第六話
その嫌な予感は的中した。数カ所の街へ行ったが、そこではすんなり滞在許可証を発行してもらえた。が、最終的に領主に見つかり、やれドラゴンを寄越せだのうるさくて叶わなかった。結局2日以上滞在した街は今のところ無い。ただし、情報はある程度集まった。進路は今のまま行くと王都にたどり着くらしい。流石に、王様がいるお膝元でわけのわからないことを言うやつはいないだろうと俺は甘く考えていた。
王都の街並みが見えてきた。かなり遠くでドラゴンから降りて、歩いて王都まで向かった。そして、ギルドカードを見せて、王都での滞在許可証を発行してもらった。
「今度はゆっくりできると良いな~」
そんなことを思いながら、門番さんのおすすめの宿へと向かう。
「こんにちは~」
「はいよ!飛竜の巣穴へようこそ!泊まりかい?」
恰幅の良いおばちゃんが聞いてくる。
「ああ、とりあえず一週間ここに泊まりたい」
「あいよ!前金で金貨14枚だよ!」
「やはり王都は高いですね~」
「なんだい?ケチつけようってのかい?」
「いえいえ、そんなつもりはありませんよ」
そう言うとおばちゃんに金貨を15枚渡した。
「おや?金貨が一枚多いよ?」
「いえいえ、とっといてください。チップですよ。聞きたいこともありますし」
「なるほどね。そういうことかい。で、何が聞きたいんだい?」
「一泊金貨2枚ってことはやっぱり税金ですか?」
「ああ、そうだよ。他の街に移住をしたくても街を出るには金貨20枚は必要さね」
「それは……高いですね……でも、この宿の盛況具合なら出ていけるのでは?」
「出ていきたいとは行ったものの、どこに行くって宛もないし……それにどこも今は物騒だからね」
「というと?」
そう言うとおばさんが周りを見て耳元で囁いた。
「近々、帝国と戦争が始まるって噂だよ」
「なるほど、確かにそれは……」
「あんたも気をつけることだね」
「そうですね。女将さん、どこか遠くてもいいのでそういう戦いと縁遠い場所って知りませんかね?」
「そうさね……ここからはるか東の方に迷宮都市というのがあるらしいと言うのは聞いたことがあるね。そこは何でもダンジョンとか言うのがあって、それがお金になるらしいんだよ」
「なるほど。その迷宮都市はどこの国に属しているんですか?」
「それが、独立都市だってうわさだよ。隣国が国ぐるみで躍起になって自分たちの国にしようとしているらしいけど、そこの冒険者たちに返り討ちさ。一応隣国の王は自分の国の領土だと主張しているけど、迷宮都市は独立していると言ってるんだよ」
なるほど、何かあったらそこに行けば結構良いかも。
「なるほど、女将さんありがとうございます。追加のチップです」
そう言うともう一枚金貨を渡した。
「ありがとね!」
そして、俺は散策に出た。
「やっぱり王都は大きいな……まぁ、他の街に比べればというだけの話だが」
(王都の食べ物の物価を見ると、そこまで富んではいないが、貧困状態とも言えない。やはり、この国の上の人間か?問題は……ん?つけられてる?)
店を見るふりをしながら後ろを見ると兵士のような人たちが何かを見ながらこちらへ近づいてくる。そして、とうとう俺の後ろで止まった。
「すみません、少々お聞きしたいことがあるのですが」
そう言って紙を見せてくる。
「これ、あなたですよね?」
兵士の一人がそう言うと、周りの兵士が一斉に槍を構えた。
「あの、私、なにかしましたか?」
「あなたには国家転覆の容疑がかけられています。ご同行願います!」
俺は一瞬どうするか迷ったが、ついていくことにした。
「わかりました。自分で歩きますし、逃げたりしないので案内してください」
すると、別の方から声が聞こえた。
「それはできないですな」
……見事な肉塊。貴族は皆肉塊なのだろうか?いや、貴族ではないのかもしれないが。それに貴族が悪役とも限らないし、肉塊が悪役とも限らない。良い肉塊もいるかも知れない。俺は何を言っているんだ?
「私の名前はマルコ・プータである、頭が高いぞ!」
「……また貴族ですか……あのすみません。兵士の皆さん。この方々に捕まるのは非常に嫌なので逃げます。それでは失礼します」
そう言うと、俺は風を操り、そのまま空へと飛び、空中でドラゴンを召喚する。そして、王都上空を旋回する。
「ん~、弱ったな~冒険者ギルドや他のギルドに行って、地盤を固めてから国の偉い人を相手取ろうと持っていたんだけど……やっぱり無理か……」
そしてしばらく空を飛んでいると、ゲームでよく見たワイバーンに乗った竜騎士がこちらへ向かって来た。
「ん~、この人達に罪は無いわけだから……あっ、そっか更に上空に行けば追ってこれないか」
すぐさま指示を出し、かなりの高度まで昇っていった。
ある程度のところでワイバーンはホバリングしてとどまった。
「亜竜種はこんなもんか……これ以上は昇ってこれまい。とはいえこれでは千日手だ。どげんかせんといかんぜよ」
しばらくするとワイバーンの竜騎士たちは下へ降りていった。
「ありゃ?……あっ、そうか。こっちのドラゴンとあっちのもどきとでは性能が違いすぎるのか」
そう、性能が違いすぎて、すでにワイバーンは無茶な高度まで上がり、その上、急な出撃だったため、体力が底をついたのだった。
「じゃあどれどれ、この高度から地上を見てみますか」
千里眼を発動させ、遠くのものを見る。すると、面白いものを見つけた。きれいなドレスを身にまとった少女だ。年の頃は15と言ったところか。お城のテラスからしきりに望遠鏡でこちらを見ている。
「ちょうどいい。多分あの身なりだ、相当の地位の娘だろう。ちょっくら挨拶しに行くか」
ドラゴンを送還して、転移で少女の真横まで来る。
「あ、あれ?ドラゴンさんがいなくなりました……どこへ行ったのでしょう?」
「小さいサイズで良ければお見せしますが?」
と、思わず声をかけてしまった。少女は驚き硬直し、しばらくの後、こちらを振り返り警戒しつつも声を出した。
「あの、ここは王族以外立ち入り禁止の場所ですよ……どうやってここへ入ったんですか?それと、あなたハーフエルフですわよね?……それはともかくドラゴンを出せるのですか?」
なんだろう、彼女は身の危険を感じているはずなのに、意識はドラゴンに集中している……気がする。
「ええ、ハーフエルフです。先程街に現れたドラゴンは私の召喚獣なので、いつでも出せますよ。それとサイズ変更も可能です」
「ぜひドラゴンを生で見させてください!」
少女がとてもキラキラした眼でこちらを見てくる……金髪碧眼の物語に出てきそうなお姫様を体現したような外見。不覚にも一瞬ときめきそうになった……俺、ロリコン気味だからな……。
「サモン:ハイエンシェントドラゴン」
小さいサイズをイメージして召喚した。すると、手のひらサイズのかわいいドラゴンがそこにはいた。
「うわ~、こんなにかわいいドラゴンさんを見るのははじめてです!」
「喜んでいただけたようで……良かったです」
そうして、しばらく彼女はドラゴンを触っていた。そして、ふと思い出したかのようにこちらを見ると、再度問うてきた。
「ところで、あなたはどちらさまですか?」
「えーっと、ヴィルヘルム・シュッツといいます。えーっとヴィルとお呼びください」
「わかりましたわ。ヴィル様。私はこの国の第三王女リリア・スグワルドですわ。それで、こちらは王族以外は立入禁止なのですが、どのようにしてここへ入ってきたのですか?しかもハーフエルフとなるとこの国の貴族たちは嫌がったのでは?」
「転移魔術を使ってここまで来たので誰にも会ってないですし、無許可でここに居ます」
「転移魔術……目的を教えていただいてもよろしいですか?」
「信じてもらえるかわからないですが……それでもよろしいですか?」
「構いません。教えてください。あなたから悪い感じはしないですし、お力になれるかもしれません」
「えーっと、王族の目の前でお国の批判になりますが……貴族連中が少々腐ったのが多くてですね。神様に頼まれてお掃除しに来ました」
そういうと、彼女は黙り込み何かを考え出した。ブツブツと何かをつぶやいている。正直ちょっと怖い。
しばらくして、決意をしたような表情をするとこちらを向き、話をはじめました。
「そうですね。一度スッキリさせるのは良いことだと思います。現王、私の父ですが、気が弱く、貴族の押しに弱いのです。私同様兄様も腹黒いので、兄に少し頼りましょう。その他に、あなたは多分私にドラゴンを献上するという名目で襲われているかと思います。ですので、私が囲っていると噂を流し、この城に住んでいただきましょうか。もう宿は取られましたか?荷物があれば運ばせますが?」
俺を置いてけぼりにして話がどんどん進んでゆく。
「待ってくれ、そこまで迷惑をかけるつもりはない。宿もとってるし。王族がある程度まともだったということは貴族連中をなんとかすれば良いわけだろ?だったらなんとかしてみせるさ!」
「では、具体案をお願いします」
「は?」
「ですから、私達は利害が一致しているのです。どうしてお断りになりますか?」
そう言われて少し考える。
「そう、ですね。腐敗はなくしたいですよね。本当に協力していただけるのですか?」
「ええ。あなたのドラゴンは強いのですよね?」
「ああ、この国の兵士では太刀打ちできないレベルで。というか、ステータス上では俺でも勝てません」
「でしたら、私に策があります。やはりそれには兄が必要ですので、利用いたしましょう。兄も次期国王となれるのですから、乗せられるのは癪に障ると感じるかもしれませんが、確実に利害を取ると思いますので、そのへんは大丈夫でしょう。とりあえずはこちらでお待ち下さい。下準備をしてまいります。そうですね、これをお貸し致しましょう。これがあれば王城のどこに居ても咎められることはありません。私の紋章入りのペンダントです。一度宿に戻って荷物をとってきてください。今日からこちらに住んでいただきます。それでは失礼します」
そう言うと、彼女はペンダントを俺に渡し部屋の外へと出ていった。
「はぁ、なんか話が大きくなってきたな……」
と独り言ちても虚しく響くだけだった。
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