015 執行へのカウントダウン
母艦はアルクトス第1コロニーに戻り、補給を済ますと予備の燃料と弾薬をありったけ詰め込む。
そして俺にも必要な武装をリクエストして良いという大盤振る舞いだったので幾つかG・Sの武装を買って貰った。
そして母艦はコロニーからある場所へと向かう
ムジナファミリーの総本部、奴らが基地を構える小惑星"ラスピナウス"へ――
「お、お前ら本当にこの人数だけで本部に攻め込むのか!? 恐らく既に俺らがやられた情報が入って本部に五袋や兵隊がゴロゴロしてるぞ……ってか行くなら俺を解放しろよ!!」
手錠をかけられた五袋のチャガマがケレスに引きずられながら喚いている。
「うっさいわね!あんたの言ったことの裏が取れて、ムジナ一家をぶっ潰したら解放してあげるわよ!それまでこの部屋で大人しくしてなさいッ!」
そう言ったテレイアは母艦にある狭い一室にチャガマの尻を蹴り上げて入れると、ケレスに指示をして外から鍵を閉めたのであった。
母艦のブリッジに戻ると、"操舵席"にはコリン、"砲手席"にはカイリが座っていた。
「本当にいいの?辛いならまだ休んでいてもいいのよ?」
テレイアが心配そうに尋ねると、双子は真剣な表情で答える。
「もう決めたの!私達はこの虹の剣で生きていく……もうムジナ一家に居る理由も、他に行く場所もないから!」
「コリン……分かったわ!、でもカイリはいいの?砲手をするってことはミサイルを迎撃するだけじゃないわ!人を殺すこともあるのよ!」
「うん、僕は覚悟を出来てる……僕がお姉ちゃんを守るんだ!もう家族はお姉ちゃんしか居ない、それに皆を酷い目に合わせたムジナ一家を許せないんだ……」
2人の決意に深く頷きながらテレイアは言う
「よし、これからは2人は虹の剣の一員よ!私達を新しい家族と思って頂戴!」
「 「 はい、艦長! 」 」
こうして双子のコリンとカイリが傭兵団、虹の剣の一員となったのであった。
………………
…………
……
小惑星ラスピナウスへと向かう母艦
そろそろ惑星周辺区域へと近づき、俺は格納庫で出撃準備をする。
「アイリスの注文通りの物を換装しといたがのぅ……この実弾オートライフルに入ってる"ビームシールド拡散弾"なんて何に使うんじゃ?まぁ敵にビームシールド持ちが居てもおかしくないがフルでこの弾を装填することはないじゃろうに?」
俺が自機に換装させた装備に疑問を投げかけるベスタ
"ビームシールド拡散弾"というのは本来、敵機が"ビームシールド"という盾を装備して構えた場合、盾に施されたビームコートを実弾に込められた特殊な"パウダー"で一時的に剥がして攻撃を貫通させる為の物だ。
「ビームシールドは高価じゃからのう、帝国軍でも少数の精鋭ぐらいしか持てんのにムジナ一家のG・S達がそんなに持ってるとは思えぬのじゃが……」
そんなベスタの疑問に俺は答える。
『"パトリオットファイア"をするのですよベスタ』
「パ、パト……なんじゃそれは?」
その用語がゲームの世界での技術用語だったことを思い出した俺はベスタに詳しく説明しようしたその時……格納庫にテレイアの音声放送が流れた。
「惑星ラスピナウスが見えて来たわ!総員第一種戦闘配置、アイリスはホワイトポーンに乗って出撃して!」
どうやら"パトリオットファイア"は実戦で見てもらうしか無さそうだ。
慌ててベスタがシステムチェックを行うと
「アイリス~死ぬんじゃないぞい」
と俺の尻をペシペシ叩いて檄を入れ、格納庫から出た。
俺は自機に乗り込んで出撃する――
今の装備は腰脇部に"ビームガン2丁"左肩の裏側に"オリハルコンアサルトライフル1丁"腰裏部に"オリハルコンナイフ2本"そして手持つのはチャガマからパクった大きな"オリハルコンブレード"だ。
《セーフティ解除開始 残り120秒です》
自機で薄っすらと見える"小惑星ラスピナウス"へ向かって加速する……
ラスピナウスは直径400kmの小惑星、月の八分の一ぐらい?の大きさだ。
《アイリス、ラスピナウス方面より音声通信が届いてます》
繋いでくれ
【ゲストA】「おいそこの不明機体!ここが誰の島か分かってんのか!?殺されたく無きゃさっさと失せやがれ!」
はいはい、いつものいつもの
『聞こえてますか?こちらはここ最近お宅に煮え湯を飲ませまくってる"傭兵団虹の剣"です』
【ゲストA】「あ゛ぁ!?」
『チャガマさんとえ~とシルムさんを倒した隊だと言った方が分かりますか?』
先のチャガマへの尋問で五袋の情報はあらかた聞いている。
【ゲストA】「ッッッ!?て、てめぇ……ぬけぬけと飛んで火に入りやがって!おい、総員戦闘配備だ!ボスと五袋の兄貴たちも呼べ!」
《セーフティ解除まで 残り90秒》
徐々に惑星ラスピナウスとの距離が近くなり、惑星の表面に基地らしき施設が見えてくると同時に
既に数機の敵機がこちらを待ち構えているのも見えた。
黒兎、こちらの音声通信をフリーにして、なるべく敵機全てに聞こえる様にしてくれ。
《了解アイリス フリー音声信号を周囲に展開しました》
『ムジナ一家の皆さん、私の話を聞いてください』
『私はこれからあなた達をぶっ潰そうと思います。』
『ですがこちらから一方的に攻撃を仕掛けるのは流石に酷いと思いまして……』
《残り60秒》
『1分間の猶予を与えるので組員は投降するなり逃亡するなり好きにしてください、ただしボスだけはこちらに引き渡して貰います。』
そう言うと俺はこちらの音声通信の受信もフリーモードにした。
表示は分かりやすく"組員達"でいいや
自機のコクピット内で敵機からの音声が響き渡る。
【組員達】「ふざけんな!」「舐めてんのか!」「ブチ殺すぞ!!」「ガハハ!笑えるぜ」「おい動画撮っとけよ馬鹿が来たぞ」
【組員達】「たった1機で来てイカれてやがるなぁ!」「お前が降伏して土下座しろクソガキ!」「全員ビームガンを構えろ!」「かわいい声ちゅーしたい」
【組員達】「五袋の兄貴達も出撃するぜ!」「終わったなぁてめぇ!!」「ヴァ―カ!ヴァ―カ!」「しねな!」
あぁ~、うるさっ!
《残り30秒 前方の敵機群から複数の熱源確認》
黒兎、回避行動を、やり方は君に任せる!
《了解 惑星を軸にした旋回で回避します》
黒兎は敵群から飛んできたビームの光線を横に旋回して回避する。
《残り20秒》
『残り20秒です、降伏してください』
俺は決して"いい人間"でも"聖人"でも無い
だから"復讐なんて何も生まないからやめるんだ!"だとか"話合えば分かり合える!"なんて言葉をあの双子にかける気なんてさらさら無い
むしろ"復讐は次へと向かう為のケジメ"だと思っている。
特に相手側が反省も無く、いつまでもこちらに絡みつく様な場合では……
《残り10秒》
『残り10秒』
だから俺は俺の居場所を守る為に、彼女達の復讐の後押しをするだけだ。
《5……4……3……2……1》
『5……4……3……2……1』
《セーフティ解除完了》
まるで感情の無いアンドロイドの様に淡々と――
『ゼロ……それではみなさん』
『死んでください――』