014 狐死兎泣
俺は敵機のメインスラスターを爆破させないように破壊すると、そのまま首根っこを摘んで母艦へと運び出した。
どうやら黒兎が倒した後に来た2機目のこいつも"五袋"らしい
やたら長いブレードをブンブン振り回して来て、破れかぶれみたいにケツから隠しブレードを出して来たな。
ゲームでも居たなぁ、あの手の"初狩り"装備で突っ込んで来るヤツ、まぁ適当にパリィしたら降伏してくれただけいいか……
多分懸賞金もいいだろうし、一人ぐらい生け捕りにしないとな
自機からの帰還信号を受けっとた母艦のハッチが開き、俺は格納庫へと帰艦する。
もちろん黒兎のセーフティを復旧してからだ。
母艦の格納庫へ着艦すると、既にテレイアとケレスが小銃を持って待機していた。
自機が格納庫に手足の無いダルマ状態となった敵機を放ると、テレイアとケレスが小銃を構えて敵機へと指示する。
「五袋?だったかしら、そこの何某!今すぐコクピットを開けて出て来なさい!当然何も持たずに両手を頭に付けてね!」
敵機の胸部ハッチが開き、中から中年の男が両手を頭に組んで出て来た。
「ケレス、その男に手錠を!」
「はい、お嬢様」
ケレスが素早く、手を挙げてる男の両手、両足に手錠をかける。
「やれやれ、名高い五袋である俺とシルムがこんなお嬢さんだらけの部隊にやられたのか……」
拘束された中年の男がうな垂れながら呟く
俺も自機のハッチを開けてG・Sから降りる。
「あんたが、これのパイロットかッ……!」
男が俺の姿を見て驚愕の声を上げる、その表情は仲間を倒されたことへの怨みや、自分が倒されたことの怒りではなく"恐怖心"とどこか"羨望"の様な感情を含んだ表情に見えた。
「あんたには色々聞きたいことがあるわ!、"コリン"、"カイリ"来なさい!」
ブリッジへと繋がる廊下の扉が開き、双子のコリンとカイリ入って来る。
「す、凄い……本当に五袋を1人で倒しちゃったんだ」
「で、でもお姉ちゃん……どうするの?これでムジナ一家に帰るのは難しくなっちゃったけど……」
カイリが通信で呼び寄せたのに逆襲されて敗北したのだ……このまま双子を解放してムジナ一家に帰っても最悪拷問されて殺されるかもしれないだろう。
「そこであんたに聞きたいんだけど!」
「なんだ?お嬢さん」
テレイアが手に持ったタブレット端末を見ながら五袋の男に問う。
「この子達みたいな施設から引き取った子供が今、どこに居るのか話してもらえないかしら?」
「え!?」
コリンとカイリが驚きの声を上げる。
「俺にファミリーを売れと?その行為の対価はなんだ?」
「対価はあんたを傭兵ギルドへ引き渡さないであげるわ、もちろん子供達が居る場所の裏を取れてからね!」
「それは中々魅力的な対価だが、ファミリーを売るぐれぇならギルドへ引き渡された方がマシかもしれねぇぜ?」
「あんた、"降伏"したってことは自分の"命"を大切にしてるってことね!」
「どういう意味だ……?」
「あんたには惑星同盟と帝国両方から"懸賞金"が懸けられているわね!五袋のチャガマさぁ~ん……」
「!?」
手に持っているタブレットを男に見せ付けながらテレイアは言う。
どうやらそこには目の前の男、"チャガマ"の写真付き手配書が記載されているようだ。
「ギルドは当然どちらかに引き渡すわね、大事な運営資金源と取引相手なんだから、散々暴れ回ったあんたは、帝国なら確実に死刑……」
「あら?手配書見たらあんた惑星同盟の元軍人!?あららぁ~これは同盟軍に渡されても確実に消されるわねぇ~」
「ぐっ!」
悪魔のような微笑で男を追い詰めるテレイアを見て、俺は彼女がただのお馬鹿じゃなかったと考えを改めて、なるべく怒らせない様にしようと思った。
「命が惜しい貴方の選択肢は1つしか無いわ……あとは分かるわね!」
「くそっ……!あぁ分かったよ、分かった!」
男は観念したかの様にテレイアの取引に乗った……だがコリンとカイリの姿を暫く見た後、深いため息をして語り出す。
「いいかお前ら、これから話すをことを聞いても……なんて言うかう~ん……」
「何よ!取引に乗ったんだから子供達の居場所を全部言いなさいよ!」
「先に言っとくが俺が"命令"したんじゃねぇぞ!ボスがやったことだ!」
「一体何なのよ?」
「半年前、惑星同盟領で起きた星間ガス"ハーツ"発掘コロニーでの爆発事故を知っているか?」
「知ってるわ世界中でニュースになってたから……死者300人以上の大惨事ね」
「実際はもっと居たんだ、ムジナ一家から違法で労働者を派遣していたからな、危険な作業はピンハネが美味い……仕事が無くなった野郎や、それに施設から引き取ったガキなんかを……」
男の話を聞いたコリンとカイリの表情が一気に青ざめる――
この時点で誰もが察する"最悪の結果"……
「その双子と同じ施設に居たガキ共は全員死んだ!ボスの命令で一番危険な重機での採掘作業をやらされてたんだ!」
「う、嘘よ!……そんなッ!?でも丁度半年前から連絡をさせて貰えなくなった……」
「お、お姉ちゃん……う、嘘だよねぇ!アイちゃんも……マユちゃんもミロ兄も生きてるよねぇ!?……う゛ぅぅぅぅ」
「う゛うぅぅぅうわあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
泣き崩れるコリンとカイリ――
俺はそんな2人の姿を見て、"感情が無い"ハズであるアンドロイド身体の奥底でメラメラとした焼け付く熱さを感じた。
これは怒りだ――
全てを失った子供達を更に利用して、一滴も残さずに子供達の希望を搾り取るムジナファミリー……許すことが出来ない!
双子の号泣の音だけが響き渡る母艦の格納庫、テレイアは目の前で座らされている男の胸倉を掴むと、静かに語りかける。
「1つ目の提案を答えてくれてありがとう……じゃあ次は2つ目」
「え!?」
「ムジナファミリーの本拠地を教えなさい」
いつも元気よく表情豊かに話すテレイアの無表情……
俺はそんな彼女の瞳の奥底には激しい怒りの感情が渦巻いていることを感じるのであった。