万が一でも同士討ちでお陀仏なんて事……ボスに報告出来ないでしょ!」
【バンブー】「うるせぇ!親父は関係ねぇだろ!俺は俺だけでもやれるんだ!」
『………………』
どうやら五袋はチームプレイが絶望的に下手らしい、ワイヤー結界を張るまでは良かったが、"ラスター5改"の機動性も制限されてしまっている。
バンブーの戦闘スタイルもバーストガンでの連射だけ……期待してたのに残念だ。
【バンブー】「なんで当たらねぇんだよ!クソ!クソ!クソ!」
『知らなかったんですか?兎に"ラビットファイア"は効かないんですよ』
【バンブー】「はぁ?何言ってんだお前!」
……ごもっとも、上手い事言おうとしてスベってしまった。
そろそろこっちのアサルト弾が切れそうだ……もう決着を付けてしまうとしよう。
俺はオートライフルを片手持ちで撃つ様にすると、空いたもう一方の手で素早く腰にあるナイフをバンブーに向けて投てきする。
【バンブー】「うお、あぶねっ!」
ラスター5改が放つバーストガンの弾幕が一瞬止む……その瞬間、俺はオートライフルから手を放しビームガンを二丁持ちにすると、相手が持つバーストガンへと閃光を放った。
ドッ!
二丁同時に放たれた閃光は相手の二丁バーストガンの銃口に直撃し、ドロリと溶ける様に溶鋼し始めた。
【バンブー】「畜生!俺のオモチャがあぁぁぁぁ!!!!」
まるで両手に溶けたソフトクリームを持った様な、間抜けな姿になったラスター5改へ距離を詰める自機
『終わりです、降伏してください』
【バンブー】「ひぃぃぃ助けてぇ!……な~んてなぁ!食らえ!!!!」
そう言うとバンブーはラスター5改が持っている溶けたバーストガンを放ると、背中に隠していたオリハルコンショットガンを取り出して、こちらに向けて撃って来た。
【バンブー】「この距離!確実にブチ当たったぜ!」
ドンッ!
『知ってましたよ。』
【バンブー】「は!?」
俺は両手に持ったビームガンで飛んでくるオリハルコンの拡散弾を素早く撃ち落とし始めた。
ビームと実弾が反転したバージョンの"パトリオットファイア"だ。
だが流石に大量の拡散弾を全て撃ち落とすのは不可能なので、弾幕にある程度の隙間を作る様に撃ち落とす。
そして、アクセルとスラストレバーを素早く、そして繊細に操作して"前方宙返り"の様に機体を捻りながら回転して全ての拡散弾を躱すと、ビームガンでラスター5改の手足を撃った。
ドドス!ドドス!
閃光が直撃してラスター5改の両手両足が吹き飛ぶ
【バンブー】「嘘だろ……ッ!散弾だぞ!!この距離だぞ!?」
散弾を回避したそのままの勢いで敵機の後ろに回り込むと、両手で首と股の部分を掴んで"バックブリーカー"のように担ぎ上げ、最大加速でスゥーコの機体へと発進させた。
【バンブー】「うぐぁ!何が起きた!?……う゛っ重力がきつい!」
『このまま"ワイヤー陣"に突撃しますよ』
【スゥーコ】「えっ!?」
ワイヤー陣は粘着質ではあるが、恐らく硬い芯となる繊維が入っているだろうと俺は導き出し、言葉を発する。
『スゥーコさん、早く進路にあるワイヤーを緩めないと大事なボスの息子さんが貴方が敷いたワイヤーで真っ二つになりますよ』
【スゥーコ】「くっ!」
バンブーと戦ってる時に後方から狙撃出来なかったスゥーコ、当然ムジナ一家のボスを鑑みて自身の責任になる様な行動を避けるのは、先の会話を聞いて分かっている。
まぁワイヤーを緩めなくともG・S一機分が衝突した圧力で、あの太さのワイヤーは切断されるだろう。
もしG・S2機分を切断できる上等な繊維があったら、とっくにG・Sやその武器に取り入れられているからな……どっちにしろスゥーコは詰んでいるのである。
【スゥーコ】「くうぅぅぅぅ~!畜生めぇぇぇ!!!!」
目の前のワイヤーが緩まり、広がった隙間から自機と手に持った敵機はワイヤー陣からの脱出を果たすと、その勢いのままスゥーコの乗る機体に向かって手足の無いラスター5改を投げつけた。
【バンブー】「ぶ、ぶつかるぅぅぅ!」
【スゥーコ】「んぎぃ!?キャ……キャッチ!」
ぶん投げられたバンブーのラスター5改を両手で抱えるようにキャッチしたスゥーコの機体、その抱き合った2機にビームガンを向けて警告する。
『降伏してください』
【スゥーコ】「……ふぅ、どうやら選択肢は無さそうね、いいわ、降参よ」
スゥーコの機体はボディに装備してある武装を解除すると、両手を上げた。
『賢明です。……ところで、私から降伏勧告しといてなんですが、何故ワイヤーを緩めたのですか?降伏したらどの道ボスとの縁が切れて、その坊ちゃんに気を遣う意味が無いと思うのですが?』
【スゥーコ】「そうね……あなたとバンブーちゃんの戦いを見てたら絶対私達では勝てないと悟ったわ、だから下手に抵抗して噛みつかれるよりもさっさと白旗を上げて生き残る方を選んだのよ~」
『なるほど……』
結局ムジナ一家は損得勘定で動く寄せ集めの軍団だってことか、そこには"忠義"や"信念"なんてありはしない……
この世界の猛者は皆、五袋レベルなのか?
自分が居た世界だったら100位以内にも入れないレベルに正直落胆していた。
【スゥーコ】「お嬢ちゃんはとてつもないG・S乗りね……まるで黒檀の女王を彷彿とさせるわ」
『黒檀の女王?』
なんだか強そうな異名だ……
興味が出て来た俺はスゥーコに黒檀の女王についての詳細を聞こうとした。
その時だった――
《高熱源照射が来ます!》
『え!?』
【バンブー】 「え!?」
【スゥーコ】 「え!?」
ゴワッ!!!!
【スゥーコ】【バンブー】「ッ!――……ザ――……」
目の前の抱き合っていたバンブーとスゥーコのG・Sが巨大な閃光に一飲みにされ、粉々に爆破した。
【ケレス】「主砲、敵機に直撃しました。」
【テレイア】「お待たせアイリス!援護に来たわよ~!」
『………………』
《………………》
【テレイア】「敵が重なってるのが見えたからね!見事な援護射撃だったでしょぉ?」
テレイアの嬉しそうな良かれ報告に、俺は苦笑いでこう答えるしか無かった。
『ナ、ナイスサポートです、艦長……』
さよなら、バンブー、スゥーコさん……己の運命を恨んでくれ……。
《これで五袋は壊滅ですねアイリス、他の敵機も全て逃走した様です》
そうだな黒兎、後はムジナ一家のボスを探せばいいだけか
《アイリス、惑星基地から戦艦……いえ、大型のG・S反応》
レーダーに映った熱源の大きさはドックリが乗っていた重装甲G・Sよりも遥かに大きいな
《その機体から音声通信号が来てます》
繋いでくれ
【ゲストA】「貴様ら!よくも……よくもわしの庭をグチャグチャに荒らしてくれたのう!」
老年の男の声が聞こえて来た。
【テレイア】「あんたがムジナ一家のボス、"ムジナ"ね!」
【ゲストA】「そうだ!貴様らこのムジナ様にナメたマネをしてただで済むとは思うなよ!!!!」
音声表示を"ムジナ"に変更っと
【ムジナ】「絶対に地下プラントにある大量の"ハーツガス"は渡さぬぞ!」
【テレイア】「ハーツガスプラント?何のことかしら」
【ムジナ】「とぼけるな!それが目的で乗り込んで来たんじゃろうが!」
【テレイア】「私達、虹の剣はそのハーツガスを取る為に死んで行った子供達のケジメを付けるために来たのよ!」
【ムジナ】「何ぃ!?あんな身寄りのないクソガキどもを買ったのはわしじゃ!わしが買ったモノを好きに使って何が悪い!!!!」
【テレイア】「あんた……救えないわね」
【ムジナ】「黙れ小娘!五袋の役立たずどもめ……何のために高い金を払っていたと思って居る!」
【ムジナ】「やはり頼れるの自分と金だけじゃ!この大金を叩いて元帝国G・S技術員に作らせたM・Hで消し炭にしてくれるわい!」
小惑星ラスピナウスの基地地下から出てくる巨大な六足歩行のG・S、俺はM・Hという物を知っていた。
ゲーム"ギガント・スケアクロウ"1のラスボス"M・H"
【テレイア】「何あのデカい虫みたいなG・S!?」
『テレイア艦長、アレと距離を取ってください』
【テレイア】「え?」
『はやく!あいつはメガレーザー砲を装備してます!』
《敵、M・Hから高熱源反応》
【テレイア】「わ、分かったわ!コリン面舵、反転、後退!」
【ケレス】「熱源、来ます」
M・Hの背部に積まれたメガレーザー砲から母艦に向けて巨大な閃光が放たれる。
ゴオォォォォォォォォ!!!!
【テレイア】「回避!……キャ!」
轟音と共にスレスレを通過した極太閃光、母艦はなんとか回避出来た様だ。
『艦長、M・Hは私に任せて後方で援護の準備をしていてください』
【テレイア】「そうね、任せたわよアイリス!無理しないでね!」
『了解しました』
自機を最大加速にして惑星基地へと急降下する。
《敵、再び高熱源反応》
ホワイトポーンの速度ならメガレーザー砲なんて当たりはしないさ!
再び、今度はこちらに向かって飛んでくる極太閃光、俺は難なく直角移動で回避すると、そのまま基地表面に張り付いているM・Hに接近する。
【ムジナ】「クックック!M・Hがただのデカい大砲機じゃと思うなよ!行け"金球"達!」
そう言うとM・Hの尻部に付いた6つの大きな球体が弾け飛ぶように散り、ホバリングし始めた。
あれは無線の"遠隔誘導ジェットドローン"だ。
あの玉一つ一つにビームガンが搭載されていて、本体のM・Hからの命令信号で攻撃が可能な兵器である。
【ムジナ】「見たか!これが同盟軍や帝国でも滅多にお目にかかれない最新兵器金球じゃ!行け玉ども!その白い羽虫を撃ち落としてしまえ!!」
金球達がユラユラと動き出し、自機に目がけて一斉にビームを放ち出した。
俺はそれらの閃光を機体を捻ったり、回転させたりして回避する。
【ムジナ】「くそ!ちょこまかと動きおって!」
『アンタに聞きたいことがある』
【ムジナ】「なんじゃぁ!?小娘ぇ!!!!」
『さっきアンタの息子が死んだが、どうもそれに対してはなんの反応も無い……怒りとか悲しみとか無いのか?』
【ムジナ】「ふん!あんな役立たずの穀潰し……それにワシは何人もの愛人にガキを産ませてるから、一人ぐらい消えた所でどうってこと無いわい!」
『そうか……そうですか……分かりました』
救えない――
俺は全ての金球に対して2発、連続でビームガンを放つ
ドドッ!ドドッ!ドドッ!ドドッ!ドドッ!ドドッ!
1発目の閃光を躱すが2発目に吸い込まれるように直撃する金球達
【ムジナ】「んなっ!?」
『こんなものを実戦的に操縦するのは高度な脳波コントロールでもやらないと無理だ……あんたにそんな技術は無さそうだから予想通りただの自動操縦のドローンだったな』
【ムジナ】「脳波……なんじゃそれは!?」
『アンタはただのド素人……まだ役立たずと言っていたバンブーのがいい腕してたよ』
【ムジナ】「黙れ!黙れ!黙れぇ!わしが一番金を稼げるんじゃ!」
M・Hの背部に積まれた砲身の先が光出すが、そこに目がけて俺はビームガンを放った。
ズンッ!
という轟音と共にM・Hの砲身が爆発し、機体の半分が吹き飛んで黒煙を放ち始めた。
【ムジナ】「ひいぃぃぃぃ!」
《M・H大破、行動不能です》
【ムジナ】「た、助けてくれぇ!幾ら欲しいんだ!?金なら貴様の雇い主の10倍出そう!なっ!なっ?」
しょうも無い――
『私は向かってくる戦士以外は殺したくないんですよね』
【ムジナ】「だ、だったら無抵抗なわしのことは助けてくれるのじゃな!?」
『まぁ私は帰りますよ……ただその前に』
俺は自機の胸部ハッチを開けて、自身の姿を外に晒す。
アンドロイドの身体なので宇宙空間でも生きて居られる。
『コリンとカイリからアンタに返しといてと頼まれた物を渡します。』
俺は手に持った2つのスマホの様な媒体を甲虫の死骸の様な姿となったM・Hに向かって放り投げた。
【ムジナ】「ガキどもから?……なんじゃそれは通信機?」
その後、コクピット内に戻りハッチを閉じて惑星基地から離れるように飛び立つ自機。
『その端末はなかなかいいですね…正確に位置座標を示してくれる――』
【ムジナ】「は!?」
【テレイア】「主砲、発射!!!!」
【コリン】「カイリ……お姉ちゃんと一緒に押そう」
【カイリ】「うん……施設のみんな、仇は取るよ!」
カチ――……
母艦の艦砲から巨大な閃光が放たれる。
ゴオォォォォォォォォ!!!!
【ムジナ】「ひいぃぃぃぃ!脱出せねば!う、動かん、動けぇ!」
巨大な閃光がM・Hに直撃、巨大な光の爆発が辺りを覆う。
【ムジナ】「わ……わしの……金……ザ――……」
《M・H、撃沈》
さらには基地地下にあったハーツガスプラントに着火し、巨大な光の柱が立ち上がると、核爆破が起こり、ムジナ一家の基地ごと吹き飛ばした。
衝撃で小惑星ラスピナウスの半分近くがボロボロと崩れ、砕けたクッキーの様に宇宙へと砕石をまき散らす。
惑星同盟軍や帝国軍にも悪名を轟かせていたムジナ一家が終焉する光だ――
そんな光を見て、数多の因縁に終止符を打った傭兵団、虹の剣団長テレイアが締めの言葉を放った。
【テレイア】「うっわ……あの爆発はちょっと引くわね!」
『………………』
はい、以上です。
ムジナ一家編 完結