第八話
騒動から更に1ヶ月。騒動直後は上を下への大騒ぎ。軒並み大臣たちは隠居させられ、ほぼすべての重要役職に貴族の子弟や高等学院卒業の若者がついた。現王もうまくやっているらしく、悪い噂は聞こえてこない。善政を敷いているようだ。まぁ、俺の口添えはあったのだが。
閑話休題。
とにかく、税を引き下げ、戦争直前だった帝国との友好関係を図ろうとしたり、いろいろと忙しそうだ。まぁ、俺には関係ないけど……と言いたいところだが。
「ヴィル様、クロ様とシロ様、ウルティマ様を召喚していただけないでしょうか!」
そう、ロイヤルファミリーの第三王女のリリアが俺の周りをうろちょろしている。8歳ぐらいかとおもっていたら、なんと11歳だった。幼く見えすぎる……とても末恐ろしいものを見た気がする。
そして、もう一つ変わったことがある。俺の召喚獣はどうやら、人間形態になることができるらしい。というのもこの数ヶ月で姫様が散々ドラゴンを見せてくれ、触らせてくれと言われ、召喚していたが、ふとした時「このドラゴンたちに名前は無いのですか?」と言われ、とりあえず、ハイエンシェントドラゴンが長いので「ウルティマ」と名前をつけた。突然発光したかと思うと人と同じ姿となり、喋り始めた。ちなみに、ステータスを見てみたがスキル欄に人化があった。その他にもステータスはドラゴンのときと変わらず、安物の剣で一度切りつけてみたが、剣のほうが折れた。こうして、俺の召喚獣全員に名前をつけたところ、見事に全員人化した。全員の名前と容姿はまた別の機会に。
「サモン:クロ(黒龍)、シロ(白龍)、ウルティマ(ハイエンシェントドラゴン)」
こうして、しばらく王城に滞在している。これにはわけがある。一つはお姫様のお相手に選ばれたということ。もちろん、この国だけではなく、いろいろな国に行かないといけないので、あまり長居はしないが。もう一つは、抑止力。たまにハイエンシェントドラゴンを通常サイズで召喚し、狩りをさせる。馬鹿なことを考えないようにさせるためのプロパガンダだ。帝国への牽制も含んでいるが。
下準備のおかげか、貴族の子弟や高等学院卒業者の働きには目を見張るものがある。いくら入れ知恵したとはいえ、学習ということの意味をちゃんと理解しているのだ。戦術でも学習力が無いと、とにかく戦況も考えず突撃し、やられたら気合が足りないと喚き散らす。これは一例だが、そういう人間ばかりの中で国の中枢を担っている人々はいろいろなことをスポンジのように吸収していった。そこから徐々に学習というのがどういうものなのか概念を説明したり、実演したりしたら学習の重要さをなんとか近衛兵や警備、兵士の皆さんに理解してもらったため、軍備も強化された。
「それで、そろそろお立ちなるんですよね?」
と、急遽お姫様から言われた。
「ええ、寂しいかもしれませんが、情勢も安定してきましたし、次は帝国ですかね?どうもこの国の外交官によると向こうが戦争したがっているみたいなんですよね。なので、穏便に済ませたいですが、武力での制圧の可能性がとても高いです。残念なことに」
「そうですか。わかりました。とりあえず、出発する際は私に声をおかけください。ついてまいりますので」
「は?」
「大丈夫です。父上と第二王妃だった母さま、現国王の兄、この国の外交官には許可をとっています。私がいれば帝国にもすんなりと入ることができると思います」
「あ、あの」
「外交特使として王族が行くのは稀にあるのです(前回は230年ぐらいまえらしいですが)」
「え?最後なんて?」
「何も言ってません」
満面の笑みだ。
「いや、でもさっき」
「なんでもありません」
「そ、そうか……でも、さっきも言ったとおり、武力でとなると危険だよ?」
「守ってくださるのですよね?」
再度出る必殺、満面の笑みだ。
「まさか、ドラゴン目当てでついてくるとかではないですよね?」
すると明らかに動揺した様子で言った。
「い、いやですわ。わ、私は、そ、そのようなことは、思っておりませんわ」
少し意地悪がしたくなった。
「じゃあ、ドラゴンが目当てではないと?」
「え、ええ。重要なお仕事が帝国で待っております」
「ふーん、じゃあドラゴンでの移動じゃなくて転移で移動するか。そうすれば姫は安全に帝国へ行くことができますから」
「ちょっとお待ち下さい。確か転移は一度その場所に行かないとできないはずです!どのようにしていくのですか?」
「そりゃ、ドラゴンに乗っていきますよ。ですが姫様危険ですので私が先に帝国に行き、転移できるようになったら迎えにあg「だめです!」」
俺はニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべた。
「もう、意地悪なヴィル様は嫌いです」
ぷんぷんという擬音が似合いそうな顔で怒ってみせる。
「ごめんごめん、冗談だって。だけど、本当に良いの?」
「はい!未来の夫のために尽くすのが妻の役目ですし、それにドラゴンに乗ってみたいです!」
キラキラした眼でこちらを見てくる……ちょっと待て、なんか今不穏なお話が飛び出た気がする。
「ちょっとまって、今なんて言った?」
「はい!ドラゴンに乗りたいと言いました!」
「素直なのはよろしい。姫様はまだ幼いのですから……うんお約束だね。とりあえず、取り乱しはしないけど、一応聞くね?その前になんて言った?」
「はい!未来の夫のため私は妻として尽くす所存だと申しました!」
OH、この子、この歳で結婚するつもりか?
「姫様まだ11歳ですよね?」
「あと一年もすれば成人ですわ!」
「一国の姫様と結婚はちょっと荷が重いかと……」
「大丈夫ですわ!私の家族は全員幸せになりなさいと言ってくださいました!」
おい、王家の人間、頭は大丈夫ですか?
「大丈夫です。婚約時代はしていたのですが、侯爵家の方々が捕まりましたので、今はどなたとも婚約をしておりません。それに、これは恋愛結婚でもありますが、同時に政略結婚でもあります!あまり申し上げにくいのですが、あなたの戦力を国のためにという思惑もあります。ですが、信じてください。私はあなたのことを好きになったのです!」
「そんな要素がどこにあったんですか!」
そう質問すると、途端にもじもじし始めた。
「い、言わなくてはだめですか?」
「で、できれば」
「う~、恥ずかしいですがお教えします。一番は誠実なところです。そしてお人好しなところ。いろいろな知恵を持っていて、こちらを欺くこともできたはずなのに、私達に親身になって頂いて……それがきっかけです。そこからはヴィル様のことを考えるようになり、いろいろ良いところを自然と探すようになり、今に至ります」
リリアは顔を真赤にさせている。
「そ、そうか。とりあえず、ありがとう……で良いのかな?」
「はい!言質はいただきました!」
「はい?」
「ですから、今のは私のプロポーズを受けたということですよね?大丈夫です録音の魔道具で先程の音声は記録済みです!」
してやられた……とはいえ、言明はしていない。なんとか逃れられるか?
「いや、言質をとったと言っても姫様の好意に対して礼をしただけで」
「……あの、私のことはお嫌いですか?」
正直、結構長い時間彼女と過ごしたため情がある。とはいえ、結婚というと重く考えてしまう。ただでさえ、前の世界では27年間童貞を守り抜いた……いや、素直に言おう。女性に見向きもされなかった俺が結婚?やはり、早すぎるのでは……いや、でもでも、この機会を逃すと……そもそもこれは倫理的に問題がありすぎる気が……いや、でもここは日本ではないし……(ブツブツ)
「あの、やはり嫌なのでしょうか?」
不安そうな顔でこちらを見る。
「一応確認しておくけど、分かりづらいかもだけど、俺はハーフエルフだぞ?種族的には。それでも大丈夫なのか?年齢は……それも種族的なところに関わるからな。多分俺は姫様の死を看取ることになる。結婚とかそういうのは俺はあまりしたくない」
「種族的なことは問題ありません!それに、不老長寿のためのアイテムを必ず見つけ出し、あなたと一緒に居続けます!」
「……わかった少し考えさせてくれ」
そう言って、いろいろなことを考えて、結果を出した。
「うん、決めた。そのプロポーズは受けるよ。婚約ということで良いかな?ただし、俺の世界では結婚できるのは16からだ。それまでは待ってもらうけど良いか?」
「十六ですか……正直もう少し早くに結婚というわけには行きませんか?」
「なにかあるのか?」
「ええと、そちらの世界は結婚の年齢が遅れているようなので問題が無いのかもしれませんが、この世界は基本的に月のものが来たら結婚できる事になっているのです」
「は?ちょっと待て。じゃあ、早熟でかなり早くから来た人なんかも?」
「ええ、10歳で身ごもることもあります。行き遅れと言われるのは15を過ぎたあたりです。なので、どうかもう一度ご再考願います」
弱った。確かに一国の姫が行き遅れのレッテルがはられるのはまずいのだろう。
「はぁ、わかりました。15になる前には結婚しましょう。もちろんその時までに俺に愛想をつかしていなければの話ですが」
そう言うとぱっと明るい表情でこちらを見る。
「ヴィル様ありがとうございます!では、母さまや父様に伝えてきますね!結婚式の日取りも決めないとですね!」
「いや、ちょっと。結婚式はまだ早すぎるだろ!それに15まで待つって……」
「あら?15になる前に結婚するのですよね?いつ結婚すると明確におっしゃってませんよね?」
と言うと満面の笑みで、まるでこちらの言っていることはこれ以上聞きませんと言うが如く、風のように走って去ってしまった。
「とりあえず、みんなご苦労。戻っていいよ」
と、ドラゴンたちをもとに戻す。
「なんか変なことになったな……だが、まあ良いか。とりあえず、この異世界いろいろと楽しいし……ただ、未だにゲーム感覚なのは少々まずいな……なんとかせねば……そういえば異世界に来たのに冒険者ギルドも芸能ギルドも生産ギルドも利用していない!これは早急になんとかせねば……そういえばうちのドラゴンが狩ってきた獲物とか冒険者ギルドで買い取ってもらえるだろうか?」
そんなことを考えていると再度リリアが部屋に入ってきた。
「父様も母さまも喜んでくれました!結婚式は私が12歳になったときということでお願いします!」
「おい、約束が違うぞ?」
「対外的にもその年齢でしておかないと、少々問題が……夫婦として営むのはあとでも構わないので」
と、俺には耐えられそうもない生々しい話が出てきた。
「そ、そうか、わかった。で、誕生日はいつなんだ?」
「二ヶ月後です!」
Oh、二ヶ月後に結婚式ですか……俺の気持ちを置いて、現実は先へ先へと動いてゆく。まぁ、しょうがないか。なんか乗せられている気がするけど、それも楽しいから良いか。
こうして、帝国への出発は延期となったのだった。
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